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深淵より来たるもの

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深淵より来たるもの

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【4・混乱】

 泣きながら駆けているルルナ。
 その時。突然目の前に奇怪な人物が現れ、強制的にルルナは立ち止まることになった。
 どう見てもカエルにしかみえない風体のその人物は、いんすますぽに夫(いんすます・ぽにお)その人だった。彼はいきなりルルナを指差して、
「ルルナさん、聞きましたよ旅人さんの悪口を! このいんすますぽに夫、同じカエル顔として許してはおけません!」
 メガホン片手に堂々と名乗りをあげ、注目を集めまくっていた。後ろに光明が見えるのは、ぽに夫がオーラを発しているから……ではなく何者かが光条兵器によって派手に演出しているからである。
そのままパワーブレスでちょっと筋力をつけるや、ルルナに向かって突撃するぽに夫。
同時に他生徒の目くらましのため、煙玉を村の中に投げつけていた。その場に舞っていく黒煙に、追いついてきた政敏や刀真たちも混乱する。
「くそっ、なんだこれ……」「げほ、ごほ。なんか魚くさいよ」
その煙幕は、どこからか漂ってくる串に刺した魚を焼いている煙も混じっていた。それは実は、ぽに夫に協力しているラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)の仕業であった。
「ええい、面倒なっ!」
 そんな中、豪を煮やした玉藻がヒロイックアサルトで九尾の妖力を使った。途端、金毛九尾が生えていき、玉藻の身体能力と魔力を強化されていく。
「ちょうど良い憂さ晴らしだ。来たくもないのにこんな厄介ごとに巻き込まれた怒りをぶつけさせてもらうぞ!」
 そしてそのままぽに夫相手に、ランスで突撃する玉藻。ルルナにぶつかる直前のぽに夫のぬるぬる拳を素早く払うと同時に、ランスをぎゅるぎゅる振り回していく。
「ふむ……どうもこの槍は使いにくいな」
 と言いながらも、その回転のおかげで煙は少し拡散し始めていた。
 視界が開けた他の皆も戦闘に加わろうとした、その時。
 どこからか放たれた何者かによる攻撃が、彼らを襲った。光条兵器らしき光が、刃となりリーンと月夜を襲い、そして、
「キャアアアアアアアアアッ!」
 彼女らの、衣服だけを、切り裂いていた。
 胸元や下半身の肌が見えそうになったふたりは動揺し、同時にこっちに視線を向けかけた正敏と刀真の顔を、瞬時にぶっ叩いていた。結果、早くも四人が戦線離脱。
 そんなある意味見事な攻撃を行ったのは、羽高魅世瑠(はだか・みせる)フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)。彼女達は隠れたまま移動しながら、周囲の護衛に攻撃を行っていたのである。ぽに夫の登場を演出していたのも、実はこのふたりだった。
 意表を突かれたその隙に、今度はラズがルルナに近づこうとするが。
「あはっ、甘い! 甘いですよ! ルルナを狙うなど確定予測事項です!」
 そこへさらに飛び出して来たのは島村幸(しまむら・さち)と、パートナーのガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)
 幸はダガーで牽制を行い、怯えるルルナからラズを引き離した。
「小さなレディ、今まで良く頑張ってきましたな」
 ガートナはルルナの頭を優しくなで、そして、
「ガートナ、後は任せましたよ!」
 その幸の言葉と共に自身の光条兵器である、長刃のジャマダハルを鉄杖形状の長めの槌を振り、攻撃を仕掛ける。一方のラズはすばしっこく動き回り、その刃をかわしていく。
「小さな幼子を狙うなど、許しませんぞ!」
 あちこちで戦闘が行われる中、幸はそのままシルエットやエルゴと共にルルナを護る為に彼女に張り付き、辺りを警戒するが。突如、
 火術による攻撃が、背後から幸を襲った。
「あっ、く! 痛ぅっ……!」
 それを仕掛けたのはナイ・フィリップス(ー・ー)。この人物もまたぽに夫に協力するひとりだった。服装が風景に身を溶け込ませるようなものであったのが、幸にとって気づくのが遅れた要因であった。
「申し訳ありませんが、ぽに夫くん達の邪魔はさせませんよ」
 背中にやけどを負い膝をつく幸を見下ろしつつ、更に追い討ちをかけようとするナイに、
「幸!」
 気がついたガートナが、振り回していたジャマダハルの刃を勢いよくナイのほうに方向修正し、パートナーの危機を守った。
 そして。戦いにすっかり怯えるルルナの手を、突如しっかりと握ったシルエットは、
「ルルナ、取り合えず安全なところまで逃げよう!」
 といって人のいない方向に強引に手を引っ張っていき、エルゴもその後についていった。
     *
「あ、あの。どこまで行くんですか?」
 シルエットとエルゴに連れられて、ルルナは村のはずれの人気の少ない場所まで来ていた。先程の喧騒から少し時間も経ち、辺りは赤く染まり始めていた。
「あの方達も、もう追ってこないみたいですし。一度他の皆さんと落ち合ったほうが」
 そう進言するが、ふたりは、
「だいじょうぶだよ、ちゃんと他の皆と落ち合う場所に着いたから」
「といっても、それはミー達のナカマ、ですがね」
 なにやら意味深な物言いで片手をあげ、そのナカマ、とやらに出てくる合図をした。
 そして現れたのは、なんとぽに夫、ラズ、魅世瑠、フローレンス、ナイの五人だった。
「どうも。また会いましたね、ルルナさん。それにしても陽動とはいえ、かなり危なかったですよ。撒くのにかなり苦労しましたし、なかなか皆さん手練揃いでした」
 そんなことを言いながらカエル顔で笑顔を作るぽに夫に、ルルナは呆気にとられた。が、しかしすぐに状況を把握して未だに手を掴んでいたシルエットを睨みつけた。
「騙したんですか……!」
「おっと。誤解しないで欲しいな。悪気があってやったんじゃないよ」
「言ったでショ? ミー達は味方ヨ、ちゃんと理由があってのことデス」
「ルルナ、怒ってル? 怒ってるの、お腹スイてる証拠。魚食べるカ?」
 ヴィシャ族式にルルナを懐柔しようとするラズ。
「いりません。それより……どういうことなんですか。理由ってなんなんですか」
 若干表情に怯えは持ちながらも、改めてルルナはぽに夫たち計七人に向き直った。
「実は、ぽに夫くんが旅人と偏見抜きで話し合う機会を持たせようと言い出しましてね」
 最初に答えたのはナイ。
「外見で人を判断するのは良くないねぇ。多数派に染められる前に、一度旅人さんと話し合いを持つべきじゃね?」
「蛙顔だってぽに夫みたいに律儀な奴もいるのに、不気味だの汗かきだの体臭がキツイだのってだけで気味悪がるってぇのはどうよ、村人が減ってるのだって『大人の事情』で誰も口に出さないだけかも知んねぇぜ?」
 魅世瑠とフローレンスも、口を挟んでくる。
「見た目デ決めルことヨクない! ラズもどうかん!」
 生焼けの魚を食いながら、ラズもそう告げていた。
 そんな彼らの言葉を聞いて、しかしルルナはふるふると首を振っていた。
「違うんです。そうじゃなくて……私は別に見た目で、判断しているんじゃなくて……」
 そこで一度ぽに夫をちらりと見て、
「そちらの方は、別にそこまで気持ち悪いとか怖いとは思いません。でも奴等は違う……。その目も、肌も、不気味で……私、怖くて……あっ!」
 その時、突然何かに気づいたルルナが身体を震わせた。彼女の様子に、固まった視線の先を向く一同。
 そこには何人かの旅人がこちらに近づいてきていた。
「あれが、旅人さんとやらですか」
 丁度いいとさっそく彼らに近づいて、何やら話を始めるぽに夫。
 その一方で、異様に怯え始めているルルナにシルエットは、その様子にいささかの不安を覚えはじめていた。
(本当に怯えてるな。これじゃ、話し合いなんて雰囲気じゃないかも)
「心配しすぎだって、なんでそこまで怖がるんだよ」
「まあまずは一度話してみろよ」
 そんな様子に気づかない魅世瑠とフローレンスに、ルルナは腕を掴まれそのまま旅人達の元に連行されようとした――その時。
 何者かが横からルルナをかっさらって行った。
 それは五条武(ごじょう・たける)と、機晶姫のイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)だった。
「やれやれ、危ないとこだったぜ」
「ルルナさん、無事でよかったです。あの後、皆さん総出で探してらっしゃったんですから」
 ふたりはそのままルルナと共にじりじりと距離をとりつつ、
「ぽに夫、やっぱりお前は旅人たちと通じてたのか」
 そう切り出す武に、しかしぽに夫は首を振る。
「いえいえ。こちらとしては、ただ穏便にことを解決したかっただけですよ」
 そしてそのままもう一度ルルナを捕まえようと一歩踏み出そうとしたのを見た武は、
「イビー! 急いで、ルルナを安全な場所に!」
その言葉と同時にイビーはすかさずバイクに変形し、武とルルナを乗せて七人や旅人の合間を強行突破で離脱する。機晶姫だからそのくらいはできると知っていたとはいえ、それでも不意をつかれた一同は、咄嗟に反応できなかった。
「逃げられちゃいましたね」
 そう呟くシルエットだが、実際さほど残念ではなさそうであった。
「だいじょうぶですよ、こんなこともあろうかと他にも罠を……」
 そう呟くぽに夫だったが、そんな彼の背後に近づいていた旅人達は薄く笑みを浮かべた。
 その直後。
 ぽに夫たち七人は、自分の中でなにかが百八十度回ったような感覚を味わった。

 ルルナが武達に助けられ、林の中を疾走している頃。
 支倉遥(はせくら・はるか)と、伊達藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)のふたりは、村のある家屋の裏で座り込んで、ヘッドホンをしてなにかに聞き入っていた。
『大丈夫か、ルルナ』
『ここまで来れば、もう安心です』
 そこから聞こえてくるのは武とイビーの声。実は彼らは事前にルルナの着衣に小型の盗聴器を仕掛けていたのだった。そこからの声が今届いているのだが。
「殿。どうやら子猫ちゃんは逃走に成功したようですね」
「そうだな、支倉の。しかしまさか蛙があのような行為に及ぶとはな」
 そんなふたりを憮然としながら横目で眺めているのは、遥のもうひとりのパートナー、ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)だった。なにやら悪だくみをしているふたりに、彼女だけは仲間はずれにされているのだった。
 当のふたりは内容がベアトリクスにわからないよう、微妙にエロイ隠語を交えて情報交換を行っていた。ちなみに子猫ちゃんというのは、ルルナ。蛙はぽに夫のことである。
『それでルルナ。これから、どうする?』
『もういっそ、後は他の生徒達に任せても』
 武とイビーの声は聞こえてくるが、ルルナの声は聞こえない。泣いているのかとも思うふたりだったが、それにしては先程から嗚咽も聞こえなくなっていた。
『逃げても、なにも解決しない……』
 その時、ようやっとルルナの呟きが聞こえてきた。
『怖くてたまらないけど……でも、皆さん私の為に色々してくださってる。なのに私だけ、いつまでも逃げて、これ以上皆さんに迷惑をかけたくない』
 響いてくるその声は、どこか意を決したものを秘めていた。
『私は、事件の真相を知りたい』
 その、ルルナの能動的な発言に武は小さく「そうか」と感心したような呟きを漏らして、
『わかった。イビー、例の水辺の石碑とやらに向かってくれ』
『はい、了解です』
 そして再び声は聞こえなくなり、バイクの騒音が流れるきりになった。
「なるほど、子猫ちゃんは濡れ場(水辺)に行く決意を固めたみたいですね」
「ふ。意外に精気に溢れておるようだな」
 一部始終を聞いて、どこか満足げになる遥達。そして、
(な、なにそれ……このふたり、本当になんの話してるんだろ)
もしかすると既に二人も何かの異変に巻き込まれてるのかもと考えるベアトリクスだった。だが、彼女は肝心な二人がこのざまなので誰に相談もできずに、ひとり村のお婆さんから貰ったトマトをほお張っていた。