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深淵より来たるもの

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【7・深きものども】

 少し時間は遡る。
 風森巽(かぜもり・たつみ)は、ひとり村へ続く道を歩いていた。
「学校での資料探しが長引いちゃったせいで、もうすっかり暗くなっちゃったな。う〜ん、皆どこに泊まってるんだろうなぁ?」
 そうしてさまっている最中。ふと遠目に旅人らしき人物達が、どこかへと向かっているのを見つけた。
「む、なにやらあからさまに怪しい団体だ……こっそり後をつけてみよう」
 そうひとりごちて、密かに尾行を始めた巽。
 そして、その旅人達が、そこかしこから集まっていき、もはや何人かわからないくらいの数になりつつあるのにさすがに冷や汗をたらす。更に、彼らの向かう先がどうやら件の石碑のようだと気づき、更に緊張を高める。
 その時、ドオン! と前方から爆発音が響いた。
「わっ!」
 旅人たちも驚いたようだが、巽は緊張していたところの音だったので思わず声をあげてしまっていた。慌てて口を塞ぐがもう遅い。連中はこちらに気づき、濁った目で睨みながらじりじりと近寄ってくる。
「え、えっと」
 巽は一瞬だけ迷った後、
「相手の数もわからんのに、戦えるか! 今はとにかく逃げるのみだ!」
 と、旅人達の放つ火術や氷術に背中を攻撃されそうになりながら、巽は全速力で駆けた。

 そして現在、逃げてきた巽は、石碑の中央付近に集まっている生徒達の中に混ざる。
 そんな彼らを円状に取り囲んでいる数十人はいるかという旅人達のなにやら尋常でない様子に、
「なんか、ヤな雰囲気感じるわね」
 石碑を直しに来ていたメニエス・レイン(めにえす・れいん)はそう呟き、臨戦態勢をとった。
 そしてまた旅人のひとりが再び火術を操り、火の玉を飛ばしてくる。
「ふふっ、面白くなってきたわね。ミストラル! 防御は任せたわよ!」
「あ、ちょっと! メニエス様!」
 パートナーのミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が止めるのも聞かず、メニエスは喜々とした顔で突撃し、相手の火術に対抗してこちらも火矢を放つ。それらが空中でぶつかりあい、暗闇を明るく爆発で照らし出した。
 それを合図に、旅人達は問答無用で襲い掛かってきはじめた。
 うなり声をあげ殴りかかる者、火術で辺りを燃やしていく者、氷術で生徒達に攻撃をする者、様々にいるがどれにも共通して言えること。それは彼らが明らかに石碑の復旧を止めようとしている点であった。
「あたしに攻撃するなんて、いい度胸してるじゃない!」
 そしてメニエスは氷術で旅人のひとりの足元を凍らせ、身動きをとれなくしていく。そしてそのまま仕留めようと接近しかけるが、他の旅人がそれを守るようにメニエスに向かっていくが、
「メニエス様の邪魔をしないでくださります?」
 ミストラルがその旅人の拳をいなし、お返しにその身体に雷術を放ち、軽く感電させ失神させる。と同時に、メニエスのほうももうひとりの旅人をあっさり昏倒させていた。
(それにしても、本当にこの人達は何者なのかしら……旅人って、一体?)
 そんな不安をよぎらせるミストラル。
 そうした疑念ゆえ旅人に思うように攻撃できない者もいれば、まったく躊躇なしに派手に暴れている人物もいた。ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)パトリシア・ハーレック(ぱとりしあ・はーれっく)たちである。
「わしの攻撃は強烈じゃけん、気をつけぇ!」
 前に出ているシルヴェスターは、ガートルードにSPチャージをして貰いながらソニックブレードを連発して、旅人を切り裂き後退させていく。
 そしてそのガートルードも、ネヴィルと共にドラゴンアーツを駆使し石碑に一応の注意をしながらガンガンと岩ごと旅人を殴り飛ばし戦意喪失させていく。
「まどろっこしい予想はぬきです、つまり容赦はしませんよ」
「おい誰だ! 今、俺を見てブルドックだと抜かした奴は!」
 旅人側もそんな彼らに警戒心を濃くしたのか、ナイフを手に忍び寄って突進していく者もいたが、即座にパトリシアのランスの一閃によってかれる。
「わたくしがいる限り、そのような無粋な攻撃は通用しませんわよ?」
 守りも固まっており、彼らの周辺にいた運の悪い旅人達は、ことごとく地面を這いつくばる羽目になっていた。
「さあ。これで、終わりです!」
 ガートルードの拳、シルヴェスターのソニックブレード、ネヴィルの火術がそれぞれの旅人にとどめとして放たれようとした。その時、
「殺しちゃダメだっ!」
 そんな言葉が、辺りに響き渡った。
「――っ?」
 ギリギリのところで、拳は旅人の顔を逸れて地面をえぐり、ブレードは軌道が逸れて近くの木を切り裂き、火は地面を焼くだけに終わった。
 叫んだ声の主、それはいつの間にかその場に駆けつけていた斎藤邦彦だった。
「みなさん、聞いてください! その旅人達は……いなくなった村人達なんです!」
 そんな衝撃の言葉と共に、邦彦はネルが見つけた日記を掲げ、
「ここに書かれていた内容はその旅人、深きものどもに関することでした。そいつらの持つ力に触れられてしまうと、対象者は深きものに精神を入れ替わられてしまうんです!」
 そして、ネルに連れられて姿を見せたのは、ぐったりした葛葉翔を抱えているイーディの姿だった。
「私も、かなり危なかったジャン。取って代わられたダーリンに襲われそうになっちゃってぇ。でも運良くこのふたりに助けられてねぇ、どうせだから説明も兼ねて一緒に来たってことなんジャン」
 緊迫した状況の中、ちょっと軽薄な口調が場違いぽかったが、生徒達はその言葉を受け、改めて旅人……ではなく、深きものどもの顔を凝視して驚いた。その中には、ぽに夫たち七人の姿もあったのである。
 どうやら彼らも、深きものどもにとって代わられてしまったらしかった。
「やっぱり、そういうことだったか」「要するに、コイツらを救うにはストーンサークルを元に戻すしかないってことだな」「だから、石碑を新しい魔法陣になるよう立て直す班と、こいつらを足止めする班が必要になるってことね」「くそ、ハードル高すぎだっての」「でも、やるしかない、ね!」
 生徒達は口々に決意を表明し、そして。それぞれの死闘が始まった。