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深淵より来たるもの

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深淵より来たるもの

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【8・攻防戦】

 石碑の復旧と、深きものどもの足止めの二班が動く中。
 足止め班は、手加減して戦わなければならないことに加え、数がかなり多いことも起因してかなり苦戦を強いられていた。
「はぁ、はぁ、一体何人いるの……このままじゃ……」
 そんな中で早くも息も切れ切れになっているのは、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)。マジックワンドを構え攻防を繰り返していたが、ウィザードの修練中である彼女に長期戦は酷と言わざるをえなかった。
 その時、
「ヒヒッ……」
 どこからか響いてきた不気味な笑い声がアリアの耳を刺激した直後、彼女はどこからか伸びてきた触手のようなものに手足を絡め取られてしまった。
「きゃ、ああ、や、いやぁ……お願い……放して……」
 しかしその意思があるかも疑わしい触手は、彼女のミニスカートを皮切りに服を無残に破いていき、身体を無慈悲に締め付けていく。
「いっ、やっ、あぁぁぁんん! だ、だめっ、やめてええええ!」
 ボロボロの服で苦痛に苛まれ、泣き叫ぶアリア。
 その時、ギュバッ! という風を切り裂いたような音がしたかと思うと、触手がバラバラと分裂させられアリアの身体を解放した。
「ふう、危ないとこだったわね」
 涙目のアリアは、そこに立つメイド服姿の騎沙良詩穂(きさら・しほ)アリーセ・リヒテンベルク(ありーせ・りひてんべるく)を見た。そしてそのままふらつき、
「おっとと。ずいぶんがんばってたみたいだね〜」
 倒れそうになったアリアを、慌てて支えるアリーセ。そして、詩穂は目を若干細くする。
「アリーセちゃん、その子を頼みますね。ちょーっとオイタが過ぎたご主人様に、ご奉仕の時間ですから☆」
 今度は詩穂に狙いを定めて這ってくる謎の触手に、詩穂は仕込み竹箒を構え、
「アリーセちゃんこれがメイドの戦い方ですよー、見てて下さいね」
 そのままスキルのハウスキーパー、ランドリーを行使してバシバシと触手を切り払い、「もっと耐えられませんか? ご主人様」
 容赦なく攻撃の手を休めぬまま、無残にバラバラになった触手を箒で勢いよく、近場にあった穴へとまとめて叩き込んだ。
「あまりも臭いのでゴミと間違えて処分してしまいましたわ、ごめんなさい☆」
 その間、わずか数秒の出来事であった。
「あ、はは……詩穂様ちょっと怖いです……」
 アリーセは危険があれば自分も加勢しようと思っていたが、そんな必要はまるでなかったことにひきつり笑いを浮かべつつ、
(それにしても、あの触手って結局一体なんだったんだろ)
 ふと、それだけが最後に気がかりになるアリーセだった。

 一方。石碑復旧班の本郷翔(ほんごう・かける)は、博識を用いて、ルルナから聞いた元の形状から封印の方式を探り、元の状況に忠実になるようにしようと考えていた。
「石碑の元の形状は、この最も大きなものを中心に、それを囲むように円状に石柱が並んでいたということでいいのでしたね? ルルナ様」
 そう問いかけるが、ルルナはうずくまって震えていた。やはり、実際に戦いを目の当たりにして恐怖がまた沸きあがってきたのだろう。
 それは仕方のないことといえた。だが、翔はそれでもあえてルルナの顔を、ぐっとこちらへと向かせて、
「しっかりしてください、ルルナ様。例え事故であれアナタがまだ子供であれ、己が引き起こしたことに対しては決して目を逸らしてはいけません。例え辛くても、最後まで向き合ってください」
「…………っ!」
「もう一度質問します。この中心の石碑を取り囲むように他の石柱は円を形づくっていた。つまりストーンサークルになっていた、それで間違いはないですね?」
「は、い」
 ルルナは、目に涙を溜めながらもそれでも強く頷いた。
 それに翔も頷き、魔法陣と封印の関係を周囲と相談し、的確に指示を出していく。そんな翔を見つめ、ルルナはごしごしと涙を拭いた。
「だいじょうぶですよ、きっと!」
 一枚の石碑を背負い、菅野葉月(すがの・はづき)が駆け寄ってきた。
「僕達がこんなに頑張ってるんです。誰も死んだりなんかしません、傷ついたりしませんよ、きっと!」
「ちょっと葉月っ! こっちはやく手伝ってよっ!」
 パートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は他の生徒達と石碑を起こしていた。彼女があからさまに不機嫌なのが、嫉妬であることに気づいてはいない葉月は「ああ、ごめんなさいです」と言って、走っていった。
 ルルナは、そんな風に一生懸命動き回ってくれている皆を、じっと見つめ続けた。
 ルルナの護衛にあたっている橘恭司(たちばな・きょうじ)クレア・アルバート(くれあ・あるばーと)フィアナ・アルバート(ふぃあな・あるばーと)は、その微妙な変化に気がついていた。
 そして、恭司は光条兵器で深きものどもを迎撃しつつ、
「ルルナ。俺は俺にできることをするだけだ。だから、ルルナもルルナにできることを頑張れば、それでいい」
 その言葉に続くようにクレアは、にこりと笑いかけ、
「とはいえ、あまり無茶はしないでくださいね」
「マスター。クレアちゃん。それにルルナさん。石碑の復旧はもうすこしで終わるようです。あと一息、頑張りましょう」
 恭司の後ろに回り、彼のサポートをするフィアナが最後を締めた。
 そう。
 実際、石碑の復旧の方は順調に進んでいた。事前の下調べや、魔法陣の知識、そして生徒達の行動力。
 それらが一丸となった結果。
 足りない石柱は別の鉱物で補填され、サークルを描く石柱の順番も、刻まれた印から正しい配列は既に導き出されていた。
 そして。
 ついに最後の、中央で倒れていた石碑が今まさに立て直された。その瞬間、そして魔方陣が白く輝き始める。
「う、ぉおおおおお……」
 すると、深きものどもと入れ替わられた村人や生徒達が苦しみ出し、その場に倒れていく。慌ててルルナが駆け寄るが、
「よかった、気を失ってるだけみたい。それに身体のぬるぬるもとれてるよ!」
 そして、一斉に場が沸いた。
 生徒達は、ハイタッチしたり握手したりと、喜びを分かち合っていった。
「はは、最後は意外とあっけなかったなぁ」
 そんなみんなをながめつつ、メモをうちわ代わりにしていた瀬良。そんな彼に、リゼロはふいに顔をしかめた。
「おい、そこに書かれておる文字はなんじゃ?」
「え? ああ、さっきメモしたヘンな文字だよ。これだけ普通の古代文字と違っててさ」
「どれ見せてみろ。ん? おい、これ単に上下が逆に書かれているだけではないか」
「あ、あれ? はは、なんだ。どうりで読めないわけだな。それで、結局そこになんて書いてあったんだ?」
「深きものども……」と、呟くリゼロ。
 なんだ、さっきの奴らの名称が書かれてただけか、と拍子抜けしかけた瀬良だが。
「……いや、違う。深……『深淵より来たるもの』と書かれているようじゃ」
 その単語の意味を把握する前に、近くで何かが飛び出してきた。