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【2019修学旅行】闇夜の肝試し大会!?

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【2019修学旅行】闇夜の肝試し大会!?

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鳥居脇 〜ヨドオシ〜
 茂みの中で、イリーナとレオンハルトが腰を下ろし、二人で星を見上げていた。
 ひゅう、と夜中の冷たい風が吹き抜ける。
 薄手のコートを貫いて突き刺す冷たさに、イリーナはぎゅっと肩を抱いた。
「寒いか?」
 レオンハルトは羽織っていた制服の上着の脱いで、イリーナの肩にかけた。
 けれどイリーナは、首を横に振る。
「こんなんじゃ足りない……寒いままだよ」
「……そうか。わかった」
 レオンハルトは、制服にくるんだイリーナの身体を、ぐっと抱きこんだ。
「まだ寒いか?」
「ううん……暖かい」
 鳥居のほうからは、ちらほらとゴールを告げる声が聞こえてきている。
 レオンハルトはイリーナの髪を指で梳いた。
「イリーナ。そろそろ会場も落ち着いてきた頃だ。最後に、二人で願でも賭けに行くか」
「ん……うん」
 歯切れの悪い返事を返して、イリーナはレオンハルトから身体を離した。
 スタートするとき、本郷涼介から渡された提灯を持ち上げて、立ち上がる。
「……あ」
 ふっ。と提灯の明かりが掻き消えた。
 中を覗くと、溶けきった蝋がさながら氷河のように固まっていた。
「ろうそく、切れたか。失敗したな、火を消しておけばよかった」
「うん、そうだね」
 弾んだ声で言って、イリーナは提灯を放り捨てた。
 再び、レオンハルトの胸へと飛び込む。
「残念だねレオン。明かり無しじゃ、きっと鳥居までだって帰れないよ」
 ぎゅっと、イリーナはレオンハルトのシャツを握り締める。
「明るくなるまで待たなきゃね」
「ああ……そうだな」
 ふっと微笑んで、レオンハルトは頷いた。
 イリーナが最初のときのように、背伸びをしてレオンハルトに口付けた。

「シルヴァ様シルヴァ様! ルイン、役に立ってる!?」
 無骨な懐中電灯のようなものを、口付けを交わすイリーナとレオンハルトのほうへ向けながら、ルイン・ティルナノーグは弾んだ声で言った。
 ルインの手に握られたそれは、見た目こそ懐中電灯だが、目に見えるような明かりは照射されていない。
「もちろん。すっごく役に立っているよ。ありがとう」
 微笑んでルインに答えつつ、シルヴァ・アンスウェラーは、特殊なフィルターのついたケータイカメラのシャッターを切った。
 カメラのレンズについているのは、照射された赤外線を感知して、明かりのない場所でも被写体を浮かびあがらせるためのものだ。
 ルインが手に持っているのは、可視光ではなく不可視の赤外線を照射するライトなのである。照射された赤外線は被写体にぶつかって反射し、シルヴァの構えたデジカメに像を結ぶ。
「やったぁ! シルヴァ様の役に立つとルイン幸せ! ほかに何にもいらない!」
 ルインは、赤外線ライトを照射する方向はずらさないまま、シルヴァに擦り寄った。
「うわあ……すごいの撮れてますね……」
 シルヴァの手元を覗き込みながら、エレーナ・アシュケナージは口元を覆った。
「暗視装置で画面がグリーンなところが、暗闇の隠し撮りっぽくて秘めやかですわ……」
「え? なになにシルヴァ様? ルインにもお写真見せてー」
「あっ! ルインちゃんスコーン食べる?」
「たべるー!」
 エレーナは、とっさに取り出したお菓子で、ルインの意識を盗撮写真から逸らした。
「それにしても、見事に妨害は来ないし、向こうも楽しみ放題、こっちも撮り放題、だねぇ」
 フェリックス・ステファンスカはのんびりとした口調で言った。
 両手で抱えるようにスコーンを食べ始めたルインの代わりに、赤外線ライトを受け取って構える。
「全くだね。おかげで僕は楽しいですけど」
「僕は役目がなくって暇だねぇ」
「――……そういえば、その写真は撮ったらどうするんですか?」
 ルインの口元についたスコーンのくずを、ハンカチで拭いてやりながら、エレーナは聞いた。シルヴァが、待ってましたとばかりに微笑む。
「教導団のみんなに送るんですよ。とりあえず、ルカルカさんと宇都宮さんと佐野さんは確定ですかねー」
「えっ、そっ、それは駄目ですわっ」
 大仰に驚きながらも、エレーナは口元をほころばせてシルヴァのケータイを覗き込んだ。
「あっ、これとかこれとか、この写真は絶対にまずいですわっ。もう、イリーナにはちゃんと目線を入れてくださいねっ!」
「えー、バレバレだと思いますけどねぇ」
 二人で画面を覗き込み、くすくすと笑いあうシルヴァとエレーナ。
 スコーンのくずがついた手を舐めていたルインが、はっとシルヴァのほうへ視線を向けた。
「えーっ、何のお写真!? 何のお写真!? ルインにも見せてー!」
「ルインちゃん、チョコ食べるかい?」
「たべるー!」
 ルインは、フェリックスが差し出したチョコレートに、写真のことなど忘れて飛びついた。