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【2019修学旅行】闇夜の肝試し大会!?

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【2019修学旅行】闇夜の肝試し大会!?

リアクション


鎮護の森 〜その弐〜

 高く背伸びして視界を覆い隠す雑草を、大股に踏み越えながら、鈴木 周は小さく溜息をついた。
「あーあ……こうも視界が悪くなけりゃ、今頃美女の十人や二十人、引っ掛けられてるんだけどなぁ……」
 ぼやきつつ、周は雑草をかき分け、提灯の淡い明かりで進む先を照らす。
「……ん?」
 不意に、視界が開けた。
 周の前方に、厚く葉を枝垂れさせた柳の木が一本、立っている。その周囲、五メートル四方ほどだろうか、なぜかその柳を避けるように、背の高い雑草が消え、地面がむき出しになっている。
 だが、その異様な光景よりも周の目をくぎ付けにしたのは、柳の真下でそよぐ、黒髪だった。
 清流に、一滴流した墨汁のような、濃く清楚な長髪が、ざあっと音を立てて吹き抜ける涼風にあおられ、幻のように舞っていた。
「お……おおお……」
 周の喉が震える。早足に、その黒髪の持ち主の背後まで駆け寄って、周は片膝をついた。
「そこなお姉さん、ぜひ俺と愛し合わないか!? いいや、むしろ愛し合おう!」
 ぴくっ、と、黒髪の女性の肩が跳ねた。
 ゆっくりと、まるで舞いでも踊るように柔らかに、女性が振り向く。
 女性は、輝くような白い顔のほとんどを、ガーゼマスクで覆っていた。
 けれど、わずかに覗いた黒曜色の瞳だけでも、彼女の美貌を確認するに不都合はない。
「一人かい? 一人なんだろう!? こんな美人を放っておくとはひどい男もいたもんだ! なあ姉さん、俺と一緒に、一夜の過ちを犯してみないかいっ!?」
「きれ……い……?」
 調律の狂ったピアノのような、か細く音の外れた声で、女性は聞き返した。
「あ……ああ、そうさ! マスクしてたって目もとで分かる! 姉さん、とびっきりの美人だろう!?」
「どう……かしら……。みて……下さる……?」
「もちろんさ!」
 即答した周を、うるんだ瞳で見つめて、女性はマスクに手を賭けた。
「私……綺麗でしょうか……?」
 外したマスクの下には、口があった。
 裂け目のように大きな口だ。耳元まで裂けた口からは唇がそげ落ち、白い歯と桃色の歯茎がむき出しになっている。
 すでに歪み切った唇を余計に歪ませて、女は壮絶に笑った。
「……でっ」
 ひきつった声で言って、周は立ち上がる。
「で、でたァ―――――――――あぁあっ!!」

 きびすを返してもんどりうって、茂みの中へ消えて行った周を、藤原 優梨子はため息をつきつつ見送った。
「うーん……不覚でした。まさか背後を取られるだなんて……」
 ぎちぎちぎちっ。片手に提げた大ぶりのカッターを弄び、刃を出し入れする。
「それにしても、よくしゃべる方だったわね……素敵」
 口裂けメイクの口元が、にやりと歪んだ。
「是非あの喉笛をいただきたいわ」

「おら珠輝、歩みが遅くなってるぞ。早く行け! 早く!」
 リア・ヴェリーは、先を行く明智 珠輝のひざ裏を、つま先で小突いた。
「急いては事をし損じますよ、リアさん? せっかく二人きりの夜じゃないですか、じっくり楽しみましょう?」
 大振りの鉈で雑草を切りはらい、リアのための道を切り開いて進みつつ、珠輝が妖しく微笑んだ。
「手を休めるな妖しく笑うな気色の悪い言い方をするな! 何が「願いの叶う絵馬があるから行ってみましょう」だ! ふたを開けたらカップルどもの肝試しじゃないか」
「ですから、我々もいっそ恋人のように楽しんでですね……」
「だから、せめて一番乗りして願いを叶えるんだ。ほら珠輝! 倍速!」
 ばしばし、とリアが珠輝の背を叩く。
 珠輝は苦笑して、鉈を振るう手を速めた。
「まったく、どーせお前は肝試しだって知ってたんだろう? ご丁寧になまはげの恰好までしてきやがって。鉈が役に立ってなきゃ、衣装だけじゃなくお前ごと森に捨ててたところだ!」
「ええ、ええ、寛大な処遇に感謝しますよ。……おっと?」
 がさっ、と珠輝の前の茂みから、顔を真っ青にした周が飛び出してきた。
 珠輝は、ふりあげた鉈をそっと下ろす。
「どうなさいました? ずいぶん顔色が悪いようですが」
 珠輝が真摯に周の瞳を覗き込む。リアの眉根がぎゅっと寄った。
「あ……い、いや。なんでもない。なんでもない。ははは……じゃましたな」
 青い顔のまま、きびすを返しかけた周の手を、珠輝は柔らかく掴んだ。
「何もないということはないでしょう……? 私でよければお話を聞きましょう。……冷たい手ですね、それに震えている。お時間が許すなら、私が暖めて差し上げましょうか……ふふ」
 妖しく微笑んだ珠輝に、リアが詰め寄り……。
 がさっ、と茂みから、艶めかしい女の両手が伸びてきた。片手には大振りのカッターが握られている。
 女の手は、空いた片手で周の口を押さえて茂みに引きずり込み、カッターの刃をその喉元に押しあてた。
「おや?」
 珠輝が周から手を離し、
「どけ珠輝!」
 代わりにリアが、周の襟首をひっつかんで茂みから引きずり出した。
 白い腕から解放された周は、一目散に珠輝の開いた道をたどって逃げていく。
「おやおや、逃げられた」
「それどころじゃない! 珠輝! 前!」
 茂みから、つややかな長髪を散らし、カッターをぎちぎち弄び、優梨子がゆらりと歩み出てきた。
 口裂けメイクの口元に、リアがびくりとすくみあがり、珠輝をぐぐぐと前に押し出す。
「おやリアさん、愛らしいですね」
「黙れバカ珠輝」
「あぁ……残念……。また逃げられてしまいました」
 優梨子の黒曜の瞳が、さびしげに周の背中を追って……、
 ぎらっ、と珠輝とリアを睨んだ。
「――……っひ」
 悲鳴を飲み込んで、リアは珠輝の背中にぎゅっとしがみついた。
「リアさんは、お化け苦手ですねぇ」
「お化けとかいう次元じゃないだろうが! 暗がりであんな奴に出会ったら、口裂けじゃなくてもダッシュで逃げるわ!」
「……くふっ」
 優梨子の、裂けた口元がぎちりと歪んだ。
「お二方……お美しい首から上をお持ちですね……?」
「いやあ、それを言うならあなたこそ」
「おい珠輝、構うな、逃げるぞ」
 優梨子が、壮絶な笑顔のまま、腰だめにカッターを構えた。
 リアが珠輝の腕を力いっぱい引いて、走り出す。
「御首級(みしるし)をいただきますね?」
 ごうっ、と薙がれた刃が、珠輝の後ろ髪を数本切り裂いた。
「おお、情熱的」
「明らかに病的だよ! いいから走り続けろ! わ――――っ!」

 茂みの中、仰向けに倒れたリアに、珠輝が覆いかぶさっていた。
「はぁ……はぁ……んっ」
 リアの荒い呼吸が、夜の空気を震わせる。
 珠輝は、リアの体に落ちる前に、頬を伝った一筋の汗をぬぐった。
「はっ……はっ……なんだったんだ、あいつ……。もう巻いたか?」
「いえ。まだその辺りにいますね。足音が聞こえます」
 リアはぐっとつばを飲み込んで、珠輝を睨みつけた。
「おっまえが……こんな肝試しなんぞに来ようなんて言うから、こんな目に遭ってるんだぞ! 旅館でゆっくりできてりゃ、今頃……」
 珠輝は、組み敷いたリアの、汗に濡れて張り付いた前髪と、苦しげに歪んだ表情、荒い呼吸をするたび、上下する細い喉を、順に眺めて微笑んだ。
「おや、艶めかしい」
「話聞いてんのか、おまえ……ッ」
「シッ。大声を出さないでください。いま真後ろにいます」
 リアの耳元に口をよせて、珠輝はささやいた。
 ふるっ、とリアの肩が震える。
「やっ……たっ、珠輝……、重い……」
「うん? なにかおっしゃいました?」
「ひゃっ……」
 ぴくっ、と、珠輝の下で、リアの身体が小さく跳ねた。
「やめ……耳元で、喋るな……んっ」
「やめて、ですか? わかりました」
「……――あ」
 ぐっと身体を離した珠輝を、リアのうらめしげなまなざしが追いかけた。
「やめてほしいんですよね?」
 リアは、赤く紅の差した顔を、ふっと背けた。
「……珠輝。僕の……口をふさげ」
 ちょっと首をかしげた珠輝を、リアはうるんだ瞳で見上げる。
「呼吸が……なかなか落ち着かない。あいつに気づかれたら……まずい……から」
「……ふふ」
「勘違いすんな……首、落とされるよりマシなんだけ……――んっ」
 珠輝は、リアの唇を自分の唇で、そっとふさいだ。

「ごっ、ご主人様。安心してくださいねっ、ご主人様の右はきちんと固めていますからっ」
 ところどころ声を裏返しながら、空菜 雪は気丈に言った。
 けれど、微かに震えた小さな手は、隣を歩く葉山 龍壱の袖をぎゅっと掴んでいる。
「主様、足元は私にお任せください。落ちている針ひとつ、見逃しませんから」
 頼もしく言った天領 月詠だったが、足元だけ見ているせいで放っておいたらどこへ行ってしまうかわからないので、結局龍壱が手握って進む先を導いてやっている。
「雪、月(ゆえ)、俺のことはいいから自分のことに気を配れよ。不注意で怪我でもしたら厄介だ」
「えー、大丈夫ですよ」
 雪がこともなげに言って、月詠が同意するように頷いた。
「だって私たちのことは、何があってもご主人様が守ってくださるでしょう?」
「当然だ」
 当たり前のように頷いて、龍壱は歩みを進め続けた。

「んー、ひなと一緒に肝試ししたかったですね」
 小さな身体をさらに縮めてぼやきつつ、御堂 緋音は握ったロープをいじいじといじっていた。
「元気出して、緋音。おどかし役も、わりかし面白いじゃない」
 明るく言って、シルヴァーナ・イレインもロープをぐっと引っ張った。
 前方の木につるされた、一抱えほどの金タライが、シルヴァーナがロープを引くのに合わせてするすると持ちあがっていく。
 持ちあがりきったタライが、枝葉の中へ完全に隠れたのを確認して、シルヴァーナはロープに重りを取り付けて固定した。
「そう……ですね。沈んでても仕方ありませんよね。肝試しで楽しめないなら、代わりに参加している人たちに楽しんでもらいましょう」
 言いつつも、緋音はまたため息をついた。
 シルヴァーナはぎゅっと唇を引き結んで、意を決したように緋音の隣にしゃがみこむ、
「緋音……私と一緒に……」
「うん?」
 シルヴァーナのほうを見て、緋音はきょとんとあどけなく首をかしげる。
 その表情を見て、シルヴァーナはこわばっていた顔を、ふっと和らげた。
「私と……一緒に……、精いっぱい脅かしまくりましょうね」
 切なげに微笑んだシルヴァーナに、緋音はうんと頷き返した。
「元気づけてくれてありがと、シルヴァーナ」

 ひゅっ、と聞こえた風切り音に、龍壱はふと視線を上げた。
 がつんっ。
 落っこちてきた金タライの衝撃が、龍壱の顔面に突き刺さる。
「ぐおっ……」
 ふらり、とよろけながらも、龍壱は金タライをぐいと持ち上げて、近くの茂みへ放り投げた。
 龍壱が一瞬も引かなかったおかげで、龍壱より背の低い雪と月詠は、タライの一撃を喰らわずに済んでいた。
「だっ、大丈夫ですか!? ご主人様!?」
 雪があわてて龍壱の前にまわり、ぶつけた顔を覗き込もうとして、
「危ない!」
 龍壱は、雪の頭めがけて落ちてきた二つ目のタライを後頭部でがつんと受け止めた。
「ごっ、ごごご主人様!? 平気ですか!?」
「平気、平気だ……二段トラップか、ぬかった」
 頭に乗ったタライを、また茂みの向こうへ投げ捨てながら、龍壱は口惜しげにぼやいた。
「あうう、ご主人様ぁ……鼻血が……」
 雪が、取りだしたハンカチで龍壱の鼻を優しくぬぐう。
「ごめんなさい、私は下より上を見ているべきでした」
 月詠は、たんこぶで膨れた龍壱の後頭部を優しく撫でさする。
 龍壱は、いいや、と力強く言った。
「雪にも月にも怪我がなかったなら、それでいい。たんこぶや鼻血くらいは安いもんだ」
「ご主人様……」
 雪が、うるんだ眼差しで龍壱を見上げ、
「ありがとう、主様」
 月詠が、龍壱の頭をなでる手を速めた。
「――ショキ、ショキ」
 不意に、茂みの奥から聞こえてきた声に、雪がびくりと肩を跳ねさせて、月詠が龍壱の頭越しに前方を見て、龍壱が二人をかばうように身構えた。
「――ショキ、ショキ、ショキ。こんな夜道でどうしましたか、お嬢さん」
 暗闇の中に、野球ボール大の真っ赤な瞳が二つ、かっと輝いた。
 茶の体毛に包まれた、細長い体、体に比べて異様に大きな頭、顔の半分を占めるほど大きな瞳……まるで古典的なドキュメンタリーに出てくるエイリアンそのもののような外見で、宙波 蕪之進はにやりと笑った。
 手元にはあずきを山盛りにした桶を抱えていて、それを異常に長細い爪をもつ手で、ショキ、ショキと音を立ててかき混ぜている。
「ああお嬢さん、驚きなさんな。俺は正義のヒーロー妖怪、あずき洗いってなもんで、悪い妖怪口裂け異常犯罪者の魔のカッターからお嬢さんを守るべく……」
「あずき洗いだと? ふざけたコスプレだ」
「なにっ、男連れだと!?」
 雪と月詠を守るように前に出た龍壱を見て、蕪之進は無い眉をひそめた。
「くそ、お嬢のヤツめ、どこで油を売っていやがる。男はさっさと片付けておく手はずだったろうに……」
「ご、ご主人様っ! あの体型はコスプレってレベルじゃないですっ!」
「むしろCGとかの範疇ですね、主様」
 龍壱の背後でぽつぽつと言った雪と月詠を確認して、蕪之進の大きな瞳がさらに巨大に見開かれる。
「なにっ、美少女二人連れだと!? これは……男連れだからとてみすみす逃すのは惜しい……」
 ショキっ、と蕪之進は、あずきを洗う手を止めた。
「こうなりゃ、作戦変更……くたばれやオラァ―――――!」
 蕪之進は龍壱に向かってあずきをぶちまけるや、その長い爪を振りかぶって突進した。
「ご主人様!」
「主様!」
 叫んだ二人を両手で制して、龍壱は冷静に言う。
「落ち付いて、五歩下がれ」
 言われたとおりに、雪と月詠、それに龍壱が五歩後ろへ後ずさった。
「すくんで何もできねえか、美少女二人もらいっ!」
 蕪之進は足を止めずに突進し、その頭上にタライが降ってきた。
「うおおっ! なめんなっ!」
 視界の広い巨大な瞳でタライを察知するや、蕪之進はヘッドスライディングでそれを避けた。
「ふはは! 敗れたり! ――ぐおっ!」
 倒れこんだ蕪之進を、降ってきた二つ目のタライが押しつぶした。
「今のうちに逃げるぞ、雪、月!」
 押しつぶされた蕪之進に背を向けて、龍壱たちは逃げ去っていく。
「まっ……待てっ……」
 ぴたりと、龍壱たちは突然足を止めた。
 目の前に、耳元まで口を裂けさせ、大振りのカッターを下げた藤原優梨子が立ちはだかったせいである。
「おっ……お嬢! いっつもオイシイとこ持ってくなぁっ! いよっ、千両役者!」
 言いつつ、蕪之進はタライをどけて、再び立ち上がる。
 ゆっくりと、裂けた口を微笑ませながら優梨子が歩みを進める。
 龍壱たちがすっと道を開けると、優梨子は上品に会釈して、脇をすり抜けた。
 やわらかくほころんだ眼差しが、まっすぐに、蕪之進だけを見据えている。
「おっ……お嬢? 敵は向こうだぜ、なあ?」
 ざざっ、と蕪之進は無意識に身構えながら、とがったあごで龍壱たちのほうを指し示した。
「ええ? ですが、最初に目についた男から殺れ、という約束だったじゃないですか」
「だから……え?」
「ふふふ、あなたが彼らを狙う前から、私はあなたを狙っていましたよ?」
「愛の告白みてーに怖いこと言うんじゃねえよっ!」
「――さあ、殺し合いましょう」
 カッターを逆手に構えて、優梨子は駆けだした。
「うおおっ、ちょっと待てお嬢! 話を……コンチクショウ全力かよっ! いいだろうかかってきやがれ、この溢れ出すルサンチマンを解き放った今の俺をいつもどおりのヘタレだと……待て待て待て、話し合おうじゃないか」
 一太刀で五指の爪をへし折られた蕪之進は、優梨子を押しとどめるように両掌を見せた。
「よーし、お嬢、どうどう、いい子だ、まずそのブッソーな刃物をしまおう、な? 人間の武器はその口から紡がれる言葉、それだけで十分じゃないか。人間同士、話せばきっと分かり合える。俺は人間じゃないだろって? 心意気の話をしてんだよッ!!」
 叫ぶと同時に、蕪之進は足元の土をつかみとって、なりふり構わず優梨子に投げつけた。
「はははっ! 油断したなお嬢!」
 蕪之進はきびすを返して、吐けるだけの悪態を吐いてから駆けだし、
「悔しかったら追いついてみやがれ!」
 落ちてきたタライの直撃を受けてその場にひっくり返った。
 顔から土を払った優梨子が、裂けた口をにこにこさせながら、ゆっくりと蕪之進に迫る。
「待て、そうだ、俺の小話を聞かないか? みそラーメンてのはな、実は酔っ払いが味噌汁に……待て、やめろ、ア――――ッ!!」

「よかった」
 あどけなく微笑んで、緋音はするするとロープを手繰り寄せた。
 蕪之進を直撃したタライが、再び枝葉の中に隠れる。
「楽しんでくれているみたい」
 刃物をきらめかせ、真っ赤なアレコレをしぶかせながらじゃれ合う優梨子と蕪之進を眺めながら、シルヴァーナは眉根をひそめた。
「そうかしら……いや、口裂け女のほうはめちゃくちゃ楽しそうだけれど……」
 あまりに凄惨なじゃれ合いにふと目を背けたシルヴァーナだったが、傍らの緋音が先ほどより大分元気そうなのを見て、
「……まあ、これはこれでいいか」
 呟いて、笑った。