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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【前編】

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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【前編】

リアクション

■□■2■□■

 その近くで、水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)は今の校内の状況を憂いていた。
 傍らには、パートナーの黒色の装甲に身を包んだ機晶姫鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)がたたずんでいる。
 「さ、殺人事件のはずなのになんで皆さんこんなに元気なんでしょう……? 人が死んじゃったんですよ、いっぱい(?)人が死んだんですよ。アーデルハイド様は校長先生のパートナーなんです。命はこのイルミンスールを支えるものなんです。それをこうも簡単に失うのは、それは、それは……とても悲しいことなのに……なにが、なにが楽しくて殺人をやるんでしょう」
 睡蓮は、まずは犯人を捜すため、集まった者のリスト、シナリオ参加者リストを確認していた。
 「じゅ、銃を持った人があまりにも多くて、絞り込めません! ど、どうしよう九頭切丸……?」
 えぐえぐする睡蓮に、泣き出されては大変と、九頭切丸が助け舟を出す。
 「え、アクション投稿時と、リアクション公開時では、装備しているアイテムが変わってしまっているから、その方法では意味がないと思う……そ、そうなの!? え、犯人らしき人物の発言内にある人名『……チャン』に該当し、尚且つアーデルハイドの身近にいる人物をメモリ(記憶)内のデータから割り出したところ、該当するのは今のところセバスチャン一人。犯人とのつながりがあるとしたら彼の可能性が高い。セバスチャンのところに行って話を聞いてみるのはどうか、って? わかったわ」
 発声機関をもたないため、喋らない九頭切丸だったが、なぜか睡蓮とは問題なく意思疎通ができるのである。

 そこに、皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)とパートナーで関聖帝君に見えないこともない「教導団非公認ゆるキャラ」のゆる族うんちょう タン(うんちょう・たん)、同じくパートナーの英霊皇甫 嵩(こうほ・すう)が現れる。
 「イルミンスール本校……魔法スライム一件以来ですねぇ」
 「義姉者、その話は……よして下されでござる」
 「何のことでござりますか?」
 伽羅とうんちょうタンのつぶやきに、嵩が首をかしげる。
 「まあ、それはともかく。同胞を助けにいきましょぉー」
 「承知つかまつったでござる」
 「御意にござります」
 3人は、セバスチャンに近寄る。
 「犯人は、『あたいのチャンを返せ!』と言っていたと聞きましたぁ。つまり、あなたの正体は、『セバス・張(チャン)』という名の中国系地球人ですねぇ。同じ中国系のよしみで、あなたの護衛にあたりますぅ」
 「え? いえ、その……たしかに私の本名はセバス・チャンですが、シャンバラ人で中国系ではありません」
 セバスチャンは、伽羅の推理に、慌てたように言う。
 「うんうん、無理に言わなくてもいいんですよぉ、イルミンでは中国系は肩が狭いでしょうからぁ。香港やマカオに沢山いる混血華人系の方ですねぇ」
 「いえ、だから、私は中国系では……」
 「水臭いでござる。教導団の誇りにかけて、それがしたちがお守りし申す」
 「左様。貴公が中国系であることを理由に、不当な差別が行われぬよう、監視するつもりでござります」
 うんちょうタンと嵩も、困惑するセバスチャンに口々に言う。
 そこに、黒衣の仮面男、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)がマントをひるがえし走ってきた。
 「俺の灰色の脳細胞が、犯人はセバスチャンさん、或いは近しい誰かだと訴えています。やはり『あたいのチャンを……チャンを返せ!!』がキーですね。アーデルハイトさんが『セバス』とか略称で呼ぶからキッチリ呼べと訴えたいのか、はたまたセバスチャンさんの愛称が『チャン』だったりして、あまりにも休日返上で働かせるアーデルハイトさんに恨みを抱いて……あれ? この理論だと名前に『チャン』が含まれる生徒全員が容疑者に? とすると、容疑者全員のアリバイや身辺調査とか……ああっ、この推理は検証がメンドクサイ! ええぃ、ならば名前に『チャン』が含まれる人に手当たり次第『犯人はお前だっ!』とビシっと宣言してみて、そのリアクションで判断するとしましょう。『私にはアリバイがある』とか『何を証拠に』とか推理物のお約束パターンの反応をしたヤツが犯人に違いないのです。うん、手っとり早くて良さそうです。では、まず手始めにセバスチャンを締上げ……もとい、詰問してくれましょう!」
 そんなことをつぶやきつつ、クロセルはセバスチャンの前に躍り出る。
 「セバスチャンさん! 犯人はお前だっ!」
 びしいと指さされたセバスチャンは一瞬硬直する。
 「な、なにを証拠にそのようなことをおっしゃるのですか?」
 「やはり! 俺の推理は正しかったようですねっ!!」
 「ちょっと、セバス・張さんを引き渡すかわりにぃ、民族差別は許しませんよぉー」
 「え、護衛してくださるのではないのですか?」
 「安心してくださいぃ。民族差別による不当な取調べが行われないよう、しっかり監視しますぅ。私はパラミタの民族対立について真剣に考えているのですぅ」
 「む、失敬な! ヒーローである俺がそんなことするわけないじゃないですか!」
 クロセルと伽羅が、ズレた視点でもめ始める。
 それを見て、びくっとした睡蓮が泣き出す。
 「そ、そうよね九頭切丸。こうして推理してくれるうえにパラミタの民族対立についてまで考えてくれてる人たちがいるんだし、どうせ私なんかがお手伝いしようとしたところで役になんか立てないよね……」
 九頭切丸はめそめそする睡蓮に、腕をばたばた動かしておろおろする。戦い以外は不器用なので、こんなときどうしていいかわからないのだ。
 クロセルのパートナーのドラゴニュートマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)は、アーデルハイトの死体を調べていた。
 「容疑者を絞り込みたいなら、アーデルハイト女史の死体を調べ、どういった角度で銃弾が放たれたか明らかにすれば、犯人のおおよその身長がわかるだろう。ん? これは……」
 マナが黙々と調べる中、セバスチャンを取り囲む一行の騒ぎはさらに大きくなる。
 「おい、クロセル。『推理の検証が』などと言っていたから、まるで脊椎反射だけで生きているのではないかと疑いたくなるぐらい、ノリとイキオイで行動するキミが頭を使っているのかと思って静観していたが、何をしているんだ。犯人の身長がわかったぞ。アーデルハイト女史とそう変わらない背の高さだ」
 「な、なんですって!? つまり、セバスチャンさんは伸縮自在!?」
 「そんなわけあるか!」
 クロセルにマナがつっこむ。
 「なるほど、では、セバスチャンさん、最近家族などの近しい人と会ったりはしていますか?」
 「いえ、会っておりません」
 クロセルの質問に、セバスチャンが首を振る。
 「うんうん、やっぱり、イルミンでは中国系は不遇を受けるのですねぇ」
 「いや、地球人がパラミタに自由に行き来することがそもそも難しいと思うんだが。というか、さっきシャンバラ人って言ってたじゃないか」
 伽羅にも、マナが律儀にツッコミを入れる。
 
 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)が、そんな状況を見ながら、エリザベートに訊ねる。
 「エリザベート様、セバスチャンさんは何時雇われたのですか?」
 ナナは、この情報は重要ではないかと考えていた。
 蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)は、死体を渋い声で腹話術しながら語る。
 「チャンとは父親の事ではなく、名前に『チャン』の入る人物を指している。現場に居合わせた中で名前に入る人物とはセバスチャンしかいない。そこで考えたんですよ。セバスチャンに縁のある人物は誰か……ってね。おそらく犯人はハイジとセバスチャンとの距離が近づいた時に殺意のピークを迎えて思わず殺す。殺意のトリガはあくまでセバスチャンであり、そのセバスチャンの言動は彼がハイジが死んで生き返る事に慣れていない事が窺える。今まで事件が起こらなかったのは、彼が執事に就いたのが最近の事だからではないでしょうか」
 路々奈がハイジと呼び、抱えているアーデルハイトは眠っているように見え、「眠りのアーデルハイト」……と呼べないこともないかもしれない。
 パートナーの魔女ヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)も、周囲を警戒しつつ、推理の手伝いをする。
 「え、アーデルハイドさんをセバスチャンの側に立たせてくれ、ですか? わかりました」
 路々奈の抱えているアーデルハイトの死体の口元に耳をそばだたせ、ヒメナは死体をセバスチャンの隣に立たせる。
 「うーん、本人がいないのでとりあえず死体を近づけてみましたが、やはりこれだと何も起こりませんね」
 ヒメナがつぶやく。
 「でもたしかに、セバスチャンは、最近、超ババ様が雇ったのですぅ。超ババ様の執事だから、わたしはどういう経緯なのかはあんまりよく知らないのですぅ」
 「そうですか……」
 ナナは考え込む。
 「ところで、後で、事件解決の報酬としてシシィちゃんもふもふしていい?」
 シシィとはエリザベートのことである。路々奈にはそんな下心もあったりした。

 ナナはセバスチャンにも質問する。
 「アーデルハイト様の執事になる前には、何をしていたんですか? 誰か別の方に仕えていたんですか?」
 「それは……お答えしなければいけないのでしょうか?」
 セバスチャンは言葉を濁す。
 (答えられないんですか? ……やはり、元の主人による嫉妬?)
 ナナは考え込みつつも、マナの調査によって、犯人は身長が低いということが判明したことに、やはりとうなずく。
 「姿をけどられずにアーデルハイト様を殺す犯人は、光学迷彩のような姿を消すスキルを使用しているか、その個体の大きさが小さいのかもしれないと考えていましたが、実際そうだったようですね」
 ナナのパートナーの魔女ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)も、セバスチャンを怪しんで監視していた。
 (やっぱり、セバスチャンはセバス・チャンっていう名前だったんだ!)
 「ど、どうされたのですか?」
 「いや、執事の仕事ぶりがメイドの仕事とどう違うのか見極めようと思ってさ」
 ズィーベンは笑ってごまかす。
 疑惑はさらに深まり、ズィーベンはさらにセバスチャンを見張り続けるのだった。
 
 そこに、愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)も路々奈と似た方式で推理を展開しようとする。
 「皆の前で啖呵を切るのが怖いので……シーちゃん、ごめんね! ちょっと眠って椅子に座ってもらおう。あ、でも眠らせるって、スキルも何もないんだよねー……こうなったら武力行使しか……」
 パートナーの吸血鬼何れ 水海(いずれ・みずうみ)を気絶させて探偵役にしようとするミサであったが。
 「こんなこともあろうかと、転職してきたのだよ」
 セイバーになり、野球のバットをかまえた水海の姿があった。
 「な、なん……だと……!? はっ、何時の間にか3000G減ってる!」
 ミサが驚きの声をあげている隙に、水海はミサをバットでぶん殴った。
 「はにょーん……」
 ミサは椅子に崩れ落ち、まるで眠っているかのように座る。
 「逃げた犯人は……チャンを返せと言った。チャンが付くのはだーれだ。そう、そうだよね。セバスチャン……あんたしかいないんだよ! あんたは執事だよね。一人称があたいだったし、てことは、娘か以前仕えてたお嬢様でしょ。セバスチャンは何故か、いつのまにか、アーデルハイト様に仕えてた。……そう、あんたは勝てなかったんだ。ロリ婆フェチのあんたは、アーデルハイト様の魅力に!!! つるぺただけれど口調は『〜じゃ』。きっとこのギャップは、あんたには堪らないものだったんだろうね。そして犯人はそれに至るには幼すぎた。5000歳には到底勝てやしない。彼女を棄ててアーデルハイト様に仕えるセバスチャン。『ああ、どうにかしてあたいの手に戻らないかしら。そうだ! あの超婆を消せば! あたいってば天才ね!!』……こうして、悲しい事件が起こってしまったんだよ! 真実はいつも一つ! セバスチャンはロリばばあフェチ!!!」
 (喋る事は得意ではないが、ミサの為だ。いや、推理はミサがしているのだから、きっと大丈夫!)
 そんなことを考えつつ、水海はミサの身体で腹話術した。
 「誰がロリ婆じゃ!!」
 そこに、アーデルハイトがすごい剣幕で飛び込んできて、ミサと水海をまとめてぶっ飛ばす。
 そして、次の瞬間、アーデルハイトは射殺された。
 「は、犯人がこの部屋に現れました! アーデルハイトさんを殺して、そして多分そのまま出て行きました!」
 睡蓮が慌て、校長室全体が騒然となる。
 しかし。
 「イルミンスールでも結構いいお茶を飲んでいるのね……これは地球産のアッサムかしら?」
 ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)は、優雅にお茶会を行っていた。
 「お姉さま、やはりこのようなことをしている場合ではありませんわ!」
 パートナーのシャンバラ人ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)は、椅子を蹴って立ち上がる。
 「落ち着きなさい、物事は行くところまで行かなければ収拾はつかないものよ」
 ジュリエットにとがめられ、ジュスティーヌは、渋々席に戻る。
 ジュリエットは「じっくり腰を落ち着けて推理いたしましょう」などと言い、お茶会を開催したのだ。
 「弾は当たると思っているから当たるじゃん。当たったときはそのときはそのときじゃん」
 同じくジュリエットのパートナーの英霊でかつて大陸軍元帥だったアンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)が落ち着き払っていう。
 ミサと水海がテーブルに突っ込んできたりもしていたのだが、アンドレは冷静にテーブルクロスを直す。
 「新客が来たじゃん。仕切りなおしじゃん」
 「アーデルハイトさんも頑張るわね。これで、ええと155体目になりますかしら?」
 「ええと……さっきのでアーデルハイトその155が倒された勘定になるんじゃん? ……いや、その156だったかも」
 (こんなことで大丈夫なのかしら……)
 ジュリエットとアンドレのボディカウントに眉をひそめながら、ジュスティーヌは溜息をついた。

 そこに、現場検証していた本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が、探偵たちの推理に対抗する。
 「今回の事件、犯人はよほど強い恨みを持っている。その証拠に犯人はわざわざ光学迷彩を施して犯行に及んでいる。では、犯行の動機は何か。それは犯人はある人物を取り戻そうとしている。それは執事のセバスチャンです。犯人が言っているチャンとはセバス・チャンのことではないでしょうか。名前については先ほど本人も認めている。次に凶器だが犯人は至近距離からアーデルハイト様を銃撃している。これが銃ならば、ある程度距離があっても十分致命傷を与えることが出来る。しかし、ある道具となると話は別だ。今回の犯行の凶器はそう、バトラーが初期装備で手に入れることが出来るデリンジャーですよ。こいつは普通の銃と違いゲーム内では暗器として扱われる。元々暗器は暗殺用の道具。デリンジャー自体もその大きさや構造、有効射程から至近距離でしか効果を得ることが出来ず、古くは暗殺用に使われていた歴史がある。よって、今回の事件の犯人は『セバスチャンの関係者でゆる族と契約したバトラー』だ」
 そのとき、セバスチャンの顔色が変わる。
 ずっと警戒を行っていた、ヒメナは、「ゆる族」という言葉によってセバスチャンが動揺していることに気づいた。
 「どう考えても怪しいのはあいつよね!」
 ミレーヌ・ハーバート(みれーぬ・はーばーと)が、セバスチャンに詰め寄る。
 「いきなり登場した老眼鏡執事のセバスチャン。明らかに怪しい! だいたい、執事で名前がセバスチャンとか、怪しすぎる! あまりにも執事っぽい名前すぎる! どう考えても偽名でしょ!! 本当は老眼鏡執事の皮をかぶったゆる族じゃないの!? 抱きついても、着ぐるみなら問題ないし!! あたしだって着ぐるみなら、抱きつきたい相手がいるのにうらやましい!! 許せん!!」
 「いえ、そんなことおっしゃられても……」
 そんなぶっ飛んだ推理でセバスチャンを困らせているミレーヌの隣で、パートナーのヴァルキリーアルフレッド・テイラー(あるふれっど・ていらー)が、カメラを手に現場の写真を取り、瞳を輝かせていた。
 「ぶっちゃけ、誰が犯人かはどうでもいいんだぞ! それよりヒーローはまだかい? はっ! そうだ、この事件はきっとヒーローが解決してくれるに違いないよ! たとえばそう、パラミタ刑事のあの人とか!」
 「アル、そんなマニアックな話こそ、今はどうでもいいでしょ。それよりセバスチャンよ! 老眼鏡執事ゆる族なんて、なんてハレンチな!」
 「ヒーローの話はどうでもよくないよ! そもそもアメリカのハリウッド映画のHEROというのは……」
 ちょっと特殊なテンションになっていたミレーヌですらドン引きするほど、アルフレッドのマニアックなヒーローに関する解説が続いた。
 結果的に、セバスチャンはミレーヌの追及を逃れる。

 「校長室の平和は、あたしが守るっ! むむ、殺人事件とは一大事! まこち! ここはM&M探偵事務所の出番だよなっ!!」
 メイコ・雷動(めいこ・らいどう)が、パートナーのヴァルキリーマコト・闇音(まこと・やみね)に言う。
 「M&M探偵事務所ってなんだ」
 「今考えた」
 「別途潜入中の鏖殺寺院同朋であったらマズイな。我々の存在を学校に気づかれてはマズイ。ここは大人しく事態を見守る……って、あちょっ、メイコ!」
 「後編も抽選通るか分からないんだぞ! 今のうちに目立つんだ!!」
 「だから、目立っちゃだめなんですって」
 それぞれ、鏖殺寺院の末裔だったり、鏖殺寺院の箱入り娘だったりしたらしいメイコとマコトだが、現在活動中の鏖殺寺院と特に関係があるわけではない。
 「って、ああああ! アルフレッド・テイラー!! くっ、他のヴァルキリーがいるというのに、地味にしてられるかあ! いくぞ、メイコ!」
 マコトが、アルフレッドの姿を発見してやる気を出す。いつも冷静なマコトだが、同じヴァルキリー相手だとたいへん負けず嫌いになり、冷静さを失うのである。
 なお、アルフレッドはまだヒーロートーク全開で、ミレーヌを辟易させていた。
 「そうこなくっちゃ! やっぱ、『名探偵』の腕章をしないとな!」
 そう言いつつ、メイコは、うんちょうタンに突っ込んでいく。
 「うんちょうタン! あんたが犯人だな! その顔はアヤシイっ!」
 「いや、彼の顔では校長室に入る前に捕まるはず。犯行は無理だ」
 マコトが冷静にツッコミを入れる。
 「そもそも、犯人の姿は見えていないのでござる。関羽の影武者たるそれがしが、いかな精悍な外見でも、関係ござらん!」
 「それもそうだな。とーめいにんげんあらわるあらわる♪」
 うんちょうタンの言葉に、メイコは納得する。
 「撃たれた本人が誰も見ていないのは犯人が透明だからに違いないのだ!」
 「では心眼で成敗。唸れ、我が劍、墨の白雪!」
 マコトを中心に黒い液体が舞い、周囲の者にも思いっきりかかる。
 「ごめん。墨汁が飛び散るだけの棒に変えといた」
 「メイコ、なぜそんなことを!?」
 「だって、すごい武器とかシナリオに持ち込めるアイテムに抵触しそうじゃん? せっかくアクションに書いても、描写されないかもしれないんだよ? コメディっぽいものなら平気かと思って」
 顔中真っ黒になって、メイコとマコトが漫才する。
 「なぜそれがしまで……」
 うんちょうタンも顔面に思いっきり墨汁をくらっていた。