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絶望を運ぶ乙女

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絶望を運ぶ乙女

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第二章 招かれざるモノ


 波羅蜜多実業高校の生徒から風の噂を頼りにアトラスの傷跡を飛空挺で探索していた浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)永夜 雛菊(えいや・ひなぎく)は、いくつか発見したルーノ型爆弾(仮)を発見すると、その位置情報を他の爆弾探索を行っている仲間に連絡した。
 長身で三つ編みのおさげ髪を風に遊ばせながら、手にしている広域地図に、爆弾らしきものがあったところにチェックを入れている。ふと、視線の先に湯気が立ち上っているのが見えた。速度を落とし、大地を見下ろすと温泉の湧き出ている柱のそばに、何かが爆発した痕があった。

「あれ、この温泉……なんだろう」
「明らかに何かが爆発したみたいだな……誰か知らないか聞いてみるか」

 浅葱 翡翠は、爆弾調査に名乗りをあげたメンバーの中から、適当に声をかけようと通信機に呼びかけた。

 その頃、空京で聞き込みを始めたばかりの蓮見 朱里(はすみ・しゅり)は、メモ帳と睨めっこをしながら小さくため息をついた。アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)は愛しい少女の肩を優しく叩くと、柔らかく微笑んだ。

「朱里、心配しなくても、ルーノ・アレエは大丈夫だ」
「ありがとう、アイン。でも、私が心配してるのは、ちょっと違うの」

 メモに書かれた内容を、改めてアイン・ブラウに向けて見せた。

 ・ルーノ型の爆弾
 ・犯人として思い浮かぶのは→鏖殺寺院
 ・ただ、事情聴取されれば、彼女を攫う機会が失われる
 ・爆弾といえば、イシュベルタ・アルザス?

 いくつもの走り書きが書き込まれたメモの中で、斜線を引かれていなかったのはその4つだけだった。

「それに関しては、僕も不思議に思っていた……あの時、僕たちがオルゴールの音色に誘われてボタルガ鉱山へと閉じ込められたとき。ニセモノのルーノ・アレエが出てきた……ルーノ・アレエを捕まえるなら、あのときが絶好の機会だったはず。なのに、まるでルーノ・アレエを困らせることばかりしているように思える」

 その推理に対して、さらに言葉を重ねようとしたとき、通信機から浅葱 翡翠の声がした。



『アトラスの傷跡丁度ど真ん中、崩れた門の横に温泉がわいてる場所を発見。そのそばに、爆発の形跡有あり。恐らく、ルーノ型爆弾の影響だと思われる。地図は携帯に送信したので、見覚えがあれば連絡求む』



「温泉って、あの遺跡を出たときに湧いてたあの温泉?」

 蒼空学園で調査をしていたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、通信機に向かって思わず声をかけた。それに通信機越しで返事をしたのは、蓮見 朱里だ。

『ミルディアも、そう思う?』
「うん、地図も確認したし、多分……あの、イシュベルタさんが死んだ遺跡だと思う……ロザリンドさんたちが確か調査に行くって言ってたよ」
『なんだか、あからさま過ぎない?』
「そうだよね……なんだか、ルーノさんに伝えたいことでもあるみたい」
「伝えたいこと?」

 一緒に蒼空学園を調査している影野 陽太(かげの・ようた)が、通信機を介さずにミルディア・ディスティンに語りかけた。

「えっとね、なんだか、そう思うの」
『でも、判る気がする。とにかく、このまま爆弾の調査を続けよう』

 了解、と一同の声を聞いて浅葱 翡翠は通信を切った。永夜 雛菊がアトラスの傷跡に放られた人形の数と、各学校で爆発した人形の発見場所を地図に書き込んでいく。まだ情報が集まりきっておらず、その数や発見場所が何を示すのか彼女には理解できなかった。





 アトラスの傷跡で爆発したルーノ型爆弾(仮)の跡地が、以前ルーノ・アレエを助けた遺跡であるというのは、現地に降り立ったロザリンド・セリナが身をもって確認した。その手伝いに来ていたリーン・リリィーシアは初見であるため、彼女からざっと説明を受けながら辺りを見回していた。

 以前は立派に立っていた石でできた門も、今ではすっかり形を失っていた。横から湧き出ている温泉は、誰かがそこで一儲けしようと思ったのか、丁寧に整備され、脱衣所まで設けられていたのだが、今は無人の露天風呂になっていた。

 それ以外にもアトラスの傷跡付近で爆発したルーノ型爆弾(仮)はあったものの、以前イシュベルタ・アルザスの自爆行為によってふさがれたその遺跡が、明らかに人が入れるほどの大きな口を開けたということは何か意図があるのではないだろうか……そう汲み取ったガートルード・ハーレックは、今にも教導団に乗り込みそうだったシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)とブルドック顔のドラゴニュートネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)を連れて元遺跡の前に立っていた。
 入り口は崩れ落ちていたが、人が通るのには支障がなさそうであったが、階下への階段はいずれも崩れており、そこへ入り口脇に沸き続けている間欠泉から温泉が流れ込んでいるようだった。ガートルード・ハーレックは内部を覗き込んで、後ろに控えていたメンバーに声をかけた。

「かなり滑りやすいようです。気をつけてください」
「一度崩れた遺跡、過去の地図は役に立たないかもしれないのだ」
「でも、持っているにこしたことはありません」

 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)の言葉に、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)も頷いた。銃型HCを装備しているメンバーに、以前の地図を配っているのはアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)だ。爆発した位置と、間欠泉の位置からして、恐らく前回の入り口とほぼ一致していることがわかったため、なおさら必要であろうと、持っていないメンバーのためにも印刷したものを手渡した。
 通信がほぼ不可能なため、中でも問題なく使えるよう調節した通信機を受け取ったものたちから順に、中へと入っていく。

「俺は地図はいらねぇぜ。自分の力で気ままに探索してみるさ」

 国頭 武尊(くにがみ・たける)はそういって、データ交換を遠慮すると、そのまま遺跡の入り口から内部へと入っていった。そこから覗き込んで見える内部は、まだ魔法が生きているのか灯りがしっかりとあり、流れ込んでいる温泉が反射してきらきらと輝いていた。滑りやすそうだな、ということ以外の情報は、奥に入らなければわからなそうだった。臆することなく滑り降りると、思っていたよりも整えられている遺跡内部は、天井から時折土ぼこりがこぼれてくること以外は何の問題もなさそうだった。

「携帯は、確かに使えなさそうだな」

 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が携帯電話の電波を確認し、小さく呟いた。ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)はすばやく武器を構え、どこから出てくるかわからない魔獣に備え、警戒態勢をとった。黒崎 天音(くろさき・あまね)が手に入れた資料に目を通し終えると、漆黒のドラゴニュートブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)に無言で手渡した。小さくため息をついたものの、手馴れた手つきで鞄にしまってパートナーに向き直った。

「いくつかのチームに分かれると聞いたが、一緒に行動しなくていいのか?」
「僕たちは分かれたほうがいいだろう。君達が何か掴んだら、こちらにも連絡をくれるだろ?」
「ああ、もちろんだ。だが、人数が少ないと魔獣に出くわしたときが大変だと思うが、大丈夫か?」
「可能な限り、一度足を踏み入れ、魔獣と対峙したものと行動するのがいいと思うのだ」

 リリ・スノーウォーカーの言葉に、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)は強く同意した。

「んふ、その通りじゃな。地図があるとはいえ、魔獣の性質までは詳細に調べられなかったようじゃし」
「ジェーンさん、遺跡でミステリー、どっきどきでありますっ」

 ジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)は興奮した様子で辺りを見回し、インスタントカメラであちこち写真を撮っていた。その後ろでおとなしくしていたアリスのファム・プティシュクレ(ふぁむ・ぷてぃしゅくれ)はその容姿にはとても似合わない大鎌を背負いながら「たんけんー、たんけんー」とものめずらしげに辺りを見回していた。

「了解した。あとは戦力も計算に入れなくてはね。そうなるとグループも上に連絡しておいたほうがいいんじゃないか?」
『そうしてもらえると助かるわ』

 通信機から聞こえてきたのは、リーン・リリィーシアの声だった。その場で、ざっとグループをきめるとその名前を黒崎 天音が口頭で伝える。



 第一グループ

 ・早川 呼雪/ユニコルノ・ディセッテ
 ・ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)
 ・ゲー・オルコット(げー・おるこっと)ドロシー・レッドフード(どろしー・れっどふーど)
 ・エル・ウィンド(える・うぃんど)ホワイト・カラー(ほわいと・からー)
 ・霧雨 透乃(きりさめ・とうの)霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)


 第二グループ

 ・緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)
 ・ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)
 ・エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)デーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)


 第三グループ

 ・リリ・スノーウォーカー/ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)ララ サーズデイ(らら・さーずでい)
 ・桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)
 ・フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)シェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)
 ・高村 朗(たかむら・あきら)


 第四グループ

 ・如月 佑也/ラグナ アイン/ラグナ ツヴァイ
 ・伏見 明子/フラムベルク・伏見(ふらむべるく・ふしみ)サーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)九條 静佳(くじょう・しずか)
 ・ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)


 第五グループ

 ・ファタ・オルガナ/ジェーン・ドゥ/ファム・プティシュクレ
 ・国頭 武尊
 ・ガートルード・ハーレック/シルヴェスター・ウィッカー/ネヴィル・ブレイロック

 第六グループ

 ・アリア・セレスティ
 ・黒崎 天音/ブルーズ・アッシュワース
 ・霧島 春美(きりしま・はるみ)ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)
 ・ウィング・ヴォルフリート
 

「6つの分かれ道がある、ってことで6チームに適当に分けた。異議がなければ、そのまま行こうと思う」

 黒崎 天音の言葉にその場にいたメンバーは頷き、ひとまずはその分かれ道がある大広間を目指して歩き出した。






「調査をするなら、一緒にしたほうが効率がいいと思うのですが……」

 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)はいく度目になるかわからない言葉を投げかけた。だが百合園女学院の制服をまとったロッテンマイヤー・ヴィヴァレンス(ろってんまいやー・う゛ぃう゛ぁれんす)ことルビィは深々とため息をついた。

「だぁかぁらぁ! てめぇ、人の話きいいてんのか? あたいが探してるのは爆弾工場なんだよ!」
「いくら探しても、見つからぬと思うが……」

 人間形態に程近くなっている獣人チネッテ・ランブルス(ちねって・らんぶるす)ことティラは、別の意味で呆れたようにため息をついていた。

「どう考えたって、おっかしーだろうが! 自分そっくりの爆弾ばら撒いて、事情聴取されてんだろ? なのになんでどいつもこいつも『ルーノさんはそんなこといたしませんわ〜』なんてのんきなこといいやがって!」
「だから、ルーノさんじゃなく、他に真犯人がいるんですよ……」
「自分が造ったって知らしめたくって、自分の姿を模したんだろうが?」

 ルビィの言葉に、六本木 優希はあ、と小さく声を漏らした。そこへ、協力してくれている百合園の生徒が監視カメラのデータを持って二人の前に立つ。

「おまたせしましたです〜! 前の事件があったから、カメラの台数も増えてるのです。今のところ学内に不振な人が入り込んだ情報はないですけど、ルーノおねえちゃんが外に出たって言う記録もないのです。前のことがあって、しばらく一人で外に出ちゃダメって、言われたんですよ」

 外出届の一覧を差し出しながら、女子生徒が満面の笑みを浮かべる。彼女もまた、ルーノ・アレエノ無実を信じている一人のようだ。前回の無断外出の結果、特例を除いて外出を許可しないことになっていたらしい。今回の事情聴取が、特例だろう。

「……百合園女学院内に爆弾工場があるかもしれませんが、ルーノさんとは無関係だと思います」
「まだ調べ始めたばっかりだ。お嬢様校の隙をついて何をしてたのか、徹底的に洗い出してやるぜ」

 六本木 優希とルビィは互いに視線を向け、その間に火花を散らせる。ティラはといえば、女子生徒の手をとって「柔らかくてうまそうな肉だな……」という台詞をうっとりした表情で呟き、生徒に怯えられて逃げられていた。








 薔薇の学舎でも、爆弾騒ぎは大きく騒がれることなく、被害生徒もあまり重症ではないということで既に普通の学園生活を取り戻していた。だが、ルーノ・アレエが事情聴取に連れて行かれたと聞き、ディオロス・アルカウス(でぃおろす・あるかうす)はパートナーのエルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)たちを頼り、爆弾調査を開始することにした。
 彼らがまず行ったのは、残骸を見せてもらうこと。だが、こげた布切れが数枚残っていただけで、それ以外は爆発で消えてしまったようだということだった。誰もいなくなった教室内に忘れ物をした生徒が被害にあったということで、被害者は一人だけで、残骸も教室の外まで飛び出るほどではなかったという。

「残骸が、ただの布切れでは情報としては寂しいな」

 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、『こんな人形を見たら触らないで此方に連絡を!』と書かれたポスターを貼りながら、ため息混じりにそう呟いた。エルシュ・ラグランツは何かが気にかかり、顎に手を当てて考え込んでしまった。

「どうしたんだ?」
「……いや、まだ確信がないのでなんとも……」
「情報をここで共有しないと、意味がないと思うんだが……何か引っかかるなら、教えてくれ」
「わかりました、エース……少し目を閉じていてください」

 あまりにも真剣な顔で見つめてくるので、エース・ラグランツ思わず固唾を飲み、言われたとおりに目を閉じた。


 ちゅ。


 額に柔らかな感触を受け、明らかな音が耳に届いて思わず赤くなった。

「え、え、エルシュ!!」
「あははは、せっかく二人で行動してるのに、あんまり事件に熱心だから妬いただけだよ」

 からかうようにそういって、エルシュ・ラグランツは兄の前を一足先に歩き出した。盛大にため息をついたエース・ラグランツは赤くなった頬を手で冷ますように触りながら、その後をついていった。

 きつくまいたさらしが、普段開放されている胸の大きさを改めて思い知せる。普段は下ろしている前髪を、ワックスで撫で付けてオールバックにした瓜生 コウ(うりゅう・こう)は、イルミンスールの男子制服を身に纏っていた。その格好だけで、校舎内へ入ることを簡単に許してもらうと、彼女は手当たり次第生徒達に聞き込みを行った。

「不審人物? いや、そんなのがいたらすぐにわかるさ」
「被害にあった生徒なら、今も保健室で休んでいますよ」

 そう教えてもらうと、すぐに保健室へ向かった。保険医に許可を得て、被害生徒と話をさせてもらうこともできそうだった。丁度そこへ、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)も現れる。

「おや、君も件の爆弾調査に来たのかな? ええと」
「瓜生 コウだ」
「コウか。私はメシエ・ヒューヴェリアル、こっちはエオリア・リュケイオン」
「よろしくお願いします、コウさん」
「あ、いや。爆発のときの話が聞けたら、此方はこちらで調査する。可能なら、情報の共有はしたいが……邪魔はしない」

 時折洩れる、苦しさからのため息を誤魔化しながらそういうと、吸血鬼は口元だけほころばせて「わかった」とだけ答えた。丁度よく、被害生徒から声をかけられた。瓜生 コウは持参したコピ・ルアックを用意してその場にいた者たちに振舞った。生徒は爆発の影響か、髪の毛がちりちりになり、顔の三倍くらいに膨れ上がるというなんとも悲惨な後遺症を抱えていた。あまりの哀れさに、瓜生 コウは目頭が熱くなった。

「あの、爆発したときのお話ってことですが……」
「それについてなんだが、確かに彼女に似ていたのか?」

 そういって、メシエ・ヒューヴェリアルはどこからか入手したルーノ・アレエの写真を差し出して問いかける。生徒はしばらく考え込んだが、ようやく頷いた。

「赤い髪、黒い肌、赤い眼、それに百合園女学院の制服を着てました。まぁ、布製のぬいぐるみですけど……」
「でも、同じ容姿の方なら他にもいると思いますが……なぜですか?」
「あ、思い出した! 光ってたんです。金色に」
「金色?」

 瓜生 コウが顔をしかめながら繰り返した。



「金色に光った、ということなら、その少女の人形=ルーノという式が成り立ったのも頷けます。彼女は、金の機晶石を抱く貴重な機晶石ですから」

 そう答えると、電話の相手はすぐさま通話を切ってしまったようだった。ディオロス・アルカウスは用件しか聞かない電話の相手に少しため息をつきながら、携帯電話をポケットにしまった。クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)はそれを横から見て苦笑した。

「メシエは相変わらずだなぁ」
「いたし方がないというのは分かるんですがね」

 同じく苦笑しながら、クマラ カールッティケーヤの頭を撫でる。そのときふと、彼の身長の低さを思い出して自身も身をかがめた。

「ん? ロス、どうしたの?」
「……人形が金色に光った、といっていました。爆発する直前だからだったのかもしれませんが……」
「そういえば、見つかったときって誰もいない教室だったから、室内灯は消えてたんじゃないかな?」

 ディオロス・アルカウスが頷くと、クマラ カールッティケーヤはにんまりと笑って自身の魔力を集中して集め始める。

「うまくいくかわからないけど、魔法的物質を探知すればいいでしょ?」
「ええ、クマラ……お願いします。先の鏖殺寺院の女性も魔法を使っていましたし、彼女が主犯であるなら可能性はあります」

 可能性の一つとして口には出したものの、それが確かかディオロス・アルカウスにはわからなかった。ただ今は、自分と同じ機晶姫であるルーノ・アレエを救いたいという、その一心の行動だった。