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リアクション
お嬢様のご相談
「いいなあ……」
『お嬢様のお眠り』を見て、観客席にいた稲場 繭(いなば・まゆ)がそう呟いた。
「私もお嬢様だったら出られたかな」
同じ百合園の生徒たちが大事に扱われて、奉仕されているのを見て、繭は羨ましそうな顔をする。
「何言ってるの。男なんて、頭の中じゃどう考えてるかわかんないんだよ?」
エミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)は夢見る表情の繭を見て、慌てて止めた。
「紳士そうにしてるように見えてもね。頭の中じゃあんなこともこんなことも、そーーんなことまで考えてるのよ! ああ、もうさっきの子とかすごく可愛くて……男なんかに取られるなら、もらっちゃいたい思うくらいで……」
エミリアが一生懸命何か言っているが、繭の耳には全然届いていない。
「あ、最後の競技だ」
繭は楽しそうに、最後の種目に注目した。
最後の競技に出場したのはエルシー・フロウ(えるしー・ふろう)だった。
相手の執事はこれまたジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)。
「この競技を選んだのはお嬢様だけなんですよ」
ジェイダスはエルシーに微笑を向けた。
「私がお悩み聞いてもよろしいですか?」
「は、はい」
エルシーの執事がジェイダスと分かり、パートナーのルミ・クッカ(るみ・くっか)は慌てた。
「大丈夫でしょうか……失礼がないといいのですが……」
ルミは心配したが、ラビ・ラビ(らび・らび)は不機嫌そうな顔をするだけだった。
「知らない。だれだって、エルおねーちゃんの質問に答えられないよ」
将来はおねーちゃんと結婚するんだと思っているラビは(※ただし結婚の意味はよく解かっていない)エルシーの相手が自分でないことに不満を抱いていた。
エルシーにアピールしようと観客席から身を乗り出すと、迷惑になるからとルミに止められるし、なので、むくれながら様子を見ることしかできなかった。
「まあ、ジェイダス先生のお答えを今後の参考にさせていただきましょう。わたくしでは、エルシーの質問に答えられないときもあるので……」
ルミは心配しつつも、様子を見守る。
エルシーはジェイダスの申し出を受け、相談を開始した。
「ありがとうございます。実は私、ルルという名前のゆるスターを飼っているのですが、その子も含めて、動物さんとお話したいのです。どうしたら良いのでしょうか?」
…………。
ファンタジー過ぎる相談に、観客席が沈黙する。
しかし、ジェイダスは少しも動揺を見せず、笑顔を向けた。
「簡単なことでございます、お嬢様」
「簡単ですか?」
「はい、まずは近くのお友達からお話してください」
ジェイダスはそう言うと、観客席に手を伸ばした。
そして、他の観客が見守る中、その手を、ラビの前で止めた。
「……え?」
いきなり手を向けられ戸惑うラビに、ジェイダスは丁寧に言葉をかけた。
「お手をどうぞ、うさぎのお嬢様」
ルミは迷いながら、ラビを促し、ジェイダスの手を取らせた。
ジェイダスはとても軽いラビの身体を抱き上げ、エルシーの前に連れて行った。
そして、ラビとエルシーを向かい合わせ、笑顔で言った。
「まずは、身近な動物のお友達から話すことです」
「身近な?」
「そうです。人間は100の人と知り合ったから、色々分かるというものではありません。100の単なる知り合いよりも1人の大切な人がいるほうが意味深いこともあります」
とん、とラビの背をジェイダスが押す。
「千里の道も一歩から。まずは、1人の身近な大切な動物のお友達と沢山沢山話すのです。そうすれば、何かが見えてくるでしょう」
「なるほど。そうなのですね、ありがとうございます」
エルシーは素直にお礼をいい、丁寧にお辞儀した。
そして、ラビを見て、ニコッと笑顔を向けた。
「それじゃ、今日はラビちゃんと、ずっとずっとお話しましょうね」
「……うん!」
ラビはきらきらと輝く目で頷くのだった。
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