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ラスボスはメイドさん!?

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ラスボスはメイドさん!?

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森はハプニングがいっぱい
「あそこが洞窟ですわね!」
 まゆみが指さした方向には、巨大な岩山のようなものが見える。
 そのふもとに、入り口があるのだろう。
 実はここに来る途中、下準備メンバーが片付け忘れた
『空京自然公園 たのしい天然洞窟 この先』
 という看板が設置されたままになっていたのだが、数名が体で隠すなどをして乗り切ってきた。
 そんなことがありつつ、まゆみ一行は間もなく洞窟にたどり着こうとしていた。

「しくしく……しくしく……」
 道の端で、誰かが泣いている。
 百合園の制服を着た……少女のようだ。
「あら、どうなさったのです?」
 まゆみは警戒心ゼロで、その少女に近付いていった。
 ところが!
 ズボッ!
「きゃあああ!」
 突然足をとられ、転びそうになるまゆみ!
「おっとっと……! 危なかったぁ」
 まゆみの足元には、落とし穴……と呼ぶには浅い、くるぶしくらいまである穴があいている。
「はっはっは、ひっかかったな勇者まゆみ! あたしは中ボスの『コウモリ獣人』さ。ここを通りたかったらあたしを倒して行くんだね! ガオー!」
 泣いていた少女が立ち上がって振り返った!
 その正体は、コウモリ獣人役の羽高 魅世瑠(はだか・みせる)だ。
 後ろ姿からは分からなかったが、見事にコウモリ耳などを装着している。
「きゃあああ! コ、コウモリ?」
「まゆみちゃん下がって! こいつは森のモンスターだ!」
 まゆみを後ろに下がらせ、エル・ウィンド(える・うぃんど)が前に進み出た。
「エル様……!」
「大丈夫、心配しないで! 女の子は笑ってる顔が一番素敵だよ!」
 まゆみを心配させまいと、エルはにっこりと笑って見せた。
「キキーーー!」
 その隙に飛びかかってくるコウモリ獣人!
「おっと!」
 エルはその攻撃を避けた! もちろん、魅世瑠が絶対に避けられるスピードで攻撃を繰り出しているのだが。
「相手はコウモリ……ということは、光に弱い!」
 エルは、魅世瑠に向き直った。
「これだ!」
 ピカーーーー!
 エルの周囲がまぶしく輝く!
 光術だが、ただ光を発する程度に抑えて発動させている。
「キキーーー!」
 だが、コウモリ獣人の魅世瑠には効果テキメンだったようだ。
 目をおさえて、転がり回っている!
「目がぁ……目がぁ!」
「おとなしく引き上げるんだな! でないともう一発まぶしいの行くぜ?」
「むぅ……。仕方ない、今日はこれくらいにしといてやるっ! だが……洞窟では仲間が大勢待ちかまえているだろう! 覚えてやがれ!」
 コウモリ獣人・魅世瑠は立ち去った。
「気になることを言っていましたね……。洞窟には仲間がいる、と」
 まゆみは、魅世瑠が立ち去った方向を見つめて、つぶやいた。
「剣士ことのは一行以外にも、私たちの敵がいるのかしら……」
「ええ、その通り。彼らも、そして我らもだ!」
 まゆみの声に応えたのは……真っ黒な鎧を身につけた騎士!
「だ、誰?」
「ふはははは、我こそはゆず……アンコク魔法使いによってこの世に蘇りしアンコク騎士(A)。まゆみさ……貴様の命をここで奪ってくれる!」
 少々セリフを噛んでいるが、登場シーンを決めたのはロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)
「アンコク魔法使い……? それは誰なの?」
「ふははは。いずれ分かるであろう。……ここで我に負けなければなっ!」
 アンコク魔法使いによって召喚された騎士・セリナは、真っ黒に塗った槍(木製で、先端は丸めてある)を振りかざした!
「くらえーーー!」
 振り上げた槍を、まゆみに向かって振り下ろそうとした、その時!
 ガサッ!
「あ、あれ……?」
 セリナの槍は、木に引っかかってしまった。
「よ、よいしょ、よいしょ……」
 しっかり引っかかってしまったらしく、もう槍はびくともしなかった。
「わ、わが槍を封じるとは……勇者まゆみ、なかなかやるな!」
「え……私はなにも……」
「みっ、みなまで言うな! 見事であった!」
 ぶらさがった槍を放置して、セリナはくるりと後ろを向いた。
「だ、だが我らのリーダー・アンコク魔法使いには貴様では勝てぬぞ! さらばだ!」
 ガチャンガチャンガチャン……。アンコク騎士セリナは走り去った。
「な、なんだったのでしょう……」
 その姿を呆然と見送るまゆみ。
「よ、よくも我が仲間をっ!」
 草むらから、立川 るる(たちかわ・るる)が半泣きで飛び出してきた!
 実は、セリナとコンビネーション攻撃をする計画だったのだが、セリナが予想以上に早く退却してしまったため、うまくいかなかったのだ。
「仲間のかたき……!」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 私は何もしていないですけど……」
「問答無用! アシッドミストー!」
 キラキラキラ!
 るるが放ったアシッドミストは、ちょうど太陽の光が差し込むあたりに広がり、きれいな虹がかかった。
「まあ、きれい!」
 思わず拍手をするまゆみ。
「……で?」
「え、えっと……んーと……。惑わせの霧を作ったつもりだったんだけど……」
 きれいなきれいな虹の下。まゆみとるるは、お互いぽかーんとした表情で見つめ合っていた。
「こ、この後のことなんにも考えてなかったよぅ。あせあせ……」
「る、るる様! ここは一度撤退ですタイっ!」
 木陰から、何者かがるるに撤退を指示した。
「う。な、なかなか強いなっ、勇者まゆみー! ここは引き下がってやるー!」
 るるは、草むらから顔をフードで隠した人物に手を引かれ、走り去った。
「るる様、お疲れ様でした」
「なんかごめんなさぁい……」
「いえいえ、これはこれでよか。充分盛り上がったバイ!」
 そんな話し声とともに、二人の姿は遠ざかっていった。
「なんだか騒がしかったですけど、ようやく一安心……」
 そう言ってまゆみが汗をぬぐった時だった!
 キュイイィィ!
 すぐ側から、何かの回転音のような、不気味な音がする!
「きゃああぁぁ!」
 突然のことに悲鳴を上げてしまうまゆみ。
「きっさまー! 洞窟を荒らすつもりだなっ?」
 どこからともなく声がする。少し離れたところから拡声器で喋っているようで、まゆみのいる場所から姿を確認することはできなかった。
「その声は……と、ともちゃん?」
「だ、だめだってば。その名前は今は呼んじゃダメなのー!」
 拡声器の声が焦る。
「う……うおっほん。えっと……我らが住み家の洞窟を荒らそうとするヤツは許さないぞー!」
「そ、そんな! 私たちはさらわれた娘さんを……」
「ええいうるさいっ! おまえなんてここでやっつけてやる。我が右腕の、呪いのモンスターよ……行け!」
 ガサ。
 その声に応え、草むらから出てきたのは月島 悠(つきしま・ゆう)
 髪の毛を前にたらし、草むらからはい出てくるその姿は、まさに呪いのモンスター。テレビ画面から出てきそうな雰囲気である。
「ここまでだな」
 キュイイィン! 手にしているガトリングが回転して音を立てる。先ほどの音の正体もこれだろう。
「挨拶がわりだ。くらえっ!」
 ガガガガガガ! 悠はガトリングを近場の木に突き立てた!
 バリバリ……。突き立てられた部分の幹が粉砕し、木が倒れる……!
「あ、危ないっ!」
 ずずーーーーん……。
 木は、大きな地響きと共に倒れた。
 ただし、倒れる方向を綿密に計算してあったらしく、まゆみ達がいる方向とは逆側に、木は倒れた。
「これは警告だ! これ以上進んで、我らの洞窟を荒らすようなら、今度は木じゃなくてあなたが倒れることになるぜ! 勇者まゆみ!」
 悠の、たらした髪の毛の隙間から、にやりと笑う口元がちらりと見える。
「そ、それでも私たちは行かなければならないんです!」
「この洞窟に長年暮らす、我ら魔物軍団をナメるなよ。その言葉、いずれ後悔することになるぜ!」
 キュイン! 再びガトリングを回転させ、悠は叫んだ。
「そこまで言うなら来るがいいさ! 我らが主、犬神とも様のもとへな!」
 ガサッ!
 悠は素早く後方へ飛び、草むらの中へ姿を消した。
「……こ、今度こそ……何もいなくなったわね……」
 まゆみとその仲間達は、周りを警戒し、何の気配もないことを確認すると、ほっと胸をなで下ろした。
「いろいろな方たちがいて、ちょっと混乱していますけど……でも分かったことがあります。剣士ことのは達の他にも、アンコク魔法使いやモンスター軍団という、得体の知れない敵もいるっていうことですよね」
 まゆみは、気持ちを引き締めた。

『剣士ことのは、アンコク魔法使い、そしてモンスターたち。まゆみの行く先に待ちかまえているたくさんの敵! それでもまゆみは進まなければならない。頑張れまゆみ、負けるな……勇者まゆみ!』