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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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第1章 バンダロハムの戦い(1)

「俺達はあのバカに雇われたんじゃねぇ。教導団に雇われたんだ。
 あいつが有能な指揮官なら俺達も戦果を上げて美味しい目をみさせてもらうが、もしただのバカなら一緒に心中なんざ御免だろ」
 黒羊旗に対峙した浪人勢の一角。
「あんたは? その服……ジャタ族の戦士。む? 男、だよな?」
「見てわからんのか」
「あんちゃん幾つでい?」
「見ての通りだ」
 浪人の身なりをしてはいるが、どことなく軍人の趣がある。すこぶる目つきが悪い。
「ふん、若造が。この期に及んで何を言う。臆したか」
 浪人勢の先頭集団から、長巻を得物にした侍風が言う。腕に自信有り気な数名はすぐにも打ちかからんとする姿勢だ。
「下手に突っ込んで功を焦るだけ損だ、と言うのだ。
 あのバカは戦果を上げても俺達の功績じゃなく自分の手柄にしちまうよ」
「何だと?」「ふん、放っておけ。若造は手柄を俺達にもっていかれるのがいやなだけさ」
「……(浪人にも色々種類があるようだな。)」ジャタ族の衣装をきた若者はそれ以上は何も言わず、敵陣を眺める。
 ――向かい合う敵軍。
 翼を広げた黒い生きもののごとく。異様な威圧感が漂う。
「ど、どうする? 俺達は勝てるのか?」「お、恐れるな。教導団の指揮官がついてんだ」「て、手柄を取って成り上がったる!」
 浪人らは、意気込みながらもまだ、多くは戸惑っている。
「あんちゃん、元軍人かい? 戦歴あるのか」
「目下、戦術・戦略論を勉強中である。
 とにかく、あのバ……いや、岩造隊長さんの指揮っぷりを見せてもらおう」
「あんちゃん一体、誰なんだ? 何か、考えがあるようだな」
「自分は……カルラとでも名乗っておこうか。ああ、自分は浪人たちが総崩れにならないよう手は尽くすつもりだ」


1-01 本営の二人

 遠征軍ウルレミラ本営。
 バンダロハム境界に向かう兵の準備で、にわかに慌しくなる。
 パルボンに本陣を任された戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)
 クレアは、戦争の落としどころ、を見極める。
 クレアは思う。……そもそも教導団は侵略戦争をしに来たわけではないからな。
 私達は、黒羊旗に対処するために来ている。後手に回っているため、バンダロハム側との戦いは避けられまいが、都市対教導団、もしくは都市同士(バンダロハムとウルレミラ)の戦争になるのは避けたい。
 最終的に、表向きは「食い詰め浪人の暴走を教導団が抑えた」、という態を繕うことで、バンダロハムには矛を収めてもらうことはできないだろうか。と。
 一方、戦部は……。
 黒羊旗を牽制しつつ……バンダロハムを獲る――自軍部隊と自軍拠点の間に敵拠点があるのは何かと不都合が多い。部隊を差し向けるにしても、途中襲撃される危険性を考えると、一時的にでもバンダロハムを占拠するべし。
 そのために「敵に先に手を出させること」か。
 龍雷を餌と見なせば相手にそれをさせることは可能か。
 もちろん、各部隊は龍雷を助け、黒羊を退ける必要がある。
 戦部は戦いの流れを思い描く。
「何も考えずにドンパチするのも好きなんですけどね」

 さて彼らの思惑とは別に、前線では……



1-02 龍雷連隊、突撃せよ

「龍雷連隊、突撃せよ!」
 岩造が剣先を向ける……黒羊旗へ!
 岩造は相手勢の鶴翼に対し、偃月の陣を指示した。
「フェイト! 行くぞ」
「岩造様! はぁぁっ!」
 岩造と嫁のフェイトが先陣を切り、突っ走っていく。全軍で左翼側を崩しにかかる。
「おう!」「ようし」「俺達も続け!」



1-03 出撃前

 各部隊が出撃準備をする中、香取の率いる隊が三日月湖の戦線を離れ谷間の宿場方面に向かった、と騒然となっている。
 そんな中……
「めいろー るー☆ おーぎっ」
「でゅらんだるっ! でゅらんだる!」
 薙刀ぶんぶん振り回すルー・ラウファーダ(るー・らうふぁーだ)と、ハエ叩きを振り回す林田 コタロー(はやしだ・こたろう)
「めいろー るー☆ おーぎっ」
「でゅらんだるっ! でゅらんだる!」
 カツ!
 林田 樹(はやしだ・いつき)はハエ叩きを取り上げると、コタローの頭を打った。「あ、ねーたん……いて」
「ルーも……。さっきからそればかりやってるけど、大丈夫か? なんか、偵察のときにへんなものでも見たか?」
 と言うルケト・ツーレ(るけと・つーれ)は、しかしデゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)の方が心配かも知れない。
 出撃を前に、今回は色々思案してる様子のデゼル。
「なんかデゼルが微妙に悩んでいるようだけど……ニアワナイナァ……」
 生温い視線を送りつつ、そうやって悩むのは頭の良い人がやるべきと割り切ればいいのに。と。「……自分がバカだとは言わないぞ? デゼルは……」
 その隣では、
「馬鹿あんころ餅のせいで林田様とお風呂に入れなかったどころか、温泉を追い出されちゃったじゃないですか〜!!」
「僕のせいではありませんよ、カラクリ娘。だいたい樹ちゃんとお風呂に入るなら、晩酌の用意はしておかないと」
 プリモ温泉の浴衣を着たまま本陣に到着した、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)緒方 章(おがた・あきら)だ。
 ぶつかり合う眼光。
「この馬鹿〜、あんこ〜、ピー(注放送禁止かかりました)
 餅がどろっとなってスライムでもなっちゃえ〜!!」
「あ? 誰が餅?
 ゼンマイがぶち切れかかって、ピーがピーになったヒヨッ子にそこまで言われる筋合いはな……」
 カツ!(ハエ叩き、炸裂。)
「って、痛いです、林田様」
「い、痛ったいなぁ、樹ちゃん」
「我々が行う作戦は、騎狼部隊の作戦の正否に関わっているんだ!
 この戦いが終わったら混浴でも甘味食べ尽くしツアーでも何でもしてやるから、気合いを入れてかかれっ! 良いな!!」
「はい、分かりましたです。
 ……!! 良いんですか? お風呂、ご一緒できるんですね!」
「了解。
 ……って、ホントに混浴して良いの?!」
 林田は、策を二人に授ける。
「ふむふむ」「……うん、うん」
「了解です、やってやるです、林田様とのお風呂のためならばっ!!」
「……了解。露天風呂で晩酌しながら……楽しみだねぇ」
「むっ」
 ジーナと緒方。
 再び、ぶつかり合う眼光。
「……。で、まずはその浴衣を着替えてきてくれないか……」
 そこへ、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、スキンシップ取りつつ騎狼を引いてくる。
「皆さん。今日はどうぞよろしくお願い致しますぅ」
 百合園から、久々に騎狼部隊への参加だが、騎狼はちゃんとメイベルのことを覚えている。
「るーちゃん きょう ひとりでぶさいく(騎狼) のる! ひとりで できるもん!」
 ルーは今度は一人で乗るんだと早速、騎狼に飛び乗る。
 一方……騎狼部隊の隣では、出撃を前に固い表情のレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)。いささか、緊張しているようだ。
「レーゼ」
「ああ、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)か。騎狼部隊の方はどうだ。
 ん? どうかしたか?」
「予備のメガネだ。メガネをなくしたときに使ってくれ」
「……」
「メガネのないレーゼはレーゼではないからな」
 両隊間の微笑ましいやり取りも見られた。
 が……間もなく、共に戦場へ。両者は、互いに武運を、と眼差しで語った。



 騎狼舎では、騎狼を管理する、グロリアーナ・イルランド十四世(ぐろりあーな・いるらんどじゅうよんせい)
 彼女のもとを訪れる者があった。
「わしは龍雷連隊が隊長、岩造殿の部下武蔵坊 弁慶(むさしぼう・べんけい)でござる」
「同じく。ナイン・カロッサ(ないん・かろっさ)よ」
 前線にある彼らの隊長、岩造のもとへ駆けつけようとしている二人だ。弁慶は、旧オークスバレーにいる草薙 真矢(くさなぎ・まや)にもすでに援助を依頼している。
「騎狼ですか……残念ながら、騎狼部隊もホイホイ貸し出しはできないのです(騎狼がないのでお金がないので)。
 パルボン殿からの御達しもありまして」
「そうなのね……」
「ええ。ですけど御安心ください。
 その代わりに、騎オーク。すなわち、オークシリーズで捕えたオークを騎乗用に調教されたものを貸し出し可能になっていますの」
「騎オーク……!」
「これは、イレブン・オーヴィルと一条アリーセによる発案でもあるのです」
「オォォォク。ナイン様……(オレニ乗ッテ乗ッテ)」
「仕方ないわね。じゃあ、これを借りるわ」
「ああそうじゃ。それから、船のことはどこで聞けばよいでござろう?
 わしは岩造殿に一刻も早く物資を届けねばならぬ、それには船が要りようでござる」
「船? 船でしたら、おそらく……」
 弁慶は、沼人マーケットの方面へ向かうこととなる。



1-04 バンダロハムの思惑

 バンダロハム貴族館を再び訪れているこの女魔法使い。
 そう、メニエス・レイン(めにえす・れいん)だ。
 そこには、まさに出撃せんとするドリヒテガら傭兵勢が集っている。
「北も南も敵しかいない場所に陣取るなんて、まさに袋のネズミよ」
 メニエスは、黒羊軍と傭兵連とで境界に陣取る龍雷連隊の挟撃を持ちかけた。(メニエスは、すでに黒羊側との接触を持っていることになる。ということは、つまり黒羊軍は……)
「ふむ。きゃつらの位置はここか……メゾカーラ」
 貴族は、メゾカーラ・ブリヒヤを呼び寄せると、何か耳打ちした。メゾカーラは一足先、館を出て行く。
「メニエス殿。ではそういうことで黒羊側にも連絡をお願いする」
 メニエスも、退出する。
 それらを見届け、システィーナ・プレイスが貴族に近付く。
「システィーナ。如何した?」
「失礼ですが一つ。
 私には、教導団がこちらに先に手を出させ、我々バンダロハムを攻め落す口実を得ようとしているように見えます。それに乗るべきでない、と思うのですが」
「黒羊側の使者とも話を着けた手前、戦いは避けられぬ。
 教導団がバンダロハムに軍勢を引き入れた以上は、その時点で打ち払う理由ともなろう。バンダロハムに非はない」
「ですが、その龍雷連隊とは、食い詰めをにわかに集めたという点が……」
「いずれにしても、教導団の本隊も間もなくやって来よう。
 奴等には痛い目を見てもらう。システィーナ、西の上空がにわかに紅く染まることがあれば、傭兵どもを一時下がらせるように。ふふふふ」
「……ええ、わかりました。では。
 それからもう一つ、あの戦いを煽る女魔法使い。もしかしたら工作員の可能性もあります」
「ふむ。少し気を付けておこう」

 こうして傭兵勢は、システィーナ、その従妹カチュアに、メニエスも加わり境界の戦線へと急行する。



1-05 ジャトとタカムラ

 バンダロハムの片隅。ここに、貴族館へ戻らなかった傭兵。バンダロハム傭兵の首領格、ギズム・ジャト
 そして酒場での出来事で、どこか意気投合するところがあったのか、一緒にいることになった鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)
「何だ……まだ教導団のことを言うのか?」
「いずれ本隊が来れば、バンダロハムが敵対すれば街への被害が出る」
 鷹村の本心は……バンダロハムの街一つでは教導団に勝ち目がないと思っているのだが、それはジャトや傭兵らのプライドと傷つけることになるだろうから、それには触れない。
「それに、貴族は自身の保身しか考えていないなら、旗色が悪くなれば傭兵だって切り捨てるかもしれない。奴らは、鏖殺寺院とつながっている可能性もある。寺院をよく思っていない者は、多いのだ。
 あんたは何故、そこまで貴族に従う?」
「さあな。たまたま、俺のやりたいことと一致してきただけだろ。今までは。
 貴族が気に入らなくなれば貴族も切るし、教導団も同じだ。今は教導はどうでもいい」
「……」「……」無言の二人。
「真一郎……」見守る、松本 可奈(まつもと・かな)
 鷹村は……やはり、自分は教導団の一員であるという意識は固い。鷹村は、あくまで教導団と傭兵との間で協力関係が結べないか、ジャトに問うたのだが。
 もちろん、またそこには、情に厚い鷹村が、ジャトのことを思って言ったということもあったのだろうが。
 しかしジャトもまた、個人的に協力してくれないかという鷹村の義憤めいたところに惹かれるものがあったのだろう、それでこそあれ、教導団ということには全く関心を示さないのだった。
 鷹村は思う。どうすれば、傭兵たちと敵対関係にならずに済むか。
 少なくともそうだ俺は、傭兵たちと絶対に戦闘は行わない。たとえ向こうから仕掛けてきても、一方的に無抵抗でいるつもりだ、と。
 しかし……すでに鷹村の思惑とは無関係に、バンダロハムでは傭兵と教導団の戦いがすでに始まっているのだった……そこへ、
「くけけっ。おいジャトじゃねえか」「まだこんなところにいたのか。他の奴らは皆、ドリヒテガと一緒に境界へ行ったぜ」「俺達は今から、教導の本営を急襲して、大将首獲ってやるつもりよ」
 通りがかったのは、酒場でジャトといた傭兵達であった。
「くけけっ。こいつ……」「おい誰かと思えば、さっきの教導の野郎じゃねえか! まだこいつといたのか、ジャト」「なあ、最初の手柄にもらっちまおうか。武官かそこそこの位じゃね?」
「待て。俺はあんたらと戦うつもりはない」
「くけけっ。いいぜじゃあ大人しくやられちゃってくんな」
 傭兵は鳥銃を取り出した。
「ジャトいいのか。ははは、お友達なんじゃねえの?」
「……」ジャトは無言だ。
 鷹村は、剣を抜かない。
「おい、こいつほんとにこのまま無抵抗か?
 ……よしお前ら、こいつの首は俺がもらう。首級第一号頂きだぜ。くけけっ」
「真一郎! 私が、そうはさせないよ」
 可奈が、前に出る。
「お、恐い嫁もいやがるぜ」「でもきゃわいいーっ」「ほらお前らは行きな」
「どうしても、教導団と戦うの?」
「教導だろうが何だろうが殺れっつわれた奴を殺るだけよ」
「……」
 ……傭兵への説得は試みるだけ無駄だというのか。
 迷う、鷹村。
「真一郎……?」
 傭兵のうち二人はウルレミラの方角へ走った。
 可奈が動こうとするが。
 残る一人の銃口が向く。
「……くっ」
 ヘキサハンマーを取る可奈。
「おっと。距離は取らせねえ」
 傭兵は後ろに飛んで、距離を取り再び銃を向ける。
「ちっ。タカムラ。とにかく俺は境界に行くぜ。俺の邪魔をするやつがいれば教導団だろうと黒羊だろうと斬るだけだ」
 ジャトはその緊迫した状況を、全く顧りも見ない様子で、北へ向く。
「おいおいジャト。加勢もしてくれねえのか。くけけっ、行っちまったよ。
 ……まあ、あいつは、ああいう奴だからな。さて」



1-06 執拗な追跡者

 更にバンダロハムの込み入った雑居区の一角で、繰り広げられる逃走劇……
「こんな所でやられるわけにはいかないであります。何としても生還するでありますよ」
 薄暗くなりつつある雑居区を走る、金住 健勝(かなずみ・けんしょう)
 まさか、こんなところで命を狙われることになるとは。しかも、相手は執拗だ。
 おそらく、かなりの距離から狙ってきている。
 狙撃手らしい。
 金住には、疲れが見える。
 レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)が、見えない相手に問う。
「あなたは一体誰なんです?!」
 ひっそりとしたビルが佇むばかり。返事はない。
「私達はあなた達と戦いに来たんじゃないんです! そちらから見れば教導団が、……っ!」
 教導団の単語に反応したかのように、射撃が来る。
「……勝手に、立ち入ったのかもしれませんけど……!」
 ひた、ひた、……
「レジーナ、どうやら話の通じる相手ではないようであります」
「私達を討ったらここは本当の戦場になってしまいますよ!」
 辺りを見渡す金住。
 金住は、逃げる間に、注意深く相手の狙撃の癖を見極めていた。
「レジーナ、次はあの倉の影まで走るであります……!」
「健勝さん……。はい……!」
 いささか距離がある。
 健勝は、スプレーショットをばら撒いた。
 走る。
「あっ」
「レジーナ!?」
「だ、大丈夫です、健勝さん早くそこまで……!」
 がらくたの積み上げてある後ろに飛び込んだ。
 倉庫の壁に銃弾が来る。
「レジーナ、本当に何ともないでありますか?!」
「は、はい。大丈夫です。ごめんなさい、つまずきそうになって」
 ひた、ひた、……
 そのまま、点在する物陰を縫って走る。
「ざわめきが戻ってきたであります!」
 家の窓に明かりが見え、バーらしい建物からは、人の談笑も聞こえてくる。
「ここまでくれば……」
 そこも速やかに抜けて、通りらしいところまで達した。
 二人は、見えない狙撃手の追撃を逃れた。
「一旦、本営に戻るであります……!」

 ……ひた、ひた、ひた。