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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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第3章 バンダロハムの戦い(2)

 本営に戻る途中、ウルレミラの街を慌しく駆け回る教導団の兵。
 事態の急な展開を聞き、神楽崎 俊(かぐらざき・しゅん)は驚いた。さっきまで、めいめいが羽を伸ばし、俊らと同じようにウルレミラの街でゆっくりしていた者も多いのだが。
 各部隊にはすでに出撃したところもあるという。
 今まで見てきた美しい街が戦渦に巻かれるところを想像すると、こうしてはいられない。と、彼は思う。
「不本意だが……降りかかる火の粉は、早めに掃わないとな」
 不安そうに見つめる、妹二人。神楽崎 沙織(かぐらざき・さおり)と、ソフィア・プレンティス(そふぃあ・ぷれんてぃす)
 二人を巻き込みたくない。出来れば、一人で参戦したいところだが……
 不安そうながらも、二人の目も決意を秘めている。
 俺の妹達が素直に残るわけないか。……俊は、妹二人に、
「常に三人で行動し、絶対はぐれないように気を付けるんだぞ?」
「……義兄さん」
「うん。怖いけど……おにーちゃんおねーちゃんが居るから、ボクがんばる!」


3-01 林田からの電話

 携帯が鳴った。林田からだ。思ったより、早い。
「はっ。はい、こちらジーナ」
「さすがにまだ、北の森に着くって頃合じゃないぜ?」
「うむ。もしかして、林田に何かあったか?」
「心配ですぅ」
 騎狼部隊の一同に若干の緊張が走る。すると、やはり、
「えっ、はい。えっと? 西回りで軍が動いている、ですか……? 数、はい。……300はいる、ですか?!」
 ジーナの周りで、やはりどうもまずいことになっているようだと、目を丸くするイレブン、デゼル、メイベルら。



「ああ。実は、前の偵察時に、森の西へ動いていた気配はあったわけだが。まさかこっちに回してくるのだったとは……。
 現在の位置は、ちょうど月の真西あたりであろうな。
 どうも相手も夜陰に乗じてウルレミラの西へ回るようだ。きわめて静かに行軍している。騎兵が50程、あとは歩兵か、……どれも黒尽くめだ。
 青年に伝えてくれるか。とにかく、このままではまずいことになるでろう」



 ジーナの話を聞く騎狼部隊員ら。
 デゼルはすぐに驚いた様子で、
「おい、そりゃまずいんじゃないか」
「うむ。これは人類の危機!」
「な、なんだってー!
 ってイレブンッ!」
「あ、林田様。今の音は何でもありません……」
 メイベルも不安な面持ち。
「と、いうことは、北に展開した部隊というのは陽動? ということですぅ?」
「少なくとも、西回りで本営を獲るつもりだったということか。危ない……いやしかし、これは依然危ないぞ。
 そうだ。ジーナ、その状況にあって林田自身は大丈夫なのか?」
「は、はい。あの、林田様……」



「ああ。私は無事だよ。もう暗くなっているし、この辺りは木が多い。
 単騎で動いたのは正解だったな。もし一隊で鉢合わせれば、殲滅されたであろう。
 とにかく、私は作戦通りに、北の森を撹乱してみることにする。
 上手くいけば、兵の一部でも引き返させることができるかも知れん」



「……。ちょっと、待ってください」
 一同はそのことをジーナに聞いて、また不安を浮かべる。全く敵地にある状態になる林田が、心配だ。
「やってみるしかなかろう。まあ、心配はしなくていい。私がやられるとでも?」
 と、林田。
「……そうか。わかった。健闘を祈るしかない。
 しかし、絶対に無理はしないようにと」
「あ。切れてしまいましたね」
「……」
「林田様……大丈夫でしょうかぁ」
「ああ。林田の能力ならば、そうそう間違うようなことは。しかしもしもということは常に考えられるが……」
「とにかくさあ、本陣には伝えた方がいいだろ?」
 深刻に考え込む皆に、ルケトが言う。
「では、本営には私が一駆け致しましょう」
「ああ。頼む」
 シャンバラ騎狼兵が、手綱を引き駆け去る。
「後は信じるしかありませんねぇ……林田様どうかご無事で」
 メイベルは、祈る姿勢。
「林田様〜〜……!」
 ジーナも、心配で仕方ない様子だが。
「こうなった以上は、作戦は変更か? どうする?」
 デゼルが、ゆっくりしてもいられないだろうと、皆に問う。
 若干予想外の展開に、騎狼部隊は即座の判断を要求される。
 イレブンは考える。
「こうなれば、誘引してもらい揺さぶりをかけるよりむしろ、こちらが北の部隊を切り崩す必要がありそうか」
 相手を突破して北の森本陣を揺さぶることで、西回りの隊を退かせるまでできればいいが、そこまでは難しいかもしれない。
 西回りの敵部隊を察知できたことだけでもさいわい。そちらは本隊の指示に任せ、騎狼部隊は目の前の敵にあたる他ない。
 デゼルは、「ああ。林田の作戦とうまく合わせれば、より確実だっただろうが。致し方ないな。
 それに龍雷連隊だけでは戦線維持も辛いだろう。オレの気持ちとしては、一刻も早く駆けつけてやりたい。ってのもある」
「激戦になるな。メイベルは?」
「ええ、私も異存なしですぅ。
 必要とあらば、この……ウォーハンマーを振り回して「道」を作るのみですぅ」
 セシリア・ライトも、同じくウォーハンマーを掲げて見せた。
「道。
 ……でき得るなら、北の陣を破り、教導団勝利への道はこの騎狼部隊が開きたいものだ」
「よし。決まりだな。
 騎狼部隊、いざ突撃だぜぃ!」
 騎狼部隊、戦地へ。



3-02 続・境界戦

 境界の戦線に、バンダロハムの傭兵らが駆けつける。
「おうおう。俺達が来たからには、教導団の好きにはさせないぜ?!」「くっひゃひゃひゃぁぁぁ! 死ねやぁぁぁぁ」「忍……忍……」
 数は十名程か。しかし何れも腕の立つ剣士や、スピードの高いモンクなどだ。
「ぐあっ」
 食い詰め浪人を片っ端から切りつけていく。
「おうおう!」「くっひゃひゃひゃひゃぁぁぁ! 楽しいぜ」「忍……忍……」
「おおっ。私の龍雷連隊がやられていく!
 許さん。許さんぞ! 貴様らの相手はこの岩造だ、こっちへ来い!」
「おう?」「くひゃ? おいあいつはやばそうだ。ラスボスじみたオヤジは後回しにして、弱い奴から斬っちまえ!」「忍……忍……」
「ぐあっ」「ぎゃ!」「岩造隊長〜〜……うぐっ」
「うぬぬ。フェイト! ファルコン!」
「岩造様! フェイトはここにございます!」
「く、どこだ!」
 すでにここは乱戦。フェイトの声が少し離れたところから聞こえるが、後方にあるファルコンの姿は見えない。
 ぎゃー。浪人達の悲鳴が続く。
 呼びかける岩造に、前方から容赦なく黒羊の兵が斬りかかる。
「ぬう。おのれ!」
 しかし、ど、っとその兵が倒れ、岩造の前に現れたのは、
「フハハッ! 岩造、オレが来てやったよ!」
「貴様か、坂下 小川麻呂(さかのしたの・おがわまろ)! 来てくれたのだな」
 リーゼントに、胸元を肌蹴て着崩した教導団軍服。いまだ歩兵科基礎過程が終わらないのは、女の尻を追っかけ回してばかりいるから。シャンバラの種馬と言われる彼だ。
「目の前に敵がいるのにほっとく手はないからな。さて一暴れしてやるかっ!」
 グレートソードを振りかぶる。
「フハハッ! 手応えのあるやつァどいつだ?!」
 後方から、浪人どもを斬り崩し、大将首を狙う傭兵連の強者が駆け上がってきた。
「なんだあんたよーこの俺様とやるってーのかよーいい度胸してんじゃんかよー、血祭りに上げてやる」
 傭兵の武器はパルティザンだ。
「フハハッ!」
 打ちかかる、坂下小川麻呂。鋭い突きが坂下に迫る。



3-03 ナインと傭兵

 騎狼の代わりに騎オークを借り受け、単騎駆けるこの女性。
 そう、龍雷連隊の縁の下の力持ちとして別働している、ナイン・カロッサ(ないん・かろっさ)だ。
 激戦を繰り広げる龍雷連隊に物資を届けるべく準備を進める弁慶に先行し、沼地を策敵の後、彼と合流し前線で戦う岩造隊長のもとへ駆けつける予定だ。
 沼地に沿って一通り走ったが、バンダロハムまでの間に、敵部隊や伏兵の姿はない。
 町の方にも……彼女が通りを過ぎたとき、
「おう、待ちな姉ちゃん」
「!」
 騎オークを転回する、ナイン。
「ぐひゃひゃ」「へへー」
 柄の悪い男二人が近付いてくる。
 武器を携えている。
 ナインは警戒したが、攻撃してくる様子はとりあえずない。
「ぐひゃひゃ。いいねー」「へへー。どこ行くの?」
「ちょっとね……。あんた達は?」
 男は、マネーのサインをして見せた。
 ……雇われか。
「ぐひゃひゃ」「へへー、仲間かな?」
 ナインも戦場で育った。愛や友情よりお金。どこか傭兵と同じ空気をかもし出しているところもある。
 でも、……そうこいつらがバンダロハムの傭兵、ね。
「……ワタシは龍雷連隊が一員。ナイン・カロッサよ」
「何? 龍雷……」「……へへー」
 傭兵二人は、顔を見合わせる。
「ぐひゃひゃ? そりゃあどこのどいつでい?」「へへー。姉ちゃん姉ちゃん、龍雷なんたらなんざほっといて、俺達と行こうや!」
「……うふふ。それもいいかもね」
「ぐひゃひゃ! だろ?!」「へへー、イイコトしようぜ」
「あんた達、二人? どこへ行く?」
「ぐひゃひゃ。ああそうだぜ。あっちで派手にやってる間に、俺達で教導の大将のそっ首引っこ抜いてやるってつもりでね」
「へへー。まあでもとりあえず行き先変えてもいいぜ。ウルレミラのホテル寄ってこうやへへー」
「成る程。二人だけなわけね……」
 ナインは、静かに微笑むとアサルトカービンを抜いた。
「ぐひゃ?」「……へへー」
 傭兵はそれぞれ、リングダガーとアルバレストを取り出す。
「ぐっひゃひゃ! とんだじゃじゃ娘のようだな。こりゃ痛い目見せて、大人しくしてからだな」「へへー……俺は殺してからでもかまわねえぜ」
 勝てる。ナインは素早くカービンを向けた。
「狙った獲物は逃がさないわよ」



3-04 パルボンと一緒

 騎狼部隊からの報告を聞いたパルボン。すでに出陣し、ゆっくり馬を駆ってバンダロハムへ近付きつつある途中だった。
「なんと。西回りで敵とな。
 ふむう。……林田よくやった。貴官のことは忘れない」
「あの、パルボン殿……」
「おっほん。では致し方ない。我が兵パルボンリッターの一隊(騎兵隊)を差し向けようか。
 敵数は幾らじゃった?」
「はあ。300程と……」
「ふむう。では、……大岡 永谷(おおおか・とと)
「ああ」
「そなた騎兵として、我がパルボンリッターの30程を率い、ウルレミラの西に向かってくれんか」
「30……か」
「おっほん。パルボンリッターの30は、黒羊旗なぞの300に値するわ。
 ところでトトは、やっぱりわしのもとに来る気はないのかね」
「……ああ。それはちょっとごめんする」
「残念じゃ。ならば致し方ない」
 ファイディアス・パレオロゴス(ふぁいでぃあす・ぱれおろごす)が睨みをきかせた。(こんなオヤジに永谷を獲られるわけにはまいりません。永谷はわたくしの大事なペットですからね。)
「永谷にはこのファイディアスが付いております。ご安心を」
「ふむ。しっかり調教してやってくれたまえ。そしていつでもわしのところへ来てよいと、言い聞かせてやってくれ」
「ええ勿論。しっかり調教……(何? このオヤジ、わたくしの本性を見抜いている? 只者ではないかも知れぬ……要注意人物でございます)」
「おっほん。では」
 パルボンはにやりと笑った。
「クライスはわしのもとへ来ると言ってくれたもんねえ?
 さあクライス。これからはわしと共に進もうぞ。クライス、さあわしらはわしらの道を歩もうぞ。行こうぞ、クライス」
「…………(ボクの今回のアクションは決して間違ってはいなかった筈だよ)」クライス。(サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)からの連絡を受け、まくら投げを抜け出してきた。)
 ローレンス、「…………クライス。終わったか」。ジィーン、「…………クライス。長い道のりだったな」。サフィ「(NL至上主義崩壊 NL至上主義崩壊)」。
 第四師団シナリオ5回目の参加にして、とうとうクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)は落ち着くところに落ちた、のであろうか。(しかも薔薇の学舎じゃなくここは教導団だが。。)
「獅子小隊の皆。ぶちぬこ隊の皆。早く囚われのボクを助けて」クライス。
 かくして、パルボン本隊は大岡永谷の騎兵30に後続の歩兵50をウルレミラ西に迫りつつある敵軍へ急行させ、パルボンとクライスが残る騎兵20歩兵100を率いバンダロハム北の境界へ赴くのだった。おそらく、大丈夫な筈。色んな意味で(?)。