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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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第2章 谷間の死闘

 教導団に雇われの傭兵、というには、温和で品の良さを感じさせる。
 それもその筈。百合園女学院に通うお嬢さま。しかもあの白百合団所属で班長を務める、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)
 教導団に協力を願い出て、(しかしお昼寝で時間が遅くなったりもしつつ)温泉からのんびり旅行(?)してきた彼女。時はすでに夕刻を過ぎ……谷間の宿場へと入り込んでいた。其処此処に明かりは見えるが、どれもこんなところに泊まって大丈夫なのだろうかという宿ばかり……。
「あ、すみません、この近くにきちんとしたホテルとかありませんでしょうか?」
 ともあれ、こうして、ロンデハイネを救助すべく谷間へやって来た香取隊は、心強い協力者を得ることになるのだった。


2-01 飛び出す国頭

 山鬼の家。
 押入れの中、顔を見合わせる、霧島 玖朔(きりしま・くざく)国頭 武尊(くにがみ・たける)。そして次の瞬間。
 押入れの戸を蹴破り、飛び出す国頭。
「ナ、ナンダ貴様、オニィィィ!?」
「何が山鬼だ。又吉様を舐めんじゃねーよ」
 猫井 又吉(ねこい・またきち)シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)も、彼に続く。
 この間に、霧島は伊吹 九十九(いぶき・つくも)と素早く屋根裏へと移動する。
「折角私以外の鬼と会えたというのに、理解し合うことは出来なかった」
「……」
 暗がりの中で、九十九の表情はよく読み取れない。霧島は、彼女にその場を任せ、自らは屋外へと出て注意深く辺りを見渡す。

「おっ。な、なんて力だ」
 山鬼頭の金棒に、又吉の木刀が弾かれる。
「おい武尊!」
「ああ、髭確保完了。待てよ、今拘束を」
「おい武尊、あぶねえ!」
 又吉が打ち合う間、髭のおっさんつまりロンデハイネのもとに駆け寄り縄を解こうとしていた国頭。それを見つけた山鬼頭の金棒が猛スピードで襲いかかる。
「おっと!」
 野球のバットが弾き返される。
「ちっ。解いてる間はねえな。髭のおっさん、ちょっと辛抱しろよ」
「?? お、おい待て……」
 金棒が振り下ろされる。
「ぎゃ!」
 危機一髪、床に大穴。ロンデハイネを引き摺って、国頭、又吉は通路の奥へと逃げ出した。
「ヌウゥ。逃ガサヌ! オイ、追ウダァァァ!!」
「オニ!」「アッチ行キ止マリオニ。馬鹿ドモ追詰メルオニィ」「オニィィィ!!」
「はあ、はあ」
 財宝を前にして、引き下がれるか。ってことだ! ついでに髭も助けてやるか、と。
「はあ、はあ。シーリル!」
 通路の奥では、シーリルがピッキングで扉を開いているところ。
「武尊さん!」
「どうだ?」
「え、ええ……三つの扉を開けましたが、みたびとも扉の奥にまた扉で……」
「ちっ」
 まあ、いい。とにかく……国頭の考えでは、ここなら一方通行のようだし、挟み撃ちを受けることはない。それに……国頭は又吉が縄を解いているロンデハイネの方をちらりと見た。「お、おい。貴公らは……」――この髭が教導団の偉いおっさんってことなら、捜索隊がそのうちやって来るだろうから、それまで凌げばオレ達の勝ちだろう、と。
「おい、おっさん? 戦えるか?」
「く、すまぬ」
 どたどたどた。山鬼が迫ってくる。
「シーリル!」
「まだ、まだですっ……」
 国頭、霧島らの見せたピッキング術の上をいくスピードで開錠していくシーリル。しかし、終わらない扉、扉、……ええいやむを得ない。ここで戦闘開始だ!
 国頭、又吉は銃をかまえた。弾切れになったら……木刀と野球のバットでやり合うまでだ。



2-02 プリモの秘策

「ねえねえ」
「ドウシタ? オ嬢チャン。コンナ所ニイルト危ナイオニ。今、戦闘乃最中……オニ?
 オ、オ頭ァ! サッキ捕マエタ娘ガ、イツノ間ニカ逃ゲ出シテイルオニィィ!?」
 そこにいたのは、プリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)なわけだが。
「何?! 何故ダァ! 何故、女部屋カラ逃ゲ出セルゥゥ? ソンナ筈ネダ。オイ、女部屋ヘ急グダァァァ」
「ハッ。オ頭、アッ、コイツ逃ゲルオニ!」
 山鬼の間を、逃げ回るプリモ。が……
「捕マエダッ!!」「オニィィィ……覚悟シロヤオニィィィ」「ウヒヒ。オニィィィ!」
 プリモの服がびりびりと破られ、
「ひぎぃ」
「ウヒヒヒ」
「らめぇ」
 ……
 一方、女部屋に囚われたジョーカー・オルジナ(じょーかー・おるじな)もまた、山鬼の手に……
「そんなトコ弄っちゃらめぇ、壊れちゃう」
(以下、蒼空倫)
 ……むふふ。
 という妄想を押入れの暗がりの中でしていたのは、プリモのパートナー宇喜多 直家(うきた・なおいえ)。(いつの間にいた?)
 しかし、妄想したはよいが、二人を実際に調教せねばならんはそれがしじゃ。ええい、山鬼め。それがしに手間をかけさせよって! 許さん!
 プリモはと言うと……
「ねえねえ」 
「ドウシタ? オ嬢チャン。コンナ所ニイルト危ナイオニ。今、戦闘乃最中……オニ?
 オ、オ頭ァ! サッキ捕マエタ娘ガ、イツノ間ニカ逃ゲ出シテイルオニィィ!?」
「何?! 何故ダァ! 何故、女部屋カラ逃ゲ出セルゥゥ? ソンナ筈ネダ。オイ、女部屋ヘ急グダァァァ」
「ハッ。オ頭、アッ、コイツ逃ゲルオニ!」
 山鬼の間を、逃げ回るプリモ。
「っとお! 捕まるわけにはいかないよっ。ひぎぃ、とか、らめぇ、とか言わせようったってそう簡単にはいかないもんねっ。
 ていっ。今夜もスパナはサービスしちゃう」
「痛! オニィ……オマエソレイツモドコカラ出シテクルオニ、許サンオニ!」
 一方、女部屋に囚われたオルジナも……
「ひぎぃ。そんなトコ弄っちゃらめぇ、壊れちゃう(機晶姫の構造的な意味で)。
 ……とか、まあそういうことはプリモには早すぎるぞ」
 女部屋には、不安そうにする沢山の女達。
「皆さん。どうか安心してください。もうすぐ、助け出しますから……」
 どたどた。そこへ、
「オニィィ! オイ、女ドモ。逃ゲタ奴イネェカ。オニィィ。逃ゲル奴、オ仕置キオニ、オニ?」
「……」
 扉の影から、無言で剣を振りかぶるオルジナ、
「ていっ」
「ギャ?! オニィィィィ……」
「さあ。皆さん、逃げましょう」



2-03 霧島の作戦

 国頭の銃弾に倒れ伏す山鬼。次から次へ、押し寄せてくる。
「オニィィ!!」
 鬼の投げる棍棒が襲いくる。
「おっと!」
 それぞれバットと木刀で打ち返す、国頭と又吉。
 どんどん どんどん
「おっ」
 どんどん どんどん
「オニ? 何乃音オニ?」「ソ、外カラ聞コエルオニ……」
 どんどん どんどん どんどん どんどん
「今だ、又吉!」
「おう!」
 又吉は、開いた扉をピッキングで施錠すると、火術を放って鍵穴を溶かして変形させた。
「ア、アイツラ。扉閉メヤガッタオニ!」
「オイ、待テオニ。表ニ教導団乃軍ガ迫ッテルオニ?!」

 外。山鬼の家から少し離れたところでは……
「ふう。これで少し時間を稼げるか……」
 霧島だ。
 霧島は、一定間隔を空けて破壊工作を重ねた。これの間に、情報撹乱も仕掛けることで、「教導団の部隊が襲ってきた……!」と山鬼を混乱せしめる作戦に出たのだった。トラッパーのスキルで、それをより確かなものとする。……予想外の事態で驚いたが……霧島は思った。……漸く俺にも運が向いてきたようだ。このチャンスは逃さないぜ。
「国頭、それに九十九、上手くやってくれてるか……! 俺も戻らねば」



「国頭。九十九よ。山鬼は混乱しているわ。半数は霧島の策にかかって、頭の指示で外へ出払ったわ。
 逃げるなら今よ」
 扉が開く。ロンデハイネが出てきた。
「国頭? おまえは……?」
「お宝を目の前にして、逃げるわけにはいかないからな。髭のおっさんは任せたぜ?(っと。髭のおっさん。オレはパラ実の国頭だ。褒賞の方はよろしく)」
「う、うむ……」
「ロンデハイネ殿。教導団、霧島玖朔のパートナー、九十九」
 扉の付近にいた山鬼は、九十九が片付けていた。数は、そう多くない。
「おお。やはり、教導団が駆けつけてくれたか? 霧島……というと、獅子小隊の部隊が?」
「いえ、実はまだ予断を許さぬ状況。先程のは、霧島が破壊工作で」
「何。そうか」
「ロンデハイネ殿、また山鬼が来ます。外へ……」
「おお」
 そこへ、立ちふさがる巨きな姿。山鬼頭の金棒が、九十九に襲いかかる。
「ロンデハイネ殿! ここは私が。お逃げを」