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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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第2章 カオス・オヴ・バトル

 敵将ボテイン、捕えたり!!
 バンダロハム北の境界。
 イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)が叫んだ。
 一斉に、黒羊旗へ打ちかかる、教導団。
 騎狼部隊、レーゼ部隊、本営から駆けつけた生徒ら、兵ら……そして、
「龍雷連隊!」


2‐01 混迷の戦場

「龍雷連隊、とっ」
「岩造殿〜! 岩造殿〜!」
「おお、弁慶ではないか。よく、来たな」
 戦場の最中、物資を届けに駆けつけた部下の武蔵坊 弁慶(むさしぼう・べんけい)に、優しく微笑みかける龍雷連隊・隊長の松平 岩造(まつだいら・がんぞう)
「隊長、遅くなってごめんなさいね」
 騎オークに乗ったナイン・カロッサ(ないん・かろっさ)も馳せ参じた。
「ナインも、よく来てくれたな。よし、では私たちもいざ……」
 にこやかな岩造、眉をきっと上げ黒羊旗に向かい、
「龍雷連隊、とつげ」
「岩造隊長ー、岩造隊長ー、た、大変よー!」
 龍雷連隊の新人、ミランダ・ウェイン(みらんだ・うぇいん)だ。コンバットアーマーの下に、スクール水着を着用した無邪気な女の子だが、戦闘時は真面目である。
「はあ、はあ。岩造隊長、街で、バンダロハムの街で、偽者の龍雷連隊が暴れているわ! 龍雷来来、龍雷来来って……」
「なっ。龍雷来来、……龍雷来来、……」
 岩造の顔に怒りが漲る。
「な、く、く、おのれ!! 絶対に許せん!
 フェイト!!」
「はっ。岩造様。フェイトはここにございます」
「龍雷の名を汚す者は、何人たりとも許さんぞ! 成敗してくるのだ!」
「はっ」
 騎オークに乗るナインの後ろに、フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)、弁慶、ミランダが跨る。浪人らも、続く。
「オ、オォォォォク、ク、ク……」
「ちょ、ちょっと重いわね……まあ、やむを得ないね。では龍雷のため、行こう皆!」
「はぁぁぁぁぁぁー!!!」
「おう、でござる!」
「いっくわよぉーん」



 龍雷来来、龍雷来来……
「龍雷来来ってなんですかね?
 音子様は龍雷はずっと先の前線(北の境界)で戦っているとおっしゃってましたが……」
 キョトンとする、戦車のルノー ビーワンビス(るのー・びーわんびす)
 龍雷連隊を助けるべく傭兵勢を食い止めていた黒乃 音子(くろの・ねこ)率いる黒豹小隊。彼女らが見たのは、龍雷来来を叫び、街を駆け上がっていく龍雷連隊であった。その姿はさながら暴徒……。その先にあるものは、……略奪……??
「罪を憎んで岩造を憎まず!
 きっと苦しい財政事情を乗り越えるために走った行動!」
 そう言うのは、アルチュール・ド・リッシュモン(あるちゅーる・どりっしゅもん)。更にニャイール・ド・ヴィニョル(にゃいーる・どびぃにょる)を加え、ジャンヌ・ド・ヴァロア(じゃんぬ・どばろあ)を分隊長とした別働隊に、先の龍雷来来を追わせることとした。
 黒乃自身は……
「ドリヒちゃんを殺したいほど好きになった!!」
 ここを突破していったグルメ猛将ことドリヒテガ。彼の豪将っぷりにハートに火がついた黒乃。ルビーのような赤い目が、更に輝きを増して血の如く染まる。
 もちろん、彼女はドリヒテガを追う。
「あ〜あ、音子に火がついた〜! 一大事だ〜」
 フランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)も、やる気がない感じでしかしこうなってはどうしょうもないので、黒乃の好きに従う。黒乃はすでに光条兵器とアーミーショットガンで武装、やる気(殺る気?)満々である。
「黒乃の一面がこのコマンダーシューターか……。
 狙撃手の血が騒ぐというのか?! ドリヒを手に入れられないなら、殺すか」
 そういうわけでロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)も決意を秘め、黒乃と。無論、彼の剣の花嫁アデライード・ド・サックス(あでらいーど・どさっくす)も従う。



 山城 樹(やましろ・いつき)は、貴族館の様子、街の様子を、宇都宮、セリエ、ランスロットらに伝える。おのおの、携帯で事を聞き、頷くパートナーら。連絡を取り合い、宇都宮らのするべき事は決した。



 パルボン…………戦死??
「パルボンさん? パルボンさん? ……。ま、まずいことになったよ……」
 パルボンを護れなかった……打ちひしがれるクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)。(でも仕方ないか……仕方ないと思います。)
「パルボンさん……僕が護らないといけなかったのに……」
 そんなクライスを、静かに見守るローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)。辺りには砂塵、「う、うう……」「く、一体どうなった……」騎兵たちの損害も少なくはない。
「何をやってる、クライス」
 ローレンスは厳しく言い放つ。ここは、戦場だ。
「確かにまだ貴公は騎士としてそこにいる。ならば騎士の役目を果たせ!」
「……うん、わかってる。今は残りの人を導かないと」
「うむ……」ローレンスは、頷く。主は、上官を失うのは初めてであったか。だが騎士として高みを目指すには、ここで動じず冷静に対処できねばならぬ、と。「……む、あれは戦部殿の旗印。ならば事を知らせるにも本陣へ赴くよりは、まず」
 ローレンスは、馬を走らせた。
「パ、パルボン様?」「どうされた、クライス殿、一体何が」
 兵らが来た。絶対に、総大将が死んでるなんて、敵にも皆にも知られちゃいけないよね。
「あ、大丈夫。パルボンさんは怪我を……ん?」
 パルボンの遺体がない。
「……」
「パルボン様?」
「儂じゃ、パルボンじゃ」クライスはフルフェイスヘルムをかぶった。「ええい、皆のもの、何をしておる、ただちに前線へ赴くぞ! 総大将たるこの儂と、お前たちパルボンリッターの到着が、勝敗を決するのじゃあ!!」
「パルボン様!」「パルボン様!」
「クライスリッター……クラりんリッター……クラリッター……うーん……
 って、えーパルボンのふりなんてするのー? せっかく名前考えてたのに……」
 サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)も、急いで付いていく。



「我に続け!」
 本営の兵を率い、バンダロハムに来た戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)
「パルボン殿より火急の伝令、指揮官殿にお目通り願う」
 隊の後方から、近付いてくる声。
「戦部殿ですね?」
「! クライス殿の騎士……」
「ええ、私はローレンスです」彼は耳打ちし、「戦部殿、実は先程……」
「何と! となれば、ますます、師団の再建が早急となるは必至。
 あの暴徒の向かった先が領主館か。ローレンス殿、我はとにかくいち早く、ここバンダロハムの領主館を落とす」
「私たちは、パルボン殿の死を隠し、このままパルボン私兵を率いて前線に赴きますよ」
「では……」
「ええ、また後に」
「我に続け!」
 各々の方角へ、兵を率いた戦部、クライスら。
 さてしかし、パルボンの遺骸は、一体……?



「……天音。その男、助けるつもりなのか?」
「うん? そのつもりだけど。面白そうでしょう? 噂に聞くだけでも喰えない人物のようだし」
「だがしかし」
 言葉を濁す。相手は、美麗な笑みを浮かべ、
「彼の趣味なら僕も知っているよ。それも面白そうな理由の一つだけど。
 まぁ、僕が彼の趣味に合うかどうかは分からないしね」
「お前、まさか色仕……」
ブルーズ。あのウルレミラの小店にあったスパイス、北方に持ち込む商品に良いんじゃないかな?」



2‐02 偽龍雷を倒せ

 龍雷来来! 龍雷来来!
「教導団の部隊が略奪を行っております! やつらっ、丘上の貴族館を片っ端から襲って金品を強奪しております!!」
 バンダロハム丘上の貴族たちの住まい。
 流麗に歌うように(各種歌のスキル使用)、浪人たちを導き、貴族館の金品強奪する岩造(ひろし)。
「あぁぁっ、仕方がないんでね。浪人を食わせて行くことが重要なんでね」
「あたしたちは当分食べていけるだけのお金が〜あれば〜いいの〜わかってね〜」
 更に、貴族館に報がもたらされる。
「あ、あの。今度は教導団の別の部隊が来て、略奪を行っている部隊といがみ合いをしていると……どうなってるんでしょう??」



「ひろし、いや……岩造隊長! 教導団の一隊が来やがったみたいだぜぇぇ」
「何? 駆けつけるのが早い。しかし、目的はすでに存分に達した。ではこれより龍雷去去、……な、もうここまで来おったか!」
 退却を試みようとした彼らのもとへ、軍服の数人が駆けつける。
「おまえらの反抗心は教導団への敵意と見なされる! 武装を解除し、その場で解散するならば首謀者とその幹部以外の罪状は白紙、不問とする! 速やかに投降せよっ!!」
 立ちはだかるのは、黒豹小隊のジャンヌだ。
「さあ、武器を捨てて投降しなさい
 あなた方の罪は神の前で清められますからね!!」
 アルチュールも、呼びかける。できれば、野蛮な行動は控えたいところだ、と。
「ニャー!」ニャイールも、今はまだ武器を武器を下げている。
 ゴガガガガ……そして彼らの後ろに構えるは、でっかい戦車ビーワンビス。
 分隊の前に、軍服にヘルムの男がひょっと現れた。少し、細身だ。
「岩造殿! 何故……」
 岩造(ひろし)、剣を向ける。
「龍雷連隊、明日に向かてっ突撃せよ!」
「龍雷去去!」「龍雷去去!」
 どどどどど。
「き、来た!」
「や、やむを得ないか! 分隊〜!!」
「ニャー!」
 そこへやってきた……
「はぁぁぁぁぁぁー!!!」
「ええい、おぬしらぁ、龍雷連隊の名を汚した偽者め、成敗してくれるでござる!!」
「いっくわよぉーん」
 ナインの駆る騎オークから飛び下りた、フェイト、弁慶、ミランダらが一斉に斬りかかる。
「な、な??」
 驚いたのは、ジャンヌと黒乃のパートナーたちだ。
「え、な、龍雷連隊に何が起こったでありますかっ。部下の反乱……???」
 問答無用で斬りかかる龍雷連隊隊員ら。
「はぁぁぁぁぁぁー!!!」
 岩造(ひろし)と激しく打ち合うフェイト。
 入り乱れる、浪人浪人浪人浪人。
 弁慶は、薙刀で浪人らをぶんぶんとなぎ払いにかかる。
「うああ、岩造隊長〜」「岩造隊長〜」
「ぐ、浪人、おぬしはどっちの浪人でござる! わからんでござる!」
「さて、駆除してあげるわ」
 ナインは、るんらら〜♪と歌っている女にカービンを向ける。
 龍雷去去! 龍雷去去!
 どどどどど。
 しかし龍雷連隊は、龍雷連隊を抜け、街を一気に駆けくだっていく。
「あ、逃げるわ! 皆、追うのよぉーん」
「ええい、待たぬかぁ、龍雷連隊の名を汚した偽者め、逃がしはせぬでござる!!」
「はぁぁぁぁぁぁー!!!」
 どどどどど。
「ぽかーん??」
 茫然と見つめる戦車ビーワンビス。黒豹分隊の皆。
「……」「……」「……と、とにかく追うのニャ」



2‐03 立ち上がる人々

 黄金の鷲。
「全ての元凶は貴族にあり、彼らを討つことでこの混乱は鎮まるだろう」
 民に語りかける、エル・ウィンド(える・うぃんど)
 この街に遠征で訪れた教導団は決して敵ではない。彼らは良き友人であり協力者である、とも言い聞かせる。
「圧政から解放されるために、民よ立ち上がるのだ!」
 とるべきことは決まった。
 集った民衆に、力が沸き上がる。
 貴族らが汚いやり口によって、邪魔者を排除してきたこと、このような貧民のあぶれる街にしたことなどは今やわかっていること。
 バンダロハムにはびこる悪の貴族を倒すべし。
 民に、その決意はできた。
 今こそ、武器を手にとり、貧民窟から、その周囲から、民が一丸となり、丘上を目指して、駆け上っていく。
 その先頭に立つエル。
 一方で、非力な者たちは、ギルガメシュ・ウルク(ぎるがめしゅ・うるく)が各方面への避難をさせていたのだった。まずは家族の者がいる湖賊のもとへ、もちろんそれだけでは受け入れ先が足りないので、連絡の取れた教導団本営のあるウルレミラへ。そこへ更に、みずねこの村からは、ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が訪れる。
「ああ。湖賊には会ってきたぜ。あちらとの話は着いている。みずねこは、湖賊とも教導団とも協力関係にあるぜ」
「立ち上がるはひとびとだけじゃないにゃ。みずねこにもまかせろにゃ」
 みずねこも戦いに参加する。ミューレリアは、みずねこ村から応援を呼んでもらうことにしていた。その際にみずねこ船の乗って、受け入れる一部の人たちを運び、貧民窟は彼らに受け入れ願いの手紙も持参してもらうこととした。「だいじょうぶにゃ。行くにゃ」
 村に着いたら、待機している幾艘の船で再度向かってもらい、人々を避難させよう。ミューレリアには更に作戦があった。その後、ミューレリアはみずねこらと戦線に参加し、黒羊の軍を追い払うのに一役買うつもりでいた。
 ともあれまずは、これによって貧民窟の者たちはグループに分かれ、バンダロハムから避難していった。騒動の広がる前に何とか避難を行うことができたので、この付近一帯の被害は最小限に防がれたことになる。



「くけけっ。さあ死んでもらおうか」
 傭兵の銃口が向く。
「真一郎!」
 ……ギズムは行ってしまった。鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)には、ふつふつとしたやり場のない思いがわき上がっていた。どうして俺たちは争っているのだろう。ギズムはわるいやつには思えなかった。貴族が教導団に敵対したからこそ……いやそもそも貴族階級なんてものがあるからこそ、争いの原因になるのでは……
 かっ。目を見開く鷹村。超感覚でぼんっと耳としっぽが生える。「行こう可奈!」バーストダッシュで飛ぶがごとく、その場を駆け去る。
「くけっ? おい待てやこらっ」
「くっ」鷹村は立ち止まる。「そうか、どうしても俺たちと……わかった。同じだ、あくまで俺は手は出さない。可奈が無事ならいい、俺を拘束しようが簀巻きしようが拷問しようが殺害しようが好きにするがいい!」
「くけけ。よし、いいだろう、ならば死」
「えーい、私はもう我慢の限界よっ」
「くけー!?!」
 ばきーん。松本 可奈(まつもと・かな)のヘキサハンマーが炸裂した。
「か、可奈……」
「ええ。せめて峰打ちにしておいてあげたから、さあ。こいつが伸びてるうち、行きましょう真一郎!」
「ああ!」
 二人は、貴族館の方を目指す。



「我に続け!」
「戦部殿! 前方を!」
「む。暴徒か」
「龍雷去去!」「龍雷去去!」
 もの凄い勢いで丘を下ってくる一団。
「何。軍服……?」
 戦部は、雑居区の合い間に、兵らの身を隠させる。
 どどどどど。
「龍雷去去!」「龍雷去去!」
 どどどどど。
「何ということだ。略奪は許されるものではない。しかし」
「戦部殿! まだ、来ます!」
 どどどどど。
「はぁぁぁぁぁぁー!!!」
「ええい、待たぬかぁ、龍雷連隊の名を汚した偽者め、逃がしはせぬでござる!!」
「皆、続くのよぉーん」
 どどどどど。
「……」
「い、戦部殿……?」
「むぅ……アドルフ」
「ふむ」戦部配下のグスタフ・アドルフ(ぐすたふ・あどるふ)。「放ってはおけんのぉ。では、あちらは我輩に任せてもらおうか」
「こちらは、このまま敵拠点の制圧に赴く。行くぞ、我に続け!」
「戦部殿〜こ、今度は後方から」
 どどどどど。
「圧政から解放されるために、民よいざ進むのだ!」
 どどどどど。
「……民衆の反乱か。なるほど。これで我々は勝てる、それにその後の統治もおそらく……ふふ。では」
「戦部殿に続け!」「おー!」「おう!」
 どどどどっど。



「なんて惨状だ……」
 戦場を歩いているこの二人。セレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)ウッド・ストーク(うっど・すとーく)だ。
「……」
 セレンスは、いたたまれない表情で、少し顔色もよくない。
「大丈夫か? セレンス、つらいんだったらお前も安全圏でじっとしててもいいんだぜ」
 そんなセレンスを気遣う、ウッド。
「だ……大丈夫よ! これくらい、こんなひどい戦場、放っておけるものですか!」
「そうか」
 だけど、其処ここに硝子やら血やらの飛び散っている空間。ウッドは、セレンスのメンタル面を気遣う。
 ウッドは、シャンバラを守護するため、各地の事件には積極的に関わっている。
 今回はセレンスが、ウッドの手伝いで付いて来たかたちになる。
 それから、同じイルミンスールのエル・ウィンドが、自警団を結成したという噂を耳にしていた。【黄金の鷲】、の名がすでに街で広まっている。できれば彼らに接触を取りたいと、ウッドは考える。
 まずは、自分たちのできる範囲で、怪我人の手当てをし、落ち込んでいる人を励ましたり、少しでも安全な場所に移動させることだ。
「さぁ、今回は勝手にどっかの知らないねこさんに付いていかないようにな。
 こんな場所ではぐれちまったら二度と会えるかどうかも怪しいぜ」
「わかってるわよっ!」
「黄金の鷲が採ったという避難ルートは三通りか。南にウルレミラ、東に湖賊、西にみずねこの村だっけか」
「西へ向かいましょう! ウッド」
「……。状況次第だけどな」ウッドは苦笑する。



 一方、その後のミューレリアは。みずねこが武器を携え集まると、ミューレリアは作戦を決める。
「こっちには船があるし、ゆる族だから(だよな?)光学迷彩が使える。これを利用して戦うぜ」
「なら、伏兵というのがよさそうにゃ(ゆる族にゃ。中の人は秘密だよにゃ)」
 みずねこの微笑。みずねこも歴戦の兵。なかなか巧みのようだ。
「船で三日月湖の北へ行くにゃ。そしたら、森はすぐにゃ」
「指揮はみゅーれりあにまかせるにゃ」
「よし! みずねこ小隊結成だぜ!」



 傭兵はほとんど前線に出ており、貴族館に残っているのはもう貴族の私兵くらいだ。
「教導団に煽られてか、民衆どもが押し寄せてまいります!
 これでは、防ぎきることができませぬ」
「まずいな。やむを得ん。こうなれば、脱出を図るか」
「しかし、切り抜けられましょうか……ギムズも、ドリヒテガも、コッタッティアめも、皆おりませぬ!」
 そこへ、裏口から……
「おお、騎士システィーナ! 戻ったか」
「ええ。私は、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)



2-04 ケルメロス・コッタッティア

 一方こちらは、教導団ウルレミラ本営。
 玉座に座る一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)の前にやってきた、姿なき足音……。ひた、ひた。
 一条、「……お茶でもいかが?」
 ?????、「……??!」
 どん。
 そのとき、最上階の間の扉が開き、
「伏せてー!」
 金住 健勝(かなずみ・けんしょう)だ。銃を構えている。
 金住は、敵を侵入させてしまったことに、相当焦っていた。刺し違えてでも……大将の戦死は士気に関わるが、自分は所詮、一兵士に過ぎない。
 スプレーショットで、一帯を掃射する。
「きゃー」一条はすぐ、玉座の後ろに隠れた。
 ひた、ひた……。
「くっ」
 すぐに、レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)が入ってくる。
「何やってるんですか、一人で前に出て! いつもの戦い方を思い出してください!」
「はあ、はあ。レジーナ」
「責任を取るのは終わってからでいいんです。
 それから、一人で思い詰めないでください。私はいつでも一緒ですから」
「レジーナ……」
 どんっ。
 敵の射撃が来る。
 柱が立ち並び、だだっ広い最上階の間の、どこだ。
 エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)も来た。
 金住は、バンダロハムでの交戦を思い出し、皆に告げる。
「やつは狙撃が得意です! 接近さえすれば思うように戦えないはずであります!」
 玉座の後ろの一条は、今武器を持っていない。
「なるほど。わかった、オレが行こう!」
 エイミーが出た。
 金住は、扉を盾にしつつ、出入り口を塞ぐ。「絶対に、逃がさないであります……!」
 エイミーは柱に影に隠れ、金住が守る入り口付近から、部屋の反対側へ移動する。
 どんっ。敵の狙撃が来る。
 金住が、その都度、牽制する。ちょこまかと、場所を移動する敵。
 パティは、メモリープロジェクターを取り出した。「エイミーちゃんの姿を映し出して、囮にしてみましょ〜」
 パティは、メモリーに蓄積されたエイミーの姿を空中に投影する。
 どんっ。
 狙撃。敵のおおよその位置が掴めると、エイミーは間髪入れず光条兵器を対人モードにし乱射した。建物は、壊れない。
 ひた、ひたひたひたひた
 向かいに立ち並ぶ柱を縫って、見えない敵の足音が動く。
 金住が、光条兵器の乱射に追われ逃げてくるだろう方向へ、アーミーショットガンを向ける。
 ひた、……ひた、……。迷っている?
 エイミーの光条銃の掃射が、壁も柱も関係なく容赦なく撃ち込まれる。
「ギャァァァァァァ!!」
 射貫かれた敵が姿を現して、床に倒れた。鼠型ゆる族、ケルメロス・コッタッティアの最期だった。



2‐05 境界

 境界。
 一時、押していた教導団の軍だが、再び、黒羊軍も幾許か勢いを取り戻しつつある。
「そう言えば、浪人たちの姿が少なくなっているな……?」
 レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)は、辺りを見渡した。
「レーゼマン殿! どうやら、龍雷連隊が街で略奪行為を行っているようだという噂が、後方より聞こえておりますぞ!」
「なっ。何だと。いなくなったと思ったら、まさかそのようなことをしているとは。くっ」
 そこへ、街の方角から、騎兵の一隊、それに続いて相当数の歩兵が戦場に駆けてくる。
「あれは?」
「レーゼマン殿。本隊が到着したのです!」
 先頭で剣を振りかざすのは、麗しき我らが総大将パルボンの姿。
「儂じゃ、パルボンじゃあ!
 ええい、儂らが来たからには、黒羊軍もこれまでじゃあぁ! 我がパルボンリッター、一気に斬り進めえぃ!!」
 騎兵が一斉になだれ込む。
「おお。来たか……」
 レーゼマンは、すれ違うパルボンに声をかけ、
「パルボン殿。龍雷連隊の連中が、前線を離れ、街で略奪を働いている模様。このレーゼマン、奴らめを鎮圧して参ります」
「何と。わかった。我らが来たからには安心、ここはまかせるのじゃあ!」
「では、レーゼ部隊! 教導団の名に泥をぬるわけにはいかぬ。続けぇぃっ!!」



「敗残兵ども、何故死地へ来る!? おぬしらにわずかでも知性があるなら行くべき道はわかるであろう!」
 なんと、パルボンが最前線に立った。
「無闇に奪うのは気が進まぬが、死にたいのなら仕方ない。このパルボンと儂のパルボンリッターが地獄への案内人を務めさせてもらおう」
 これには、さすがに教導団兵の士気も上がろうというもの。
「パ、パルボン様!」「パルボン様カッコイイ!」
 どよめく敵陣。
 パルボンはどきどきだ。えっと、僕だけで混合部隊の指揮は難しいから……うーん、「騎兵隊は下馬、先陣の後ろから槍で援護できる陣形をとれ!」
 そして、歩兵で押し潰すように……
「ってサフィ?」
 サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)は、手早く歩兵100を40・40・20に分割。40を前面、その後ろに騎馬を下りた槍兵20、40を後方に配置。歩兵を攻撃に移させる。
 パルボン、「……」
「はーい、みんな交代、槍兵は援護よろー」
 疲労がたまってきたら前後交代。20は、遊撃に置いておく。パルボン、「……」
「と、あっち押されてるから応援行って」「あと一歩ね。遊撃隊一気にたたみかけて!」
 パルボン、「……」。パルボン、「……」
 サフィの見事な采配で、黒羊軍を再び押す。パルボンもまた見事にパルボンらしさを演じきった。
「うがあああ。おおおまえら、はは早く食べられろ!」
「わっ。サフィ、さっきの……」「どこ行ってたんだろあいつ……」
 ドリヒテガが来た。
「おっ、おい。敵はこっちじゃない、あっちだ!」
「どどどっち??」
「ドリヒちゃん、逃がさないよっ」
 黒乃ら黒豹小隊が追って戦場に駆けつける。四方八方をかき乱すドリヒテガ。舞う、戦塵。再び大混戦だ!