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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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4-05 民の声として

 エル・ウィンド(える・うぃんど)は、教導団と黒羊軍、それに付いたバンダロハム貴族が戦を繰り広げると、自警団【黄金の鷲】を結成し貧民窟を中心に、戦渦に巻かれる力なき民をまとめた。
 バンダロハムの民は未だ、すべてを理解、把握しているわけではない。
 教導団が訪れたことによって、貴族を打ち倒すことができた、と取る者もいる一方で、この戦争によって住む家や、中には家族をなくした者もいる。その怒りは、やり場がない。
「諸悪の根源は貴族にあったけど、教導団に責がなかったとは言えないんじゃないかな?」
 エルは語る。
 クレア、戦部、一条ら教導団の者は、しばし押し黙る。
 しかし、どうすることができたろう。それは、今考えることではないかも知れないが。
 教導団の者たちも、この戦や、それに遠征それ自体の真相・真意を掴めてはいないのだ。しかし……黒羊郷までの遠征。それまでには、独立勢力である列強国が点在。問題を起こすでないぞでないぞ……と言ったパルボン。(パルボンは確かにこれでバンダロハムを獲れる、これでこの三日月湖地方はわしらのものじゃな。と……戦部、クレアは思い返す。(なれば、黒羊旗の来訪は思わぬことだったとしても、最初からこの戦は……?))*つまり、遠征先までの最初の拠点として、補給地として、問題を起こさせ三日月湖を占領し(問題を起こした生徒は処分し)てしまうつもりだった?(もともとシナリオの念頭にあったパルボンの略奪案。)
 エルの横に、じっと付き従っていた、ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が、身を乗り出して、発言する。
「あのっ……ミレイユ・グリシャム、です。どうぞ初めまして」
 エルにとっては可愛い妹分、ミレイユはエル兄のために、黄金の鷲を手伝いに来た。こういう場は初めてだが……ミレイユは緊張をふっきって言う。
「困っている人たちの、援助をお願いできないかって、思うんですっ。
 今はとても寒い時期だから……家をなくした人たちは、この今にもとても困っているはず。まずは、仮設テントを張るとか、……それに、食糧だって。温かい毛布や、タオル、服や靴も支給してあげたいって……」
 教導団の者は、黙って、話を聞き込んでいる。戦前に、エルが私財で医薬品などは購入しているが、まだ全然足りないだろうし必要な物は色々ある。
「復興には、そこで暮らしている人たちの元気が絶対に必要だって、思うんですっ」
 精一杯、話したミレイユ。黄金の鷲に入団して最初の任務だった。
 エルも、ミレイユをにこやかに、見つめる。
「……うむ」「それは、もっともでしょう」「その通りですね」
 教導団とはまた異なる視点からの説得に頷く、本営チーム。
 だが。
 その資金をどこから……この統治の方法でいくと、教導団の駐屯にかかろう経費にも困るだろうと、話していたのだ。
 ここに、意外な人物が現れる。
「おう。入るぜ」
「お、おい貴様、バンダロハム傭兵の生き残りかっ。勝手に……」
 本営の兵を押しのけて入ってきたのは、国頭 武尊(くにがみ・たける)
「……?」「??」「ど、どうして?」
 教導団の戦場で彼に遭った者は多かろうが、何故、本営にこの男が。本営が、似合わない?
「こまけぇこたぁいいんだよ!」
 ほら、と言って、国頭は机のうえにどっかりと、金銀財宝をぶちまけた。
「なっ、何?」「おおお」「ああっ。これで私たち第四師団のっ」
「ちょっと待て」
 国頭は、立ち上がった本営チームに、手で制止のポーズ。
「これは、オレが山鬼を退治して得た財宝だ。まだまだここにあるだけじゃない。
 これをウルレミラで換金し、食糧や医薬品の買い付けに使い、バンダロハムの貧民救済にあてる」
 国頭は言い切った。
 エルとミレイユは顔を見合わせ、笑顔になる。
 もっとも、教導団としても、先ほどの話、戦渦に巻かれた民を見捨てておくこともできない。これでその件が解決するとしたら、国頭には感謝しきれない。本営チーム三名も、国頭を拝んでおいた。国頭は得意顔だが、すぐ、「じゃあ行くかっ!」「ああ!」「行こうっ」エル、ミレイユらと、彼らを待つ民のもとへ急ぐのであった。



4-06 復興へ

 さてその後、バンダロハムの街では、復興支援のために動く者たちの姿が見られた。
 百合園のロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、街に戻ったあと、新たな怪我人や病床に臥せった人たちを助けて回っていた。
 そこへ、交渉を終えてきた黄金の鷲も加わる。
 ミレイユは早速、毛布、タオル、衣服などを、支給に回る。
「ごはんもあるから、元気出してね」
 一人一人に、声をかけ励ましながら。ミレイユのそういった声も人々を元気づけた。
 ミレイユは、仮設テントに傷付いた人々を案内する。
 そこには大きな鍋があり、シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)があたたかいスープを作って待っているのだった。
「お腹がすくと元気が出ませんからね。皆さんの口に合うといいのですが……」
 シェイドのスープはなかなか好評のようだ。
「この分ですと、まだまだ足りませんね。鍋ももっと増やさないと……それに人手も」
「俺たちも手伝うぜ!」
 ウッド・ストーク(うっど・すとーく)に、セレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)だ。戦いの最中は、街で倒れている人たちを助けるのに精一杯だったが、ようやく黄金の鷲に接触することができた。イルミンスールのこの二人も、黄金の鷲のことを聞いてきたのだ。
「おっと。料理か。だったら……」
「うん。ボクがするよ!」
 セレンスが笑顔で答える。
「じゃあ俺は……あっちだな」
 そこではデューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)が、街で建築に携わる人を集め、仮設テントの設置を進めていた。
「手伝うぜ! こういうことなら、まかせな」
「……有り難い」
 デューイは頷き、感謝の意を表明する。
 そんな街の様子を見ながら、騎狼に乗って駆けていくのは、教導団の久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)。騎狼部隊一条アリーセのパートナーだ。「あの戦の後では、何をするにもしばらく時間を置かなきゃならんだろうな……と思ったが、この様子なら、わりと復興も早いかも知れないな」
 バンダロハム貴族の処遇については教導団やウルレミラ貴族との間での話し合いとなろうが、街の再建や、住民たちが精神的に立ち直るために、これだけ動いている者だちがいるなら。
 久我グスタフは、騎狼を走らせた。騎狼部隊も、街の復興、ひいてはその後の発展のために、動き出さなくてはならないな……無論、人々を助けるためにも。
 また、黄金の鷲については、ギルガメシュ・ウルク(ぎるがめしゅ・うるく)が中心となり、再編を進めていた。
 街に残る、職にあぶれた食い詰めや、傭兵にも、黄金の鷲への入団を呼びかけたのだ。これがうまくいえば、暴力対策の組織とできるだろうし、また、食い詰めら自身が暴徒になったりすることも防げるだろう。給料は……街の防衛を行う代わりに、毎月住民から寄付を募る、これは果たしてうまくいくだろうか?
 復興が完了するまでは、黄金の鷲は戦後復興団体として活動する。それが落ち着けば、自警団に戻すというふうに。
「これからは、黄金の鷲が街を守ってゆけたらいいな」そう、ギルガメシュは思うのだった。
 そしてもちろん、この男も。
「君等を救ったのはウルレミラの貴族でも教導でもない。
 このオレ、国頭武尊だ。そのことだけは忘れるなよ」
「ほ、本当か?? あの男が?」
 エルがやって来る。
「ああ、本当だぜ! そして、黄金の鷲、つまりボクたち皆が協力し合えたことも」
「そうだな」「我々一人一人が街の復興を支えているのか」
 民は、沼人からよい形、大きさの石を譲ってもらい、復興支援してくれた者らの石像を彫ることで、彼らを称えた。
「俺らに表せる感謝の気持ちだ」
 皆は、微笑む。
「いつか、この街が発展し豊かになったら、そのときには金ぴかの像にしよう」
 エルとギルガメシュ。
「エル兄。そのときには、黄金の鷲の紋章もよさそうだね」
 ミレイユが言う。
 セレンスとウッドも、顔を見合わせた。「お話の次は、石像になったか」
「わ、私も石像になりますとは……」照れてしまいますね、とロザリンド。「皆さんの感謝の気持ち、とても伝わりました」
「ひゃっはぁー!」



 そんな街中で、ただ何をするでもなく瓦礫の山に座っている男。
 傭兵のギズム・ジャトだ。いや、元・傭兵の……。
 彼も職を失ったと言えるわけだが、とりあえず、復興を手伝う気にも、やはり教導団に歩み寄る気にもならないでいる。
「ギズム」
「ん? お前か……」
 瓦礫のたもとにいるのは、鷹村真一郎(たかむら・しんいちろう)松本可奈(まつもと・かな)だ。
 だっ。可奈が、瓦礫を登ってきた。
「可奈……?」
「ああ? なんだ」
 可奈はギズムのところへ着くなり、一発食らわした。どごっ。
「ああっ?! いてぇっ何しやがるっ!」
 瓦礫の山を転がり落ちて、わめくギズム。
「ギーちゃん」
 今度は手を差し伸べる可奈。
「うわっ。何するつもりだ今度は! いきなり殴りやがって、この」
「何も。だってなんとなくね」
 ギズムは、しっかり手を掴んで、立ち上がる。
「ギズム。どうするつもりだ? これから」
「さぁな。さっぱりわからん」
「……とりあえず、終わったら酒でも奢るよ。しかしまずはちょっとでも手伝わないか?」
「タカムラ。……ああ、ありがとうな」



4-06 援軍到着

 ここへ、程なく旧オークスバレーからの援軍が、到着することになる。
 ジャック、佐野の率いてきた兵一千。
 本営チームは、その数に驚いたが、
「しかし」「これでまた……」「お、お金……」
 が、更に驚いたことに、さすがに本国から軍資金が出たようだ。
「な、何?!」「第四師団に?」「嘘、嘘」
 本当である。
 このシナリオは(とうとう第四師団シナリオも)、次回から重要なシリーズ【十二の星の華】に発展するのだ。
 本国としても、さすがに第四師団にもお金を出さないわけにはいかなくなった。

 援軍を届けるとまずはひと息付く佐野 亮司(さの・りょうじ)。今まで、空京と旧オークスバレー間で主に取り引きを行ってきたが、思いがけず、三日月湖まで出てくることになってしまった。旧オークスバレーの復興に力を注いできた佐野だが、この三日月湖には三日月湖で、独自の産業が栄えているようだ。
 佐野はウルレミラや、バンダロハムまで足を伸ばし、それぞれの街を眺める。
 バンダロハムでは、目下復興事業が進められているところ。
 本営の会議に顔を出すと、この三日月湖と旧オークスバレーを結ぶ事業案も出されているのだった。
 旧オークスバレーの人たちに約束したし、早く戻ってあげたいところだけど、ここにも色々とヒントやアイデアは転がっていそうだとも佐野は思う。それに、第四師団に前よりは資金も入ってくる。闇商人として自分にできることに佐野は考え巡らせた。


 もちろん一方で、教導団の本営チームが深刻に話し合っていたように、ゆっくりはしていられない。
 黒羊の軍勢は退けたが、戦いは始まったばかりなのだ。



4-07 龍雷その後

 どきどき、どきどき。
 戦後処理の結果を待つ、岩造。
「隊長。そう心配したって仕方ないよ〜」
 草薙。甲賀、ナイン、ミランダらはおのおのじっくり待っているが。
 さて、龍雷連隊にいかなる処置がくだったかというと……
 龍雷連隊、解散……
 乞うご期待。
 では、ない。
 龍雷連隊に下された指示内容とは、こうだった。
 龍雷連隊より本営に預けられた資金(の一部)は、龍雷連隊で浪人の給与として分配してよい、とのことだった。
 資金は、三日月湖の防衛のための費用という位置付けになる。
 龍雷連隊(浪人)を解散し、屯田兵にする、という意見も出たが、それはまだ後の話し合いとなるだろうこと。
 龍雷連隊は、教導団に駐屯する三日月湖の防備にあたる最前線の兵として、香取らの落とした北の森より更に北、グレタナシァの国境に近い出城を任されることとなったのだ。