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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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3-05 儀式まで

 メインイベントである復活の儀式は、夕刻以降に行われるということだった。
 広場に集まる数多の人々。
 前の方は、黒い正装をまとった信徒たちしか行くことができず、風次郎らは、後ろの方に参列し、見学することとなった。
 この中に……遠征とはまったく別に、黒羊郷を訪れていた者がある。
 朝野三姉妹だ。
 三姉妹? そう、オークスバレー解放戦役で、機晶石を求め戦った朝野 未沙(あさの・みさ)朝野 未羅(あさの・みら)の二人に、その後、朝野 未那(あさの・みな)が加わっている。未那は、未沙の実の妹で幼い頃、神隠しになったっきり行方不明になっていたが、未沙は、このシャンバラの地で魔女となった彼女に再会することとなったのだ。
 その後も機晶石の謎を追っていた彼女らは、もちろんそのことで旧オークスバレーにも出入りしていたことになろうが、黒羊郷の祭の情報を入手すると、教導団とは別個にさっさとそこへ向かったのであった。
「せっかく来ましたけどぉ、ちょっと人が多すぎて前の方まで行けないのが残念ですぅ」
「あー全然、前の方、見えないの。つまんないの」
「仕方ないわね。このお祭りに来たのも、いちばんは未羅ちゃんのためだもの、よっと」
 未羅を肩車する未沙。だが、機晶姫の未羅はもちろん……「お、重いのよね」
 未那も手伝う。
「まかせてなの。私が後で再生できるよう、メモリープロジェクターでばっちり記憶するの」
 一方で、
「我々と来たのも縁です」
 巡礼と共にいた琳 鳳明(りん・ほうめい)ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)は、巡礼から正装を譲り受けることができた。
 しかしその後、
「あ、あれ? ルースさんどこ行っちゃったんだろ? さっきまでいたのに……
 一人でなんかこの熱気のなかにいると、ちょっと恐いよ〜」
 黒い衣ばかりがうようよしているという以外は、しかし一見、何処の国にもある祭の熱気のようにも思える。が、一方で、どこかそうでない異様なものも含まれる、そんな気もする。
「まぁ、でもいいか。せっかく舞台の間近で見られるんだし。
 あっ。あのロボットさん面白いな? 何するんだろ」
 儀式までは、辺境の国々から集った演技者たちのパフォーマンスなどが、披露される。



 サーカスとして、黒羊郷に至った、青 野武(せい・やぶ)黒 金烏(こく・きんう)シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)ら。
 祭ということで、ヒラニプラ辺境に住まう様々な者たちが、集まっている。
 そこには、祭を賑わせるため、様々な芸人たちも、呼ばれている。広場では、そのような者等が店や舞台を建ち並べ、諸芸を競っていた。
 客を引き寄せる立派な天幕。しかしその中で行われている芸に、客の反応は?
「どうもこうもない。ありゃひどい。(どうしてもっていうなら、あんたも見てきなよ)」
 そうして話題になってしまったため、という半ば強引な流れで、青らのサーカスも、舞台に立たされることとなった……ご覧あれ。
 舞台の袖で、いささか疲弊した面持ちのシラノは思う。
 連夜……終演後ミーティングを開き、開店休業を目指してきたのだが。しかし、こうなっては仕方なし。いざ。青、黒も、頷く。シラノは、舞台へ……
 お道化た進行役が、観衆の前に出てくる。
「だだ、だでは皆さまさま。いま今から、われ、われれのれいをご披露いたしましましょう」
 しーんとする観衆。まずは……
「謎のイリュージョニスト゛テン・テン・ボマー゛氏!」
「おほん。ではまず我輩が一芸を披露させて頂きますぞぉ!
 はっ。ここにありますは、゛種も仕掛けもない箱゛これを……」
 氏はこれを耐熱防爆シートでくるんで、
「ワン・ツー・スリー!」(火術+破壊工作+煙幕ファンデーション使用)
 シートを外すと、破片が散らばっているだけで、箱は跡形もなく来えうせていた。
 氏、一礼して引き下がっていく。
「ささてて、つ続きましては」
 しーんとする観衆。
「メス投げの゛ドクター・KK゛!」
 分厚いマスクをした外科医姿の男が出てきた。理科用人体模型を抱えている。きらりと輝くメスを掲げると、いきなり、
「では、まず心臓から」
 シュッ、カッ。
「この通り命中すれば一撃で心停止に至る箇所であるのは皆様ご承知の通り。
 心膜内部で出血しただけでも心タンポナーデを起こし……云々」
 KKはそのまま次々と臓器を貫いていき、その都度、医学的解説を加えていった。最後に、
「それではお客様で勇気ある方……。
 いるわけありませんね」
 KKは表情を変えずさぁっと退場していった。
 しーんとする観衆。「サーカス……だよな?」
「はぁぁ! わいは曹豹也!」
青 ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)です。演武ですか? よろしくお願いします」
 ぺこり、とおじきをするロボットと、風采の上がらない武将との打ち合いが始まった。
 ロボットはバットをかまえる。
「ふ〜んさ〜い」
「く、はっ、ていぁっ、く、く能力値が上がらん!」
「ああっ、痛いぢゃないですか」ぴょんぴょん。
「く、はっ、ていぁっ、く、く能力値が上がらん!」
「ひっさ〜つ」
「く、はっ、ていぁっ、く、く能力値が上がらん!」
「ああっ、痛いぢゃないですか」ぴょんぴょん。
「く、はっ、ていぁっ、く、く能力値が上がらん!」
 ぴょんぴょん。飛び跳ねる、18号と曹豹。どうやらこれでお終いらしい。
 しーんとする観衆。とくに、拍手もなかった。
 舞台裏。
 青、黒、シラノ、「これで、終わった……」。18号「アハハ〜☆よかったですねぇ」
 座長が来た。
「ともあれ、こうして黒羊郷のバックステージに乗り込むことと相成った。後は、任せてくれ」
 青は答えて、
「乗りかかった舟じゃ、とことん助けようではないか……」と言った後で二人に耳打ちし、「ところで、我輩らはそもそも何をしに黒羊郷へ向かっておったんだったかの」
「黒羊郷に来たのはなにやらこの地に兵を含めて怪しい動きがあったからで、それを探るべく来た筈……なのでありますが」

 黒は、シラノと共に黒とともに野武に本来の目的を思い出させる。
「おーおーおー、そうであったそうであった」
 黒羊の建物内部に、侵入していくサーカスメンバーら。
「教導団とは後、必ず協力し(同盟し)、黒羊郷を討ち果たそうぞ」
 座長はそう言い残していった。
「我輩らも。いざとなればこれがある」
 青、黒、シラノらは18号を、箱に詰める。
「……」



 ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)はというと……
 ビラ配りも終わり(途中で終わらせ?)、やることがなくなっていた。
 サーカスには戻らずに、祭りを見て歩くナガン。
 何となくぶらぶらと歩いてはいるが、しかし、ナガンは千年祭の中に異様さを感じ取ってもいた。
「あれ? サーカスの奴らだよな」
 千年祭の中、演技が行われているステージを見る。観衆の間は抜けられそうもないし、前の方は、黒い正装の者たちで埋め尽くされている。
 ナガンは一旦広場を抜け、舞台へ続く脇道を探した。
「何だ。貴様は?」
 黒甲冑の兵がときおり、巡回している。
「見りゃわかるだろう。ピエロだよ」
 投げ刃をひゅるひゅると回して見せる。
「ふん」
 ステージ裏に着いた頃には、もう演目は終わっており、誰もいなかった。
 今、兵の姿も見えない。
 観衆のいる広場の方も、ここからは見えないがしんと静まり返っている。そろそろ日も暮れかけ、これから復活の儀式。その準備の合い間なのだろうか。
 これはどうも何かが……
 くさい、くさいくさいくさい――そう、ナガンの勘は告げている。
 そ、っと、暗がりのステージ裏に踏み込むナガン。引き止めに現れる者もいない。内部は真っ暗だ。
「……」
 ナガンは、音もない暗闇の中を歩いていく。



3-06 谷底のアクィラ

 谷底まで落下してしまったアクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)。水に落ち、奇跡的に一命を取りとめた。
 クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)アカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)も無事だ。
 急流に流されそうになったが、彼らは奇跡的に何故かそこにいたトナカイ(?)の脚にしがみつくことができて、川を脱した。
「死ぬかと思った」「はわわわ、は、はくしょん」「つん……」
 びしょぬれで、岸辺にねっころがる三人。見上げると、両側切り立つ断崖が高く伸び、途切れた吊り橋がぶら下がっている谷間は遥か上空だ。谷の上に声を呼びかけようにも、叫んでも届く距離とは思われなかった。谷の上の仲間にしても、とても助けには来れないだろう。死んでいてもおかしくはなかった……と思う。
 川幅は広く、流れも急で対岸には渡れそうもない。クレーメック、ヴァルナ、それに一緒に落ちたと思われる巡礼のリーダーの男の姿もない。いるのは、トナカイだけだ。無論、トナカイでもこの断崖は登れないだろう。
 辺りを見渡すと、一つ、崖に洞窟が見える。行くしかない……だろう。
 その前に。
「み、見ないでくださいよぉ」
「わ、わかってるよっ」
 川に落ちなかった雑嚢から服を取り出し、ぬれた服をそれぞれ着がえるが、そこはお約束……いや、真面目でまだまだ純情なアクィラはついつい覗いてしまった、なんてことはないのだが、着がえ速度の男女差を失念していた彼は、結果的に……
「きゃー、いやー」(アクィラ)
 二人の教科書アタックを食らいました。
 ……ともあれ、洞窟へ。
 先頭には、クリスティーナが立ち、女王の加護を全開。真ん中ではアカリが、トレジャーセンス全開。用箋を取り出しながら、アクィラが続く。いちばん後ろには、トナカイが付いてくる。
「迷路と言えば、゛左手の法則゛よ!」アカリは、博識を発揮。
 道には、教導団式の目印を残ることも忘れずに、こうして三者三様にマッピングを始める。
 途中、
「危なそうですよぉ」クリスティーナが釘を刺すのも聞かずに、天秤にかけたアカリのトレジャーセンスを優先したため、
「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」
 キャラクエにも出てこないきもちわるい魔物にも出会いそうになったが……
「し、失礼しました〜」「ほらぁ……だから言いましたのにぃ」「お疲れさまでーす」
 キャラクエ式の戦闘は避け、以降は女王の加護優先に切り替えつつ、長い彷徨の後に、アクィラは黒羊郷地下のマップ(手書き)を手に入れた。

 そして、三人(+トナカイ)が洞穴に入り込んだあとの東の谷には、ゆっくりと、雪が舞い降りてきていたのだった。



3-07 ウォーレンの決意

 東の谷はやがて、激しく降る雪に閉ざされることになる。
 遅れてこの東の谷に入った者たちの旅は当然、難航した。
 打ち付ける冷たい雪に、少々凍傷を負ってしまった一行のうちのイリーナ、ルカルカは、雪の中に見えた明かりを頼りに辿り着いた小さな寺院で、休むことになる。思わぬことだったが、ここには、病に臥せった獅子小隊の隊長レオンハルトが匿われていた。
「レオン……!」
 シルヴァ、ルインによると、獅子小隊のルースは、ノイエ・シュテルンのメンバーらと共に巡礼行を続け、黒羊郷に向かった、という。
 隊の為になるなら……
 ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)は、意を決した。
「大事な仲間をほっておくわけにはいかないぜ☆」
 黒羊郷で、何かが起ころうとしている……。黒羊郷への遠征行が言い渡されたこと。レオンハルトはその周辺の状況から、それを感じ取っていた。ウォーレンにすれば、仲間を愛する思いがただただ勝っていたのかも知れない。だが、それは彼の予感でもあったのかも、知れない。
 今動けるのは、俺しかいない。ウォーレンは、身体が充分温まると、準備を整えた。
 隊の皆は、ウォーレンのことをとても心配したけど、ウォーレンは大丈夫さ、と笑顔で返した。ロープやシート等、備えも万端で来たのだ。更に寺院の人たちも、黒羊郷に行くなら、とウォーレンに黒のローブと食糧、雪の中をいく装備を貸し与えてくれた。ローブは雪を防ぐのにもいいと言う。
「じゃあ、な! みんな。行ってくるぜ」
 雪は、今なら小降りだ。
 もちろん……皆と一緒に行きたいけど、ルースは隊の皆と離れ、あちらで一人でいるかも知れないのだ。
 再び外へと、足を踏み出して行くウォーレンを、皆は見送った。

 ウォーレンは雪降る東の谷を抜け、千年祭の儀式が執り行われる黒羊郷に至ることになる。ウォーレンがそこで出会ったのは……
 黒羊郷の物語は後半へ、続く。