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恋は吹雪のように!?

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恋は吹雪のように!?

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第一章 冷たい風に負けないように
 ウィザードのフブキ・ネイヤという少女が、失恋のショックにより、氷術が暴走してはや2日。
 春が近い蒼空学園キャンパスは、前代未聞の猛吹雪に見舞われていた。
 これは、そんなフブキと彼女の前に立ちふさがるブリッツ・ザードに立ち向かった者達と、その裏側で開催された第一回コタツムリレースにまつわるお話である。
 
 朝10時、猛吹雪が吹き荒れる蒼空学園の一角に、色とりどりのコタツが、のそのそと集まっている。
 集まったコタツ達を前に、同じくコタツに半身を突っ込んだルカルカ・ルー(るかるか・るー)が周囲を見渡し、高らかに宣言する。
「集ってくれて有難う。只今から【最終兵器ルカルカ】主催コタツムリレースを開催します!」
 参加者の一部が拍手をしようと思い、手を出すもすぐにひっこめてしまう。
 サンタのトナカイ姿をしたドラゴンニュート種族のカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が、昨晩からの設営のためか、やや疲弊した顔で、ゴールラインにつく選手達に説明をしている。
「校舎各所に矢印の張紙、分かれ道はコース以外を三角コーンで仕切っている。ゴールには二本のゴールポールを立ててある。また、一度目の違反行為した奴は口頭注意、二度目は反省ないと見做し強制排除するぜ?」
 最前列にいる志方 綾乃(しかた・あやの)が、コタツから顔だけ出した状態で、
「コタツムリアイコンのある私がコタツムリレースで負ける訳にはいかないんです!正々堂々スポーツマンシップに則りつつ、勝つために全力を尽くします!」
と、必勝を誓えば、その隣にいた鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)も頭だけ出して、
「ボクはコタツと一体化した!」と身構える。
 火の代わりに雪がこんもり乗ったタバコをくわえたルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)は、コタツに繋いだ犬のジョンの頭を撫でながら、囁きかける。
「ジョン?かわいい女の子がいたら近くに走って行くんですよ(撫で撫で)うまくやれば、おやつあげますからねぇ?」
 ルースの顔を見て、ワンと元気よく吠えるジョン、そのお腹がクーと鳴っている。
 プレッシャーのためか、思いつめた顔をしているのは、朱宮 満夜(あけみや・まよ) であった。長い黒髪の上にはかなりの雪が積もっている。
「最下位だけはならないようにしないと、ミハエルに冷やかされるのは嫌ですもの」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、赤い薔薇を一輪、メルティナ・伊達(めるてぃな・だて)に差出している。
「メルティナさんでしたっけ?こんな素敵なお嬢さんと出会えるなんて嬉しいよ、お見知りおきを」
「え?あ、ボクに?」
 エースとメルティナの話を、メルティナのコタツに便乗した屍枕 椿姫(しまくら・つばき)が横からジト目で見ている。エースがその視線に気がついて、もう一輪の赤い薔薇を取り出すも、そっぽを向いてしまう椿姫。
 エースのパートナーのクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は、早くも補給食のみかんを頬張り、
「エース! お前には負けないぞ?オレ、お昼ご飯のデザートへの期待を胸にゴールを目指すんだもん。早くゴールしてお昼ご飯食べたいんだよねー」
と、独り言のような宣戦布告をする。
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は前方うつ伏せという奇妙なスタイルのまま、懐からアイスを取り出し、幸せそうに食べ始める。
 猫塚 璃玖(ねこづか・りく)はやや後方の位置から、鈴虫の背をじっと見つめている。
 スタートラインに揃ったコタツ達を見渡したルーが、パイルバンカーを空高くあげる。
 猛吹雪の中、静まり返るスタート地点。
「レース終了後には、おでんや暖かい食べ物で健闘を讃え合いましょう! それじゃ、いくわよ!!」
 ルーのパイルバンカーが空へ打ち込まれ、バスンッという音が響く。
 一斉にのっそりと動き出すコタツ達。
 その中で、一騎、果敢に前に出る虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう) のコタツ。
「バーストダッシュ!!」
 勢い良くロケットスタートを決めた虎鶫の後に、佐野 亮司(さの・りょうじ) のコタツが、ぴったりとくっつく。
「コースは土地勘のある蒼学生が有利だ、とりあえず中盤までは後ろについて風の抵抗を減らして体力を温存させてもらうぜ」
 止むことを知らない猛吹雪の中、こうして白熱のコタツムリレースは幕を開けた。


 一方、猛吹雪吹き荒れる蒼空学園の校庭では、一部の寒さを忘れた生徒達が思い思いの雪遊びを楽しんでいる。その生徒達を見下ろすかのごとく、そびえ立つ巨大なカマクラ。
 カマクラの前では、フェルブレイドのブリッツ・ザードが逆立った青い髪に雪をまぶしつつ、光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう) と激しく剣を交えていた。
「俺と喧嘩をしてくれる言うンは、何処のどいつじゃあッ!」
「この俺、ブリッツ様でどうだぁッ!!」
 光臣の、爆炎波に火術を上乗せした技と真っ向勝負するブリッツ。雪が一瞬で蒸気になる程の熱い闘い。
 先程まで、ブリッツの説得を試みて、その結果傷を負ったレクス・アルベイル(れくす・あるべいる) はブリッツに必死に叫びつつ、立ち上がる。
「あんたにだって、普段態度には出さないにしても、本当は大切にしたい女性が、近くに居るんじゃねえのかよっ!!」
 立ち上がるレクスにヒールをかけるシスティル・フォーリア(しすてぃる・ふぉーりあ) が、
「レクスさん! もう立ち上がらないで! 正面突破なんて無茶だったのです!」
「小手先技で突付くのは逆効果だ、弱みに付け入る真似も出来ねえし、する意味も無い。なら、正面から訴えるしかねえ!」
システィルのヒールで回復したレクスは、彼女の肩をポンと叩いてニヤリと笑う。
「1つだけ覚えておけ…俺に掴めない運命など存在しない」
 システイルがやれやれといった顔をする中、ブリッツへと向かって行くレクス、そこに巨大な雪玉が投げ込まれた。

――ドオォォオーンッ!
 もはや大砲の砲撃かと思うくらいの雪玉を投擲したのは、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)であった。
「大きな雪玉を作るコツは核を用意すること・・・っと。氷術で核は作れそうね。あとはドラゴンアーツ、ヒロイックアサルト、パワーブレスで投げられる限界に挑戦!それじゃブリッツ君だっけ?いっくよー!」
アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が傍のリカインを呆れた顔で眺めている。
「何、アンタはしないの?」
「バカ女や無謀な兄弟の相手なんかしてられっかよ! ったく、見た目はあれだけど、防寒しておいてよかったぜ」
サンタの服を着たアストライトを見て、笑いを堪えるリカイン。そんなリカインをジロリと見るアストライトは、地面からそっと雪を掴んだ。
 そうこうしている間に、リカインの華奢な腕のパワーを最大限まで強化し投げられた巨大な雪玉がブリッツに襲いかかり、轟音と共に着弾する。
「冗談じゃねえよ!!……クッ!?」
 巨大な雪玉を避けていたブリッツが、鼻の先を通る小さな雪玉を慌てて避ける。
 ブリッツが見ると、童子 華花(どうじ・はな) が氷術でいくつも氷の塊を作り、それを速射砲の如く投げている。
「リカ姉には負けないぞ。静かな青よ!」
 童子の横で雪玉を作っていた轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)が呆れた顔で童子を見ている。
「おいおい童子、それは雪玉じゃなく氷の塊だろう?当たるとブリッツでも死ぬぞ?」
 笑いながら氷の塊を投げる童子。
「なぁ、ブリッツ兄、オラと友達になって一緒に遊べばきっと笑顔になれるぞ!」
「確かにな、泣く時間は必要だと思うけど冬の次に春が来るように、泣き顔の後には笑い顔がこないとな?」
 轟も周囲に比べると優しい雪玉をブリッツに投げる。

 雪玉は、ブリッツに接近を試みていたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)の頭に当たる。
「イタッ!? でもゴーグルしてるから大丈夫。チムチム、付いてきてるー? 」
「チムチムは争い事嫌いアル……それより、コレ」
 レキのパートナーのチムチム・リー(ちむちむ・りー) は、邪魔にならないようレキと距離を空けて歩いていたが、ブーメランパンツ一丁でポーズを決めたまま氷漬けになったソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)を見つめている。
 レキ、ブリッツに向かって大声で呼びかける。
「すみませーん。話をしてもいいですかー?」
 ブリッツ、ちらりとレキを見て、ニヘラッと笑うも。
「悪いな、もうちっと待っててくれ!」
「えー、そんなー!? うー、凍えちゃうよ」
「チムチム、役に立つアル」
 チムチムにもふもふと包まれて暖をとるレキ。

 イブ・チェンバース(いぶ・ちぇんばーす)楠見 陽太郎(くすみ・ようたろう)の二人は、狭いコタツに身を寄せ合って、校庭で遊ぶ生徒達に火術をかけていた。
「はい“さすらいの火術屋”よ、料金はこっちの陽太郎に渡してね」
「なんですかその“さすらいの”って……はい、お金はこの箱にお願いします」
 火術のおかげか、生徒の紫色だった唇が朱色になっていく。
「イブ、料金は払うんで僕にも火術を……」
「火術より、あたしが暖めてあげようか?」
「そ、そんなにくっ付いたら恥ずかしいです!」
「あーら?コタツに入るにはくっ付くしかないわよ」
 悪戯っぽく笑うイブに、真っ赤になる陽太郎。
火術を求めて並んでいた生徒の一部が囁く。
「くそ、二人で熱くなりやがって。あ?悔しくなんかないぞ!」
「何でだろう。今、凄く僕の心が冷たくなっていくのは……」
そんな嫉妬の嵐を駆け抜けるように現れた橘 舞(たちばな・まい)が、ブリッツに叫ぶ。
「校長の御神楽さんが、クイーン・ヴァンガードに事態の収拾を要請したわ!あなたのされていることは、フブキさんの為になりませんし、このままではフブキさんの居場所もなくなってしまいます。それはあなたの本意でもないでしょう!?」
 ブリッツ、闘う手を止めて橘を見つめる。
「クイーン・ヴァンガード? 上等だ。でも、俺の本意って何だよ?カワイ子ちゃん?」
「パートナーが過ちを犯したのならば、それを庇うのではなく正してあげられてこそ、本当のパートナーではないですか?」
「フブキのやる事に筋が通ってるかどうかなんて関係ない。ヤツはヤツの道を行けばいい。それよりどうだ?こいつ片付けたらお茶でも一杯?」
「ブリッツ!!まだまだ足りんのぅ、もっと俺と喧嘩してくれぇや!!」
 血だらけの光臣がブリッツの隙に突撃してくる。
 橘のパートナーのブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)が持っていた百合園女学院推理研究会の勧誘ちらしが、突風に吹き飛んでいく。
 光臣の顔に張り付く勧誘ちらし。
「オラァッ!!」
ブリッツの強力な一撃が光臣を捉える。
「クソ寒いのに、いつまでも吹雪かせてるんじゃないわよ!」
 ブツブツ言いながら落ちた勧誘ちらしを集めるブリジットの傍にた着陸する血だらけの光臣。
「くそったれ、負けたならしょうがない…の…う」
 妙に満足した顔で目を閉じる光臣。
 さすがにこのままだと死ぬと思ったのか、チムチムが光臣をこっそり回収していく。
「もう、ブリッツ?クイーン・ヴァンガードと戦争でもするつもり?違うでしょ?だったからフブキを抱きしめて熱いキスの一つでもしてあげりゃいいじゃない!?」
「あぁ!?誰があんな寒い女にそんな事するかよ!? おぅ、お前にしてやろうか?」
 ヘラヘラと苛立つブリジットに笑うブリッツ。
 吹雪はますます強くなっていく。