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隠れ里の神子

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隠れ里の神子

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 そこにいる全員が隠れ里に行きたいと思っている人間が全て出揃ったと思った矢先、少し離れたところから声が聞こえた。
「ちょっと待って!」
 声の主は人混みを掻き分け、前に進んでくる。鞠乃の姿を確認すると、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は黒く大きな瞳でしっかりと鞠乃を見据えて言った。
「御子柴さんにお聞きしたいことがあるんですけど……」
「何?」
「どうして、神子になりたいんですか?」
「それは私と一緒に来たらわかると思うわ。来るか来ないかはあなた次第だけど」
 鞠乃は千歳の瞳をしっかりと見返したそのままで答えた。
「そう言われれば、同行するしかありませんね。イルマ、行くわよ」
 千歳に言われイルマ・レスト(いるま・れすと)は、「私も御子柴さんの真意がわかるのでしたら、ご一緒致しますわ」と言った。どうやら、千歳と同じ考えだったらしい。
「さぁ、これで全員かしら?」
 鞠乃はもう一度周りを見回した。そこにいる生徒は蒼空学園以外の生徒も混じっており、様々な制服の男女がいた。
「ちょっと、人数数えるからじっとしててくれる?」
 鞠乃はそう言うと、数を数え始めた。
「……15、16、17人か……。そこに私を入れて、18ね」
 鞠乃はしばらく考えた後、
「こんな人数で一度に押しかけても迷惑なだけよね……。それに、2チームに分けて探した方が隠れ里を見つけるのも楽でしょう。見つけた場合は別チームに必ず連絡をすれば、効率良く見つけられるはずよね。勿論、レティーフたちと遭遇した時とか非常事態も連絡を取り合った方がいいわね」
 そう言うと、鞠乃はその場にいる全員の名前とクラスを訊き、適当にチームを分け始めた。鞠乃のチーム分けが終わると、チームが書かれた紙を千歳に渡した。
「それでは、僭越ながら、私がチームを発表させていただきます。まず、Aチームは御子柴さん、武神さん、セレスティさん、葛葉さん、久世さん、天城さん、セントレスさん、イルマと私。Bチームは藤原さ、ブラウンさん、ルーンティアさん、銭さん、フェイクドールさん、風祭さん、諸葛亮さん、景山さん、小型さん、冬山さん。これで合ってるわよね?」
 千歳は不安そうにイルマに問う。
「大丈夫ですわ」
 イルマは不安そうな千歳とは打って変わって、自信満々に答えた。
「ということで、二手に分かれて、探しましょう。皆さん、用意はいいかしら?」
 鞠乃の言葉に生徒は勢いよく応えたのだった。



 森の木々は鬱蒼と茂り、辺りは薄暗い。薄気味悪い、というのがユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)の正直な感想だった。しかし、彼のパートナーである獣人のマリーシャ・ヴィッケンブルグ(まりぃしゃ・う゛ぃっけんぶるぐ)はそんなことは然して気にならないようでどんどん先へ進んで行く。
「マリー、この道で本当にあっているんですか?」
 ユウは辺りをぐるりと見まわして、マリーシャに問う。
「えぇ、わたくしの獣人としての勘がこちらだと申し上げております。ユウ、怖いのですか?」
 ユウを試すかのようにマリーシャは含んだ言い方をする。
「そんなことあるわけないじゃないですか。全く、マリーは何を言い出すことやら……」
 ユウは顔を赤らめて反論した。緩やかな風が2人の間を通り抜けていき、ユウの銀色のロングヘアをなびかせた。
「それにしても、村長から手紙をもらった時は本当に驚きましたわ。隠れ里に神子を守る獣人たちがいたなんて……」
 そう言ったマリーの手にはジャタ森の村長からもらった手紙と血判証が握られていた。
「マリーは村長守の一族なのでしょう? それなのに、隠れ里の存在を知らなかったのですか?」
「えぇ、わたくしたちには知らされていませんでした。きっと秘密にしなければならない何か特別な理由があったのでしょう。兎に角、急がなければなりませんね。鏖殺寺院たちも獣人が守る隠れ里を探しているそうですし……」
「そうですね……。隠れ里にはあとどれくらいで着きそうなんですか?」
 ユウに訊かれて、マリーシャは思案した後、「2時間弱と言ったところですね」と苦笑した。



 薄暗い森にはいささか不似合いな美女がそこにはいた。長身で妖艶、かつ白い肌は透き通るように美しい。乳白金の髪は後ろでつつましやかに束ねられ、青い瞳は時折物憂げに前方を見据えていた。彼女の名はガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)。隠れ里の神子探しに沸く生徒たちとは裏腹に、女王復活を阻止する為に神子の排除を試みようと企んでいた。
「ねぇ、ウィッカー。ここに入ってから、もうどのくらいの時間が経っているのかしら?」
「そうじゃのう。かれこれ、2時間といったところか」
 ガートルードのパートナーであるシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)はその美しい外見とは裏腹に奇妙な喋り方をした。それもそのはずだ。シルヴェスターの外見は金髪美少女といった風だが、実際は少女素体に広島弁で喋る陽気で派手好きな男性人格が宿った機晶姫なのだ。
「もうそんなにこの森を彷徨っているのですね……。でも、ここで諦めてはいけません」
「そうじゃ。ここで諦めてはいかん。何としてでも、神子を排除せねば、なりますまい」
「ドージェを神とするパラ実では待望論が無いし、力を持った女王は害悪ですもの。私の愛する自由と平等な民主主義との対立を生むことになるでしょう。そんなこと、させるわけにはいきませんもの」
「根気良く、探すとしようかのう」
 ガートルードとシルヴェスターは、歩みを止めることなく、道なりに進んでいく。先程、同じ道を通ったような気もしたが、そこに何の根拠もない。入り組んだ森の中では、似たような景色がひたすら続く。2人は自分たちの進んでいる道が正解なのか疑問を持ちながらも歩き続けた。