校長室
【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第2回/全3回)
リアクション公開中!
見下ろすパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)の瞳に映るは、より輝きを増したミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)の瞳だった。 青龍鱗を失い、自らの力の無さを思い知らされ、1人では何も出来ぬ現実を前に、なぜあのような輝きを放つのか。パッフェルの顔から笑みが消えた。 ガラクの村からトカールへ続く。すっかり水位の減った川底へベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)が壁を作ると、パッフェルはそれを水晶化した。 それは村を囲むように造られた壁と繋がり、一枚の厚い壁となっていた。 「これは……」 「泉が、完成したわ」 「泉?」 パッフェルは、おもむろに眼帯を外すと、その瞳を輝かせた。 「一体、何をしているのです!」 「分からない?」 パッフェルの視線を追ってみれば、靴底が水に浸っている事に気付かされた。村は囲まれ、滝が落ちている。ただし、滝の水量が元に戻っているように思えた。 「毒の泉が完成する。早く逃げないと、皆死ぬわね」 パッフェルが毒を操る事は知っている。築かれた外壁によって水の逃げ場は無い、このまま水位が上がるなら。その水を毒に変えられているとしたら。 「壁を壊せば、毒が溢れる、森が死ぬ、下流の村もきっと全滅、壊したあなたが実行犯」 向き合う顔は、対照的に歪みゆく。 「水晶化した者に毒は効かない、泉の中で眠るだけ。だから早く逃げると良い、民を見捨てて逃げると良いわ」 「私たちは、逃げません!」 「みんな一緒に、毒で死ぬ?」 「水晶化したヴァルキリーたちを壁の外へ運び出します、そして皆で脱出すれば」 「それだと泉が完成しちゃう♪」 「それが一体なんだと言うの−−−」 「女王の像を沈めるの♪」 「女王の…? あなた、持ってるの?」 「泉の毒は、鋼鉄も溶かす毒にするわ、そうすれば誰にも取り出せない、私以外は誰も触れることすら出来ないの」 沸き上がる声が拡がり響く。 村ごと丸々、泉になる。 生徒も蠍も壁の中、水かさは刻々と増してゆく。 沸き上がる声が拡がり響く。 向き合う顔が、対照的に歪みゆく。 「メニエス様」 殺気看破で警戒をしていたミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)は、上空を飛ぶメニエス・レイン(めにえす・れいん)に呼びかけた。 「後方から、接近してきます」 スキルなど何も必要ない、肉眼で確認できた。隠すつもりなど一切に感じない。一機の小型飛空艇が寄り来ているのが見えた。 「ロザ」 「了解」 ロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)の空飛ぶ箒に乗る雨宮 七日(あめみや・なのか)は、日比谷 皐月(ひびや・さつき)の視線を受けて、意を介した。 「ひゃはは! あっそぼー!」 奇声と共にロザリアスは箒を飛空艇に向けて真っ直ぐに定めた。 飛空艇に乗りしシャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)は奇声を聞いて頬を上げた。 「良かったじゃないか、似た奴が居るみたいで」 「えぇっ、俺、あんなに下品に笑わないよっ」 「ふっ、そうだったな」 口を尖らせたマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)であったが、一行との距離が縮まるにつれて笑みを見せていった。 飛空艇がロザリアスの箒に向かいゆく。 ロザリアスは星輝銃を掃射して、雨宮は遠当てで飛空艇を狙い撃ったが、舞うような動きで避けられると、反対にシャノンのブリザードに視界を奪われてしまった。 2人は共に殺気看破でマッシュの気配を感じたのだが、先制攻撃の動きには反応できなかった。弾丸のように飛び過ぎる際に、マッシュは2人の乗る箒の柄を狙い斬った。 「アハハヒャハハハ」 柄が短くなった事でバランスを崩している様を見て、マッシュは上品に奇声をあげた。 飛空艇は、そのままメニエス・レイン(めにえす・れいん)と日比谷 皐月(ひびや・さつき)の乗る箒の前まで滑り飛ぶと、その前でピタリと止まった。 「私たちは、パッフェルと行動を共にしていた」 「青龍鱗をクイーン・ヴァンガードなんかに渡したくないんだ。一緒に戦わせてよ」 「………………」 メニエスと日比谷は、2人をどう見極めてやろうかと瞳を向けていた。 互いに睨み合う両者を、見上げみていた、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は突然に駿馬を止めた。 これまでは強奪者たちが空を行っていた為に手出しが出来ないでいたが、空中で停止している今こそがチャンスだと感じての絶好の機会であった。 ウィングは匿名 某(とくな・なにがし)に頼み訊いた。 「小型飛空艇を貸して欲しいのです」 「ん? どうするつもりだ?」 「知れたこと、今こそ奴等を潰すのです」 「潰す?」 「えぇ、皆を騙し、裏切った者を私は決して許さない。徹底的に、行動不能になるまで容赦はしません」 上空を見上げるウィングの殺気に、匿名と八神 誠一(やがみ・せいいち)は脅威に感じて、小型飛空艇を貸す事を断った。 「そんな殺気だらけの目で近づいたら、すぐに見つかっちまうぜ」 「ここは僕たちに任せてよ」 匿名、八神、そしてオフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)が乗り込んだ飛空艇がみるみるうちに上昇していった。 「3人乗るのは…… おかしくない?」 ウィングのパートナーであるエイフィス・ステラ・ファーラドリム(えいふぃすすてら・ふぁーらどりむ)が疑問符を浮かべた時、飛空艇からはオフィーリアが煙幕ファンデーションを投げつけた所であった。 煙幕の中、匿名と八神は捨て身で日比谷に飛びついた。 八神は、 「適当な長期休暇の理由がないから、産休扱いにしておいたよ(はあと)冗談はこれくらいにして、人手足りないから早く戻ってくるように」 と書かれた給料袋を何とか手渡し、匿名は、 「……俺はお前を信じたい。けど、正直お前のやってることが正しいかはわからない。だから、手助けできるのはこれっきりかもしれない…… 無事に逃げてくれ。頼む」 とだけは死ぬ気で言い伝えた。 2人はマッシュとシャノンの斬撃と光術に吹き飛ばされ、煙幕から飛び出した。 メニエスに日比谷、それにマッシュを加えた一行は、逃避行を再開させた。 その様子を見上げていたウィングは、駿馬を走らせ、追跡を始めたのだった。
▼担当マスター
古戝 正規
▼マスターコメント
おはようございます。ゲームマスターの古戝正規です。 「狂楽の末に在る景色」の第2回、いかがだったでしょうか。 各地点での状況も、更に混沌としてきましたね。 次回で、どのような収束を見せるのか、今回は非常に楽しみです。 次回シナリオガイドは近日公開予定です。 それでは、再びにお会いできる事を祈りつつ、年度を跨ぐ次第です。