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リアクション
「ミルザム様、ご命令を!」
「ミルザム様!」
「ミルザム様!」
跪くエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)、ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)、セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)の三姉妹を前に、ミルザムは圧されていた。
「えぇと、命令、と言いますか今は…」
「女王陛下!」
「私はまだ女王ではありませんっ!」
困り笑みながら応えるミルザムの声を受け、3人は一斉に立ち上がると、再び跪きながらに、
「ミルザム様のためなら、どんな命令も受けます!」
エクスは、小さい体を目一杯に大きく広げて、
「この身を捧げてお守りいたします」
ディミーアは光の翼を舞い輝かせて、
「貴女の理想を現実にするために」
セラフは妖艶にドレスをなびかせて、
「ミルザム様、ご命令を!」
と、声を揃えて跪いた。
先ほどと変わらない… 。ミルザムは雫しそうになったが、小さく速く首を振り、意を決した。
「分かりました。迫り来る蠍の大群を、みごと足止めしてみせよ!」
やりすぎた、と頬をヒクつかせるミルザムとは裏腹に、3姉妹は満面の笑みを得たのだった。
「YES sir, my Queen!」
「わ、私はまだ女王ではありませんよ〜!!」
翼を広げて飛び立つ3姉妹に投げかけるも、どうにも届いていないようだった。
ただ恥ずかしそうにしているミルザムの左手に、甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)がそっと触れた。
「きゃっ」
小さく跳ねたミルザムにも動じる事なく、ユキノは彼女の手を両手で包んだ。
「ミルザム様、あたしに何かできる事がございますか?」
「あ、あの…… 私は……」
「温かいでしょう、ユキノの手」
かわいい笑顔で、甲斐 英虎(かい・ひでとら)は包まれた手を見つめていた。
「俺もたまにやって貰うんだけど、温かくて、ホッとするんだよねー」
手の温もりを感じてみれば、確かに、そう、温かかった。
「ツァンダ家のお姫様で、こんなに若くて綺麗なのに、女性として沢山の幸せがあったかもしれないのに。女王候補って、気を張ってばかりでしょ?」
「それは、私が未熟だからです」
「荒廃や侵略や略奪にさらされているパラミタの民の為に。鏖殺寺院や十二星華からの暗殺対象になってしまう事も覚悟の上なんでしょう? 誰にでも出来る事じゃない」
「それは…」
ユキノの手が、少しだけ強く握ったようだった。
「なりたい女王像を貫く為にも、もっと皆の力を頼って良いと、俺は思います」
処罰を覚悟の上での言動だった。ただし、それでも英虎は今のミルザムに言いたかったし、ユキノは温もりを感じて欲しかった。
「ありがとう、お2人の心、しっかりと届きました」
ミルザムが優しい笑みを浮かべた時、サーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)は満足げな笑みを浮かべて叫んだ。
「よし、良いぞ! 土解し、完了っ!!」
サーシャがスナジゴクを引き戻すと、土の解れた広大な平地に鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)が氷術で氷を張っていった。
「待ちくたびれたぜ」
とランザー・フォン・ゾート(らんざー・ふぉんぞーと)とアイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)が火術で溶かして水に戻してゆく。
氷を生んでは溶かしゆく。そうする事で、一行の目の前には広大な泥の泥濘が完成した。
「よぉし! みんな離れて!!」
岬 蓮(みさき・れん)の呼び声で、前線で戦っていた生徒たちが道を開けた。大群の本隊を含め、突っ込んできた三槍蠍たちは、泥濘に足を取られ、例外なく失速したのだった。
「よぉし! そう!! 今よっ!!!」
蓮が掛けるより前に、飛び出した者もいたのだが。足の止まった蠍に、一斉に飛びかかっていった。
「あっっ−−−」
レオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)は言葉を紡ぐ事よりも、その身を動かす事を優先させた。飛び来た液体を背で受けて、ミルザムにかかるのを見事に防いだ。
「大丈夫ですか!」
「フラウィウスっ!」
しゃがみ込んだフラウィウスに、道明寺 玲(どうみょうじ・れい)も駆け寄った。
「わたくしは平気です。少しヒリヒリしますけど」
玲がローブをめくってみれば、フラウィウスの背中は微かに赤く炎症を起こしていた。
「玲さんっ」
「分かっています。治療はして貰うのですよ」
それだけを言い残して玲は前線へと駆けていった。
足を取られ、動きの弱い蠍との戦闘は、とにかく数に気を付けること。そしてもちろんに槍の如くの尾に気を付けることである。
苦しみながらも、数とコンビネーションで何とか戦えているというのが全体を見た玲の感想であったが−−−
「蠍の体液を浴びてはいけません!!」
戦う者たちへ、戦いを優位に進める者たちに向けて。危惧していた現象は起こりつつあった。
「蠍の体液には、毒の成分があるようです!! 触れてはいけません!!」
避ける者、炎術で防ぐ者も居たが、それでも玲の表情は晴れなかった。
このまま蠍を倒し続けるなら。足元の泥濘が、不吉な予感と共に玲にまとわりついたのだった。
アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)がフラウィウスの背にヒールを唱える。同時にフラウィウスは自分でキュアポイゾンも唱えてみた。
「どう?」
「えぇ、痛みは引いてきました」
「やっぱり、毒なのね…」
アメリアが前線に瞳を向ければ、パートナーである高月 芳樹(たかつき・よしき)が三槍蠍の尾を避けている所であった。
バーストダッシュで回避しつつ、迫る槍尾を轟雷閃で弾いている。芳樹も外殻の継ぎ目を狙ってはいるようだが、動きを封じられ、走ることを止めた蠍たちは槍尾での攻撃にのみ集中している為、思うように飛び込むことすら難しいようだった。
「ここは、もう大丈夫ですじゃ」
芳樹のパートナーである伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)がミルザムに提言した。
「あとは、みなで蠍を退治するだけですじゃ。そなたは、青龍鱗を追うと良い」
「… ですが…」
「なぁに、彼らなら平気じゃよ、毎日鍛えておるようじゃからのう。それに、ここに居ても、そなたに出来る事は祈ることだけじゃぞ」
「祈ることは、私がしますよ」
ヒールを唱えながら、見上げるアメリアの笑顔に、ミルザムは息を漏らした。
「分かりました。私の分も、しっかり祈って下さい」
「了解です!」
前線に背を向け、神野 永太(じんの・えいた)、燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)と共に歩きだしたミルザムに、1つの声が投げられた。
「逃げるの?」
上空からの声、弾むようにも聞こえた声に振り向き見れば、上空には漆黒のグリフォンが。そしてその背には、笑み下ろしているパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)の姿があった。
「開けなさい! 開けなさいよっ!!」
「レナっ!!」
荒げた声と共に扉を殴る如月 玲奈(きさらぎ・れいな)を電撃が襲った。それを止めようと玲奈に飛びついたレーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)も通電し、倒れ込んだ。
「っつつっ…」
「ですから、扉に触れてはいけません」
「あぁもう! めんどぅっ!!」
研究室から逃亡したチェスナー・ローズは、自室に駆け込むと、そのまま立て籠もってしまっていた。
ライトニングウェポンを応用した仕掛けであろうか。扉に触れると、先程の様に電撃が襲ってくる。ドアノブだけじゃない、扉に触れるだけで通電してしまうのだ。
呼べど待てどもチェスナーは、一向に出て来る気配はなかった。
「ちょっ、レナ? 何をしているのです?」
「小さい師匠とジャックは、外に居るのよね」
扉に向けて、手の平を向け構える玲奈を見て、レーヴェは答えるのを躊躇したが、
「えぇ、今も外で監視しています」
口元が上がってゆく。そして放たれる。
玲奈の光術が仕掛け扉をぶち破った。
「チェスナー、覚悟っ!!」
玲奈とレーヴェが踏み込んだ時、そこにチェスナーの姿は無かった。
爆音に気付いたレーヴェ著 インフィニティー(れーう゛ぇちょ・いんふぃにてぃー)とジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)が窓を破って入ってきたが、彼女が外に逃げ出したという事もないようだった。
「どういう事?」
室内はキレイに整っていた。というより物が殆ど無かった。備え付けの机にベッド、パソコンにアーティフィサーの工具類。目を引く物と言えば、鏡餅の絵が描かれた巨大なカーペットであった。
「これは… 備え付いてなかった、よね」
「えぇ。可愛らしいじゃないですか」
「えっ、そぅ? ………… ん?」
レーヴェのまさかの賛同、それよりも、カーペットの感触に玲奈は違和感を覚えた。
微妙に高さが違う。
ジャックがカーペットをめくると、床に底扉が、そして開けるとそこには大きな穴が空いていたのだった。
「ミーナ、どこへ行くのです、こっちです」
「おっとっとっ、それならそうと言ってくれたまえよ」
曲がり角の度に同じ事を繰り返しているようだった。
ため息をつきながらも、駆け寄るミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)の姿に笑みを得た菅野 葉月(すがの・はづき)であったが、その顔が、凍り付いた。
急にミーナが倒れ込み、背後から黒いマントに身を包んだ男が−−−
「眠っていろ」
瞬く間に瞳の前に。間合いを詰められたと認識する間も無く、葉月は腹部への打撃に気を失っていった。
横たわるミーナの瞼を上げる。
「やはり、女性の瞳は美しい」
己の瞳を瞳に向けた。
しばらくの後に、生気なく立ち上がったミーナに笑みかけて、
右手の中のスイッチを押すと、遠くで爆発音が次々に上がった。
「さぁ、君もユイードの破壊に向かいたまえ」
フラッドボルグは優しくミーナに命じた。
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