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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第2回/全3回)

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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第2回/全3回)

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第三章 美しい瞳

 三槍蠍がやってくる。
 地面を揺らす程の大群で、耳を塞ぎたくなる程の轟音をあげて。
 組んだ腕を大袈裟に解いて、岬 蓮(みさき・れん)は蠍の大群を指さした。
「さぁ、みんな、何か質問のある人っ?! って、無いよね、質問、あっても答えてる時間は無いから! さぁ、みんな、行って!!」
 そんな無茶苦茶な……。そう思いながらも、事態を考えれば、みな納得してしまうもので。
 それでも、さすがにパートナーのアイン・ディアフレッド(あいん・でぃあふれっど)だけは指摘を入れた。
「… みなさん無茶な策に乗ってくれるのですよ。もう少し、丁寧に−−−」
「私たちも行くよっ、アインっ!」
 いつの間にかに。自転車に跨り、ハツラツと。跳ねるような笑顔では漕ぎだした。
「レッツ、ゴー!!」
「ちょっ、自分は自転車を持っていない−−−」
「頑張れば何とかなるなる☆ 走れ〜!!」
「私たちは空からね。行くよ!」
 伏見 明子(ふしみ・めいこ)は駆けながら空飛ぶ箒に腰掛け、空へと飛び立った。
「サーシャ、急いで! 作戦はあなたから始まるんだから」
「分かってるって。今日も頼むよ」
 サーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)は巨大甲虫の背に乗りて、明子を追った。防衛ラインの最前線に2人は躍り出た。
「ずいぶん気合い入ってるね。瞳、怖いよ」
「うるさいわね、いいから早くやりなさいよ!」
「はいはい、やりますって… 時間も無いみたいだしね」
 前方の平地を見渡して、サーシャは3匹のスナジゴクを送り出した。
 スナジゴクたちは地面を掘りながら散り駆けてゆく。
「まずは広く掘ろうね〜 土を柔らかくするよ〜」
「よし、行くわよ!六韜、九篠」
「おうっ!」
 明子の声に、鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)九條 静佳(くじょう・しずか)が飛び出した。
「我々の主をしっかり守るのですよ。九郎の」
「言われなくても、ちゃんと守るさ。… それと、今は九篠だよ。六韜」
 大群の先頭。一匹の三槍蠍が飛び出して突っ込んできていた。
「今日の私は、手加減できないわよ」
「えっ、ちょっ明子… ?」
「はい、パワーブレス、完了です」
「ありがとうっ!」
「くらえっ!!」
 明子のサンダーブラストが三槍蠍に直撃した。
 雷光が弾ける中、飛び出した九篠は、足の甲殻の継ぎ目を狙い、蠍の動きが止まった瞬間に蹴り刺した。
「元気が良い子は、嫌いじゃないけどねっ」
 バランスを崩して転ぶまで。九篠は一本の足に狙いを定めて、蹴り刺すを続けた。
 狙い通りに倒れ込んだ蠍に、追撃のサンダーブラストが撃ち落ちてきた。
「明子… そこまでしなくても…」
「何言ってんの! 次、来るわよ!」
 列を成している訳ではない。思いのままに、なのだろう。大群の本隊から、数体が飛び出して走っている。
「めんどくせぇ… って、言ってる場合じゃねぇな、これは…」
 眠そうな顔で見つめながら、篠宮 悠(しのみや・ゆう)はランスを握りしめた。
 機晶姫であるレイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)は巨体を屈めて、を見下ろした。
「その通り。役目を果たすため、全力を尽くすのが使命であるぞ」
「あぁ、おぅ… 真面目だな…」
「何だ? 悠、ビビってんのか?」
 こちらも屈めて見下ろして。ランザー・フォン・ゾート(らんざー・ふぉんぞーと)はイラズラにbold}悠に笑んだ。
「普段サボリまくってるからなぁ、悠の攻撃なんて効かねぇんじゃねぇか?」
「うるせぇよ、つーか、何でそんなにテンション高いんだ?」
「これが上がらずにいられるかっての! 行くぜヒャッハァァ!」
「待て! ランザー、お主の使命は罠作成における仕上げの作業を−−−」
「それまでジッとしてろってか? お断りだァァァ!」
「ったくぅ」
 レイオールの制止も届かず。まさに正面からランザーが、そしてレイオールもそれに続いた。
 その様を見て、李 なた(り・なた)は、ソワソワソワソワしながらにグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)に問い訊いた。 
「なぁグレンっ、俺ももう行っても良いだろっ!」
「………… そうだな」
 見渡しながら、スナイパーライフルを握りしめて。
「ソニア、ラス。準備は良いか?」
「えぇ」
「無論だ。愚問だぞ、グレン」
 ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は機晶姫用レールガンの銃身を、ラス・サング(らす・さんぐ)はサングラスを輝かせて笑み応えた。
「… よし! ソニア、ナタク、ラス… 一匹たりとも通すな!」
 かけ声と共に飛び出したグレン達に気づき、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は視線を、上空から蠍の大群へと戻した。
「やはり今は… パッフェルにかまっている場合では無いようだな」
 上空で膨れていた煙幕が晴れ、パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)や小型飛空艇の姿が見えた所であったが。
「エヴァルト、お願い」
 戦う眼差しで、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が見上げていた。
「… わかった」
 ライトニングブラストを彼女の体へ。ロートラウトの体は、音を上げて雷電を纏っていった。
「大丈夫か?」
「ぅ… うん、慣れてないだけ。平気だよっ!」
 無理に作られた笑顔に… しかしその瞳に彼女の揺るぎ無い意志を感じてしまっては…。
「無理をするな」
 言えぬエヴァルトに代わり、デーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)が彼女に添いた。
「無茶な術の使い方なのだ、慣れてしまっては困る」
「…… 大丈夫、大丈夫だから…」
 駆け出そうと歩みを始めて。歪んだ表情以外は、いつもの動きだった。
「ほらっ! 2人とも行くよっ! 片っ端から潰して行くんだから」
 駆け出したロートラウトを2人が追いた。
「あの意志に、我らも応えよう」
「あぁ。元より手段を選ぶつもりは無い!」
 ロートラウトは突進してくる蠍に正面から突進してゆき、鉄甲を装備した手刀でソニックブレードを放った。駆け抜けるまでに、2本の足を刈り斬った。
「よし、いける!」
 倒れ込んだ蠍には、すかさずデーゲンハルトが雷術を放った。
「今だ! エヴァルト!!」
「おぉう!」
 雷電属性を得た弾が、蠍の尾を撃ち抜いてゆく。
「やはり雷術は効くみたいだな」
「ふむ、我も足止めに加わるとしよう」
 デーゲンハルトも前線へ。ロートラウトの後方につくようだ。弾が尽きるまで、蠍の尾を狙い続けるエヴァルトの視界の中で、が奇声をあげていた。
「ハッハァー、そんなデカイ図体してんなら脚に掛かる負担は並じゃないよな!」
 突進してくる蠍の一点、脚の関節へ飛びかかり、試作型星槍を突き刺した。衝撃に耐えながらも素早くアルティマ・トゥーレで冷気を放つと、蠍は悲声を上げて背を反らした。
「へっ、まだまだ行くぜっ!!」
「相変わらず、強引ですね」
 ソニアは、跳び離れるを瞳の端に泳がせながら、
「でも、狙いを一点に絞るという点は、賛成です」
 ソニアが脚の関節を狙ってレールガンでの一点集中射撃を成功させれば、その蠍の視界にて現れては消える巨大なクマの影が。
「フハハハ!我が輩を捉えるなど5千光年早いわ!」
 光学迷彩を駆使して蠍を攪乱させるには成功したラスであったが、サングラスだけは常に宙に浮いたままなのには気付いていないようだった。
「こりゃ凄ぇ。思った以上にデカイな」
 駿馬を蠍に併走させながら、シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)は感嘆の声をあげた。
「ちんたらやってる場合じゃないな」
 同じく駿馬で追走するパートナーのアイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)がパワーブレスをかけ終えると、蠍の脚2本をツインスラッシュで一度に斬りつけた。
 騎手が落馬するように、蠍は一気に傾き倒れた。
「最高だ! 相変わらず君のパワーブレスは凄い効果だね」
「いえ、正確に殻の継ぎ目を斬ったシルヴィオの方が、ずっと凄いわ」
「おっと、褒められたのに直ぐに褒め返すなんて… 腕を上げたねぇ」
「あ、いや、そんなつもりじゃ… つ、次はあの蠍を…」
「了解♪」
 尾での攻撃はスウェーで避わして。併走の位置から斬り落とす。崩れる際に巻き込まれるという危険性もあるのだが、それを含めてもシルヴィオは次々に駆ける蠍を落としていった。