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【十二の星の華】マ・メール・ロアでお茶会を

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【十二の星の華】マ・メール・ロアでお茶会を

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「しかし、武力で圧してたあんたがお茶会で仲良くお話しましょう、なんて言うとはね……心境の変化か、それとも自分の弱点がバレちまったから慌てて、とか?」
 応えないだろうこと前提で、匿名 某(とくな・なにがし)が訊ねる。
「契約者(コントラクター)達ともっと話したいと思ったからですわ」
「こうやってあんたと話ができて嬉しいねぇ〜。ケンカはちぃっと好かねえが、こういう事なら大歓迎だぜ!」
 某のパートナーである大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が、答えを聞いて、頷く。
「んでよぉ、前から思ってたんだが、お前さんのダチ公だっていうセイニィにパッフェル。今日あいつらここに来てないのか? いるならよ、一緒にパァーと楽しみたかったのによ!」
「今日は2人とも出払ってますわ。けれど、そちらにもあるベイクド・チーズケーキはパッフェルお手製ですから、よろしければお食べになって」
 康之の言葉に、ティセラはテーブルに並べられたケーキを指して告げる。
「そうなのか〜。じゃあ、是非、食べていかないとな! ……やっぱりよ、こういう風にみんなで食って飲んでのほうが楽しくていいよな。だから、これからもケンカじゃなくこうやってラブ&ピースな話し合いでいこうぜ、ティセラさんよぉ」
「それは……そちらが譲歩すると仰るなら、考えておきますわ」
 環菜へとちらりと視線を向けながら、ティセラは答える。

「女王が貴方の言うように良くない方なのか、それとも真実女王たる立派な方であるのか、当人にお会いして確かめるのがよいのではないかしら」
 先日の舞踏会のとき、女王について触れたときのティセラの反応を思い出した神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)は、パートナーのフィーリア・ウィンクルム(ふぃーりあ・うぃんくるむ)と共に、ティセラ、環菜へと話しかける。
「ティセラさんも女王に捨て駒にされたとおっしゃるのでしたら、直に恨み言の一つでも言って差し上げればよろしいでしょう?
 なにしろ、古代王国の真実については鏖殺寺院やティセラさん達から聞かされるばかり。校長さんたちや首長家の方々は知っていることも語られないようですからね。女王から直接うかがうしかないのでしょう?」
「伺おうにも、前女王は……」
「そこで、女王復活で協力体制を敷けないか……」
 それが無理でも妨害をしないという約定をしてもらえないかと言葉を続ける。
「敵から真相を聞かされるは子供達の心を揺さぶるものじゃぞ。所詮敵側から見た一面に過ぎないものじゃが、味方にその手の情報を与えてもらえてないという事実が、敵の言葉が全てのように思い込ませてしまい、敵のほうに心を寄せてしまうこととなる。
 子供達に汚いものを見せたくないだの様々な政治的思惑から公式に明かせぬだの、いろいろとあるのじゃろうが正直非公式に情報として、子供達にも校長や首長家の有しておる情報を流す頃合いではないかの?」
 フィーリアは環菜へと話しかける。
「それは……」
 ティセラも環菜も答えない。
「私は私の望む『ほどほどの世界』になってくれさえすれば別に誰が女王でもいいですわよ?」
「まあティセラの目指す軍事国家ではエレンの望む世界にはちと沿わぬであろうからのぅ」
 エレンとフィーリアは念の押すようにそう告げた。
「私は独立傭兵団『風の旅団』団長として、休戦の仲介をしたい」
 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)がティセラへ向くなり言い放つ。
 ウィングは考えていたことを話し始めた。
 何もせずに帝国が攻め込んでくれば、シャンバラは1つにまとまって抵抗したであろうこと。
 ティセラの目的からすると、帝国にとっては邪魔で目的を達成することは避けたいはず。
 なのにわざわざ彼女を送り込んできた目的は、ティセラという対抗馬を送り込むことで、女王の誕生の遅延とシャンバラ地方の混乱を起こし、その隙をついて攻め込むつもりなのではないかということ。
 そして、ティセラが女王を憎むようになった事件について、証明するものがないことことから、その感情がエリュシオンに植え付けられたものの可能性もあること、もしくは女王も呪いをかけられて変貌した可能性もあること。
「そこで、寺院なら当時の記録も残っている可能性があります。敵対していたからこそ、敵の情報は細かく調べてあるはずです」
 記録の内容によってはティセラたち十二星華の身元をより確かにする資料となるのではないか。
 それは、ティセラにとって利益になるものではないか。
 ウィングの紡ぎ出す言葉をティセラはただ静かに聞いている。
「寺院を鎮圧することは、ティセラの力を知らしめるのにも丁度良いはずです。そしてエリュシオンに付け込まれないようするためにも、シャンバラ地方の混乱を収める必要があります」
 どうだろうかとウィングはティセラを見つめた。
「休戦だけでなく、協力もしろ、ということですわよね?」
 小首を傾げながらティセラが問いかければ、ウィングは頷く。
「正直、今時軍事国家なんて流行らんぞ。
 うちの御神楽校長見てみろ、金儲けの天才だ。きっと、経済的に他国より有利になる自信でもあるのだろうよ。
 それに比べてお前さんは、やれ人殺しだ、やれ洗脳だ、と批判される手段ばかり。もっと、一般市民から人望得るような事やってみるといい。老人から種もみ奪ったパラ実生の集団を『今日を生きる資格は云々』とか言って壊滅させるとか。
 悪い事は言わない、行動を変えれば、心から認められることも無きにしも非ずだ」
 ウィングの言葉に添えるように、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が告げる。
 彼の傍ではパートナーのロートラウトがパラミタがくしゅうちょうの白紙ページに茶会の様子を記すため、ペンを走らせている。
「敵対関係を解消しろとか休戦しろとか……環菜さんが譲歩するのであれば、応じますわ。けれど、協力体制を敷けというのは、嫌ですわ。御輿に乗せられている者と御輿を用意している者、それぞれと馴れ合う気はありませんの」
 3人の進言を聞いた後、ティセラが口を開いたかと思うとそう告げた。
 御輿に乗せられている者はミルザムを、御輿を用意している者は環菜とそれを支援する日本政府を指しているのであろう。
「譲歩する気は、ないでしょうけれど」
 ティセラが環菜の方を見れば、他の学生たちの視線もそちらを向く。
「考えてはおくけれど、この場で応える気はないわ」
 皆の視線に応えるように、環菜はそう告げる。
 素早い答えを期待していたわけではないけれど、皆はやや肩を落とした。
「ミルザム、あんた、どっちが女王になっても反発する勢力は必ず出てくるんだ。だったら互いに納得できる形に収めるべきだろうが。……じゃなきゃこの国はまた滅びるぞ! それで前の女王超えるなんてよくもほざけるもんだな!」
 協力体制を敷く気はないと答えたティセラに、某が声を荒げる。
「な、某さん。確かに色々あったと思いますけどせっかくの場なんですから、ケンカ腰になったらダメですよ!」
 隣に座っていた彼のパートナーの結崎 綾耶(ゆうざき・あや)が、某を抑えようと手を伸ばした。
「せっかくなんだから、楽しまないともったいないよ! ホントは誰もケンカなんてしたくないんだし……」
 給仕をしていたミルディアも間に入って止めようと声をかける。
「えっと、どうして突然お茶会をしようと思ったんですか? ……あ、あぁぁの深い意味はないんですけれど!」
 某の失言を掻き消そうと、取り繕うように綾耶は別の質問を投げかける。
「それは、先ほど、あなたのパートナーさんが訊ねた問いかけとそう変わりませんわよ? 契約者の皆様ともっとお話したいと思ったからですの」
 苦笑を浮かべながら、それでもティセラは応えてくれる。
「そ、そうですね……すみません。えっと……すごく大きいですよねぇ、ここ。他の部屋とかはどうなってるんですか?」
 綾耶は謝りながらも、不意に思いついたことを訊ねた。
「それは秘密ですわ」
 応えられないと首を横に振りながら、ティセラは言う。
「そうですか……」
 残念そうに肩を落としながらも綾耶はほっとする。某の失言に関してはお咎めはないようだ。
「結局の所、いくら口論した所でお互いに譲ろうとはしないであろう女王の座を本人達が『どのようなやり方で決めたいのか』を伝え合い、納得に足るルールを決めて競い合えば良いと私は思うのだが」
 ほう統 士元(ほうとう・しげん)が告げる。
「話し合いをしたいというのであれば、条件次第では応えさせていただきますわ」
 彼の言葉に、やはりティセラは環菜の答え次第だといった視線を彼女の方へと向けていた。
 どれほど説得するような言葉を並べても結局は平行線だということか。
(まあ、こんなところか……)
 聞きたいことは粗方皆が聞いてくれただろうと、涼は食堂の片隅に身を寄せると、覚えていた質問と回答をメモへと記していく。
「給仕も楽じゃないな、まったく……」
 メモの上にペンを走らせていて、ずっと盆を持っていた手首に軽い疲れを感じ、涼はぼやいた。
「クールダウンしなよ、ティセラ」
 フォローしようにも非のないティセラの受け答えに、ずっと傍で会話の流れを見ていたシャノンは声を掛ける。
「ええ、ありがとうございますわ、シャノンさん」
 差し出される紅茶に口をつけ、ティセラは一息ついた。