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バーゲンセールを死守せよ!!

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バーゲンセールを死守せよ!!

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前日 決戦前夜

「これは、戦争と言ってもいいわ……」
 凛とした声が響いた。
「戦争……。いいえ。まだ、戦争の方が気が楽かもしれないわね」
 李 梅琳(り・めいりん)は、警備担当の生徒たちを前に緊張した面持ちをしている。
「李少尉、そこまでのことかな?」
 橘 カオル(たちばな・かおる)が首をかしげる。
「敵……、いや、客か。ご婦人たちがほとんどでしょ?」
「ええ。その通りだわ」
「ご婦人たって、女性だろ。そんなに気合入れることかな」
 梅琳は小さく息を吐き、カオルの前に立つ。
 そして、顔を包むようにカオルの頬に両手を添える。
「良いこと、カオル。覚えておきなさい。バーゲンセールを前にしたご婦人の群れは……」
 梅琳は目を一度閉じ、一呼吸空けたのち、力強く目を開く。
「ドラゴンよりも厄介よ!」
「は、はい。肝に銘じておきます」
 カオルが背筋をピンと伸ばし、少々裏返った声で返事する。
 梅琳は、クスリと笑い、カオルの頬から手を放す。
「皆にも言っておくわ。『お客様は神さまよ』。絶対に反論をしてはいけない」
「……」
 梅琳の言葉に、皆、耳を傾ける。
「絶対に怪我をさせてはいけない。絶対に怒らせてはいけないのよ。これがどういうことかわかるかしら?」
 ゴクリと、誰が生唾を飲み込む音が聞こえた。
「戦闘なら、相手を倒して終わりだけど……。今回の任務は、攻撃できない状態でドラゴンを相手にするということよ」
 シンと静まりかえる一同。
「明日が本番よ。みんな気合を入れて、当日は望んで頂戴!」
 生徒たちが気合を入れた返事をする。
 そんな中、ヒョッヒョッヒョとこらえるような笑い声を出している人物がいた。
「ふむ、この雰囲気、昔を思い出すのぉ。それにしても……」
 イーハブじいさんが、梅琳を見る。
「いいチチじゃ」

 梅琳たちが、警備の最終ミーティングをしている頃。
 店内では、閉店のアナウンスがかかっていた。
 1階、高級ブランドショップには、御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)の姿があった。
 入り口と、ブランドコーナーを、何度も行き来している。
「ねえ、千代。さっきから、なにしてんの?」
 千代の怪しい行動に、眉間にしわを寄せているバーバラキア・ロックブーケ(ばーばらきあ・ろっくぶーけ)
「何を言ってるんです。下調べは当然のことですよ」
「……下調べぇ?」
「ふふ、明日は、私の独壇場ですね」
 妖しく、千代が笑う。

 店は、すでに閉店している。
 空には月が浮かび、通りにはほとんど人通りがない。
 そんな中、一人デパートを見上げて、ニヒルな笑みを浮かべている人物がいた。
 十二星華の一人、魚座(アレルシャ)のエメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)だ。
「うふふ〜♪ バーゲン楽しみですの〜」
 三度のご飯よりバーゲンが好きなエメネア。
「はい。楽しみですぅ」
 ニコニコと、エメネアの隣で笑っているのは、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)だった。
「でも、バーゲンは明日からですよぉ? どうして、この時間に来るんですかぁ?」
「メイベルは、まだまだ甘いですの〜」
「え?」
「バーゲンは戦争ですの〜。そして、戦いはもう始まっていますのよ〜」
 不気味に微笑むエメネア。その隣では、不思議そうに首をかしげているメイベルの姿があった。
 上空では、カラスが不吉に鳴いていた。