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【十二の星の華】空の果て、黄金の血(第1回/全2回)

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【十二の星の華】空の果て、黄金の血(第1回/全2回)

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 時は少々、さかのぼる。

「…で、藤野赫夜さん、あなたはどうするつもり?」
 真珠が蛇遣い座シャムシェル・ザビクと、ミケロット・ダ・コレ-リアにさらわれた直後、環菜は赫夜を校長室に呼び出したのだ。
髪や顔はどろどろに汚れ、肌のあちこちに傷を負った赫夜は、それに構わず、環菜と対峙する。
「環菜校長、大変、ご迷惑をお掛けしました。…この報いはきちんと受けます」
「…いいのよ。こんなこと、慣れているわ。それに、この程度の損害なら、私のデイトレードで一気に取り戻せる。…資金は潤沢なのよ。それより、あなたは今後、どちらにつくつもりなの? 『蟹座の十二星華、セルバトイラの赫夜』として。ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)? それとも、ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)に付くのかしら?
 環菜は顔色一つ変えず、赫夜の対応を見つめている。口許にはうっすらと笑みすら浮かべていた。
「勿論、ミルザム側につくのであれば、妹さんの救出のためのバックアップは惜しまない。…それに今の状況のあなたが、ティセラに付くとも、思えないけれども。念のために聞いておくわ」
(…御神楽環菜…ただの学園校長などではないと思っていたが…)
 赫夜はそれでも、環菜に対し、礼を尽くす意志を見せた。
「元来であれば、私は確かにティセラ殿側の人間だ。…しかし、このようなザマとなり、かつ、ミルザム殿、そして蒼空学園の生徒のみなさんに迷惑も掛けているし、恩義もある。…それに、今の私の敵、ケセアレ・ヴァレンティノは鏖殺寺院のトップメンバーだ。ここまで言えば解って貰えるだろう。ミルザム殿に忠誠を尽くすことを約束する」
 いいわ。その言葉、ちゃんと聞いておきたかったの。それともう一つ。あなたは五千年前、『女王の外戚』だったそうね。十二星華はシャンバラ古王国の黒歴史だと思ったのだけど?」
「……そうだ、十二星華は言わば日陰者だ。だが、私の姉の一族で権力闘争が起こった際、姉を護衛するために『女王の外戚』扱いとして十二星華であることを隠していたのだ。私ほど、剣が立つものが姉の周りにいなかったためだ。姉といいつつも、直接の血の繋がりはない。だが、姉は私にとってとても大事な人だった。一緒に育った仲だ。だから、身分を隠して姉の護衛にあたっていたのだ。……この話はまた、別の機会にさせてもらいたい」
「解ったわ。それに正直、一刻を争う事態でしょう。静麻さんからも連絡があったし、ツァンダ家として、バックアップはさせて貰います…それにあなたには特別に小型飛行艇を渡すわ。他の生徒達全てに貸与することはできないけれど、あなたは今後、私たちの戦力にもなって貰う予定だから、特別よ。機動性を重視するあなただろうから、自分専用の飛行艇は必要でしょう?出世払い、と言ったところにしておくわ。ハッキリ言って『贔屓』していること、忘れないで頂戴」
「…恩に着ます」
 女二人、腹の探り合いではあったが、一旦、話しは収束した。

☆   ☆   ☆   ☆   ☆    ☆   ☆   ☆   ☆   ☆
 
 場面はまた、戻る。

 環菜のバックアップのもと、軍用艇、武器、簡易の食べ物などを用意しているのは、羽入 勇(はにゅう・いさみ)であった。静麻と協力し、情報収集などにも当たっている。
(不謹慎かも知れないけど、報道カメラマン志望を目指すボクとしては、絶好のチャンスとも言える…頑張らないと! 報道カメラマンとして、何かを掴めるかも知れない。…だけど、ボクの精神は戦いの中でも保つだろうか…)
 勇は戦場カメラマンとして活躍したある人物のことを思い出していた。もう、20年以上も前になる。その人物は戦場カメラマンにはふさわしくなかった。…優しすぎたのだ。アルコールに溺れ、吐血を繰り返し、しかし、依存から立ち直ったカメラマン。最後に家族のもとへ帰り、死んだカメラマン。
 それを知っている人は今では少ないだろう。
(ボクにとっても、ここが正念場だ…!! この戦い、報道カメラマンを目指す一歩になるはずだ!)



 いよいよ出発の時刻が近づいてくるなか、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が赫夜に話しかけてきた。
「赫夜さん、お話し、してもいいかな」
「なんだろう?」
「…蛇遣い座シャムシェル・ザビクのことなの。赫夜さんと同じで、私、大事な友達がシャムシェルにさらわれちゃったんだ。リフル・シルヴェリア(りふる・しるう゛ぇりあ)ホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)…ふたりもなんだよ。それにシャムシェルは色んなところで悪いことをいっぱいやってる。ティセラ一派と鏖殺寺院の影で暗躍しているんだ」
「…リフルさんもなのか?」
「そうなの。だから、真珠を助けたら、今度はシャムシエルを倒すために力を貸してほしいんだ! お願い!」
 真剣な顔の美羽に、赫夜は頷いた。
「解った。勿論、美羽さんのために、力を尽くそう…ただ、その時まで私の命があれば…」
「…それは…あの、清符のこと?」
「ああ、ケセアレは清符と私の命を欲しがっている。生きていられる確証はない」
「…」
 さすがに黙る美羽。
「だが、私もみすみす自分の命を落とすつもりはない。美羽さん、あなたの力になる。そのために力を尽くす。あなたも私を助けてくれ」
「もちろんだよ!」
 美羽はそういうと、赫夜に抱きついた。
「おっとっと。美少女同士の熱い抱擁の最中、お邪魔する」
 弥涼 総司(いすず・そうじ)がそこにあらわれる。
「赫夜さん、暴走すんじゃないぜ」
「私は冷静なつもりだが…」
「そうかな。ちょっと真剣モードすぎる。オレからみたら、オマエ、ちょっと頭に血が上っているみたいだからさ、肩の力を抜きなよ。死ぬや生きるや、考えすぎたら良くないと思うぜ」
と、赫夜に近づくとふうっと赫夜の首筋から耳元に息を吹きかけた。
 それは、総司のセクハラ、いや、気遣いであったのだが、赫夜は耳が弱いらしく
「ああん!」
 と、声を上げてしまう。それを聞いて驚く美羽と、あれ? と言う顔をする総司。
 赫夜はかあああっと顔が赤くなってしまう。
「な、ななんあなな、なにを!! する!」
 照れ隠しに赫夜に撲たれた総司はあぐっと声を出して、吹っ飛んでしまった。
「シャロッシャー!!」
 冷たいことにフェレットのなつめはさっとそんな総司から、離れてしまう。
「す、すまない、総司殿!!」
 はっと我に返る赫夜に笑いをこらえている美羽がいた。遠くには半ば呆れ、半ば苦笑している佑也もいる。
「…いや、こっちこそ…」
 それから総司は急に真剣な表情になって
「向こうにも十二星華がいるんだ…星剣に対抗できるのは同じ星剣を持つオマエだけなんだぜ」
 と、諭す。
「…解った。総司殿の言う通りだな」

 影野 陽太(かげの・ようた)は作戦を考えていた。
「あ、あの、赫夜さん、アルマゲストのみなさん、お話しが…」
「ん、何かな?」
 赫夜と佑也、そのほかにも面々がそれぞれ、作戦を立てている。
 そこに陽太は遠慮がちに提案してみる。
 まだ傷が癒えない陽太に、傷をつけた本人の赫夜は、罪悪感もあるのか、優しげに言葉を促す。
 「…えっと、相手は強敵とのこと。間違っても連携行動を取らなさそうな敵なので…強敵でも集団戦闘なら連携力で勝機を見出せるのでは、と思う次第です。…スキル「根回し」で同じく対バッソ隊の戦闘予定メンバーの行動を聞いておいて把握、「ユビキタス」「博識」で得た敵及び地形情報と組み合わせて「防衛計画」で、各人の行動が有機的に連携機能する戦闘布陣(フォーメーション)やタイミング、作戦を考案して、再び「根回し」で打ち合わせをしよう…と、おもうのですが」
「いいじゃないか」
 へえ、と声が上がり、一気に場が盛り上がる。
 陽太の作戦の提案によって更に、みんなの戦略会議も熱を帯びてきた。