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リアクション
間章一
「『黒いドレスの女』ってもしかして……」
今井 卓也(いまい・たくや)は、PASDのデータベースを検索していた。ツァンダの遺跡において、無線越しに何者かが放った言葉が頭に焼きついていたからだ。
『この前のあの銀髪の魔女といい、黒ドレスの金髪女といい、どうにも相手が悪いんだよね』
それが傀儡師によるものだとは彼は、直接には知らない。
だが、『黒ドレスの女』には心当たりがあった。
「卓也、これがそうじゃないのか?」
PASDデータベース内の一枚の写真を、卓也のパートナーであるフェリックス・ルーメイ(ふぇりっくす・るーめい)が提示する。
それは『研究所』で見つけたスクラップブックのようなものの中の一枚だった。前回時点では参照にしていなかったが、そのなかにあった二枚翼の少女の写真が、彼らの出会った少女に酷似していたのだ。
「この子だ……」
記憶を辿る。黒いゴスロリ服の、純粋無垢な金髪の少女。
「だが、他には何の手がかりもない」
彼女の目撃情報は、実のところ存在しない。傀儡師の言葉が本当かどうかを確かめる術はないのだ。
「だけど、あの子が生きてるかもしれないんだ。僕達も遺跡へ行こう」
手掛かりは見つからなかった。しかし、だからといってそれをデマだとは思えなかったのである。
二人は調査チームの出発に合わせ、イルミンスールの遺跡へと足を運んだ。
* * *
空京大学内の一室。
「……ここは?」
「気がつきましたかっ?」
桐生 ひな(きりゅう・ひな)がベッドで寝ている赤髪の少女に駆け寄る。
ジャスパー・ズィーベン。五機精とは別に五体存在する、有機型機晶姫の一体だ。遺跡での一件で助けられて以来、ずっと眠っていたのである。
「あなたは?」
「私は桐生ひなですー。仲良くしましょーですよっ」
明るく接するひな。ジャスパーは戸惑い気味だったものの、彼女の笑顔を見て気を許したらしく、
「よろしくね」
と、微笑み返した。
「空京に美味しいクレープがあってですねー、はいっ」
手に持っていたクレープをジャスパーへと差し出す。
「いろいろ話す事がありますからねー、食べながらゆっくり話しましょー」
「……ありがとう」
さながら風を引いて寝込んでる友達を見舞いに来て、まったりと談話している、そんな光景だ。
そこにはもう『狂気』のジャスパー・ズィーベンはいない。有機型機晶姫となる前の一人の少女がいるだけだ。
「いきなり言うとびっくりするかもですけど」
ひなが告げる。
「貴女が眠りについた時から、もう五千年が経っているのですっ」
「五千年も……」
衝撃だったことだろう。
「そう、でも……わたしは『成功』してたんだ」
「どういうことですっ?」
今度はひなが首を傾げる番だった。
「争いが大きくなって、わたしは院のおじさんの実験に協力する事にしたの。戦いを終わらせる力が欲しかった」
その言葉を聞き、ひなは気付いた。
――今の彼女は、『ジャスパー・ズィーベン』以前の状態であると。
「何人も死んでいった。だけど、今わたしがいるってことは、わたしがおじさんの『成功例』の一人として目覚めたってことなんだよね?」
実際は、感情の一つが突出した『失敗作』の方である。しかし、今の彼女はそうではない。
「ええ、そうですよー」
とても否定は出来なかった。もし、真実を告げたならば彼女はショックを受けることだろう。下手をすれば、それが感情を刺激して『ジャスパー・ズィーベン』に戻ってしまうかもしれない。
「でも、わたし――自分の名前が思い出せないの。他にも、仲の良かった子達の顔と名前を、おじさんの助手をやってたお姉さんの名前も」
ある程度、有機型機晶姫となる以前の記憶を留めているものの、やはりいくらかは抜け落ちているようだった。
彼女は知らないが、五機精は皆人間だった頃の記憶と人格を失っている。完全に人間であった頃とは別人なのだ。器が同じだけで。
おそらく、今の彼女だけが唯一の『例外』だ。
「私はその人達に、今この時代で会いましたよっ」
ひなの言葉に、ジャスパーは「え……」という声を漏らす。
「今から全部話しますっ。落ち着いて聞いて下さいね?」
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