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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション


・Unknown


 地下三階。
 PASDの一員として、リヴァルト達よりも先行する姿がそこにはあった。
「大分深くまで来ましたね」
 人影は三つ。その中の一人、ルイ・フリード(るい・ふりーど)が呟いた。
「前の遺跡は地下三階までだったらしいな。ならばこの先に五機精の一人がいるのだろうか?」
 次いで声を発するのは、パートナーのリア・リム(りあ・りむ)だ。
「多分そうですね。このまま何もなければいいのですが……」
「ダディさん、この先から何か聞こえますぅ」
 咲夜 由宇(さくや・ゆう)が超感覚によっていち早く気が付いた。
 何か機械のようなものが動く音に。
「そう簡単にはいきませんか」
 発端となった『研究所』の一件、そして前回の遺跡での事。PASDのデータベースから得た情報と自らの体験から、覚悟はしていた。
 殺気看破では反応がない。それは、相手が機甲化兵である事を示している。感情のない機械には、殺意というものは存在しないからだ。
 三人は急いで、けれども用心はして先へと進んでいく。
 そして、その姿が目に飛び込んできた。
「一体あれは何ですかぁ〜?」
「機甲化兵……だと思います」
 ルイが確信しつつも、一瞬言葉にするのを躊躇ったのには理由がある。
 彼が知る機甲化兵と眼前にいるものは、別物にしか見えなかった。
 三メートルくらいの甲冑の騎士、それが機甲化兵と言われるものの標準的な姿だ。重火器類を扱うものと、槍や剣といったものを扱う事で差はあれど、造形自体はさほど変わらない。
 ならばこれは何だ?
 五千年前からあるはずなのに、錆が一切ない白いボディには幾何学模様のようなものが浮かんでいる。
 まるでパワードスーツを着た人間のような、スマートなシルエットで、全高もルイより少し高いくらいだ。
 一見すれば、これまでの情報で得た機甲化兵より強そうには見えない。なのに、どういうわけか圧倒的な存在感を漂わせている。
「リア、由宇さんを頼みます」
 険しい表情で、ルイは静かに呟く。
「……無茶はするなよ」
 静かに頷き、彼は白の機体と対峙する。目を持たない頭部は、ただじっとルイを凝視するかのように動かない。
 が、しかし異変は起きる。
「浮いて、る……?」
 背中から生えたのは光条の二枚翼だ。静かに宙に浮かぶ機械の兵士。
「あくまでも立ちはだかりますか、ならば……」
 ルイが静かに、けれども強い意思を持って告げる。
「全身全霊を持ってお相手致しましょう、過去の戦士よ」
 たん、と地を蹴り、壁まで飛ぶ。軽身功によるものだ。壁蹴りによって、敵の頭上にまで上がり、そこから一気に接近する。
 そして地上からは隠れ身を使った由宇が気配を絶ちながら近付く。
「援護する!」
 その二人が完全に機甲化兵らしきものの間合いに入る前に、遠距離からの援護射撃をリアが行う。
 機晶姫用のレールガンに轟雷閃を合わせ、一気に射出した。
 機甲化兵の弱点は電撃だ。これを真正面から食らえば、致命傷とはいかないまでも、行動不能にまで持ち込む事は出来る。
 ――普通の機甲化兵だったならば。
 白の兵士が組んでいた腕を解き、迫りくるレールガンの波動へと右手をかざす。
「結界? 馬鹿な!?」
 電磁シールド、いや、もはやそれは魔法的な「結界」のようなものだった。右手の先が一種の大気の壁のようなものを生み出し、レールガンを弾いたのだ。
 その間にルイが跳躍し、敵のボディに右腕を突き出した。
 直接の打撃による連打、ゼロ距離で電撃をぶち込めば効果はあるはずだ。
「……!!」
 だが、そうはならなかった。
 敵の左腕はルイの右腕を掴み、そのまま彼を持ち上げたのだ。
 その力は半端なものではなく、ルイの巨体が自由を失う。
「ルイ!」
 咄嗟にリアが第二波を放つ。それが効こうが効くまいが、隙を作ればいい。敵は同じように残った腕でそれを受け止めるはずだ。
 実際、その通りだった。
 しかし、その後の行動が異なる。
 弾かれた電撃がかざした腕の前に収束し――
「なに……!?」
 リアに向かって打ち出された。その威力は、彼女の放ったレールガンの上をゆくものだ。
 回避行動が早かったために、なんとかそれを避ける事には成功する。
 続いて、敵の左腕に由宇が剣を突き立てようとする。しかし装甲は硬く、弾かれてしまう。
 しかも、
「由宇さん!」
 彼女に敵の魔の手が迫っていた。
「ワタシの前では、誰も傷付けさせません!!」
 等活地獄。
 猛々しい気を放ち、無理やり腕を振りほどく。
 そのまま白の兵士の胸部へ向かって渾身の一撃を打ち込む。
「これがワタシの拳です!」
 則天去私。
 それは翼の生えた敵を、一瞬でも地上へと叩き落とすには十分だった。
 仰向けに倒れる白の兵士。
 だが、この程度で終わる相手ではない。
「まだ、立ち上がりますか」
 翼を広げ、再び宙へと浮こうとする。
 しかし、今度はそれだけではない。両腕を開き、敵の機体が発光していく。
「ルイ、由宇、早く離れろ!!」
 攻撃が来る。
 それはこれまでのものとは一線を画していた。
 遠距離攻撃ではない。強いていうならば、広範囲に及ぶ殲滅のための攻撃。
 ドン、という音と共に地面が揺れた。
 爆発ではない。
 音の後、衝撃波が白い兵士の周囲にあるものを容赦なく吹き飛ばしていく。壁、天井の一部もその衝撃によって崩落していく。
「く……ッ!!」
 ルイが身を挺して由宇を抱きかかえ、リアのいる辺りまで跳ぶ。彼が守るのは、二人の少女だ。
 揺れる地面と衝撃波と迫る瓦礫。
「ルイ!!」
 天井からの一際大きな瓦礫が、彼らを押しつぶそうとしていた。このままでは間に合わない。
「――?」
 だが、そうはならかった。
 遠距離からの攻撃が、迫りくる瓦礫を粉砕したのだ。
「大丈夫!?」
 攻撃の軌道上にいたのはリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)である。彼女がドラゴンアーツによって彼らを助けたのだ。
 彼女は静かに眼前の異彩を放つ白の兵士を直視する。
「また手強そうなのがいたものね。だけど……」
 構えを取り、立ち向かっていく。
「倒す!」
 再びドラゴンアーツによる牽制、それ自体は当たっても当たらなくても問題はない。近付き、相手を叩き伏せればいい。
 雷電属性攻撃こそ彼女は持ち合わせてはいないが、戦闘能力そのものは高い。さらにうってつけだったのは、元々魔法を使う方ではないために、魔力汚染をものともしなかったのである。
「気をつけて下さい、そいつは――」
 ルイの言葉が続く前に、敵の行動があった。
「魔法陣? そんなはずは……」
 白の兵士のかざした腕の前には魔法陣が浮かび上がっていた。物言わぬ機械が魔法を使うなど、考えられない。まして、ここは魔力汚染下にある。
「――ッ!!」
 発射されたのは、圧縮された波動だった。そのスピードは、レールガンにまで匹敵するほどである。
 辛うじて避けるリカイン。もし超感覚によって微妙な空気の揺れを感じ取っていなかったら、間違いなくエネルギーの奔流に巻き込まれていた事だろう。
 しかし、この手の攻撃は発動後は隙だらけになる。
 両手の手甲を構え、跳躍し――
 ガシ、と彼女の頭が掴まれた。
 リカインよりも早く、攻撃直後に敵の方から前進してきていたのだ。さらに悪い事に、敵は宙に浮いている。
「早く、いかなければ……」
 傷付いた身体を起こし、ルイが白の兵士へと再び立ち向かう。
 しかし、そこでまたもや波動砲が放たれる。
「これでは……近付けません」
 渾身の一撃でも傷一つつかない機体。単純なパワーが強いだけではなく、原理の分からない攻撃の数々を繰り出す。
 ただの機械を相手にしているという意識など、どこにもなかった。

 その時である。

 ハンドガンによる銃声。放たれた銃弾は、白の兵士の機体に直撃した。この場に、PASDの本隊が駆けつけてきたのである。
「皆さん、無事ですか!?」