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リアクション
第四章
・芹沢 鴨
(やはり、そう来ますか)
優梨子の狙い通りの展開となった。
真っ向勝負を好む芹沢 鴨が、彼女目がけて突っ込んでくる。
「うらァァアア!!」
抜刀した刀を頭上に大きく振り上げ、一撃を繰り出す。
一方の優梨子は鴨の太刀筋を予測する。白兵武器の技能を習得している彼女にとって、力の剣である神道無念流の動きを追うのはそれほど難しくはなかった。
しかし、
「――速いッ!!」
太刀筋は読めた、だがそれを避けられるかは別問題である。斬撃の速度は優梨子の想定を遥かに凌いでいたのだ。
彼女は咄嗟に袖で隠した怪力の籠手で刃を受け流そうとする。
それでも、鴨の力によって籠手は壊され――
ブシャァ!
嫌な音が耳に響く。
袈裟斬りによる傷から血が吹き出た。しかし、身体を反らした事によりそれ自体は浅い。
問題はその後の切り返しだ。
下ろした刃を返し、鴨の刀が優梨子の胴を貫く。
「……何が可笑しい?」
鴨が声を漏らした。流血しながらも、優梨子は笑っていた。
「ふふ、やっと、捕まえました」
ブラックコートを解き、それまで封じていたアボミネーションで鴨に気迫をぶつける。今の彼女の状態と相まって、鴨の表情を歪ませた。
さらに、柔道の特技を生かし、鴨の動きを封じる。
「嬢ちゃん、死ぬのは怖くねぇってのか?」
「このくらいの方が、殺し合いも楽しいですから」
辛うじて優梨子を貫く刃は急所を避けている。
静かに微笑を浮かべると、封印解凍とドラゴンアーツで持てる力の全てを注ぎ込む。そして――
吸精幻夜。
鴨の首筋に噛みつき、体内の血液を飲み尽くすかの如く吸血する。
「ぐ、お、おおお!!」
完全に身動きを封じられた鴨。
このままいけば、鴨の命が尽きるのは時間の問題だ。
「俺もそう簡単にゃあ……くたばって……やれねぇな」
優梨子を抱きかかえるように、鴨が無理に身体を回転させる。力の全てを解放した彼女の力をもってしても、『互角』というところだったのだ。
床を転がりながら、優梨子の牙を振りほどこうとする鴨。だが彼女も譲らない。
瓦礫にぶつかり傷を増やしながらも、お互いになかなかこと切れない。力を緩めた方が負ける、それは明らかだった。
(そろそろ、まずいですね)
(ち、こりゃ思ってたよりヤベェな)
二人の進行方向には、傀儡師が遺跡に入る際に通ったダクトがある。無論、このままだと二人とも地下二階まで落下することになる。
この体勢のままでは助からないだろう。
次第に近付いていき、優梨子が先にその存在に気付いた。ならばすることは一つ。
「さようなら、鴨さん」
鴨の拘束を解き、ちょうど彼の背後の穴目がけ、思いっきり押し出す。その際に彼女に突き刺さっていた刀が抜け、血が噴出するが、そんな事は問題ではなかった。
「何ッ!?」
虚をつかれたかのように目を見開いたかと思うと、鴨はそのまま吸い込まれるように闇の中へと消えていった。
「今度は、私の、勝ち、ですね」
鴨が消えていった闇を見つめ、全身を朱に染め上げた優梨子が呟いた。出血量だけ見れば、いつ倒れてもおかしくないものの、リジェネレーションにより次第に傷が塞がっていく。
とはいえ、ものには限度がある。
「少々……疲れ、ました……」
バタリ、と優梨子は前屈みに倒れ伏せた。