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リアクション
・試作型兵器の威力
走り抜けた通路の奥。
そこはさながら武器庫のようだった。
「……すごい」
槍、剣、銃、鎚、杖、さらにはカタールや鉄甲のようなものまである。
「これだけ完全な状態で揃ってるとは、驚きましたね」
とはいえ、本当に使えるかどうかはまだ分からない。ワーズワースの研究のうち、第二次計画の産物とされるこの魔力融合型デバイスは未完成の技術だったとされるからだ。
「まずは試してみないとねぇ〜」
縁が銃型のデバイスを手に取る。
彼女は扉の前、戦闘の真っ只中に一度戻る。
「どうやら当たりだったようですね」
その様子を見て、幸が呟く。
「縁、試しにそれを機甲化兵に撃ってみて下さい」
幸が指示を出す。
「はいよぉ!」
とはいうものの、普通の銃とは異なるため、起動しなければいけないようだ。
「これかなぁ……」
センサーのようなものを見つけ、それに手をかざしてみた。
すると、銃に表面に走っている線が光を放った。それが起動の合図なのだろう。
引鉄を引く。
狙いはサンダーブラストを浴び続けて、表面が多少焦げ付いてきている機甲化兵だ。
ドンッ!
銃声。その音が縁の耳に届く前に、被弾した機甲化兵の装甲は粉々になっていた。
「……うそ?」
傷をつけるのにどれだけの攻撃をしなければいけないか。彼女にとって、機甲化兵とまともに戦うのは初めてだったが、その事は『研究所』での調べで判明している事だった。
退魔持ち、普通の剣では傷一つつかない強化装甲。それがたった一発で消しとんだのである。
「計測不能……ですか?」
幸が籠手型HCで戦闘データの解析を試みるも、機械の処理が追いつかないほどの速度と威力を誇っているがために、正確なデータを取る事が出来ない。
しかもそれでいて、使用者への反動は少ないようだ。普通の銃が同程度の威力だったら、両腕が吹き飛んでいてもおかしくはない。
「百ちゃん、みんな、あいつらの足止めお願い!」
その声に反応し、遙遠、陣、縁のパートナーの著者・編者不詳 『諸国百物語』(ちょしゃへんしゃふしょう・しょこくひゃくものがたり)が同時にサンダーブラストを唱える。
動きを止めた機甲化兵に対し、縁が一体ずつ手に持った銃型の魔力融合型デバイスで破壊していく。
ニ、
三、
四、
五、
ここまでは順当にいった。引鉄を引いた時にはもう敵が倒れている。属性はおそらく光輝。ただその威力は星輝銃とは比べ物にならない。
雷電しか効かないはずの強化装甲を容易く破壊している事から、それが窺えるだろう。
機甲化兵は残り二体。
しかし、ここで縁のデバイスが光を失う。
「エネルギー切れ!?」
撃ち出せたのは五発だった。一発の威力が大きいだけに、消耗も早いという事か。
それでも、彼女の成果は大きい。
「後はまかせて下さい!」
陣、遙遠達がとどめの電撃を放つ。
残りの機甲化兵達も煙を上げ、ついにショートした。
「まだですよ」
幸が指示する。
「機甲化兵の機体内にある人工機晶石を確保して下さい」
サンダーブラストを放っていた二人が倒れた機甲化兵に近付き、収まっていた人工機晶石を取り出す。
無傷なのは二つだけだった。残りは縁の放った弾丸(?)により、形も残らないほど粉々になってしまっている。
戦いが終わり、奥の間に入る一行。
「まずは傷を癒しませんと」
諸国百物語が、まずパートナーである縁にヒールを施す。
「ありがと〜、百ちゃん」
激戦だったために、全員の表情には疲れの色が浮かんでいる。
「また敵が出ないとも限りませんな。今のうちに出来る限り回復しておきましょう」
ガートナもヒールを唱える。
「しかし……」
遙遠が魔力融合型デバイスの『倉庫』を見渡す。
「これだけの技術を持ちながら、どうして全ての計画は隠蔽されたんでしょうね……」
それどころか、なぜ今まで見つからなかったのかも疑問である。
「銃型は縁姉さんが使ってみたいに使用制限があるみたいだけど、他のもそうなのかな?」
歌菜が今手にしているのは、槍型のものだ。とはいえ、同じものがベースになってはいるものの、司城によってカスタマイズされた紫電槍・改とは全く異なる形状である。
「この鉄甲型は俺でも使えそうだ。でも、これはどんな効果があるんだ?」
スパークが気になったのは、器の魔力融合型デバイスだが、他のものと異なり、攻撃の際どのようになるのかまるで想像がつかない。
とはいえ、この場で起動してしまったら、二度と使えなくなるかもしれないために、迂闊に試すことは出来ない。
「縁ちゃん、これを見て下さい」
「ん……これは」
試作型兵器に混じって、床の一角に一枚の紙が落ちていた。
「設計図……かしらねぇ」
古代シャンバラ語、しかも専門用語だらけではあるが、武器の構造が記されていた。無論、それを見たからといって再現出来るほど親切な書き方はされていない。
「持ち帰って解析してみれば、その図面の意味も分かるかもしれませんね」
リュースがそれを見遣る。
「でも不思議な事に、この部屋には武器はあっても、人工機晶石はないよな?」
陣が気付いた。
これだけの兵器が揃っているにも関わらず、動力源であり、魔力増幅炉の核であるはずの人工機晶石がどこにもないのである。
「あるとすれば、下の製造区画でしょうか。あちらで組み込んでいたのならば、下で造り、ここに保管したという事になります」
「それはあるかもな。取りあえず、持ってけるだけ持ってって、下も探してみようか」
陣が言う。人工機晶石も手に入れる事が出来れば、魔力融合型デバイスのエネルギー切れの問題を解決する糸口が見つかるかもしれないのだ。
「ではみなさん、一度未使用の状態でのデータを取るのでこちらに宜しいですか?」
幸が全員から、デバイスを回収しようとする。
「どうぞ」
「はいよぉ……おっと、真くんのためにも、せっかくあったんだから器のデバイスも持っていってあげないとねぇ」
縁がグローブのような形状のものを拝借する。射出口のようなものがついていることから、何らかの属性を帯びた鉤爪が出そうだ。
幸が形状や材質といった表面的に分かりそうなものから分析していく。
「詳しい事は解析してみないと分かりませんが、光条兵器にやはり仕組みは似ているようですね」
実際に現物を目の当たりにして、改めて実感する。
(姉様、本当に生き生きしてますね。やはり科学者としての性でしょうか)
目の前に存在する未知の技術を早く解明したい、という思いがあるのだろう。あるいは知的好奇心か。
「ある程度はデータが取れました。では、人工機晶石を探しに行きましょうか」
「もし戦闘で使うのであれば、ここでお渡ししておきますぞ。これも貴重なものなので、使わないのであれば私が預かっておきましょう」
ガートナが確認を取ると、使う者はいないようだ。
「あれ、そういえばカガチとなぎさんがいませんね?」
いつの間にか、一緒にいたはずの二人が消えていた。
「兄様、この近くに誰か……敵がいます」
シーナがディテクトエビルで察知する。
「傀儡師? 真奈、なんともないか?」
「はい、先日のような感覚はありません」
機晶姫である真奈に異変は起こらない。傀儡師がまだ機晶機械を操っていないだけなのか、それとも――
「どちらにせよ、敵も動き出しているようです」