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リアクション
・人工機晶石
「さーて、ここには何かありそうですね」
同じく地下三階、櫻井 馨(さくらい・かおる)がある部屋へ続く通路へと入り込んだ。
一歩踏み込むと、通路の照明が灯る。
「何事ですか?」
地下二階の魔力融合型デバイスに至る通路と同様であった。センサーに反応し、機甲化兵が出現する。数は五。
「マスター、数が多いです」
綾崎 リン(あやざき・りん)が静かに機甲化兵を見据える。
「でも、これは行くしかありませんよ」
どうやら一体を除き、近接型であるようだ。一番近くにいる機体に即、轟雷閃を叩き込む。
「先手必勝、ってね」
だが、びくともしない。今の彼の力では、そう簡単に倒せる相手ではなかった。
「マスター!」
その間に唯一の射撃型による銃弾が飛んでくる。轟雷閃を放った直後で馨は即座には対応出来ない。
リンが弾幕援護で、なんとか銃弾を相殺する。しかし、全弾は無理であった。
「く……!」
右足に着弾し、膝をつく。
と、そこへ新たな音が聞こえてきた。今度は敵のものではない。
「今回も手強そうですね」
赤羽 美央(あかばね・みお)だ。彼女はこの先にある物の存在を感じていた。
「またロボットデスカ。でも前の時みたいな強いのはいないみたいデス」
背後でジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)が美央に向かって呟く。以前遭遇したのは、初期ロットのナンバリングがされた機体だったのだ。しかも一体は雛型。
ここにいるものとはわけが違う。
「でも、これだけいると……厄介です」
五体を同時に相手にするには、この区画の調査チームの人数は少な過ぎた。
迫りくる機甲化兵。その刃が振り下ろされる。
金属音が響く。美央がファランクスからディフェンスシフトでそれを受け流した。続けざまに、轟雷閃を放つ。
その隙にジョセフが紅の魔眼によって魔力を強化、サンダーブラストを広範囲に向けて発動する。狙いは特に奥に控えている射撃型だ。射出口がある以上、電撃を浴びる率が最も高い。
(今のうちに……!)
防御態勢を整えつつ、美央は奥の扉へ向かって駆け出していく。機甲化兵が動き出しそうになった際は、後ろからジョセフがサンダーブラストによって援護する。
だが、それでも全部を止めるのは難しい。
(美央はまだデスカ!?)
そう思いつつも、ジョセフが足止めを続ける。それが幸いし、美央は扉の中に立てかけてあった一本の槍型の魔力融合型デバイスを手に取る事に成功する。
「……いきます!!]
構えを取り、槍を起動する。
以前は電撃を帯びたが、今回は槍先が蒼く輝いている――蒼炎槍、エミカの紫電槍・改に対しあえて名付けるならそうするのがふさわしい。
扉の近くいる射撃型に対しランスバレスト。機甲化兵の装甲はそれをもってしても傷一つつけられない。手にしているのが、普通の槍だったならば。
美央の持つ槍は機甲化兵の装甲を容易く貫いた、というよりは槍先に触れた部分を溶かしている。
そして機体内部に到達したのを感じると、思いっきり斬り上げた。
「すごい……」
その威力を目の当たりにした馨は、茫然とするしかなかった。最近では様々な武器が開発され、高い威力を誇るものは多い。それでも、目の前にあるものは規格外だ。
残りは近接型の四体。
「いつまでも呆けていてはいけませんね」
馨が立ち上がり、援護に回る。
「少しは頑張って下さいね、マスター」
「勿論ですよ、これでも教師なんですから」
ジョセフのサンダーブラストに合わせ、至近距離で轟雷閃を放つ。まずは足止めだ。
そこに、美央が一体ずつ斬り込んでやって来る。タワーシールドを構え防御態勢を整え、緩慢になった敵の攻撃をかわす。その隙に魔力融合型デバイスで一気に勝負をつける。
試作型兵器を手にした彼女にとっては、機甲化兵の装甲を斬るのもケーキを斬るのも変わらない。
あっという間にその場にいた機甲化兵を全て倒し終えていた。
しかし、ちょうどこの時魔力融合型デバイスの方も寿命が来たようだ。以前と同じように、光を失う。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとうございます」
美央が機転を利かせなければこの場の機甲化兵を全て倒すのは難しかっただろう。
「……どうにも、長時間は使えないみたいですね」
威力は絶大だが、長期戦には向かない事が分かった。実戦投入を断念したのも頷ける。
「それは、まだありましたか?」
「いくつかは……でも、少ないですね」
奥の扉の中には、この試作型兵器の数は少なかったようだ。急いでいたため確認し切れなかったのかもしれないが、それでも地下二階の『倉庫』ほど多くはない事に間違いはないだろう。
事実、魔力融合型デバイスはほとんどなかった。
扉の中には、まだ人工機晶石が組み込まれる前の部品がほとんどであり、美央のものも含めたところで完成品はニ、三程度だ。
「おや、これは……」
馨が何かを見つける。結晶体のような物質だった。どうやら魔力融合型デバイスに組み込むためのもののようだが……
「それが人工機晶石ではないでしょうか?」
同じ室内には、それが大量に保管されていた。それが抜けている武器がある事から、ほとんど間違いないようだ。
おそらく、組み立ては機械で行い、人工機晶石を組み込む作業は手で行っていたのだろう。
「両方とも持ち帰りますか」
手持ちのケースに人工機晶石と、それを組み込む前の魔力融合型デバイスを入れる。
「私とジョセフも持っといた方がいいですね」
完成品と思われるものを美央とジョセフは手に取る。人工機晶石も、一つずつ持っていく事にした。
「使う時は慎重にしましょう。あくまでも切り札のつもりで」
強大な力を持っているが使用可能時間が短いため、もしこの先使う場面がこの先あるのなら、よく考えなければならない。
「デモ、ここに人工機晶石があるのナラ、完成品をどこかに保管しているのではないデショウカ?」
ジョセフがその事に気付いた。
「……そうですね。もう少し探してみましょう」
その場所は地下二階にある。
(奥に行く人は多いだろうから、何人かは使えた方がいいですよね)
急いでその完成品のある場所を探す為、彼女達は動き出した。
* * *
PASD本隊の後方、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)とエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)はきょろきょろと辺りを見渡しながら、探索をしていた。
「……工場みたいな場所だったわりに、武器とか見当たりませんね」
その理由としては、ほとんど彼らがPASD本隊に追従していたからだ。地下一階での激戦を考えれば、彼らの実力での単独行動は自殺行為に等しい。
「せめてそれを手に入れれば妾達も戦えるかもしれんのにな」
エクスがPASDのデータベースを熟読していたため、魔力融合型デバイスがどれほどのものかは判明している。
「あれ、なんで逆行しているんでしょう?」
ちょうど彼らの目に、美央達の姿が映った。彼女達は上階の『倉庫』を目指していた。
「何かに気付いたという事だろう。もしかしたら、何かがあるかもしれん」
追いかければ魔力融合型デバイス、彼女達が来た方向へ行けば人工機晶石。
「追いかけましょう」
決断する。
この選択は概ね正しかっただろう。
人工機晶石は、彼らにとっては扱いに困る代物だ。それに、元々唯斗が求めていたのは武器である。
これが一つの分岐点だった。
もし、このまま本隊に続いていたら、ただでは済まなかっただろう。
この先では、地下一階の機甲化兵とは比べ物にならない強敵と遭遇せざるを得ないのだから。