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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション


・分析


地下三階。
(出来る限り無事な装甲が欲しいけど……)
 製造所フロアをアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が探索していた。
 彼女の目的は機甲化兵との遭遇であり、それ自体は最初の地下一階で果たした。ところが、あまりの激戦のせいで自分の目的が達成できなかったのである。
(さすがにあの状況じゃあね……)
 目線の先。
 おそらく索敵モードの機甲化兵の姿があった。剣士型である。
(あれ一体ならいいんだけど)
 機甲化兵一体の強さがどの程度か、『研究所』の最深部を経験している彼女には理解出来ていた。
 あの時よりも強くなったとはいえ、下手に勝負を挑んではいけない相手である。
(無傷な装甲を確保するのは、今がチャンスね)
 幸い、物陰からならばセンサーに反応されずに奇襲を仕掛けられそうだった。
 静かに接近し、アリアが機甲化兵の右腕の関節部分に轟雷閃を叩き込む。
(一発じゃやっぱりダメね)
 一度刃を抜き、雷術を流し込む。無論、胴体の中にいくようコントロールし、肘より先を傷付けないように。
 あとは関節の強度を極限まで落とし、轟雷閃。
 機甲化兵の剣を持った腕が地面に落ちる。
 それを回収し、機甲化兵の前から撤退する。剣士型の弱点は、背後からの奇襲であった。センサーに反応している限りでは、接近戦でも隙がない動きだが、今回はそうはいかなかったようだ。量産型だったのも幸いだろう。
 もし、これが『研究所』にいた雛型――クワトロだったらこうはいかなかっただろう。
 再び物陰に戻り、強化光条兵器であるブライトグラディウスで回収した装甲を全力で貫こうとする。
(――っっ!!)
 だが、びくともしない。
 本体から離れた事で、退魔の力こそなくなっていたが、それでも光条兵器を受け止めるくらいの装甲強度は元からあったようだ。
(これなら使えそう)
 ただ、剣を持った状態では腕だけとはいえさすがに重かった。振り回す事には向いていない。
(武器は装甲とは違ってそれほど堅くないのね)
 剣は決して魔力融合型デバイスのような特別なものではなかった。しかも機甲化兵用のため、見た目以上に重量があり、それこそ熊のような大男でもない限りまともに扱えないだろう。
(仕方ないけど……)
 握られていた剣をその場に置き、腕を持ち上げる。剣がなければ彼女でも振り回せるくらいの重さにはなった。
 それを抱え、アリアは遺跡の中を進んでいく。

            * * *

「資料はあったけど、人工機晶石とか、魔力融合型デバイスとかは見つかってないのかな?」
 朝野 未沙(あさの・みさ)が呟いた。
「見つかったらきっと連絡が来てるはずですぅ」
「でも、さっきから無線の調子が悪くて聞き取れないの」
 朝野 未那(あさの・みな)朝野 未羅(あさの・みら)が応じる。彼女達朝野三姉妹は、PASD本隊に紛れて行動している。
 しかし、ここで無線の調子が悪い事に気付く。先頭を行く組は地下四階に到達したはずだが、その辺りで急に無線が効かなくなったのである。
「未羅ちゃん、なんともない?」
「大丈夫なの」
 話に聞いた傀儡師の仕業なら、未羅に「兆候」があってもおかしくない。見た目はガーネットと同様普通の人間と変わらないが、彼女も機晶姫なのだ。
「……なんだろう?」
 おそらく、他の面々も気付いている事だろう。
 そんな彼女達の目の前に機甲化兵の姿が飛び込んできた。
「まだいたのね。あれ……腕がない?」
 未沙が気付いた。近接型だが、片腕の肘から先がなかった。それ以外はほぼ無傷である。
「ちょうどいいですぅ」
 地下一階といい、PASD本隊といい、調査チームの割には火力の強い者が多い。損傷の少ない機体を手に入れる絶好の機会だった。
 未那が欠損した腕から雷術を流し込む。それにより、中の回路を一時的にショートさせる。
「よし、これは持ち帰りだね」
 ヘキサポッド・ウォーカーに機甲化兵を乗せる。ただ、その前にやっておくことがあった。
「確か中の機晶石を取らないとまた動くんだよね。うーん……」
 機晶技術を用いて考えてみる。
「未羅ちゃん、ちょっと手伝って」
 未羅にピッキングで装甲の一部を外すように指示する。形状からして、メンテナンス用にどっかからなら開けられるはずだった。
 機晶技術に加え、機械修理の特技も幸いし、なんとか傷付けずに装甲の一部を外す事に成功する。
 内部には人工機晶石が無傷の状態で収まっていた。
「傷付けないように、と」
 慎重に外していく。それを持ち帰って再び取りつけて動くように出来るかは別として、機甲化兵の無力化にはなんとか成功する。
「よし、下へ行こう。ガーネットさんはかっこいい美人って感じだけど、ここにいる五機精はどんな子なのかな?」
 機晶姫に思い入れがあり、可愛い女の子が好きな彼女としては、胸の高鳴りを抑えずにはいられなかった。