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リアクション
・エミカとガーナと探し人
「中はどうなってる〜のっかな〜」
遺跡突入の前、エミカ・サウスウィンド(えみか・さうすうぃんど)は好奇心を抑える事が出来ず、そわそわしていた。
「遊びじゃないんだから、もうちょいと気を引き締めてくれよ」
傍らでエミカを心配しているのは黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)だ。春休み以降、何かと彼女に振り回されっ放しの被害者ではあるが、だからこそ彼女の性格もある程度把握している。
今回は自分から心配してこちらへ来たのだ。
「んー? 大丈夫だよ。あたしがこれでガーナを守るんだから」
エミカが得意げにちらつかせたのは、彼女の専用武器【紫電槍・改】である。
「そんな簡単にはいかないと思うんだけどなぁ……」
にゃん丸は『研究所』の事を思い出していた。彼にとっては久しぶりの遺跡探索であるが、あの時のような強力な存在と対峙する事になると考えると背筋が寒くなる。
これは知っている者とそうでない者の差であろう。エミカは相変わらずニコニコとしている。本人やリヴァルト曰く相当腕はいいらしいが、未だに誰も彼女の実力は知らない。
「……で、エミカ。何でこの人を連れて来てんだ?」
篠宮 悠(しのみや・ゆう)が赤い髪の長身の女性を見遣る。ガーネットだ。
「だってガーナなら友達の顔だって分かるでしょ。五千年振りなんだから、早く会いたいよねー」
微笑みながらガーネットの方を振り向くエミカ。
「まあ、数少ねー同類だからな。それに、どっちも寂しがり屋だ。二人で一人、みたいな感じだったもんなぁ……」
遠くに視線を送るガーネット。さながら、昔の光景を思い浮かべるかのように。
「んなこと言っても、五機精の一人で狙われてるんだろ?」
悠は呆れ気味だ。しかし、反論したのは他ならぬガーネット本人だった。
「あのいけ好かねーヤツさえ来なきゃ問題ねーよ。あたいを舐めてもらっちゃあ困るぜ」
彼女は狙われている自分が守られるべき「弱い」存在であると思われたくはないようだった。
「機械の兵隊の一体や二体なんて、軽いもんだ」
実際、彼女は本来の三割程度の力しか発揮できないとはいえ、片手でトラックを吹き飛ばすくらいは簡単にやってのけるほどだ。
空京大学で行われた身体検査において裏付けがなされている。
「ですが、あの傀儡師がこの前ので引き下がったとは思えません」
九条 風天(くじょう・ふうてん)がガーネットに警戒を促そうとする。ツァンダでガーネットを行動不能にまで陥れた傀儡師が再び現れたならば、また彼女が危険に曝されるのだ。
「ガーネットさんがボクらよりも大きな力を持ってるのも分かります。それでも、あの傀儡師とは相性が悪い。ならば、くれぐれも無理はなさらぬようにして下さい」
彼が一番懸念しているのは、ガーネットが疲弊した時に傀儡師が現れる事だ。そうなった場合、彼女が傀儡師による「介入」に抗えなくなってしまうかもしれない。
「ここは俺達に任せて下さい」
影野 陽太(かげの・ようた)が、ガーネット達の守りを固める。防衛計画、要人警護によって彼女を取り巻く者達で陣を組む。
準備は着々と進んでいく。
「エミカ、ガーナ、ちょっといいか?」
そこへ鈴木 周(すずき・しゅう)が声を掛けた。
「なーにー?」
「実は、俺とエメは人を探してるんだ」
「この前もそんな事言ってただろ? 何改まってんだ?」
ガーネットはツァンダで一度エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)と人を探しているという話をしている。
「私が探している人と、ガーナさんが教えてくれたリオンという名前の子は多分同じ人です。合成魔獣ベヒーモスがいる場所で、あの子に出会いました」
ガーネットが目を見開く。
「そうか、リオンだったのか。でも探してるってのはどういうことだ?」
「あの子のいた遺跡が光に巻き込まれる時に……気がついた時にはどこにもいませんでした」
目を伏せるエメ。
「だけど、あの傀儡師とやらは『黒いドレスの女』と『銀髪の魔女』って言ったんだ。俺が探してるのは、ノインっていう銀色の髪をしたねーちゃんだ。二人とも絶対生きてる!」
周はさらにこれまでの経緯を話す。
『研究所』でノインに出会い、彼女の助けで今自分達がここにいること。
転送の瞬間に彼女の手を確かに握って離さなかったこと。
深い傷を負っていたので、いち早く助けたいということを。
そしてエメもまた打ち明ける。
モーリオン・ナインに重傷を負わされてもなお、彼女から逃げなかったこと。
苦しむ彼女を助けたいと思ったこと。
早く見つけて、普通の女の子として生きるための手伝いがしたいということを。
「……あたいが眠ってる間に、そんな事になってたのかよ。そのノインって呼んでんのは無表情で全く喋んねーあの助手のねーちゃんだろうな」
ガーネットは大体理解したようだった。
「いいぜ。あたいに出来ることだったら手伝ってやるよ。向こうだってあたいの事は知ってんだ。仲介くらい任せとけって」
ドン、と自分の胸を叩き、歯を見せて笑う。どこまでも仕草が人間臭い。元が人間なのだからかもしれないが、その姿を見ていると、彼女が五千年前に造られた機晶姫である事を忘れそうになってしまう。
「会えるよ、きっと」
エミカが言う。その声は、普段はしゃぎ気味の彼女にしては落ち着いていた。
「もう、男だったらウジウジしない! 自分で『いる』って信じなかったら見つかるものも見つからないよ!」
次の瞬間にはいつもの調子で、周とエメに活を入れる。
「それに、似た者同士は引きつけ合うなんてよく言うじゃない?」
エミカが楽しそうにガーネット、エメ、周を見比べている。
「まあ、みんな何かを探してるってんだから似てるのかもな」
ガーネットも一緒になって笑っている。
「待ってろよ、ノイン、リオン! 俺達が迎えに行ってやるぜ!」
二人に触発されたのか、気合を入れる周。
「張り切るのはいいけど、ほんとに無茶はしないでよ、周くん」
いつもながら、そんな周を横目でレミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)が見ている。
このようなやり取りが行われている中、いよいよ斥候役として遺跡内部に入っている沙幸達から連絡が入る。
攻撃準備が出来た者達が、第一陣としてちょうど侵入するところだった。
「そろそろ突入だけど……傀儡師はガーナさんを見るまでは操れなかったんだよね?」
にゃん丸が確認を取る。
「さあな。ただ、意識を向ける必要くらいはあんじゃねーのか。機甲化兵なんて、見た目で操れるって分かってたわけだから見なくても操れたみてーだし」
実のところ、傀儡師の機晶石操作の方法は分からない。
「ガーナさんだと気付かせなければいいってことか。と、いう訳でガーナさん変装……嫌?」
「嫌じゃねーけどよ、そんな小細工通じねーだろ。目視っつったって身代わり人形で見てたんだから、あんまし関係ねーよ」
もしかしたらこの瞬間もどこかから見ているかもしれない。ただ力を使っていないだけで。
その時、地下から戦闘音が聞こえてきた。第一陣が機甲化兵との戦闘に入ったらしい。
「よーし、それじゃあ……」
エミカが紫電槍・改を掲げ、叫ぶ。
「とつげーき!!!」
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