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リアクション
第一章
・愉快な仲間達
「はーい、みなさんこっちですよ〜。ちゃんとついて来てますか〜?」
その声だけ聞けば、あたかも遠足で子供達を引率しているような風景が浮かぶだろう。しかし、それは固定観念に過ぎない。
なぜなら――ここは半迷宮化した遺跡で、しかも声を発しているのがピエロだからだ。道化師姿のナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)がこの迷宮を先導している。後ろに続くのは見目麗しき乙女達だ。それが一層、場違い感を演出している。
現在地は地下一階。根の浸食によって崩落した階段を飛び越えて降り、しばらく歩き続けていた。
「おーい、ほんとに全員いるか?」
呼びかけに応える気配はない。ナガンが立ち止まったからなのか、それとも今いる場所がそれなりに広いスペースだからなのか、各々休憩モードに入っている。
「あ、そういえば挨拶がまだでした。あたし百合園女学院の七瀬 歩です。よろしくお願いしますねー」
「この前もだけど、よくあたしがいるのに来る気になったわね。まあ、よろしく」
七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が初対面のメニエス・レイン(めにえす・れいん)に挨拶をする。応じるメニエスの方はそっけない。それでも、ちゃんと返すあたりは百合園に対して多少の行為を持っているからだろう。
二人の間に距離があるのは、メニエスの契約者であるミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が、じっと歩の方を見据えていたからだ。
その一方、神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)が周囲を見回しながら、状況を把握しようとしている。
「今のところ、魔力汚染が身体に及ぼす影響は少ないようですわね」
この場の者が――魔道書や魔法使いでさえ異常をきたしてないため、そう判断出来る。しかし、魔力や電波の計測器を身に着けているパートナーのプロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)が感知した汚染指数を見ると、高い数値を示している。
「ですが、魔法の類は使わない方がいいでしょう。何が起こるか分かりませんわ」
どうやら体感出来る汚染濃度と、実際の汚染具合には開きがあるようだった。
(この感じ、あの遺跡でも確か……)
そわそわとしながら、御堂 緋音(みどう・あかね)がその感覚を思い出す。それは、一月の『研究所』の中で感じたものと似ていた。
――守護者ノインの発していた魔力の波動。
そこから導かれる可能性は二つ。
ノインのような守護者が存在しているか。
魔導力連動システムによる魔力の残滓が漂っているか。
そのどちらかだろう。
(守護者の可能性は薄いですね)
一つ目を否定する。ノイン自身、自分以外に成功例はいないと言っている。それに、「汚染」という形なっている以上、コントロールする者がいない事になる。
「おーい、休むのはまだはえーぞ」
ナガンの声が響く。
「ねーナガン、さっきから気になってたんだけどさ」
桐生 円(きりゅう・まどか)がナガンに問う。
「本当にこっちであってんの? なんだか同じ場所をぐるぐる回ってる気がするんだけど」
「気のせいだろ。根がそこらじゅうにあるせいでそう見えるんじゃねぇのか?」
グール二体を先行させ、警戒がてら道を確認させてもいる。
「ええ、少しずつですが、着実に進んではいますわ」
エレンの分析では、遠回りになってはいるものの、魔力を持つ何かに近付いてるということだった。
「元々、このフロアは広間のような場所だったようじゃ。木の根以外に壁がほとんど見られないのはそのせいじゃろう。壁沿いにに行けば問題はなさそうじゃな」
エレンのもう一人のパートナー、フィーリア・ウィンクルム(ふぃーりあ・うぃんくるむ)が裏付けをする。歩いている間、分析を進めていたようだ。
ナガンの進行方向には壁があり、そこを伝うように進んでいくと、その推測がほとんど的を射ていた事が分かった。
下層への階段へと差し掛かったのである。運が良い事に、こちらは浸食による崩壊少なく、簡単に降りられそうだった。
「ん、先に何かいるみてぇだぜ」
先行させているグールが、何かに接触したようだった。しかし、殺気看破で気配を感じようとしても、何ら効果がない。
その理由は、地下二階に差し掛かってすぐに分かった。
「これは、どうなってんだ!?」
ナガンの目に飛び込んできたのは、機甲化兵の姿だった。ただ、それは微動だにしない。
壊れているのだ。
それも、奇妙な壊れ方だった。装甲が木の枝に貫かれており、その枝は天井に突き刺さっている。
「おかしいですわね。上層は、森の浸食だから根が天井から下層に向かってましたわ。でもこれは、地下から木が生えてきたみたいですわ」
それも、ただの木ではなさそうである。機甲化兵の装甲を貫くほどの頑丈さを持ち、細身の人間の身体ほどの太さがある枝は、まるで大樹を想起させる。
「いえ、本当に生えているみたいですわね。下まで行けば分かるでしょうけれど……これも、魔力汚染の影響でしょうか」
違和感は拭い去れない。
周囲には他に機甲化兵のような姿はない。地下一階とは異なり、通路が広がっている。木の枝や根が邪魔をしているものの、何とか進めそうである。
「…………!?」
だが、斥候するナガンが一瞬前進をためらった。敵意ではないにしろ、女王の加護によって遺跡内に起こった何らかの「変化」を感じたのだ。
それはこの先からではなく、上階からもたらされたものだった。
「こりゃあ、ちっと急いだ方が良さそうだぜ」
トラッパーで罠がないか調べながら、メンバーを先導していく。ここまでと同じように、自ら使役するグール二体を全面に押し出して道筋を確かめている。
安全だと分かると、一行は奥へ奥へと進んでいった。
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