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【十二の星の華】想う者、想われる者

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【十二の星の華】想う者、想われる者
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第5章


 洋館の中ではホイップとティセラを探す人達が走り回っていた。
 地下室への扉を一番に発見したのは夜薙 綾香(やなぎ・あやか)アポクリファ・ヴェンディダード(あぽくりふぁ・う゛ぇんでぃだーど)だった。
 皆の目を掻い潜り、そっと扉のある廊下へと入る。
 慎重に扉を開けると、綾香は喉元に幻槍モノケロスを突きつけられた。
「私達は敵ではない。むしろ味方だ」
 綾香はそう告げるが、幻槍モノケロスを突きつけている祥子は下げる様子がない。
「敵意は本当にないようですから、武器を下げてもらって大丈夫ですわ」
 ティセラの言葉を聞いてやっと武器を下げた。
 綾香とアポクリファは扉の中へと入り、後ろ手に閉めた。
 綾香は入るなり、ティセラへと近付く。
 巽や祥子はその様子を注意深く見守る。
 何かあればすぐに攻撃を仕掛けられるように。
「質問がある。お前は、洗脳した者を仲間になったと本気で思っているのか? そもそも、何故お前に敵対する十二星華が居るかを、その理由を考えた事はあるのか?」
 綾香は瞳から生気を感じられないホイップを見てそう言った。
「皆、今は何が正しくて何が間違っているのか、分からなくなっているのですわ。あとでわたくしが正しいとわかりますわ。そう……今はわからないだけです」
「今の状況に関しても、だ。総大将のお前が足止め、シャムシエルが玄武甲を持っていく、と言うのは役割が逆じゃないのか?」
「玄武甲に関しては、シャムシエルを信頼して任せただけですわ」
 ティセラの答えを聞き、玄武甲の光に包まれたときのティセラを思い出す。
(あのときのティセラが本物だとしたら……今までティセラのやってきたことは容認できない……だが、一緒にいてやりたい)
「やはり、私はティセラの味方だ」
「アポクリファもマスターがそう言うなら〜、ティセラさまの味方ですぅ」
 綾香とアポクリファの言葉をティセラは嬉しそうに受け取る。
 会話が終わったところで扉が勢いよく開いた。
 部屋の中へとなだれ込んできたのはホイップ捜索をしていた人達だ。
 エル達はホイップを見つけると石化が解かれていることで安堵した表情をしたが、すぐに気を引き締める。
 ホイップはティセラ達のまん中に居て、連れ出すのは難しそうだ。
「あの実は……お願いがあって来ました」
 一歩前へと出たのは影野 陽太(かげの・ようた)だ。
 ティセラの前へとビクビクしながら出ていく。
「その……ホイップの石化が解かれているので……その、石化解除の方法を教えてください! なんの対価もナシにでは無理だと思うので、こんなものを――」
「それを解いたのはシャムシエルですわ」
 陽太はカバンから何か出そうとしていた手が止まった。
「そうですか……」
「ええ」
 その返事を聞くと、陽太は早々に退散していった。
(命があっただけで儲けものですよね)
 そう心の中で自分を納得させ、走って行った。
 祥子や巽達はすでに戦闘態勢に入っている。
 ナナリーは部屋の隅で犬のシェルティの首輪に何かを付けていた。
 それが終わると、ただ立っているだけで構えることも防御の態勢もとっていない。
 真ん中にいるホイップも戦闘態勢に入っている。
 救出にきた人達に敵意を持っているようだ。
 その様子にエルはショックを受けているようだ。
 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は部屋に入ってからずっとビデオカメラを手にして、ティセラ側の面々を撮り続けている。
 その後ろをマタタビ酒の瓶を片手に酔っ払っている麗華・リンクス(れいか・りんくす)がいた。
「そこが空いてる」
 走り出たのは橘 恭司(たちばな・きょうじ)だ。
 ナナリーの横をすり抜ける。
 ホイップは防御の姿勢を取ったが、恭司がやったことは手に持っていたしびれ粉をホイップの顔に投げつけることだった。
 ホイップが麻痺したのを見ると、すぐに肩に担ぎ、敵陣から出た。
 優希は煙幕ファンデーションを投げつけ、ホイップを追えないように手助けする。
 恭司はそのまま味方の防衛ラインを突破し、扉を出る。
「ふはははははっ!」
 他にも扉を出てきたのは面白い笑いをしている冥土漢の催眠が掛かった状態の武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)だ。
 恭司が廊下に置いておいた段ボールを組み立てている時にリリィはホイップを瞬時に着替えさせていた。
 段ボール箱が完成すると、着替えたその格好のまま段ボール箱へとホイップを詰めてしまった。
 呆然としているエルを牙竜が抱え、脇をメイベル、セシリア、フィリッパ、リース、ノワールが担当し、一番後ろを藍澤 黎(あいざわ・れい)が固めて外へと走って行った。
 ホイップを部屋から出す事には成功した。
 だが、ナナリーの飼い犬シェルティだけは後を付けていた。

■□■□■□■□■

 ホイップが連れ去られた部屋の中では少しずつ煙幕が晴れていく。
「ホイップは大事な仲間です。返していただきますわ」
 ティセラはそういうとビックディッパーを構える。
 動いたのはナナリーだった。
「我が君、仰いましたよね。敗残者になれと言うのかと。それでも私は貴女様に危機が迫れば逃がします。弱小なだけの愚か者かもしれないけれど私には大切な人を失って生きるだけの力が無い……ですから我が君、お願いを2つ。弱く愚かな私の為に戦えと、御命令を」
 とスケッチブックに一気に書いたものを見せる。
 そして予め禁猟区を掛けておいたトルコ石付きアンクレットをティセラに渡した。
 トルコ石は5月10日の誕生石。
「では……一緒に戦ってください」
 ティセラはアンクレットを受け取ると、すぐに返事を返す。
「もう1つは……『邪魔な時は必ず殺して下さい』」
 そう書くと、ティセラに見せた。
 ティセラが何か言おうとしたのだが、それを聞かずにナナリーはウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)の方へと走って行った。
 ディテクトエビルとアシッドミストを発動させ、部屋の中は視界がまた悪くなる。
 ナナリーはブラックコートを着、気配を隠してウィングの背後から近づく。
 しかし、背後をとったように思えたのだが、ウィングの方も穏行を使用しており、位置がつかめなくなってしまった。
 ウィングはティセラのそばまで近づくとその身を蝕む妄執を発動。
 アムリアナ女王の幻を見せた。
「冷静ではいられないでしょう?」
 ウィングがそう呟いたときだった。
 ウィングの背筋を冷たいものが走る。
「ええ、とても冷静でいられる自信がありませんわ」
 ティセラはビックディッパーを横に薙いだ。
 目にもとまらぬ速さで、悪寒を感じ避けようとしたウィングがさけることが出来なかった。
 ウィングの肩から肩までの一直線に傷が出来た。
「そん……な……」
 一拍置いて、傷口から大量の血が噴き出す。
 霧が少し晴れてくると、ティセラの足元には出血が酷いウィングが転がっていた。
「れ、レイラさん! アンジェリカさん!」
 慌ててグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)が叫ぶ。
 その声に応じてレイラ・リンジー(れいら・りんじー)がグロリアとともにウィングの元に駆け寄り、アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)はヒールの呪文を唱え始めた。
 ティセラはさらに駆け寄ってきた2人を攻撃しようとビックディッパーを振り被る。
「やぁティセラくん、こんにちは。キミのために来たよ、キミを止めるためにね」
 ティセラの前に躍り出たのは円だ。
 その隙にウィングをグロリアとレイラが運び出す。
「大丈夫!?」
 ヒールの呪文が唱え終わったアンジェリカが声を掛けながら治療していく。
「どいて下さい。友人となったあなたでも容赦しませんわ」
「そう友達。だから友達が不利益な状況になりそうな時止めるのは当たり前だよ?」
(ティセラくんの玄武甲の様子が本当なのなら……きっとあとで後悔するよね)
 円は弾幕援護を使用した。
 それでも振り被ってきた、巨大な刃。
「ティセラちゃんおいーっす」
 上から降ろされた刃をキマク盾で受け止めたのはミネルバだ。
 ナナリーがそんなミネルバを後ろから攻撃しようとする。
「こんな状況の人に攻撃なんてダメよ〜」
 黒薔薇の銃をぶっ放してきたのはオリヴィアだ。
 銃はナナリーの腕をかすめた。
 ナナリーは足元がおぼつかなくなり、部屋の壁にもたれかかる。
 必死に眠気と戦っているようだ。
「さっきからちょろちょろと邪魔ですわ!」
 盾で止められ、いったん下がったティセラが次の標的に選んだのはまだカメラを回していた優希だ。
「ヒック……あぶないねぇ」
 酔っ払った……いや、酔っ払ったフリをしていた麗華が優希の首を掴むと、一目散に逃げ出していた。
 部屋を無事出るまで全力疾走をした。
 部屋の中はティセラ側、断然有利な状況となってしまっている。