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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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「急げ。ここはもう撤退だ」
 取り残されていた海賊たちをまとめて、ジャジラッド・ボゴルが、ジェンナーロ・ヴェルデたちの乗っ取った船を目指していた。
「ようこそ、HMSへ。ここは安全な独立主権国家である。武装を解除するならば快く受け入れよう」
 ジェンナーロ・ヴェルデの言葉に、集められた海賊たちは戸惑いを隠せなかった。
「ゾブラク・ザーディア嬢とは、すでに同盟関係にある。安心して乗船するがいい」
 ジェンナーロ・ヴェルデが、でまかせで海賊たちを信じ込ませようとした。態度を合わせたシセーラ・ジェルツァーニ(しせーら・じぇるつぁーに)とグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが海軍式の敬礼をする。操舵輪についたローザマリア・クライツァールもそれに倣った。
 シルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)とルクレツィア・テレサ・マキャヴェリの姉妹は、出港に際して海からの攻撃を警戒して再びシャチの姿に戻って海中にいた。
「このままじゃ計画は失敗だ。ここはエリュシオンにでも亡命して再起を図ろうぜ」
 ジャジラッド・ボゴルが、躊躇する海賊たちの背中を押した。
 半信半疑状態ながらも、取り残されてはかなわないと海賊たちは次々に船に乗っていった。
 ジェンナーロ・ヴェルデたちの計画は順調に進んでいるように思われた。このまま海賊たちを取り込んでしまえば、将来的に便利な勢力を支配下におくことができる。ただ、現在の不安材料としては、海賊の頭領と交渉にいった九弓・フゥ・リュィソーが未だに戻ってきていないということであった。
 その不安が的中したかのように、大きな船の影がジェンナーロ・ヴェルデたちの乗る海賊船の上に落ちて日の光を翳らせた。
「全艦に告ぐ。これより移動を開始する。この場にいる敵を蹴散らし、目標へとむかい、それを撃破する。旗艦、ヴァッサーフォーゲルに続け!」
 ヴァイスハイト・シュトラントの声が、ヴァッサーフォーゲルの拡声器を通して響き渡った。
 おおうと歓声があがり、まだ無事な五隻の大型海賊船と、十隻ほどの中型海賊船が空中に浮上してヴァッサーフォーゲルの周囲に立体的な陣形を展開した。
「そこの船、なぜ呼応しない」
 めざとくジェンナーロ・ヴェルデたちの船の不審な動きに目をつけて、ヴァイスハイト・シュトラントが問いただした。
「この船は、我々が独立国家とした。我が国は何人にも侵されない独立性を有し……」
「どうやら、敵の手に落ちたようです」
 いかがしますかと、ヴァイスハイト・シュトラントが、ゾブラク・ザーディアにうかがいを立てた。
「ふん。自らの手勢を引き連れて共闘を申し込んでくるならまだしも、人様の部下をたらし込んで船を奪うなんざ許せないね。簡単にやられて靡く奴らも奴らだ。沈めておしまい」
 ジェンナーロ・ヴェルデの言葉など欠片も耳を貸さず、ゾブラク・ザーディアが殲滅を命じた。絵空事を現実にしたいのであれば、それなりの力を見せるべきだ。たかだかちっぽけな海賊船を奪ったぐらいで、国を乗っ取った気になられても笑う気にすらならない。
 ゾブラク・ザーディアは自分のことは棚にあげて、渋い顔を作って見せた。
「ちょうどいい試射だ、艦首光条砲の標準を敵船にあわせろ。ダウントリム五度。出力一パーセント。収束率最大。姿勢固定。じっくりと狙え、外すなよ」
 てきぱきとヴァイスハイト・シュトラントが命令を与えていった。
 ヴァッサーフォーゲルが艦首の砲口を停泊しているジェンナーロ・ヴェルデの海賊船にピタリと合わせる。発射可能な最低限のエネルギーがチャージされ、光条砲が砲身冷却装置などの起動で微かな光を帯び始める。人の可聴範囲を超えた高周波が響き渡った。
「何、この殺気は……」
 異様な雰囲気に、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーが全身を緊張させる。
「キュイ、逃げて!!」
 獣人としては耐え難い音に、ルクレツィア・テレサ・マキャヴェリが叫んだ。
「みんな、海に飛び込め!」
 ほとんど本能と言える危機感でローザマリア・クライツァールが叫んだ。
「今回も帰還できるのは俺一人になりそうだな」(V)
 ジャジラッド・ボゴルがつぶやきつつ海に飛び込んだ。
 ジェンナーロ・ヴェルデたちも迷わず海に飛び込んでいく。こういうとき躊躇した者は命を落とすのだ。
 直後に、糸のように細い一条の青白い光が海賊船を貫いた。貫通した光条が船底近くの海水を沸騰させ、水蒸気の力であっけなく船をひっくり返す。
 それを合図として、隊列を組んだ海賊船から一斉砲撃が転覆した船に浴びせられた。
 あっと言う間に、海賊船だった物が、ただの細かい板きれにまで分解される。
「何よ、あれは。まだあんな戦力が残っているの!?」
 あんな光線砲などはクイーン・ヴァンガード本部から聞いてはいないと、リカイン・フェルマータが目を丸くした。すぐに気をとりなおして、ヴァッサーフォーゲルを沈めようと考えるが、随伴艦に守られたヴァッサーフォーゲルは、容易に近づけはしなかった。
 
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「やっと間にあったか。お嬢ちゃんは、ちゃんと乗っているんだろうな」
 ヴァッサーフォーゲルの勇姿を見て、シニストラ・ラウルスが一瞬動きを止めた。その一瞬を見逃さず、久世沙幸が死角から手裏剣で切りつけてくる。シニストラ・ラウルスは、ナイフでその攻撃を弾いて応戦した。
「こら、離れなさい!」
 小型飛空艇に乗った雷霆リナリエッタとベファーナ・ディ・カルボーネが、シニストラ・ラウルスを守って間に割って入ってくる。
 久世沙幸が自分の小型飛空艇に戻ろうとするところをベファーナ・ディ・カルボーネが火球で狙うが、空飛ぶ箒に乗った藍玉美海が久世沙幸を引っさらうようにしてそれを回避した。
 
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「しつこいねえ」
 何度目か数えるのも嫌になったチャージをかけてくるスカサハ・オイフェウスのドリルを躱して、デクステラ・サリクスがつぶやいた。ヴァッサーフォーゲルと合流したいが、敵もなかなかそれを許してくれない。
 
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「散らばっている戦力を呼び戻しな」
 船倉の急ごしらえの光条砲発射室においた艦長席に座ったゾブラク・ザーディアが、分散しすぎた戦力を懸念して、集結命令を出した。
「一隻、応答がありませんが……」
「お嬢ちゃん姉妹め、人の物を盗んだね。いけない子だ。お仕置きをしないとねえ」
 横に立つヴァイスハイト・シュトラントの報告に、ゾブラク・ザーディアが目を顰めるように細めた。
「さっき撃った残り、全力であの船ごと一帯を薙ぎ払っておやり。星剣以外はすべて破壊の指定だ。あたいらの力を見せつけておやり」
「はっ」
 すぐに命令が実行に移される。ほぼフルチャージの光条砲がココ・カンパーニュたちの乗った海賊船を射線上に捉えた。
「なんかよくないよー。大きい船の大砲が光ってる!」
 マストの上に立っていたリン・ダージが、ココ・カンパーニュたちに大声で告げた。
「すぐに、逃げて。あの光条砲を本気で撃たれたら、こんな船一瞬で蒸発してしまいます」
 アルディミアク・ミトゥナが、船に乗る全員にむかって叫んだ。ココ・カンパーニュの手を引っぱって、真っ先に船から飛び降りさせようとする。
「そんなにあわてなくても……」
「死にたくなかったら、みんな急いで!」
 戸惑うココ・カンパーニュに、アルディミアク・ミトゥナが叫んだ。その様子に、さすがに他のみんなもあわてる。
「ああ、せっかくわたくしの船になったというのに。短いつきあいでしたわ……」
 名残を惜しむ間もなく、ロザリィヌ・フォン・メルローゼが、疑似翼を展開して船から飛び降りたノア・セイブレムにだきついた。
「えっえっ、ちょっとー」
 二人分の体重を完全には支えきれずに、ノア・セイブレムがロザリィヌ・フォン・メルローゼとともにゆっくりと墜落していく。
「さようならー、わたくしのロザリィヌ号ー」