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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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「発射準備すべてよし」
「発射!」
 ヴァッサーフォーゲルから光条砲が発射される。仰角をわずかずつ増やしながら、射線上のロザリィヌ号をあっけなく蒸発させつつ、ゆっくりと角度を変えながら、海上から、海岸、果てはジャタの森までをなめるように一直線に消滅させていった。それにしても、一度の照射時間のなんと長いことか。
「なんだ、この攻撃は」
 海岸から小型飛空艇で海に出ようとしていた閃崎静麻が絶句した。海岸から森にかけてが、幅十数メートルにわたってまるまる抉り取られるようにして焼かれている。
 通常の攻撃とは比べものにならない破壊力だ。
「こんな物の、どこに必要がある!」
 ウィング・シールドをつかんだアルディミアク・ミトゥナにだき支えられたココ・カンパーニュが、こみあげてくる怒りを顕わにして言った。
「使い方を間違えた兵器は、滅びしかもたらさないもの……」
 アルディミアク・ミトゥナは、かつて自分もそれと同じ物を扱っていたことを苦く思い出しながらつぶやいた。それでも、十二星華であった自分たちには大義のようなものがあった。シャンバラの人々を、そして、アムリアナ・シュヴァーラ女王を守るという。
 だが、今のゾブラク・ザーディアには、どんな理由があるというのだろう。守ろうとしていた大地を傷つけてまでも得たくなった物とは、いったい何なのだ。人は、どこで道を狂わせてしまうのか。
「二人とも、乗れ!」
 風を切って現れたジャワ・ディンブラが、掬い上げるようにして二人を背中に乗せた。
「ジャワ、私たちを海岸へ運んで」
「どうして。このままヴァッサーフォーゲルへ乗り込んで、光条砲を破壊した方が……」
 アルディミアク・ミトゥナが、ココ・カンパーニュの言葉に異を唱えた。
「そうかもしれない。でも、もしもう一度あれを発射されたら、また何かが消えてしまう」
「でも、頭領が狙っているのは私たちの星拳よ。頭領は、ココを見て、自分たちでも星拳の力を使いこなせると勘違いしている。だから、星拳をほしがっているのよ。こんな物、私たち以外には意味のない物だというのに、それが分からないでいる……」
 ああ、今からでもゾブラク・ザーディアを説得できたならと、アルディミアク・ミトゥナは心の中で思った。だが、それは彼女にとってだけ都合のいい願いだろう。おそらく、今のゾブラク・ザーディアは聞く耳など持ってはいまい。
「だから、私たちを狙うのなら狙わせてやろうよ。さっき撃った所に立てば、もしまた撃たれたとしても、同じ所だからこれ以上は破壊しようがないかもしれないじゃないか」
「何を言っているのだ。それでは、狙われたお前たちはどうなる。ちっとは頭を使え!」
 叱るように、ジャワ・ディンブラがココ・カンパーニュに言った。
「どうにもならない、いや、させないさ。それに、私たちが的になれば、みんなが安心して海賊船を攻撃できるだろう」
「馬鹿げた囮だ。本当に馬鹿げている」
 ジャワ・ディンブラが首を振った。
「それにさ、私たちが持ってる星拳はどんな力を持っているのよ。すべての力を呑み込んで跳ね返す、この星拳はそういう物なんじゃなかったのかい? 馬鹿な考えは、そのまま相手に跳ね返してあげようよ。意味がないということを教えてやらなくちゃ」
「無理だわ。あの光条砲は、私が一週間かけて作りだしたエネルギーを、一瞬にして放出するのよ。星拳の吸収能力の限界を遥かに超えてる」
「一つならね。でも、今は二つある」
 ココ・カンパーニュが、自信をもってアルディミアク・ミトゥナに言った。
 たとえ吸収能力が二倍になったとしても、計算上は光条砲の方が遥かに強力だ。
「無理よ」
 アルディミアク・ミトゥナは首を横に振った。
「シェリルは諦めてしまうのかい。諦めることができたの?」
 訊ねられて、アルディミアク・ミトゥナは突然忍び笑いをもらし始めた。そう、それこそが、今日の顛末を生むすべての元凶だ。自分はいったい何をためらっていたのだろう。
「ココ、あなたちっとも変わってない。本当にお馬鹿さんだわ」
「なんだよ、それは。いいよ、後で言いたいことがあるんだ。さっさとかたづけようよ」
 ちょっとむっとしたふうを装って、ココ・カンパーニュは言った。
「まったく、なんでリーダーの周りには馬鹿しか集まらないんだ。だから、我まで馬鹿をしたくなる。いいか、降ろすぞ」
 話している間にとっくに海岸までやってきていたジャワ・ディンブラが、強く羽ばたいて着地した。素早く、ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナが飛び降りる。
 
    ★    ★    ★
 
「頭領、いったいなんでこんなことを……」
 光条砲のつけたジャタの森の爪痕を呆然と見つめながら、デクステラ・サリクスは静かにディッシュで海面に降り立った。
「ジャタの森が、あたしたちの、ジャタの森が……。なんでだよお」
 こみあげてくる感情をぶつける先を見失って、デクステラ・サリクスは叫んだ。
 
    ★    ★    ★
 
「いったい何があったんですかぁ?」
 突然飛んできたという大木の枝がかすめて怪我をしたという獣人の手当てをしていた清泉北都が、森の一部を焼き尽くすような閃光を見て唖然とした。
「冗談じゃねえ。奴らこの森ごと消し去るつもりか。ここに住んでる者たちなんか、どうでもいいってのかよ」
 心底憤慨しながら、白銀昶が叫んだ。
 
    ★    ★    ★
 
「なんですぅ、今の凄い光は……」
 まだ防火線を作り続けていたメイベル・ポーターが、森をゆるがす攻撃に目を見張った。
「あれって、環境破壊っていうレベルじゃないよね」
「ええ、そうですわ」
 セシリア・ライトの言葉に、思いっきりフィリッパ・アヴェーヌがうなずく。
「森をあんなに傷つけるなんて、許せないですぅ。あの攻撃で、また新たな火事が起こるかもぉ。急いで、防火戦を完成させるですぅ」
 そう言うと、メイベル・ポーターは、それまでに増して力強く森の木を打ち倒していった。
 
    ★    ★    ★
 
「早く、こっちなのだよ」
 光条砲の威力を見てパニックになった人々を、四条輪廻は大神白矢とともに必死に誘導していた。
「あれがこっちにむけられるかどうかは分からないが、光はここから西の方で北から真南にむかって走ったようであるな。だとすれば、北東に逃げれば遠ざかるということになるが。ままよ、近づくよりはましであろう。白矢、北はどっちであるのか」
 四条輪廻に聞かれて、超感覚を全開にした大神白矢が、一つの方向にビシッと鼻面をむけた。
「よし、みんな、とにかくあちらにむかって走るのだ」
 西北西を指さすと、四条輪廻は避難民たちに告げた。
 
    ★    ★    ★
 
「わたくしのロザリィヌ号をー」
 海に落ちてびしょ濡れになったロザリィヌ・フォン・メルローゼが、避難所の中で服のあちこちから水を絞りながら悔しがった。
「アーちゃん、大丈夫かなあ」
 同じくびしょ濡れになりながらも、ノア・セイブレムが、離れ離れになってしまったアルディミアク・ミトゥナのことを心配する。
「酷い。あんなやり方、女王様だったら絶対に許さないんだもん。あたしだって、許さないんだから」
 あまりにオーバーキルな攻撃に、七瀬歩が憤慨して叫んだ。
「みんな、落ち着いてくださいです。逃げだすにしても、こういうときは落ち着いていないとだめです」
 夜住彩蓮が、避難所に集まった人々がパニックになりかけるのを、必死になだめていった。こういうときは、教導団での撤退戦などの訓練が役にたつものだ。
「今ので怪我をした人はこっちに運ぶでござる。仁美殿、手当てをお願いするでござる」
 さすがに、巻き込まれた動物や人も皆無とは言えない。次々避難所に運び込まれてくる怪我人を、秦野菫はてきぱきと、梅小路仁美へと渡して治療してもらっていった。
「これは……。私たちも行きますよ、ルナ。あれはなんとかしなくてはいけません!」
「もちろんだ、刹那様!」
 神裂刹那とルナ・フレアロードも、避難所脇の小型飛空艇に飛び乗ると、ヴァッサーフォーゲルへの攻撃に参加していった。
「ここも安全だとは言えないかもしれないけれど、信じましょう、ココさんたちを、みんなを……」
 狭山珠樹が、ヴァッサーフォーゲルに立ちむかう仲間たちを目を逸らさず見つめて言った。