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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第2回)
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リアクション

 

 攻めるのは、容易でない。かと言って、ほっておけば、水上砦が完成してしまう。一隻の船も通れないように……。
「黒羊郷の水上砦……段階的な攻略が必要ね。堅固な要塞なら、それを取り巻く障害から叩く。
 要塞を守る黒羊水軍の殲滅……」
 ローザマリアは上杉 菊(うえすぎ・きく)に船を預け、今度は昼間から再び砦へと迫らせた。
 菊は、火矢の飛んでくる射程ぎりぎりの付近を、しばらく遊弋して見せた。挑発するように。
 しかし、相手はまったく、船を出してくる気配もなかった、と菊は報告に戻ることになる。時間が経過すると、砦上空の雲行きが妖しくなり、冷気が立ち込め始めたと……。
「敵は、まるで挑発に乗ってこない……」
 ローザマリアは呟く。「黒羊水軍、いやもしかしたらもう、相手は水軍としての戦いは捨てているのかもしれない。水路に関しては、完全に守りに徹するつもりかしら」
 しかし、「手は打ってある」。
 黒羊郷にて……。
 ブトレバの使者が、黒羊郷へ援軍の訴えに出向いた。しかし、黒羊郷としては、菊の挑発の件でわかったように、水路は完全に守りを固めて動かない、というつもりであった。教導団・湖賊の水軍は侮り難し。水路は守りに徹し、陸の戦で決着を付ける。だがこれに対しブトレバの使者は……「同盟の我々を見捨てるのか!」と強く迫った。
「今すぐに、黒羊水軍が来なければ、降伏せざるを得なくなる!」
 その訴えは、悲痛であった。
「水上砦の兵の一部を、水路で迅速に運んでくれ!」
「降伏か……まずいな。こうもた易く。やむを得まい。水上砦から、些かの援軍を出せ」
 黒羊郷を出たブトレバ使者の目が光った。使者は、黒羊郷に入ったとき、郊外で何故かサッカーをしている少年と出会った。転がってきたボールを追いかけてきた少年……吸血鬼シセーラ・ジェルツァーニ(しせーら・じぇるつぁーに)はそのまま使者に噛み付き吸精幻夜を施したというわけであった。

 さて、勿論、出てきた黒羊水軍を、ブトレバ沖に潜む東河の水蛇をも打ち倒した水の勇士らが待ち受けていることになる。



5-02 お待たせしましたっ! 夏野夢見です。

「あたし湖賊の家政婦じゃないですよ。やるときはやります」
 という予告通り?湖賊の戦闘員として黒羊郷攻めに従軍してきた、夏野 夢見(なつの・ゆめみ)
 ブトレバ沖に待機する、西の船(湖賊船)に乗り組んだ。
「夢見さん、久しぶりですね」
 フォルテ・クロービス(ふぉるて・くろーびす)も一緒に登場だ。
「まぁ、フォルテとは久しぶりというか……一緒にいたけどね。出番として、久しぶりだねっ」
「何をやってるんですか?」
「えぇっと……」
 東河に、釣り糸をたらしている夢見。強者である。「攻めずに終わりになるかもしれないから、暇つぶし用に、ね」
「ふぅん」こちらも、暇ならナンパといきたいところですが……と辺りを見回すフォルテだが、屈強な湖賊の男たちばかりである。「隣の船に行けば、他の誰かのパートナー方もいるんですが……ま、夢見さんがいますからね。やめときますか」
「……ん?」
「それに、お互い暇だとも言っていられないようですよ」
「あっ。黒羊水軍」
 東河の水平線に、見えた。数は多くはないようだ。
 ローザマリアの旗艦も、とうぜんこれをすぐにキャッチした。
「あれだけ……か」
 少し不満そうなローザマリア。ともあれすぐに、行動を開始。ローザ本隊が、各艦から幾らか突出して、敵に見える位置に出て行く。「やはり、敵は水戦は捨てたのか。……ともかく、ここは作戦通りに蹴散らして、あたしたちもすぐ、水上砦に攻め込むべし、か。ここで減らせる敵兵力がこれだけだと、砦は激戦になるかもしれないわね、相当……」
 黒羊水軍――「チッ。やはり、待ちかまえていたか、教導団、湖賊めら。早くここを抜け、ブトレバに入港するぞ」
 ローザマリアの本隊が、すぐにぶつかる。
「何。まったく逃げ腰なわけ? 面白くもないわね」
 さて、最も東寄りに船を付けていたのは、セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)の率いる数隻。
 作戦では、敵とぶつかったローザマリア本隊が劣勢を装い徐々に退きつつ、他隊との包囲に追い込むはずだったが……しかし、大人の男セオボルトである。敵が、できるだけ急いでブトレバに行こうとしている動きを察知すると、すぐに船を動かし、港へのルートを遮断しにかかった。
「セオボルト!」
「ローザ……。
 指揮の経験なんてないのですが(勝手がわからん!)、任されたからには最善を尽くすとしましょう」
「うん。いい動きじゃない。セオボルト」
 無論、互いの顔は見えないが、信頼しあう二人。
 セオボルトは自艦隊の布陣の中央に位置し、周囲の船にちらばるパートナーたちをまた、信頼する。
 ヴラド・ツェペシュ(ぶらど・つぇぺしゅ)は、前方に展開した船に乗船。第一番に、敵とあたることになる。中でも威風堂々、いちばん先頭にガイナ立ち、
「串刺しじゃ、そなたら全員串刺しにしてやるのじゃ!!
 串刺しじゃ、開戦じゃ〜〜!!」
 まさしくこれが、開戦宣告となった。黒羊の船団の先頭と、ぶつかる。
 セオボルトと同じ指揮船には、瀬尾 水月(せのお・みずき)が同船する。
「水月。まだ、船室に?」
 水月には、この戦いを通して、心情に変化が訪れていた。
「今までは、記憶がない自分に不安を感じていた……」本当の自分が、判らなくなっていた。「だけど」――今の自分の心は、本物だ、と。そう、気付き、大切な人たちのため共に戦うことを決意し、剣の花嫁としての覚悟を決めたのである。
「水月……」
「うん、ああ。大丈夫」
 水月は、船室を訪れたセオボルトと、ちょうど出てくるところで出会う。
「そうですか。なら、いい……もう、前線は敵とあたっています。この船も、これより戦闘ですね」
 水月は、頷いた。
 館山 文治(たてやま・ぶんじ)は布陣の後方の船に位置し、会敵後は包囲に動く予定であったが、作戦の変動から、そのまま後方にあることとなる。もともと、ブトレバ方面からの動きを監視する役目だ。「まぁ、水月やヴラドには無理な仕事だろうし、必然的に俺がやるしかないってこったな。と、さて」
 ブトレバも、頼みにしていた援軍の到来と、待ち受けていた相手との交戦を、察知したであろう。もう、主力艦隊はない。しかし、これにはブトレバの存在がかかっている。ブトレバは、わずかの船を、戦闘に出してきた。
「ブトレバ……来たか。停戦協定は、この時点ではのまなかったか? あっちにすれば最後の戦いを挑もう、ってとこか」
 文治は、スナイパーライフルを取り出した。
 湖賊の船も、すでに動いている。
 ローザマリア本隊が最初から逃げる敵を追う形になったため、挟撃の形になっているが、更に横合いから湖賊らが突撃した。
 船は、夢見が操縦してみている。
「教わった操縦法で……! 教わった操縦法で……!」
「あ、あんた。……大丈夫かい? ちょ、ちょっと、ゆれてる、ゆ……っ」
「不利っぽく見せないと、敵も追撃して……こられる必要は、もうないのか。よし、突っ込んじゃえ」
 わぁぁぁん 湖賊の悲鳴がこだまする。
 湖賊の船は、文字通り敵船に突っ込んだ。
「皆、船から落っこちないよう、気を付けて!
 さっきの衝撃で落っことした敵を、フォルテが轟雷閃で一網打尽にするからっ」
「わ」「わわわわ」「お、落ちる夢見さんーーー」
 甲板が傾いている。
 滑り落ちそうな湖賊の男たちが、夢見の服とかスカートとかパンツを引っ張った。「きゃ、いやー」
「こ、こら。夢見さんに、触るのではない」
 フォルテの、轟雷閃が炸裂した。雷が、河に落ちた黒羊兵や湖賊や夢見を黒焦げにする。
「はーっはっはっは!
 串刺しじゃ、串刺しじゃ!」
 敵船には、ヴラドが乗り込んでいる。「俗物どもが。此方に串刺される為にやってきたわ。
 王である此方に対する無礼は、そなたらの死で償ってもらうのじゃ! ならばそなたらは串刺し刑に処す!」

 湖賊船には、シェルダメルダの傍、無論この男……樹月 刀真(きづき・とうま)も控えている。
「ブトレバ……東河の水蛇として恐れられた。
 だが、今残っているのは、もうあれだけか。教導団の一隊とあたったようだね。だけど、もうあたいらが行くまでもなさそうだね。刀真……」
「ええ。大丈夫ですよ。
 でも、頭に向かってくる敵には、容赦はしません」
 湖賊船と入り乱れた黒羊の兵どもが、こちらの船に乗り込んでくる。
 早速、玉藻が、出る。
 玉藻 前(たまもの・まえ)の苛烈さは、まだエスカレートしているように見えた。
「我が九尾は死を統べる」
 玉藻は敵の動きを封じると(アボミネーション)、殺した相手に闇術を施し魂をペット(アンデット:レイス)に、肉体をペット(アンデッド:ゾンビ)にし、彼らの同士を襲わせた。
「独りでは淋しかろう? 仲間が欲しければ我に従え……すぐに作ってやる」
「玉藻。……」
 刀真の剣もまた、確実にその一人一人を仕留めていく。
 そう言えば、問われたな……"どれだけ殺めれば気が済む"と。「……俺の邪魔するモノを全て殺すまでだ」
 殺戮に酔うわけではない……自分の目的の為と、自覚をもって。
 玉藻の方は、死者すら手駒として使う自分が、おぞましい者として他人から見られるのは理解している。だがそれが自分なのだ、今まではこの有り様を刀真に見られるのが怖かったが、今なら受け入れてくれるのでは? と思っている。
「己が悦びの為に男女構わず篭絡し死者すら道具として扱う……それが白面金毛九尾の狐玉藻前よ」
 刀真、我が怖いか?」
「今更だし俺も似たような者だ、これからも傍にいるから安心しろ」
 刀真は優しく、頭を撫でる
「……うん」

 戦いは、こちらはほぼ無傷と言っていい状態で勝利する。
 だが、思ったよりこちらへ回してきた船や兵は多くなかった。
 ローザマリアとしては……
「早く片を付けたいわね。もう水軍の力はまったく残っていない……
 水上砦を抜けば、直進で黒羊郷中心の要塞に攻め込めるわ」