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【2020授業風景】サバイバル調理実習!?

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【2020授業風景】サバイバル調理実習!?

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《8班》

 「くされすけべ餅め……樹様に何てことをしくさるですか……こたちゃんにお願いしておいて本っ当に良かったですー!」
 林田 樹(はやしだ・いつき)のパートナーの機晶姫ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)は、そんな独り言を言いながら山羊に向かって牛刀を振り下ろしていた。
 「ちょっと、いくら何でも怖いよカラクリ娘。皆が怯えてるじゃないか。それに、僕はただ樹ちゃんをいたわっただけで、やましい気持ちはこれっぽっちも……」
 「嘘つくな、ですよ。こたちゃんからちゃーんと報告があったのですよ」
 慌てて言い訳をしようとする緒方 章(おがた・あきら)に血まみれの牛刀を突きつけて、ジーナは凄む。
 「こた、ちゃんとほーこくしたお! ほんとうのこと、じにゃにおしえたお。うそついたら、はりせんぼんらもん、めーでしょ」
 林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が胸を張る脇で、三人のパートナーである樹はげんなりと座り込んでいた。
 「とにかく、ここで言い争うのは止めろ。他の皆の迷惑になるから」
 「うっ……」
 「ごめんなさい、です……」
 章とジーナは一応謝ったが、視線はまだお互いに相手を睨んでいる。
 「……すまないな」
 樹はため息をつくと、一緒に調理をしている毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)のパートナーの剣の花嫁プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)や、小林 翔太(こばやし・しょうた)のパートナーの英霊佐々木 小次郎(ささき・こじろう)、薔薇の学舎の佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)とそのパートナーのSFL0017665#賈思?著 『斉民要術』、英霊熊谷 直実(くまがや・なおざね)に謝った。
 「ほら、後がつかえてるからさ、早く作業を終えてしまおうよ」
 ジーナと一緒に山羊をさばいていた直実が言う。
 「はいです……」
 ジーナはまだむっつりとしたまま作業に戻り、きれいに骨と肉に分けられた調理台の上を見て目を丸くした。
 「うわあっ、きれいにさばきましたですねぇ!」
 「命をいただく以上は、余すところなく使ってやらないとな」
 直実はそう言うと、山積みになった骨を大きなボウルにまとめて捨てようとした。
 「ああ、骨や皮も取って置いて下さいませんか? 色々と使い道があるのですよ。『余すところなく』というのはそういうことでしょう」
 弥十郎が捕まえて来たウズラで餃子を作っていた『斉民要術』が、やんわりとそれを止める。
 (……あれ、斉民、何か怒ってる……?)
 微笑する『斉民要術』からかすかに怒りのオーラを感じた直実は、こういう相手ほど怒らせたら怖い、と素直にボウルを調理台の下に置いた。
 「これ、辛いんですよね。餃子に入れたらどうでしょう?」
 樹たちやが弥十郎が取って来た山菜を仕分けして、下ごしらえをしていたプリムローズが『斉民要術』に提案した。
 「面白いかも知れませんわね。餡の中に練り込むものと薬味としてつけて食べるものと、二種類作ってみましょうか」
 『斉民要術』はうなずいた。
 「すみません、山羊肉をさばけたものからこちらへ頂けますか」
 洗い場で米をといで戻って来た小次郎が手を挙げる。
 「今持って行きます!」
 プリムローズが作業を中断し、肉をボウルに入れて小次郎の元へ走る。小次郎は肉を軽くゆでて細かく切り、仁科 響(にしな・ひびき)が集めて来たンベナと一緒に飯ごうの中に入れた。
 「何が出来るのかなぁ。小次郎のことだから、きっと美味しいものを作ってくれるよね。わくわくするよ」
 対照的に興味がなさそうに携帯をいじっている大佐の隣で、翔太は今から箸と茶碗を持って目を輝かせている。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

《9班》

 「ちゃんと捕まえられたのでありますかー」
 調理担当のジャンヌ・ド・ヴァロア(じゃんぬ・どばろあ)に棒読みで言われて、ノボリゴイを捕獲に行っていた黒乃 音子(くろの・ねこ)は眉を寄せ、首を傾げた。
 「ん……まあ、ちょっと、遅くなったけどね」
 ポイント探しに時間をかけてしまったため、音子が本校に戻って来たのはかなり遅かった。しかし、イノシシを捕まえに行ったロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)はまだ戻って来ない。ジャンヌは学校に残った他の生徒たちとご飯を炊き、先に戻って来た宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が突いて来たノボリゴイとクロス・クロノス(くろす・くろのす)が採って来た山菜を使って、先に料理を始めていた。
 「ちゃんと採ってこなかったら、代用として音子の盛り合わせにしようかと思っていたのでありますが?」
 音子が釣ってきたノボリゴイをざくざくとさばきながら、ジャンヌはふっと笑う。
 「冗談に聞こえないからやめてよぅ……」
 音子は慌てて祥子の影に隠れる。そこへやっとイノシシの肉を担いだロイが帰って来た。
 「おーそーい! 罰として、その肉を鍋用に切るであります。誰か、氷術が使える人は居ないでありますか?」
 ジャンヌは周囲の生徒たちに声をかけた。一人が手を挙げる。
 「この肉を、ギリギリ凍ってるかな、くらいに凍らせるであります。ロイ、鍋はしゃぶしゃぶでありますから、なるたけ薄く切るでありますよ!」
 「えーっ、鍋っつったらすき焼きだろ?」
 ロイは不満そうに言い返したが、
 「本日のメニューはしゃぶしゃぶ鍋とお作りと竜田揚げと、調理担当のこの私が決めたのであります。既にそのつもりで他の食材を用意してあり、変更は認められないのであります」
 ジャンヌはきっぱりと言い切って、作業を再開する。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

《10班》

 「うーん……厳しいわね……」
 蒼空学園の朝野 未沙(あさの・みさ)は、調理台の前で腕を組んでいた。
 『残り食材で作る料理』がテーマだったのだが、自分の班で必要な分以上の食材を調達して来たという班が非常に少なく、調理くず的なものをかき集めても量が足りそうにないのだ。
 「炭水化物と調味料はいいとして、肉と野菜が足らないわ。まさか、主食と調味料以外の食材は全部自己調達だって言われるとは思ってなかった……」
 「焼きおにぎりに、具がほとんど入ってない焼きそばに、すいとんにみたらしだんご、それにバートさんのケーキじゃあ、主食ばっかりって言われちゃいそうなの……」
 未沙のパートナーの機晶姫朝野 未羅(あさの・みら)も、調理台の上の材料を見下ろして唸る。
 「今からでももう少し、野草を採って来ましょうかぁ?」
 すいとんの生地を作っていた未沙のパートナーの魔女朝野 未那(あさの・みな)が、美沙に尋ねた。
 「そうね。お願いするわ」
 仕方がない、と美沙はうなずいた。
 「では、ワタシも一緒に行こう」
 採って来た蜂の子を甘露煮にしたものを、プリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)のもう一人のパートナーの地祇、バート・シュテーベン(ばーと・しゅてーべん)がさっきまで混ぜていたケーキの生地にざらざらと追加したジョーカー・オルジナ(じょーかー・おるじな)が申し出る。
 「よろしくお願いしますぅ。未羅ちゃん、すいとんを煮込むのを私の代わりにお願いできますかぁ? IHのクッキングヒーターならいいんですがぁ、こういうかまどでお料理をするのはちょっと自信がないんですぅ」
 「うん、わかったの」
 未那の言葉に、未羅はうなずいた。
 「だいぶ日が傾いて来ているな。早く行って来よう」
 ジョーカーが未那を促す。二人は駆け出した。
 「あれぇ? 今、ジョーカーが生地の中に何か入れなかった?」
 それを見送ったプリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)が、ケーキの生地を覗き込む。
 「えーっと……あの、野ブドウですよ、ええ」
 ジョーカーが入れたものの正体を知っているバートは、ごまかし笑いを浮かべた。
 「え? ジョーカーが採りに行ったのって、ハチミツとメイプルシロップだったんじゃ……」
 野ブドウなんて頼んだかなぁ、とプリモは首を傾げる。
 「あったんですよぅ。あったんです」
 言いながら、バートは手早く生地をダッチオーブンに入れ、蓋をして火にかけた。プリモはまだ、生地に混ぜられたものの正体を知らない。
 「ふーん……早く焼けないかなぁ。楽しみだなぁ」
 メイプルシロップをたっぷりかけて、甘くして食べるんだ!と早くも試食モードに突入したプリモを見て、
 (シロップをかければケーキ本体の味はわからなくなるでしょうしぃ、オルジナさんが生地に入れたのは『あれ』だって、最後まで気付かれずに済むでしょうかぁ)
 と、バートはこっそり胸を撫で下ろす。