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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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第3章
黒羊郷最終決戦

 
3-01 激戦(1)

 黒羊郷の正面では、すでに黒羊郷守備隊とハルモニアからの進攻軍との熾烈な戦いが開始されていた。
 ユウの軍師ルゥの採った魚鱗に対し、守備側は鶴翼に構え直し包囲にかかってきた。数では圧倒的に敵が勝っている。
 三厳は、襲い来る敵兵を鬼眼で睨み付けた。そしていざ、刀を抜く。
「柳生十衛兵三厳、戦場の華とならん!」
 軍師のルゥ自らも、攻め込んでいる。「今回も居合いでーというわけには、数的にいきませんね……。ええい、真の至れり尽くせりを見せてあげましょう。危険物からメイドの土産まで、投げまくってあげます!」
「きゃぁー」
「あ、みっちゃんごめん……」
 投擲され飛んでいくみっちゃんこと三厳。
 中央に構えるユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)
「むう! こちらの突破力もいい線いっているけど、これじゃ包囲されてしまう……。
 あのひな殿の融合団子が残っているならばここで一気にぶつけるのも手でしょう。突破のための最大の一手です」
「では、いきなり行こうかえ」
 ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)がぶちぬこたちに合図を送る。
 ごろごろごろ「むぎゅむきゃ」……後方から、兵器が引き出されてきた。ごろごろごろ「むぎゅむきゃ」……
 ごろごろ。「むぎゅむきゃ」。
 止まった……
「……」
 一瞬、静止する戦場。「な、何だアレ……」黒羊兵の顔が、一斉に青ざめる。ルゥ「あ。……」、三厳も青ざめる。「また重ねて災難の予感……」
 何体ものトロルで作られた巨大な団子だ。その核は、桐生 ひな(きりゅう・ひな)とセシリア姫で出来ている。
 ごろごろっ、づばーん!!
 その団子が、ぶちぬこたちによって敵陣に投げられた。勢いよく転がっていく団子。
「きゃぁー」「いゃぁー」
 効果は抜群である。この圧力と運動エネルギーが多量の熱を生み、それによりカロリー消費が行われ、ダイエットに……「きゃー、むぎゅむきゃ」「やーん、むぎゅむきゃ」(こちらはひなと姫の悲鳴。)
「きゃぁー」悲鳴を上げて、戦場を逃げる黒羊兵。次々と押し潰されていく。そしてますます巨大になっていく団子。
 しかし、敵将が兵を収拾する。
「慌てるなであります!」
 マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)だ。
 団子め。一点突破の力はあるが、こちらの数は多い。であります。
「団子で押し潰された箇所を埋めて、退路を遮断してまえであります!!
 決して片翼を手薄にし突破されるな、でありますぞ。ハァァァ!!」
「マリー将軍!」「マリー将軍!」
 マリーは兵を鼓舞し、采配を振るった。敵の攻勢を殺ぎつつ、マリーは兵を無闇に攻めさせず。ニタリ! わいの思うようにわいの手足のように兵が動く。この黒羊軍に来てわての指揮官としての本分が発揮されていることを感じるであります!!
「ハァァァァ!!!」
「マリー将軍! ハァァ!!」「ハァァァ!!」
 マリーは攻めては退かせ、相手を遠ざけず近づけず翻弄した。
「ふふり。
 道満よ。わての戦術が理解るでありますかな?」
「……フ。マリちゃん。
 遅滞戦術に持ち込めば、国土の荒廃ぶりも手伝い、彼らは進めば進むほど補給が細くなる上、難民も収容する必要が出てくるからジリ貧。(とはマリちゃんの弁。)」
蘆屋 道満(あしや・どうまん)よ。それでこそわてが新しい軍師(パートナー)。であります。しかし、まだまだでありますぞ」
「……フ」
「き、きィィさまらァァ。このチェルバラ(ちぇるばら)様を差し置いて、な、何? むぎゅぎゅ……この感触は……っ。
 む、むむ。……」
 ちゅ〜〜。……。……。…… ……
「……フ。チェルバラが口を挟もうとするたびにマリちゃんがちゅーして口をふさぐのは、なんなのだろうかと?」
「ふふり。道満よ。なかなかいいすじをしてるでありますな」
「……(チェルバラ、気絶。)」
「つまりこれは、チュー誠度維持のために一ターン(ってどんだけだよ?)に一度必要な儀式」
 向かい合って、再び進攻軍側陣営。
「……うっ、う。
 ……く、あのマリーめ。あんなシーンはリアクション上、許されない……こうなったら、私も行く!!」
 ユウ、立つ。
「御大将!」「御大将!」
「心配しなくていい、武装メイド隊。それにどうやら、あのマリーとは決着を付ける必要が、ある!」
 ユウはランスを手にとった。可憐なメイド服が戦場の風にひらひらゆれる。メイド・ナイトユウ、出陣!
「ユウ!」
 ルゥは、最前列に出てきたユウのすかさず背中に回りフォローをする。
「厄介な敵が出てきました……! 兵は浮き足立っています」
「マリーとかいうあの巨漢な将か」
「ええ。マリーに慣れない兵らは、怯えきっています」逆に、団子に怯みを見せていた敵兵は、マリーの到来に士気を取り戻している。
 
 後陣では、代わって月島 悠(つきしま・ゆう)が指揮に就いた。
「誤字姫入りひな団子トロール風味。よくやった。ここまで敵を乱したのは見事だ。あとは采配次第で何とかしてみせる。
 しかし……張飛がいないな」
 張 飛(ちょう・ひ)は月島が部隊を前面に出すとすかさず、飛び出して行った。
「俺は悠の剣の花嫁になる!」
 花嫁になる為には、掃除と洗濯が出来ないといけないらしいな……。と、そんなことで、張飛は少し悩んでいた(※この展開については「南部戦記」第1回(決戦!ハルモニア)を参照)。張飛は、考えた。掃除はゴミ(敵)をキレイに片付け、洗濯はヨゴレ(敵)を真っ白(つまり殲滅)にすれば良いんだな? そして「……よし、俺の邪魔するヤツは全員薙ぎ払うぜ!」
 張飛はその怪力で薙刀を振り回し、躍り出た。
「俺が張飛だ、死にたいヤツからかかってきやがれ! お前らも俺の後に続けー! 敵を討て! 手柄を立てろ!」
「花嫁修業中ですの?」
 最前列には、そんな張飛に並んでメイドの軍師ルゥの姿があった。
「アア! 見ての通り(?)だ!」
「はて。どなたの……」
「俺は悠の(剣の)花嫁になる!」
「はっ。ユウの……私ですよ! ユウの花嫁になるのは!」
「……」「……」そのやり取りをなるべく無視しながら、無言で戦う、ユウ・三厳。
 張飛とルゥは互いに武器を振るいながら、花嫁について語り合った。
「そうでしたか。月島 悠さんの……
 わかりました。この、私、ルゥがしっかりと指導致します。任せてください。ユウをメイドナイトにしたのも私。ユウのNo.1花嫁候補も、私なのですから」
「おう、頼むぜ! じゃあまずはこいつらを!」
「お掃除、ということですね! 任せてください。まいりましょう!」
 敵を粉砕していく二人。結局、戦っているだけなのだが……。
「……」「……」無言で戦う、ユウ・三厳。
「……」後方では、無言で指揮を振るう月島であった。
 
 激戦である。まだまだ、教導団らは敵を押しきってはいない。
 ネル・ライト(ねる・らいと)が彼らを鼓舞し、義勇軍の獣人部隊も前にせり出す。
 武装メイド隊、獣人部隊が前に出て、ぶちぬこが支援する。団子が、駆け回る。
 そして、ルミナはヴァルキリーの中でも速さに長ける者を奇襲隊に選抜。敵の視界に入らぬよう少し離れた横合いの位置に鋒矢(ほうし)の陣を敷いて布陣していた。魚鱗よりも突破力に特化した陣形である。これによって一気に側面を突くつもりだ。ルミナは、早く飛び出しユウのもとへ駆けつけたくてうずうずするが、この陣形には勇猛さだけでなく時を見る冷静さも肝要だ。「まだ、時は来ないのか……ユウ、大丈夫?」
 ユウも少し心配になる。内地での事が起きれば、確実に指揮系統に乱れが生じる。そうなれば、そのときこそルミナたちの猛進に、敵はモーゼの十戒が如く裂かれるはず……!
 月島は、時間を稼げばこちらの団子兵器(誤字姫入りひな団子トロル風味)がすべてをなぎ払ってくれるだろう、との思いにどっしり構えてはいるが、敵もさるもの。指揮を執っているのがあのマリー・ランカスターである。その遅滞戦術に予想以上に手をこまねくこととなった。
「これでは勝負が付けられない……!」
 そんな中、こちらも最前列。
 戦場を、団子に負けじと駆けに駆け回る三厳、花嫁修業に敵を掃除しまくる張飛にルゥ、可憐に舞うメイドナイト・ユウ、に並んで麻上 翼(まがみ・つばさ)
「さぁ、ボクのガトリング砲の餌食になりたい人は遠慮せず前に出てきてくださいね(ニコニコ」と余裕でガトリングをぶっ放していたのだが、そんな翼はまだ本調子ではなかったのだ。「あっ」敵からのダメージに、再び魔神の顔が……