リアクション
Epilogue-III- 『南部戦記』 ヒラニプラ南部の終戦。 敵対勢力であった黒羊郷は、教導団を脅かすになるまでに、教導団第四師団とそれに味方した多くの勢力によって打ち倒された。 南部戦記に関する記述は様々であるが、遠征の始まったのは二〇一九年の秋から冬にかけての頃から、終戦は翌年の春から戦後を含めると夏にかけての頃まで……と大まかには推測されている。 その後 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は、もともとのクレア構想に基づき、南部諸国、オークスバレー、三日月湖地方までを、南部王家(南部諸国の王家)を盟主とした連合国家化を提唱・推し進めた。クレーメック・クレアはこの方策を任され戦後もしばらく南部と本校等の任務を行き来することになる。また、ブトレバ、グレタナシァ、ドストーワ、ハヴジァ、ハルモニア、黒羊郷らの(三日月湖以北の)国々、その他の有力部族については、議論の末、希望するならば連合国家に加入できるもの、とした。 クレアの優秀な部下ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)はクレアを補佐し積極的に意見を述べ、こういったことはあくまで教導団からの"提案"とすべきであり強制ではなく、南部の実情や民の心情に合わせて改変されるべきものとするべきと唱えた。また、南部の民として今回の戦いに参加し功為した者で、今後も南部に生きるという者には、王家の方よりそれに見合った叙勲・報償もしくは権利の保障等を与えるべきだと。 こうして、ヒラニプラ南部は穏やかに徐々にと一つにまとめられていった。 その王都は、統治者のいなかった三日月湖に定められる。やがて、南部王家の王子がここに移り住む、ということになる。位置的にも南部の中心であり産業にもすでに幾らかの発展が見られる。ここではしばらくの間、残った教導団員らも復興と発展に積極的に努めた者たちも多かった。 クレーメックは、王都以外の地域のうち南部諸国、オークスバレーにそれぞれ直属の部下桐島 麗子(きりしま・れいこ)と麻生 優子(あそう・ゆうこ)を遣わせている。 各統治関連については、オークスバレーは今後、もともとの現地の有力者(ユハラ等)を諸侯として任じた上で、彼らの領地以外を王家の直轄とし、南部の諸侯に領地を割り当て、統治させるものとした。オークスバレーから教導団が完全に手を引くまでの期間は、ロンデハイネ(ろんではいね)がその地にとどまり、桐島が彼を補佐した、と書かれている。彼らが手を引くまでの期間というのは、オークスバレーの技術水準がヒラニプラの他地域と同程度にまで向上した期間である。プリモ温泉は、プリモ・リゾートに発展し、ブトレバに至るまでの川沿いに発展したリバーサイドな産業として多く記録が残っている。そして……オークスバレーの民はいつまでも、シャンバラン神を信仰した、とのこと。(信仰については、その後の黒羊郷や撲殺寺院についてもこれまでの信仰の自由が守られている。) 問題は生じなかったが、一つ、教導団がやがてこの地を去ると知った際に、ようやく峡谷に顔を見せるようになっていたハーフオークたちが里へ帰る、といったという後日譚がある。ハーフオークについての記述は曖昧なものしか残されていないのだが、彼らと最初の絆をもった朝霧 垂(あさぎり・しづり)その後はとくにパートナーの夜霧 朔(よぎり・さく)が彼らのもとを訪れ交流を保った、として記録が残されることになる。 麻生優子は王子が南部一帯の統治者となるうえで、彼が王都(後述)を移すまでを補佐し、南部諸国でとくに戦災や略奪に遭った村々への支援や、また、民たちの重税や圧政を懸念する声に耳を傾けるよう助言を行った。 麻生優子がクレーメックのもとへ帰ってからは、湖賊頭領のシェルダメルダがよく王子を補佐した、という。湖賊はその後も王都・三日月湖の治安を守り、また観光事業等にも積極的に乗り出して、民の指示を得た。 「戦後、教導団は南部から軍を退き、窓口を残す程度が理想だ」とクレア・シュミットはかつて言った。 教導団は本営としていた三日月湖、そして本拠であったオークスバレーからも徐々に退き、その窓口……として残されることになったのが、南部の入口、とも言われた南西分校。である。 クレーメックは、これにはクリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)を使者としてキマクへ派遣、パラ実との交渉に臨んだ。 その交渉とは……今後、パラ実本校(新生徒会)はパラ実生による南部連合国家勢力圏での介入を規制する。代わりに、南西分校は教導団とパラ実の共同運営とする、というものであった。南西分校の初代校長は大佐(名前不明)であったが、彼はその年にナパーム弾と一緒に引退し、ナパーム弾と南部のどこかで平和に隠遁生活を送った、と言われている。こうして正式に、二代目校長として国頭 武尊(くにがみ・たける)が就任。しかし彼は彼で色んなシナリオに忙しく、あまり校長の役割は果たしもせずやがて名誉校長となった、と記される。 こうして、もちろん実際には事が万事上手く進んだわけでなくときに困難もありつつ、ヒラニプラ南部は平定され、教導団はとくに協力を結んだ幾つかの勢力にその自治を任せ、これら奥地や辺境から完全に撤退したことになる。 以降、魔物の流出や反乱する勢力によって南部が大きな混乱に陥ったり近隣地域が被害を被るようなことはなかったという。が……これも実際には、南部諸国においてはその後も南臣光一郎(みなみおみ・こういちろう)の勢力がひらにぷらみなみおみ120万石を名乗り幾度かの反乱を起こし、黒羊郷においてはマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)が最後の抵抗戦力として隠然たる影響力を誇示し続けた……とも言われている。 (実は今の一つの考えとして、この縮図を一つのモデルとして、次のシリーズに幾らかの転生を行うつもりでいます。このことによって、オークスバレー〜黒羊郷探訪〜南部戦記シリーズでせっかく培っていただいたそれぞれの独自の身分や事業等がある方も多いと思うので、それをある程度持ち越して物語を続けられることを考慮に入れているわけです。 たとえば前線基地や水軍などは、今回シリーズに閉じた地域でなく、もっと広い外に向けられてこそ更に生きてくるものになるでしょう。もちろん、それとは別に新しく始められる要素も用意することになると思います。) * クレーメック、クレア、途中病気で三日月湖で療養状態にあったが戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)の三名は、騎凛、レーヂエ、病床のロンデハイネら指揮官不在の本営の代表として、よく第四師団を保った、として功績を称えられた。 それに、東の谷では李 梅琳に代わって指揮を執った【鋼鉄の獅子】隊長レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーう゛ぇんどるふ)それにジャレイラを見事討ち取った、と言われる副官イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)には事実上の二階級特進が与えられた。 オークスバレーでは1,350という第四師団史上最も規模の大きな隊を指揮した香取 翔子(かとり・しょうこ)。クレーメックを隊長とし香取らの所属する【ノイエ・シュテルン】、さきの【鋼鉄の獅子】はこれによって、教導団における正式な部隊として認定されることとなった。 団長から直々に、新隊長ルースやルカルカ、レーゼマン、ウォーレンらはじめとする東の谷から帰還した隊員らにレオンハルトらの後を継いで是非また前線に立ってくれることを期待する、と告げられた。 第三の部隊として、【騎狼部隊】が上げられる。 団長の水着の前に開発が行われたのが大型騎狼であり、この開発資金は彼らの活躍により得られたものであったことは述べておかねばなるまい。 【龍雷連隊】。 彼らには戦後、本校においても様々な問題があったとして処罰をとの声も上がったが、一方で優秀な働きをした隊員がいることや最前線を勝ち抜いた武力と知略は見逃せずという声も多かった。龍雷連隊は……これらのことを総合して再び、最前線送りが決定される。 龍雷連隊に協力した【黒豹小隊】に関しては問題点を告げる者はなく指揮官が有能であるという者もいたが、まだ新部隊であることからも今後の活躍を見てという辺りに落ち着いた。 さらに、上記部隊とは少し違うが、南部において注目すべき戦果を挙げた水軍の発展を教導団においては第四師団が担うことになる可能性が高い。 「他校の者で協力をしてくれた者も多い。自警団を結成してくれた者たちもいるというではないか。 礼を言いにいかねばなるまいな。ちょうどここに集まっている者たちで各校へ向かってくれ、クレーメックは蒼学へ、クレアはイルミンスールへ、戦部は百合へ、ルースは薔薇へ、イレブンは葦原へ、岩造はパラ実行きだ。頼むぞ」 「はっ!」 「それから空京大学は……と、そうであった。私はろくりんピックの方に行かねば。 貴官らも早く行くのだ。私は忙しい」 * 九月。 ろくりんピックの終わった頃…… 再び、教導団本校。校長室。 とんとん。 「ハイッテモイイデスカー?」 「どうぞ」 「ジャア、ハイリマスネー」 「ちょうど良い所に来た。 貴官に新たな任務を命じ………………」 「ドウシタンデスカ? ダンチョウ? アレ? ワカリマセンカ? オワスレデスカ? ソンナァ、カナシイナ……」 「サミュ」 「……グスン。エッ。 ワ、ワァァイ!!」 サミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)の顔が、ぱぁぁっと明るくなル。 「それにしても陽に焼けたな。サミュ。見違えたぞ」 「ソレデカァ。デモヤッパリヤケチャッタンダ…… ウーン。ヒヤケシタクナイナアッテイッタノニ……」 しかもカタコト口調が何故か成長してしまっていることに気付いていなかった。 「ダンチョウ。水着、ニアイマスネ?」 「うむ。名残惜しくてな……」 「アレ。今、何月ダッタ?」 「九月……末だな、もう十月になるぞ」 「エエー。長旅ダッタナァ」 倒れている人や、助けを求めている人たちを何人も何人も、ずっと助けながらきたから…… 「ご苦労であったな、サミュ。暫し休暇をとるがよかろう。 その後、サミュには手伝ってもらいたいことがあるんだ」 「エエ! 本当?! 団長カラ……嬉シイ!」 「来年の水着の開発だ」 「……ウン」 「サミュは私のことをよく知っているからな。よりよい私にフィットした水着がつくれるだろう」 「ウン! ワカッタ」 「さて。サミュは、この旅で何か大事なものを得ることができたかな?」 「デキタヨ。コレ」 サミュエルは、レーヂエ(れーぢえ)を大事そうに抱えていた。 「それはよかった。レーヂエがこれまでの功績からNPC登録されることになりそうだ。 レーヂエも最初のシナリオガイドに登場してから一年間、よく頑張ったな」 「ワァイ!」 (第四師団NPC(旧各部隊長)について。以下のようになる。 レーヂエ NPC登録/ロンデハイネ しばらく南部地域における教導団指揮官/パルボン 死亡(と伝えられる。が、薔薇学に転生。黒崎天音がハヴジァで託された、とされる孤児にその面影が見られる。)) * 十月。空京大学。 後期から、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)はここで学び始めている。 「眠いわね……まあ、この講義は単位が取れればいいわ。 む?? 何かぞろぞろと来たわね……見学かしら?」 講義室に、ぞろぞろ、ぞろぞろと、ぼろぼろの服を着た難民たちの群れが入ってきて、空いている席に着く。埃っぽい……砂? さいわい、この非常勤講師の授業はほとんど空席だったので、五十近い席が一杯になった。 新天地を求めて、半年程。 長い旅だった。 霧島 玖朔(きりしま・くざく)がいちばん前の席に着いた。隣に、御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)を座らせる。 ここがそう、彼らの求めた新天地であった。 御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)は生前、こう言い残した。彼ら戦争の難民たちと過ごした【バルバロイ】の経験から、そして国と国のエゴに巻き込まれ被災した難民と共に、この空京大学で戦争の悲惨さをアピールしていくのだ。大学闘争だ。 国の枠組みを超えた、国境なき救護活動集団設立を訴えるのと。それにはまさに、空京大学がぴったりかもしれない。 「玖朔ならできるわ、私の見込んだ男ですもの」 これが私の玖朔への最期の御願い……霧島玖朔、南部戦記で私が見つけた世界一の希望…… !! 講義が終わる。 学生たち難民たちは皆、心地よさそうに眠っていた。 「千代。起きるんだ」 「はっ。おはよう……随分、長い間眠っていた気がするわ。一個年取ったくらいに。 ここは……大学の講義室。私、大学生……(それはない)? 私、夢を見ていたのかしら。とても長い戦いと冒険の夢。…… この分厚いテキストは? 『ヒラニプラ南部戦記』……。あ、チャイム……次の講義が始まるわ。行かなきゃ」 (終。) 担当マスターより▼担当マスター 今唯ケンタロウ ▼マスターコメント
最終回へのご参加ありがとうございました。お疲れ様です。また、これまで本シリーズに関わってくださった方々にも本当に感謝を述べたいと思います。 |
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