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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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7-03 南部諸国から

 南部諸国からオークスバレーに向かう、南部王家およびそれに従う諸侯ら。王家と交渉を成功させた教導団外交使節。
 前回はオークスバレーからその進行を阻みに来たパラ実勢を退けた。
 また、王家に直属といっていい400、親教導団諸侯400に加え、諸侯のなかで反教導団的であった者たち800も、王子の旗のもと再び一つにまとまろう……という意志が表面に見え始めたというところであった。一国ずつが他の南部諸侯より強い勢力の独立三国については、ひらにぷらみなみおみ120万石との結びつきが強い。
 前回、本営代表として最後に南部諸国に現地入りしたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、反教導派の意志を王家と向けるのに一役買った。
 クレアは、このまま勢いもと親黒羊派(反教導派と同意味)が王子と一緒に戦場に、という流れになりやすいだろうが、そこで考慮する。万が一、別ルートから別戦力に攻められる、ということも危惧としてはあり得る。そこで、残存させる戦力等も按配せねばとした。
 また、教導団はやはりあくまで王家の軍を指揮するのでなく、作戦案を提示するかたちが望ましいことを強調した。
 外交使節は現在、青 野武(せい・やぶ)が代表役を務めるかたちだ。
 青としては、今回の進軍に関してはもと反教導派に関しては、軍勢が整い次第あとを追ってほしいとのみ要請することとした。兵数についても彼らの自由意志に委ねる。
 彼らは、大岡 永谷(おおおか・とと)、またクレア麾下エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)には、前回王子が"お慈悲"を出したパラ実軍の追撃を密かに任じた。
「それから」クレアが言う。「王子が狙われる可能性は極めて高かろう。周辺の警護は厳重にしておくことだな」
「うむ。それはそうであろうな」
 これについては、王子の周りには引き続き劉 協(りゅう・きょう)がついており、また、ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)もこれに加わった。
 
 その王子のところでは……
 それがしも悲しいが、涙を堪え先に進むのが男であろうと――オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)は王子の失恋を慰めたのち、(さらば王子。貴方はよい王になれたかもしれないが、生を受けるのが十年遅すぎた。優しさは美点、されど乱世の統治者には罪よのう)そうしてそのもとを去っていた。
 王子の失恋……。
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はその恋心に気付き自らの迂闊さを思った。
「私は君のお姉ちゃんで味方のつもりだったけど……傷つけちゃったねゴメン」
 王子を抱きしめて、それでも王家のこととは関係なく、君を君として見ているんだ、と名を呼ぶのであった。
「うん……」
「私は君の味方でいたいんだ……いいかな?」
 王子はもう一度、月夜に、嬉しくて頷いた。
 月夜は、王子の今後のことを真剣に思う。うん、まずは戦いが終わって、そうしたら。……
 劉 協(りゅう・きょう)はというと、王子のよき話し相手となった。友人として、それにかつて彼とほぼ同じ年齢で王の座につかざるを得なかった人間として。
 結婚の話については、とりあえず口をつぐんだ。(実際には、外交を進めている皇甫にとって、独立三国に側室候補がいないため懐柔策としての意味は薄い、と判断したからであるが。)
「どんな政治がしたいか、この南部をどんな国にしていきたいか、それを考えなければなりませんよ」
「はぁ……」
 王子はため息をつく。
「はは。まあ、今すぐそんなに深刻に考えようといったって、難しいですからね。少しずつ」
「結婚かぁ……」
「……。え、王子その話は保留に……いや」
 どうしたんだ。大丈夫だろうか、もしや失恋の心の傷が深く捉われているのでは。劉協は心配になる。
「ハンスさんは?」と王子。「結婚はどういうものだと考えている?」
「……わたくしにふりますか」
 


 
 王子ら一行がいよいよオークスバレーへと入っていき、南部諸国にはもと反教導団派の諸侯らそれぞれと、独立三国が残っていることになる。 
 教導団は無論、これをそのまま置いておくことには懸念が残る。
 しかしここには皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)が残りパートナーらと引き続き活動を展開する。
 南部諸国での教導団イメージアップ・キャンペーンである。
 皇甫 嵩(こうほ・すう)がまず、伽羅を補佐して諸国の上流階級(諸侯に次ぐ貴族)・中産階級(兵士・商人や地主)・貧困層(小作人・日雇い労働者にあたる者等)ごとに、教導団/ひらにぷらみなみおみ120万石のどちらにどれだけの支持が集まっているかの状況を整理し、キャンペーンの内容によりきめ細かな修正を加えていった。
 うんちょう タン(うんちょう・たん)は皇甫崇の情報収集と分析の結果に従い、また吟遊詩人として諸国を回った。また、前回に加えて、いずれ誕生する南部を統べる国家への期待感や、教導団からの技術提供等の経済振興によって市民生活が向上し豊かになっていくという将来像を、高らかに謳いあげた。
 皇甫崇はこの調査のなかで幾つかのことを見つけ出していく。――諸侯らの下にある貴族等は諸侯が教導団に傾くとそれに従った。治安の悪い国によっては諸侯に反感を持つ商人や下層の民がみなみおみ120万石を支持した。また、一部の兵や、食い詰め・ならず者の類が、兵を集めているという噂を聞いてみなみおみのもとへ流れていっているという。
「むう。何と。伽羅に……知らせねば」
 皇甫伽羅(こうほ・きゃら)は独立三国への働きかけを強めていた。
 その時々の都合でコロコロと所属学校を変えている南臣は、各学校や組織とのコネと呼べるものを持っていない、という点を伽羅は指摘。長期間に渡ってパートナーシップを築ける相手ではない。関係を見直すべきだ、として伽羅は工作を開始した。
「南臣か」「どう思う?」「あたしはあいつは好きだけどね……はたしてそういうやつかしら?」
 独立三国にしてみれば彼らの南部の比較的外野で生きてきた性質から、南臣の反骨的な面に惹かれる部分があった。そんな彼らにとっては他の諸侯のように利益よりも義憤を重んじるという部分が強かったのかもしれない。
「安定した関係をお望みなら、我々教導団と結ぶべきですよぉ。
 教導団は、たとえ皆様方との交渉担当者が他校に移ったとしても、皆様方とのお約束した内容は組織として引き継ぎ、守り続けますからぁ」
 なので、伽羅の頭脳による交渉が多少いつものように運ばなかった面もあった。
 そして……その当の男、
「教導団から俺様に挨拶こねえのは、用済みだから?」南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)。「なら、乱世の華とばかりに!」豪快に笑った。
 南臣は、独立三国を率いて川を遡上したのである。
 皇甫崇は伽羅にみなみおみ120万石が兵を集めていると伝令を送ってきたが、こういったならず者らも南臣の反乱軍に加わって続いた。
 オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)は治安維持と補給を名目に南部に残り、反教導派800を掌握にかかったが、こちらは伽羅たちの存在によって事が思い通りに運ばず、南臣の交戦のタイミングに呼応することができなかった。
 オットーは、青 ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)がその無害そうな外見をフル活用し独立三国や反教導団派諸侯と仲良くし、その実彼らを出入りし南部王家がまとまるよう仕向けていたのを見つけ出すと、せめてもと十八号に挑みかかり、刺し違えた。
「バチバチ、バチバチ(十八号は、そんな裏の狙いはつゆ知らず)バチバチ、バチバチ(一つにまとまることの喜びの感情を下から高め)バチバチ、バチバチ(よと言われただけなんですがあああー)バチバチ、バチバチ……」
「お、おうう……光一郎。あとは任せた……存分に、華と散ってくれい。おう、おううぅぅぅ」
 バチバチ……ビカッ。チュドーン