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リアクション
6-05 グレタナシァ1
グレタナシァ。
国内に潜り込んできた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)。いよいよ、ここに立て篭もる黒羊軍を、討つ!
今日も錬兵に精を出しているセリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)と湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)。それも、このときのためであった。
「今日も張り切って練兵行ってみましょうー! ってあれ? いよいよやるんですか?」
宇都宮が二人にいよいよだと話しに来る。
「うーん。もう少し鍛えてからの方がいいような……
ああ、今回でシリーズ最終回だから尺がな……んぐぐ」
「ふむ、宴席での騙し討ちか……この場合こうするしかないであろうなあ」
宇都宮の策はすでに決定しているようだ。
三人は、隠しておいた装備を取り出しておく。
同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)は相変わらず毎晩、グレタナシァ国王を夜毎快楽攻めにして色々と言うことを聞かせるよう調教済みであった。
まずは黒羊郷と手を切り教導団と手を組むこと。
それによって地球との交易が可能になり、今以上に利益を得られるだろう。黒羊軍の方は、同盟軍を見捨てて逃げている。そういう輩であると。
王は同人誌の静香の虜で言いなりになっていたのでこれを聞き入れた。
宇都宮が、準備の整ったことを告げてくる。いよいよだ。静香は、王に景気づけとして宴を催してもらうよう頼んだ。王からの遣いが駐留する黒羊軍の指揮官ラッテンハッハにも向かい、彼は宴を喜んで承知してきた。宇都宮は勝ちを確信した。
しかし……ここへ、砂漠の小国を撃退に行っていた五月蝿ひろしの隊がどうやら戻ってくると報が入る。
「このタイミングで……」
経緯はわからないがドストーワの兵と合流しているという。おそらく後詰で砂漠を渡ってきた連中なのだろう。
厄介だ。
宇都宮は、グレタナシァの高官らと話をつけていたところであったが、セリエにあとを任せ、しばしこの打開案を練った。
「問題はドストーワ兵、ね。王羊隊(ひろし)と共にグレタナシァに組み込まれるなら問題ないけどそうでなければ……」黒羊共々一服盛らなきゃいけない。そう宇都宮は思った。薬で捕縛可能なら越したことはないが効きにくいかもしれない、その場合はパートナーと協力して私が当たらなきゃキツイわね、と。
セリエは、宇都宮に代わって高官らに説明した。
「基本的には宗主国の軍を持て成すフリをしてもらいますね。
味方の城にいると気が緩んでいるのを更に油断させてください。その上でしびれ薬や眠り薬入りの味の濃い料理や強い酒を振舞って黒羊軍らをもてなすんです」
これまでの立場上、そうしても何ら不自然はないはず。大丈夫のはずだ、とセリエは思った。一方で、祥子が悩んでいたけれど……と心配もする。獣人兵のこと。獣だけに、獣医の心得が役に立つかもしれない。ワタシが何とかしないといけないかも……そうセリエは覚悟を決めておく。
ランスロットがぽん、とセリエの肩を軽く叩く。
「薬が効かなくとも案ずるな」と。
彼は、錬兵を行ってきたグレタナシァのなかでも精兵といえるまでになった数名を連れ来ていた。
「これまでの練兵で諸君と黒羊兵は実力伯仲」そう、兵たちに説いてきた。
「されど数は我らが倍以上、しかも地の利がある。複数で囲んで確実に仕留めよ。ドストーワ兵には私やセリエ、祥子が全力で叩く。諸君は黒羊軍の対処が済んだら手伝ってくれれば良い。その場合三人以上で一人を相手せよ」、と。
なかには、後ろに侍る者らのように、獣人兵とも何とか渡り合えそうな者も出てきた。気合を入れた訓練の成果だ。
黒羊軍を罠にかける話がまとまった段階で、裏取引は成立。これを手土産として、内々の説得に応じてくれたと教導団に報告を出した。前線・岩城には優秀な団員の孔中尉がいる。彼女は早速これに応え宇都宮を助ける行動を起こすことになる。
そしてさいわいか、翌日の朝、王羊隊からまだ帰還には二晩ほどかかりそうだと連絡が入ってきた。
宇都宮はこれで決まったと思った。宴は今夜決行にしよう。
*
「はっはっは。愉快じゃのう。
今頃、本国では無謀にも攻め入った教導団どもが我らの守備隊に殲滅されておるぞ。わしらがここで戦っている甲斐もあるというもんじゃ!」
いつの間にか黒羊軍に残る数少ない指揮官の一人となってしまった
ラッテンハッハ(らってんはっは)。
盟主であるからと、黒羊軍の兵らにはより上等の酒と料理が振舞われる。勿論、上等のしびれ粉入りの酒と料理だ。
「ラッテンハッハ様?」
宇都宮が身を寄せ酌をする。
「ははは。今夜はどうじゃな」
「地球のお話しなどいかがです?」
「話か。話だけではつまらぬ。地球での色んな……むふふ、教えてくれんかのう。そなたの、むふふ」
「地球には……」
「ん?」
「こんな言葉があるそうですよ? "神代にも騙す工面に酒が要る"ってね……お命頂戴!」
「ん。どういう意味……」
宇都宮の手が首に添えられると同時、凍てつく炎が発動した。教導団前線と対峙してきた黒羊軍指揮官、ラッテンハッハ死亡。
「ラ……」「ッテンハッハさ」「ま」
酒を飲んだ兵らは、もう動きが鈍っていて何もできなかった。
無論、なかにはまだ酒を口にしていない者もいたし、外で警備にあたっていた兵もいる。だが、錬兵を行ってきた上に、残る黒羊軍だけなら数だけでも十分に圧倒できた。駐屯軍はすべて捕虜となった。