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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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6-04 岩城にて
 
 その頃、龍雷連隊のお城岩城では……
「ふうー、暑い暑い」
 むぎわら帽子をかぶって汗をぬぐう松平 岩造(まつだいら・がんぞう)(龍雷連隊隊長・城主)。
「暑いですわね」
 同じくフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)(岩造の妻)。
「暑いでござるな」
 武蔵坊 弁慶(むさしぼう・べんけい)(岩造の部下)。
「……」(暑くてなにも言う気にならないらしい。)
 ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)(岩造の部下B)。
 岩造とそのファミリーたちが農業に勤しんでいた。
「ふうー、暑い暑い」「暑いですわね」「暑いでござるな」「……(暑くてものも言う気にならない。)」
 更に、
「うん、暑いねぇ」
 不動 煙(ふどう・けむい)
 畑仕事の兵力として雇われた龍雷連隊の新顔なのだ。あるいは、こうも言われている、実は黒羊郷探訪の頃から蒼学傭兵として遠征に従っていたが岩造の龍雷連隊結成事件に居合わせ思わず食い詰めらと一緒に連隊員に加わってしまった、いわば結成当初からいた龍雷古参のメンバーであるとも。畑仕事に全力を尽くし最近頭角を現してきた。(真相は定かでないが。)
「ふう……」
 輝かしい汗をぬぐう、不動煙。汗を流し、未来のために農地を耕す。
 輝かしい汗をぬぐう、岩造。「おお。不動。貴様も頑張って働いてくれているようだな」
「ええ、もちろん」
「こうして農業に汗を流して働くというのも、いいものであるなぁ」
「ええ、そうですとも」
 輝かしい汗をぬぐう二人。
「……」
「あれ、どうかした?」
 煙は暑さにちょっとぐったりしている古代禁断 死者の書(こだいきんだん・ししゃのしょ)に語りかける。
「夏バテかい?」
「エッ??! ハッ」
「農具使う事によっても力が付く、共に剣を振るったりする事と同じだ、頑張ろう」
 煙は畑を耕しながら、のんびりマイペースに死者の書に語りかける。
「一緒に頑張ろうネ、煙♪」
 死者の書はそう煙に声をかけられると元気を取り戻し、立ち上がった。煙のパートナーとして、もっと力を付けたい。精一杯頑張らなければと。
「これで食料の補給は少しはましになるはず……」
 そう、煙の言うとおりであった。
 農業については天璋院 篤子(てんしょういん・あつこ)の提唱したものである。屯田制における農業生産力の体制つくり。その体制は、生産が軌道に乗るまでの間を近隣の住民の好意に預かり、その好意の代償に近隣の治安を守る体制を敷くこと、である。付近住民への説得が彼女に課せられ、篤子は大忙しであった。
 実際には、北の森からグレタナシァまでの間には岩城があるくらいで、住民とは、龍雷連隊に従った食い詰めらの家族や知己等といった具合になる。篤子は住民らを集めて会議や飲み会を開き、子守唄や、多少聞き分けのわるい者には吸精幻夜も施したりとして、言い聞かせた。
「みなさんの安全はゆくゆくは南部王家が担ってくれます! 将来のために先行投資、先物買いって形で善意を施してください。王家が頼りない時はいつでも私たちシャンバラ教導団にご連絡ください!! 私たちはあなた方の見方ですから」
 篤子は笑顔でそう説く。
 篤子はちょっと強引な手段もあったが住民らの拍手喝采を集めた。
 そして笑顔でつぶやく。「うふふ。将来、この地(やがて岩城にできるだろう岩城下町を含めた国境の町)は、"岩代"と呼ばれるに違いない……」
 そういうわけで、岩城下住民となった者らと汗水流し岩造は働く。
「ふうー、暑い暑い」「暑いですわね」「暑いでござるな」「……(暑クテ何モ言ウ気ニナラナイ。)」
「岩造さーん。
 次は、お城のなかの廊下掃除もお願いねー!」
 篤子が窓から呼びかける。
 教導団が去ったあとの警備は南部王家の裁量になると篤子は判断している。通商・防衛の警備目的において城砦機能は大げさであるとして、龍雷&黒豹ら協議の結果、警備機能のみを残した墨俣砦風の構成で、王家に譲渡することにしたのである。
 岩造はしっかり掃除しておかないとな、と思う。
「はーいわかった。
 ふう。よし煙、私たちは城のなかへ戻ろうか。お風呂で汗でも流そう。背中でも流そうか、男の友情の証だ」
「そうだねぇ。じゃあ、死者の書。次は城の掃除……はっ」
「煙?」
 煙は何かに感づいた様子。
「死者の書! 行くぞ」「う、うんアル……」
「煙!! 風呂に入らぬのか?」
「ええ、後ほど! 床掃除は、任せます隊長殿!」「煙、待つアルー!」
 煙、死者の書は駆け去っていった。
「うむ。
 フェイト、行こう。弁慶とファルコンは引き続き、農業を頼む」
「岩造殿、おう任せろでござる! わしもあとで隊長の背中を流してさしあげようでござる」
 輝かしい汗をふりまく弁慶。
「……(暑テ何モ言ウ気ニナラナイ。ちなみに栽培しているのは小麦や芋や野菜類なのだよ。)」
 ファルコン。
 


 
 フェイトは、前回の戦いで岩造と互角の勝負を見せたならず者の頭領メリガーゼカセに会っていた。
「メリガーゼカセさん、貴方のような人は私は強くてもの凄く尊敬しちゃいます」
「……」
 最後に、甲賀決死の助けが入り、メリガーゼカセは転じて甲賀を討ち取る寸前までいったが追いついた岩造に捕らわれた。
 部下を失い、彼は生きる気力も失っていた。
「貴方をこれから岩造様・龍雷連隊の支えになってこれからも共にしていきたいのです。貴方も力があれば龍雷連隊はより強い存在となっていくのでしょう?」
「……」
「龍雷連隊は貴方のような強い方を必要としています」
「……」
「龍雷連隊はいずれ教導団……いやパラミタで最強の存在になられるのでしょう」
「……女、おまえフェイトと言ったか」
「はい。私がフェイトでございます!」
「そうか。フェイト」
「え、……えっ? (い、いけませんわ)」
 

 
 一方、岩城付近の森。
 緊張が走る。
 岩城兵力のうち六十を率い三十ずつを左右の森に伏せる。息をのむ甲賀 三郎(こうが・さぶろう)。龍雷連隊の軍師だ。
 ――最小単位は五人の分隊制。中集団に十人の小隊枠、最大三隊。
 大集団に三十人の一隊として、木々の生い茂る中では五人の分隊戦力が機動力に勝る。敵勢が森へ突出したら強襲した三十人の一隊を十人の三隊に分裂させて臥せる。つまり敵隊を釣鐘状態に陥らせる。
 同じように、六十を率いている小松 帯刀(こまつ・たてわき)
 敵は見晴らしの良い街道から進軍してくる。両隣の木々から強襲、敵軍の外郭の哨兵が森の中に入ってきたらこれを各個に撃破して数的ハンデ差を埋めるゲリラ戦とするつもりである。
 だが。
 ……敵はいない。これはあくまで敵襲来を想定した戦闘訓練なのであった。
 パプディスト・クレベール(ぱぷでぃすと・くれべーる)が、プーマ1号・クラウスマッファイ(ぷーまいちごう・くらうすまっふぁい)に乗ってグレタナシァの方から駆けてくる。前回、敵を追討の任にあたってより、黒豹小隊のクレベールはその能力を生かし常に敵情の偵察を欠かさないでいる。小隊の長、黒乃らは甲賀、小松と交替で戦闘訓練および警備にあたっている。黒乃は今や訓練の講師である。水軍に協力していたジャンヌ、ロイもこちらに呼び戻される予定である。抑制の効かないドリヒテガは、岩城のお留守番である(心強い城番でもある)。
「パンにはよ〜クリームソースを馴染ませてよ〜喰うんだよ!」
「クレベール」
「おう、今日も異常なし、ってことだな!」
「ご苦労です」
 そこへ、
「……感じる」
「む?」「てめえは、新顔の煙じゃねえか。畑仕事はどーしたんだい!?」
「……く、来る」
「……」「何がだぁ?!」甲賀、クレベールは訝しく顔を見合わせる。
「煙が何かを感じているアル! 何かが来る、アル!」
 死者の書は龍雷の先輩らに必死に主張する。
「し、しかしそうは言ってもな……グレタナシァに動きは見られなかったぜ!?」
「むう。クレベール。念のためです。
 今一度、偵察任務を願えますか?」
「……ああ。甲賀がそう言うなら。
 ふふん。これは何かあるかもしれないな。楽しみだぜ。プーマ1号クラウスマッファイ! 行くぜハァッ!」「あ、はい! いざ参るであります!!」
 何かに怯える煙。
 甲賀は、グレタナシァ、その向こうにどんよりと広がる砂漠の空を見つめた。