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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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第III部


第7章
南部諸国・オークスバレー決戦

 
 昴コウジ討たれる……の報は、ノイエの仲間に大きな衝撃と、悲しみ、そして怒りをもたらした。
 野戦訓練からの盟友と言える青 野武は昴に代わり、外交使節と南部諸侯らを率いると、王子と共にオークスバレーに進軍。峡谷にてパラ実との最終決戦に挑む香取翔子のもとへと一刻を争った。
 もと反教導団派の諸侯、そして出兵を決めた独立三国はこれに続くことになるが、あやしい動きが見られる、との報告もあった。
 独立三国の内ドレナダに進駐した(もと教導団・)南臣のことも懸念としてある。
 第四師団軍師候補とも言われノイエの中でも青と共に外交・策略に秀でる皇甫伽羅が南部に残り、これへの対策を引き受けた。
 また、昴を討って南部を撤退した300強のパラ実残党を、輸送隊の長・大岡永谷とクレア麾下エイミー・サンダースが追撃する。(前回、パラ実を逃がさせたのは南部における王子の"ご慈悲"としてのパフォーマンスであったと見ることもできるだろう。南部を出た賊徒を、教導団が放っておく筈もなかった。特に現在、輸送隊の護送・騎兵となっているのはあのパルボンリッターである。この手柄の機を逃したく思う筈もない。永谷は止めはしなかったが、深追いし逆襲に遭うことに注意を促した。)

 南部に懸念を残しつつも、戦局はいよいよ、オークスバレー最終決戦に集約されていくこととなる。
 
 
 ※ガイドに記載されていた兵数に関してご指摘を頂きましたので訂正させて頂きます。
 教導団側:オークスバレーにおける部隊に、前回鉱山から救出された200が含まれていませんでした。/オークスバレーに向かっている部隊は900と記載しておりましたが正しくは1,050です。/パラ実側:オークスバレー風雲又吉城における兵数は500と記載しておりましたが正しくは700です(又吉500、マディキチ200)。
 
 
7-01 オークスバレーにおける香取隊

 今回のオークスバレー解放において教導団側の総指揮を執る香取 翔子(かとり・しょうこ)。前回、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)と共に、不良どもの立て篭もる又吉城を攻めたがこれが予想外になかなか強固であった。火を防ぐために周囲の林木は伐採され、トラッパー等が仕掛けられていた。
 現在、鉱山からジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)によって救出された兵200を加えた1,050を、風雲又吉城と南西分校との間に陣を張って待機させている。
 香取は、これによって両者間の連絡線を断ち、合流を阻止する心算である。
 そして自軍はここで南部から向かっている軍勢と合流するつもりだ。
 孤立した、敵本拠となっている南西分校を叩く。あそこにも悩みの種はあるが……無論これにも手は打ってある。
 香取の陣営には、水原、ジェイコブ、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)がいることになるが、ジェイコブはすでに作戦に動いた。ジェイコブの救出した元鉱山守備隊の200はゴットリープが預かることとなった。ゴットリープは前回は登場しなかったが、第一回から続けて苦労してきていた。
「フリンガー……カッコいいわ。その頭」
「ウワーン」
 香取、水原はにこやかに笑いつつもゴットリープらの活動を労った。
「では、また頼むわよ。ノイエの勝利のために」「死なないで、フリンガー」
「な、何ですかそのフラグめいた……
 とにかく。行ってきます」ゴットリープもこうして出陣した。
 
 
 
7-02 ナパーム投下

 その香取のもとへ、間もなく南部諸国から教導団と連携すべく王子らの軍が到着するのだが……
 オークスバレーにおける教導団側各所の様子を見ておこう。
 第一部で東河方面にも進出しリゾートの版図を広げようとするプリモのパートナー宇喜多 直家(うきた・なおいえ)の守るのは、プリモ温泉。一時はパラ実等連合軍に占拠されたオークスバレー最後の砦となりまた難民キャンプとも化していた。
 前回では、オークスバレー解放に進軍すべくここに寄った指揮官・香取との間に一波乱あったりもしたが……
 現在はとくに異常なく、宇喜多が通常経営を行っている。
 さてそこへ何故か、パラ実大将である国頭武尊のシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)が、民を連れて訪れた。
「客か?」
「ええ、住民の皆さんを戦に巻かれぬよう避難させて頂きたく。
 お願いしますね?」
「うむ。感心なことよの」
「それから……」
「?」
「武尊さんから教導団に対しナパーム弾を使うと連絡がありました」
「は、はっあああ」
 シーリルは悲しげな目をした。宇喜多はまっ白になった。
「なななぱーむ弾は、今どこに……」
「ここに。私が預かっています」
 シーリルはやわらかな口調でそう言って、ポケットのなかからナパーム弾をとりだした。
「はあああ馬鹿な。何故、温泉に持ってきた。やめてーー。
 そ、そうだ。そ、それをこちらに貸しなさい。そっとだよそっと……」
「ああ、重い……落としてしまいました」
 ナパーム投下。「はあああきゃあああああ」
 プリモ温泉爆破。オークスバレーもけし飛んだ。
 宇喜多は、壮絶な死を遂げた。
「はああああ……」 という想像に悶える宇喜多。宇喜多はまっ白になった。
 シーリルは、悲しげな目をした。――オークスバレーには教導団だけでなく、又吉くんたちもいます。このままナパーム弾を使用したら、陣営に関係なく大惨事です。それだけは、何としても避けねばと。
 シーリルは民を宇喜多に預けると、教導団の偉い人に会うべく峡谷の方へ向かった。
 

 
 ナパーム弾。何とかせねばならない。
 南西分校の付近では、香取配下のクレア・セイクリッド(くれあ・せいくりっど)が敵の監視を行っていた。
「シャケおにぎりがあればワタシは幸せなのだ」
 六個目のシャケおにぎりを食べている。「ウッ……七個目が食べたい。はぁはぁ、でもこれで最後なのだ……」
 前回ハーフオークを避難させてのち、峡谷へ戻り南西分校に向かうべくそこを通りかかったのは、夜霧 朔(よぎり・さく)
 夜霧は、南西分校の敵総大将国頭 武尊(くにがみ・たける)に問いかける。
「あなたは過去、パラ実生でありながら分校生と共にオークたちと戦ったと聞きます。
 それが今、何故こんなことを?」
 国頭はただ、
「理由なんてねぇ。こまけぇことはいいんだよ」
「……そのときのように、これからも共に戦うことはできませんか?」
 国頭はそこで口をつぐんだ。
 国頭にとっても、必死の一戦であった。
 
 そしてここへ。あの男が向かっている……
 

 
 もう一つ。ここは鉱山。秦 良玉(しん・りょうぎょく)はパラ実をこらしめたあと、もといた鉱山に戻った。
 そこはすでに解放され、今はだれもおらず暗闇があるだけであった。
 静かだ。
 良玉はふと、そこで暗闇のなかにうごめき、あふれ出てくる魔物たちの幻を見た。
「これは……何。アカシックレコード?」そう名づけられたタイプライターを、良玉は見たという。
「!」
 暗闇のなかで一匹の猿がキーを叩いている。
 暗闇のなかから……今度はまっ白な原稿が次々と浮かび上がり待ってくる。文字が浮かんでくる。
「な、何。これは……これまでの『南部戦記』の記録じゃと。その結末は、結末は……」
 猿は、キーを打ち続ける。
 良玉は血眼にその原稿を読みふけった。
「こ、これは。……はああああ!」良玉は恐怖にかられるとその原稿の結末を燃やしてしまった。