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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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7-06 オークスバレーの戦い

 王子が率いたのは、王子に直属の400のみで、それでも香取隊850に、水原は青からもと外交使節の兵100(旧昴隊)を預かり、総計1,350の軍勢が南西分校に向かったことになる。その最終決戦は最後に語られることになる。
 一方オークスバレーには、青 野武(せい・やぶ)が親教導団派の諸侯400と残った。あえて決戦から外したのは、万一だが、南臣の息がかかっている可能性がある、ということだ。無論、諸侯らに明言はせず、香取との、最終決戦に向けての軍議のなかで話し合った。
 だが、彼らには南臣とのつながりは実際のところはなかった。
 また、劉協と水原には、王子が暗殺者の手にかかることのないよう細心の注意をもっての警護を要請しておいた。
 青は、シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)をフォルク・レーテ要塞(現在風雲又吉城)の方面へ遣り又吉の動きを監視させた。

 冒頭において出陣したノイエ・シュテルンの一人、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)は峡谷の一乃砦を攻める任を受けていた。急いで落とす必要はないだろうと考えた彼は、川沿いに陣を立てじわじわと敵を攻め上げていたのだ。彼はもう一つ役割を言い渡されていた。
「香取隊が王子軍と合流し、決戦に向かったか! よし」
 香取隊が南西分校へと出発し峡谷を越えてしまうと、ゴットリープは峡谷にかかる長橋を焼きにかかった。これで又吉はどうあっても分校に合流することはできない。香取隊は今や1,350という数だ。こちらから援軍を送ることにはならないだろう。
 橋には、天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)を向かわせた。ヴァルキリーである天津幻舟はその飛行能力を生かし、橋中央部の数箇所に爆薬と油の入った皮袋をセットした。次々と誘爆を引き起こし、橋はたちまち炎に包まれた。
「では私は綾小路 麗夢(あやのこうじ・れむ)と砦攻めに。今回で落とすよ。
 麗夢は、まだ戻ってないのかな?」
 麗夢は付近の集落等で屯している不良らを片付けて回っている。峡谷の治安はほぼ回復しつつある。残るは砦と、南西分校のみなのだ。
 さっさと一乃砦を落とし、すでに睨みを効かせている青とともに、又吉城の動きを封じておくとするか。
「レナは、青さんの方へ先に向かっておいてくれる?」
「強気ね。フリンガー」
「うん。まかせて」
「死なないでね?」
「あたりまえだよ」
 ゴットリープは出撃の準備を始めた。
 すると、兵らに慌しい動きが起こっているようだ。
「どうしたというのだ?」
「隊長! た、大変です! 一夜のうちに、敵側砦が、巨大な要塞に変わっております!」
「そんな馬鹿な。そんなはずはない」
 ゴットリープが兵を引き連れ行ってみると、一乃砦のとなりに、新たな巨城が完成しているではないか。「あ、あれのことか?!」
 ネオンライトでびかびかと照らされ、暴威寿婆という巨大看板が高々と掲げられている。
「そんな……そんな……すぐ、レナを呼び戻して。それから、青さんに」
「隊長! 暗闇のなかで同士討ちが起こっております!」
「まさか、そんなはず……だれかが情報撹乱をしているな。く、おのれ!
 な、何っ?! あなたは」
 ゴットリープの前に、薔薇をくわえて不敵に微笑む男が立ちはだかっていた。
「ああ。罪作りなまでの俺様の美しさ♪」
「ウワアアア!」
 


 
「何と。一乃砦のすぐ脇に、ネオンに輝く要塞が出現したと。……ふむう」
 又吉城外に陣を敷き、睨みを利かせていた青 野武(せい・やぶ)
「それはまやかし。敵の策にのってはいかん。ぬおわはは」
「……。フリンガーは大丈夫なのかしら」
 レナ・ブランド(れな・ぶらんど)もすでに青の陣に到着していた。
「あっ。青殿! 敵が打って出ました」
 猫井 又吉(ねこい・またきち)の隊か。
 又吉は、城を堅く守り打って出ないよう国頭から言い渡されていたが、その後、吉報は届かず、連絡線も遮断。それでも籠城に徹し、連日連夜、音波銃を峡谷に響かせて嫌がらせをしてきたが、青が城外を取り囲みプレッシャーをかけるととうとう耐え切れずに打って出たのだ。それに、又吉は数刻前、頂上から東の空にネオンの輝きを見つけそこにパラ実の援軍来るの合図を見たのだ。もうこの機しかない。
「ウォォォォ。武尊のもとまで、行くぞォォ」
 夜も更けていく刻、峡谷内における最後の戦いとなった。
「敵指揮官・香取め。出あえ! おまえら皆まとめてズボン奪って晒しものにしてやる!!」
「香取はここにはおらん」
「な、何。貴様は誰だ」
「ぬぉわはははは。今頃、南西分校は落ちておるだろうな」
「ゆ、許さん。
 武尊のことを……! く、く、おらぁぁ!」
 打ちかかる、又吉。
「シラノ」
 青の前に、シラノ・ド・ベルジュラックが剣をかざして立ちふさがった。ぶつかり合う。
 
「はぁ、はぁ。兵が、我が兵が討たれていく……」
 黒羊兵は残り少ない。
「ヒャッハー!」
「びくっ。又吉かっ」
「また会ったわね、マディキチ(までぃきち)ちゃん! 元気にしてた?」
「?(なんだこのアフロのスケバン女? こんなやつ知らぬぞ。おー関わりあいになりたくないわ。)
 ええい、どけい遊んでいる暇はないのだ!」
 再会してすぐで悪いけど……(初回以来スケバンで過ごしていた)レナはニヤリと笑い、ホーリーメイスを振り下ろした。「あの世に逝ってもらうわね!」
 どかっ。「マディキチ、このレナ・ブランドが討ち取ったり!」
 

 
「不覚……?」
 縄をかけられたゴットリープ。
「いや仕方ないさ。相手がボク(俺様)なのだから。げっへへ」
 勝利の美酒に酔う南臣光一郎(みなみおみ・こういちろう)
「さあて、そろそろ国頭を助けに向かおうかい?(香取、フルボッコにしてやんよ!)
 S級四天王と五分の盃を交わす好機……魅力的だねぇ」
「みなみおみさまぁ、こ、このようなものが届きました!」
「何。この箱は?
 黒 金烏(こく・きんう)からだと? ボク(俺様)に興味があるのかあの子?」
 南臣はわくわくして箱を開けてみる。すると、
「はっ、はああああああああ。
 何だ。紙切れか。何何?」
 両手袋をして手をかざした黒の様子が思い浮かぶ。黒はこう言っている……なにやら珍しいネズミがネズミ捕りにかかりましたので標本をお送りいたします。ご笑納ください。
「だってさ! ゆるスターなんて可愛いねぇ、金烏ったら。
 はああああああああああ、な、何だ。また紙切れか」
 ……黒は続ける。……今後とも王子に忠勤を励んでいただければ重畳であります。なお、鳴き声については当方では聞き取れなかったものとしておきます。……
「か。いやな予感がするな。はああああああああ」
 俺様の遣わした者の首級だと? 鳴き声については当方では……はっ。不問にするということか。ゆゆ、許せん!! このみなみおみを侮辱しよって。く、く。
「おらぁ、ものども!! 船に乗り込めやぁぁ」
 南臣は又吉城へ攻めあがった。
 

 
「うううう、これは稀に見る乱戦です。お、俺もしっかりしなきゃ」
 たったひとりの義勇軍として前回、募兵に応じ(パラ実に向かったところ何故かパラ実に入らされ南部諸国に向かい教導団と戦ったのちなんとか教導団に合流しあらためて義勇兵として参加することになっ)た、影野 陽太(かげの・ようた)
 そうだ。おそらく最後の戦いだろう。
 ばたばたと、倒されていく不良たち、兵たち。
「うわぁっ」
 襲い来るヒャッハーを女王のバックラーで受け流すと、魔道銃を抜いた。撃つ。スナイプ――頭を撃ち抜かれた相手が、どっと倒れこむ。
「はぁ、はぁ……」
 エイミング、――間に合わない。「ひゃあっはぁぁぁ!!」きわどいところを、交わす。
 そうなんだ。敵だって必死だ。影野は思う。たぶん、今向かってくる敵にも家族がいて、それを討つ自分は、その家族から見れば憎い仇でしかなく。……それでも、この戦場に身を置くことを決心し銃を手に取った以上、生き延びるために……! 影野は、相手をまた撃ち倒した。
「……!」
 生き延びるために全力を尽くすことだけが、たった一つの戦場の真実だと思う……! 影野はそうしてまた銃を握り、片手は知らずに胸のロケットを握りしめていた。ふいに、こうして血塗れてゆく手で大切な人を抱きしめる資格があるのだろうかと。あるいは自分が選んだ道なら、そうしてこそその資格が得られるのかと。
 教導団の兵らは、戦場においてすべきことは心得ているとばかりに、撃っていく。

 影野は銃を握る。
 大切な人のことを思い一個人として戦うのも、軍のために一兵卒として戦うのも、どれも等しく、戦いであった。この南部戦記。
「お疲れ様です!」
 影野は何故か思わず叫んだ。

 しかし、……まだだ。