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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

リアクション

 
7-08 終戦

 香取は、南西分校を取り囲み、時を待っていた。
「ジェイコブ……どうしたの? これ以上待たせないでよ」
「それにしても、静かすぎるわね」
 水原がつぶやく。「月が、きれいな夜ね。翔子」
「……。何を言っているのよ、こんなときに」
 分校内で何か悲鳴のような声が聞こえた気がする。「え? さっきの」「まさか……」
「あ、香取さん。水原さん。だれか来る……」
 王子が水原の腕を引っ張って言った。
「何」「だれ……」
 二人は、兵たち、教導団員たちは、振り返る。
 ……
 そんな馬鹿な。
「団長!」
 水着を着た金 鋭峰(じん・るいふぉん)であった。
 


 
 金団長の傍らには、水着を着て初登場の魏 恵琳(うぇい・へりむ)の姿もあった。
「……」(※水着はリアクション上の演出で実際には着ていません。)
「団長、ただ今、敵軍を包囲し追い詰めたところです!
 今頃、ジェイコブ・バウアーがナパーム弾の信管を抜き去っている筈……そうすれば」
「いや。もう、終わったのだ」
「団長? 一体、どういうことなのでしょう」
「つまり、こういうことだ。
 もう、世間ではろくりんピックが始まっている。南部戦記は長引きすぎた。そこで教導団・最終兵器の水着の私が出てきたのだ。
 どうだ? 素晴らしいであろう?
 香取。早く夢の世界から出てくるがよい。第四師団などにいても官位称号の一つも貰えんぞ。貴官には第一師団中尉としての任務がある筈。
 貴官らノイエの隊長ジーベックもろくりんピックに精を出しておるぞ」
「ゆ、夢……ですか?
 ジーベックがろくりんピックに? そんな筈は……あ、ああ」
 時間と空間に歪みが。
 次元が重なり、すべてが流れていく……
 

 
 魏 恵琳(うぇい・へりむ)は、シャンバラ大荒野の近くで行われた新兵の軍事訓練に参加していた。
 ちょうど、空京とヒラニプラ南西分校の中間地点といったところである。
 これまで野戦実習のちょうどいい相手であったオークが昨年のオークスバレー解放戦役で見事滅ぼされてしまったので、今年から訓練の相手は野良パラ実生になっていた。しかし、四月から五月にかけて頃、どうも不良たちの動きがおかしい。徐々に、大荒野からヒラニプラの山の方へ移っていくようである。
 ヒラニプラ南部には、昨年暮れ頃から、新しい部隊を中心とした遠征軍が組まれ奥地へと入っていった。っきりになっていた。
 団長もちょうどろくりんピックに向けての水着の開発に忙しく、第四師団にはまったくかまっていられない状況が、その四月五月過ぎてもまだ続いていた。
 魏 恵琳は今年の新兵として大荒野に合宿中、この不良の現象をいぶかしく思い、日夜、動向を調べた。
 しかし、訓練も大変である。
「順応性を高めなさい、出来なければ死ぬだけよ」
 彼女はそう、自らに言い聞かせ、同期新入生らがばたばたと倒れていくなか、何とか大荒野を生き延びた。
 恵琳は、やっと夏が近付き、ひとときの休暇に友人たちが空京へ買い物に行ったりするなか、彼女はそんなことには無関心、注意深く観察を続けた。一日休みなので、ある日不良たちのあとを付けてみた。すると、彼らが行く先は南西分校ではないか。
「南西分校に、不良が出入りしている……?」
 もう少し調べる必要がありそうだった。
 また数週の訓練が続き、いよいよ夏休みになった。彼女が再び南西分校に向かうと、分校から出てきた三人の不良を捕えることに成功した。それほどまでに、訓練の成果も出ていたのだ。恵琳はそのことが少し嬉しかった。
 ともあれ、三人のヒャッハーに問いただしてみると、おのおの次のように答えた。
「第四師団はパラ実に補給を断たれ兵糧攻めに有っている」
「師団上層部の地球人は贅沢をしているが、末端の兵士は餓えている」
「パラ実側は停戦を呼びかけているが地球人が拒否している」
 どういうこと?
 恵琳は、三人の不良を摘まみあげたまま、本校へと戻った。
 校長室。
 とんとん。失礼致します!
 ああ。憧れの団長だ(しかも水着。ぽっ)。
「ちょうど良い所に来た。
 貴官に新たな任務を命じ……何、違う? あやしい三人組を捕えただと。どれ、見せてみよ。むう……これは……確かに、あやしい」
 大事な点は、団長は水着を着用していた、という点だ。
 つまり、このとき水着はもう完成していたのだ!
 そこで、団長は第四師団のために大規模な援軍を送ることにした。
「李 梅琳!!
 何。いない? どうしてだ……三月くらいにすでに援軍に向かっただと? 知らんぞ。むうう。
 魏 恵琳(うぇい・へりむ)!!」
「はい! ここに!!」
「今から、援軍を率いて第四師団のもとへ向かうのだ! 
 ……そうだ! ちょうどいい、貴官、これを着てみてくれ。何? 嫌か。何故だ。女子用の水着がちょうど完成したところなのだ。ふふふふふふふふふ。これで、ろくりんピックは我ら教導団のものだ。ふふふ、ははははははは」
 

 
「というわけで、私たちが来たのだ」
 団長は語った。
 恵琳は、ちょっと恥ずかしそうにした。
「そ、そうですか」
 香取も、やっと、事態を理解してほっとした表情を見せた。水原、ニコっと微笑む。
 これで、南部戦記もようやく終戦だ。