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切なくて、胸が。 ~去りゆく夏に

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切なくて、胸が。 ~去りゆく夏に
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EPILOGUE 2

「隣、いいかしら?」
 ここはクレープの屋台跡、畳まれた板の上に膝を組み座っていた影野陽太は、いつの間にか眠っていたらしく跳ね起きていた。飛び上がって目を擦り、その人の存在に驚く。
「え……か、会長!」
「いいから、そのままで」
 環菜は陽太の隣に腰を下ろした。彼女のプラチナの髪が、さらさらとなびく音が聞こえた。
「来て……くれたんですね」
「私は約束は守るわ」
 あれから何時間経ったのだろう。
 祭りの後は寂として、一人の生徒の姿もない。何時間か前は大賑わいだっただけに、死のような静けさに感じられた。
 陽太はぶるっと身を震わせた。寒い――明け方近い時刻かと思われる。
 無言で環菜は、布を陽太の肩にかける。ほんの少しだが、寒さが薄れた。
「あの……これは?」
「イルミンスールの女子制服、私にエリザベートがくれたものよ」
「ええっ! そんな貴重なものを……」
「馬鹿、あげるなんて言ってないでしょ。今だけよ、今だけ」
「でも、環菜様がイルミンの制服を持っているということは……」
 環菜は特に感慨もないように告げた。
「そ。負けたのよ、残念ながらね」
「あっ、でも、俺、前もってイルミンスールでの体験入学を申込してますから、イルミンスール留学の際もご一緒します……いえ、もちろんこれは、環菜様が負けることを予想していたわけじゃなくてですね。あくまで会長の身を守るための保険としてであって……」
 だがここで陽太は唐突に黙った。

 その後、影野陽太は、何度もこの夜のことを夢に見た。
 ろくりんピックの終了後は、本当に何度も夢に見た。
 あまり多く夢に見たものだから、このときの記憶は現実だったのか、それとも、自分の頭の中の想像の産物なのか、わからなくなってしまった。
 多分、想像だったのだと思う。そんなことはありえないから。
 環菜の唇が自分の唇に触れただなんて、小鳥がついばむようだったとはいえキスしてくれただなんて、夢にしたって出来過ぎだ。

「……かか、会長?」
 のぼせあがった頭で陽太は彼女を見る。今の環菜は、サングラスを外していた。大きな瞳に星灯りが映り込んでいた。
 そして環菜は、どこか寂しげな顔で彼を見つめていた。
「こんなときくらいは名前で呼んで、って言ったはずよ」
「か、環菜様」
「今夜は『様』がなくてもいいわ」
「環菜さ……環菜……」
 彼の両肩に左右の手を乗せ、環菜はゆっくりと、噛んで含めるように話す。
「陽太、私のこと、覚えておいてね。夏の終わりのこの夜のことだけでもいいから、記憶の片隅にでもとどめておいてね。たとえ何があっても……」
「何を言うんですか……環菜は、俺のすべてです! 俺は世界で一番、貴女のことを愛しています!」
 無我夢中だったとはいえ、陽太は想いのすべてを言葉にしていた。
「ありがとう」
 立ち上がった環菜は静かに微笑み、また学校で、と告げて手を振った。制服は、イルミンスールに行くときまでに渡してくれればいいわ、とも。

 陽太にとってこの制服が、御神楽環菜の形見となった。


担当マスターより

▼担当マスター

桂木京介

▼マスターコメント

 マスターの桂木京介です。
 お疲れ様でした。ご参加いただき、本当にありがとうございました。

 屋台の種類とその経営、クランジとの出会い、夜店の楽しみ方、星を眺めながらの語らい……等々、今回も改めて、皆様のアイデアの豊富さと深さに脱帽しました。マスターは物語の大枠と判定をするだけであり、物語を面白くするのはすべてプレイヤーの皆様次第だという思いを、強くした次第です。
 蒼空学園とイルミンスール魔法学校の対決については、夜店で参加を表明してくれたアクション一つ一つを評価したのち、点数化してすべてを合計したものを判断材料として勝敗をつけております。

 それでは、また近いうち、新たな物語でお目にかかりたく思います。
 桂木京介でした。