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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その1

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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その1

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 生命無き者との戦い 
 
 
 どこから湧いてくるのか。
 見通しの悪い街のどこからともなくアンデッドは現れ、むき出しの敵意を見せて襲いかかってくる。死してなお、彼らは何に執着し、何の為に身を賭して戦うのだろうか。
 
 もとよりパンダ像自身には興味が持てなかった霧雨 透乃(きりさめ・とうの)たちは、わらわらと姿を現したアンデッドを引き受け、他の者たちを先へと進ませる。
「ここは私達に任せて先に行け!」
 霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)はしっかりと守りを固めると、自らの身を盾としてアンデッドの前に晒した。
「邪魔する奴はどんどん殺っていいんでしょ」
 月美 芽美(つきみ・めいみ)の目が生き生きと輝く。けれど、そのまま周囲の無差別殺戮に入られては困ると、透乃は釘をさしておいた。
「アンデッドはいいけど、生きてる人は殺すまでやっちゃダメだからね」
「あら、どうせ殺すなら人間のほうがずっと瑞々しくて楽しいわ。たくさん島に来ているんだから、少しくらい減っても」
「それでもダメ。その代わり、アンデッドなら思う存分やっていいよ」
「仕方がないわね」
 人より面白みに欠けるとはいえ、多くを殺戮できる機会には変わりないと、芽美は泰宏に近づきつつあるアンデッドに落雷をみまった。突然頭上から全身を走りぬけた雷の感覚にミイラがひるんでいるうちに、芽美自身も雷の力をまとわせた拳を突き入れた。こちらを捉えようとのばされたミイラの手をひょいとかわし、肩をすくめる。
「なんか反応薄いわね。ちょっとは痛いとか助けてくれとか叫んでくれてもいいのに」
 そんな余裕さえ見せている芽美と対照的に、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の表情は曇っていた。
「私がいたところで何の役にも立てませんよ……」
「私が引き付けてできるだけまとめるから、後は陽子ちゃん、よろしく。1体ずつならともかく、こういううじゃうじゃいるのって面倒なんだもん」
「は、はい……」
 陽子は不安そうに手を握り締めた。
 ろんりんピックで良い成果が出せず、すっかり自信を失ってしまっているのだ。今回も家で留守番していたかったのだけれど、透乃が強く誘うので、断りきれずについてきたのだ。せっかく誘ってくれているのを固辞したりしたら、透乃に嫌われてしまうかもしれない……そう思ったら断るのが怖くなってしまったのだ。
「相手はアンデッドだから、ファイアストームを使うんだよ」
「でもあれは……」
 成果を出せずにトラウマになっているスキルを名指しされ、陽子は口ごもる。
「いいから、ね?」
「はい……」
「じゃ、行っきまーす!」
 透乃は派手に動いて、アンデッドを挑発した。十分な数を引き付けると、陽子に視線を送って合図する。
 不安に押しつぶされそうだけれど、このままでは透乃がアンデッドに囲まれる。陽子の呼び出した炎が動く死体を焼き払った。
「……っ」
 それでも倒れないアンデッドに、陽子は顔をゆがめる。
 集まったアンデッドは透乃を取り囲んだ。
「そこ、どきなさいよ」
 周りにできたアンデッドの壁を芽美が破った隙に、泰宏が透乃を守る位置へと身体を割り込ませる。
 骸骨が振り下ろした鉈が、泰宏の腕に命中する……途端、錆びてもろくなっていた刃が砕けた。それでも骸骨は必死になって、刃のない鉈を振り続ける。
「客寄せパンダって、やべーんじゃねえのか? ここにいるアンデッドは全部、パンダに寄せられた元人間です、とかじゃないだろうな。シャレにならねえぞ……」
 眉を寄せる泰宏の前で、芽美は鉈振り骸骨に蹴りをみまった。一度陽子の炎で焼かれている骸骨は粉砕されて地面に転がる。
「どうせなら、人間だったうちに殺したかったわ。血も出やしない」
「陽子ちゃん、もう1回!」
 透乃に呼びかけられ、落ち込みかかっていた陽子ははっと我にかえった。透乃を守らなければという一心で陽子が呼び出した炎は、今度はアンデッドを焼き尽くす。
「助かったよ陽子ちゃん。やっちゃん、芽美ちゃん、怪我はだいじょうぶ? なら、ティファニーちゃんたちを追いかけよう」
 まだまだアンデッドはたくさんいそうだから、と透乃は陽子の手を握ると、ティファニーたちを追いかけて走り出した。
 
 
 レッサーワイバーンの翼が風を切る。
 低く飛びながら冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が遺跡を見下ろせば、人ならざる者たちの姿が確認できた。
 客寄せパンダの話を聞いてきたのだが、それより彼ら相手に腕試しをするのも良さそうだ。人相手では本気で戦うのはためらわれるが、相手がアンデッドであれば本来の眠りに戻すのにやぶさかではない。
 そんなことを考えている処に、背後から光る箒で飛行してきたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が声をかける。
「おうおう、小夜子!」
「ラルクさんも来ていたのですか」
 見知った相手に小夜子は顔をほころばせる。
「何か人を集めるパンダ像があるって話じゃねぇか。そいつ使えば強い奴と会えるかもしれねぇと思ってやってきたが、ちょうど修行に良さそうなのがいるじゃねぇか」
 ラルクはアンデッドへと顎をしゃくった後、小夜子へびしっと指を突きつける。
「小夜子、狩り勝負だ! 受けやがれ!」
「もちろん受けて立ちますよ。時間はどうしますか?」
「小夜子がへばるまで、でどうだ?」
 にやりは笑うラルクに、小夜子も笑みを返す。
「ラルクさんが音を上げるまで、ですね」
「おっ、言ったな。よーし、どちらかがストップをかけるまでのサドンデスといこうか」
「望むところです」
 小夜子は遺跡に降りると、ワイバーンを屋根の上に待機させた。
 すぐ脇の家から出てきた骸骨の腕の骨を蹴り飛ばし、拳で腰骨を砕く。
 長期戦を覚悟して、スキルを極力使わずにアンデッドに向かう小夜子とは逆に、ラルクは最初からスキルを解放する。
「狩り勝負は時間勝負! ちゃっちゃっと行くぜ!」
 速度をあげ、威力を増した拳は、腐りかけた死体を一撃で打ち砕いた。ぐしゃりと地面に倒れるアンデッドには構わず、ラルクはもう次に向かっている。
「さすがに速いですね」
 やや遅れてアンデッドを倒した小夜子も、また次の相手へと向かう。
 次の相手は小柄なミイラだったが、これがやたらとすばしっこい。折れそうな細さなのに強いバネを持つ脚で飛び掛り、枯れ枝のような手で掻き毟ってくる。
 それに負けぬ速さで続けざまに拳を叩きこんで倒すと、小夜子は息をついた。ラルクはどうかと見てみれば、3体に囲まれている。助けが必要かと小夜子は身構えたけれど。
「うらうらうらぁ!」
 ラッシュをかけたラルクの拳が1体目を砕く。2体目にはややてこずり骸骨の持っていた剣に傷つけられたが、3体目はまた素早く片付ける。
 倒してゆくスピードはラルクの方が上のようだ。
 数を稼ぐ為、小夜子はぞろぞろと集まってきたアンデッドをまとめて片付けにかかった。闇でアンデッドを包みこみ、口笛を吹いて呼び寄せたレッサーワイバーンに焼き払わせる。
 一気に逆転されたラルクは負けてはいられないと、遺跡の路地を進み出す。
「まだまだ、これからだぜ!」
 2人は見通しのきかない路地を覗きこんでは、倒すべきアンデッドを探すのだった。



 島に来たすべての生徒が客寄せパンダに興味を持った……ということはない。
 五条 武(ごじょう・たける)の小型飛空艇に乗ってやってきた一行の目的は、パンダ像でもその謎解きでもなかった。一応、情報源の葦原を無下には出来ないので、パンダ像を発見したら葦原に渡すという約束はしている。けれど、それ以外に街で見つけた金目のものは自分たちの自由にさせてもらうとティファニーにも告げてあった。
 島の場所は先に教えてもらえなかったので、そこまではティファニーの飛空艇の後について。島が判明してからはさっさとアルバトロスを遺跡近くに下ろし、徒歩で街に入った。
 目指すは遺跡に眠っているに違いない、かつての住人が残したお宝。波羅蜜多実業高等学校の復興や、孤児院の運営の為には資金はどれだけあっても足りないのだ。
「お宝お宝っと」
 まずは富裕層が住んでいる地域を探すことだと、姫宮 和希(ひめみや・かずき)は付近の様子を見ながら遺跡を進んでいった。客寄せパンダの像が街中央に安置されているということなら、恐らくその辺りが街の中心なのだろうとあたりをつけている。
「……しっかし、なんか不気味なトコだなァオイ……」
 廃墟の間を歩いていると背筋がちりちりしてきそうで、武は首をすくめた。一度取り憑かれたことがあり、幽霊の類はこりごりだ。滅びた街だなんていかにも出そうで、お宝のためでなければ激しく遠慮したいところだ。
「怪物が徘徊する廃墟か……呪われてんじゃねーのか? ここのパンダ」
 繁栄のアイテムが滅びのアイテムに、と和希が気味悪そうに言う。
「縁起でもないこと言うなよ。けど……怪しいよな……っとに大丈夫なのかよ、アレ」
 ぼそぼそと囁き交わす和希と武の足取りはいつになくおっかなびっくり。
「怖いのですか?」
 けれどイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)の冷静な質問には、武、和希揃って首を振る。
「まさか、ンなもん怖いはずねェだろ」
「そ、そうだ。知らないところを歩くんだからちょっと警戒を強めてるだけだ……って、ぎゃあぁ」
 言葉の途中で叫ぶと、和希は道の脇に逃げた。正確に言うなら脇を越えて壁を走って。
「うおおッ?」
 つられて叫びかけた武だったが、やってきたのが腐りかけた動く死体なのに気づくと、ふぅと息を吐いた。
「ハッ! 腐れゾンビ如きに俺がビビるワケねェだろ!」
 余裕さえ見せて改造人間パラミアントに変身すると、アンデッドに拳を叩きこむ。
 イビーのミサイルの力も借りてアンデッドを倒し、さて和希はどこかと見れば、アンデッドをぞろぞろ引き連れて逃げ回っている。
「こっち来んな」
 十分集まったところで、もろくなっている建物の壁を崩して生き埋め……死に埋め? を狙ったのだが。
「げ……!」
 瓦礫の山がもぞもぞ動き、そこからずん、と手がつき出す。がらがらと崩れる瓦礫の中から、どろんとした眼差しのゾンビがぬううっと。
 まさにホラー映画といったシチュエーションに、見たくないのに目が釘付けになって動けない和希の前に、イビーが身体を割り込ませた。瓦礫から這い上がってきた亡者たちを、六連ミサイルポッドでまとめて焼き払う。
「……既に死んでる相手を、もう一度殺せば良いだけでしょう。何を怖がっているのですか?」
「その既に死んでるってとこが……いやいや、べ、別に怖がってなんかねーよ!」
「そのわりには逃げ足が速かったよなァ」
「うるせー! ほら、さっさと宝探しをしようぜ。この家なんか結構金目のもの、ありそうだぜ」
 茶化す武に言い返すと、和希は照れ隠しのようにすぐ近くの家に入っていった。
 そこらをあさってみると、古びたコインや宝飾品が出てくる。この家の住人がどうなったかは分からないが、金目のものはそのまま残していったらしい。
 鼻歌まじりにそれをポケットにつっこんでは、他に何かないかとあちこち開けてゆく。
「お、ここなんかお宝がありそうじゃねェ?」
 無造作に積んである箱を見つけ、武が喜びいさんで開けようとしたその時。
 その手を押さえるものがある。半透明なその先には、悲しげな女の顔が……。
「ファック、何で幽霊なんか居やがるンだよ! ド畜生! 和希、イビー! 逃げるが勝ちだぜェ!」
 先頭を切って逃げ出した武のあとを、和希も慌てて追いかけてゆく。
 イビーはやれやれと思いながら、淡い影に光の力をぶつけ、消し去るのだった。