校長室
【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その1
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パンダ像は客を呼ぶ 椎堂紗月とアヤメの乗る小型飛空艇は雲海を越えた。 一面雲に覆われていた眼下の風景が、緑と茶の大地に変わる。 途端に、後を追ってきた生徒たちの攻撃が激しくなった。 「ちくしょー、パンダ像ごと壊すつもりかよ」 「紗月、これ以上は無理だ」 回復の手段を持っていないのは辛い。咲夜由宇の歌による補助に助けられてはいるけれど、受けたダメージは蓄積されてゆき、重くのしかかってくる。 そこに。 待ち伏せしていたエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)の小型飛空艇がひらりと現れた。次いでネージュ・グラソン・クリスタリア(ねーじゅぐらそん・くりすたりあ)の飛空艇も。 「うゅっ……ネーネ、仕掛ける、の」 「OKOK〜いっくよ〜!」 エリシュカに言われたネージュは、グレーシャーブルーの髪を靡かせながら飛空艇をエリシュカのものよりやや先行させた。紗月たちに接近すると同時に、恐れの感情を湧きあがらせる歌を歌う。 そしてエリシュカは。 「うゅ……行くの」 小型飛空艇をまっすぐに紗月に向け……全速力で飛んだ。 「ば……!」 「ゅ……っ」 飛空艇のぶつかる音が響く。エリシュカが体当たりをかけたのだ。 捨て身の攻撃をかけられ、アヤメは飛空艇を降下させた。遮るもののない上空は攻撃から逃れにくい場所でもある。疲弊しきっている処をこのまま叩かれては危険だ。相手は自分たちと違って、ここまで戦い続けてきたのではない。気力体力十分な態勢で待ち構えていたのだから。 エリシュカとネージュもその後を追う。 飛空艇を乗り捨て、客寄せパンダの入った籠だけをしっかりと持って紗月は逃走を図った。紗月を逃がす為、アヤメは残ってエリシュカとネージュの足止めを試みた。 アヤメの攻撃力をそごうと悲しみの歌を歌い出したネージュの陰で、エリシュカは携帯をかける。 「うゅ……そっち、行った、の」 折角手に入れたパンダ像、ここまで来て取り上げられるわけにはいかない。 懸命に走る紗月だったが、いつの間にか死角に忍び寄って来たローザマリアにナイフで切りつけられた。 慌てて身を返せば、そこにもローザマリアがいて切りつけられる。まさか、こんな瞬間に移動できるはずはないのに。 そう思ううちにも、また全く別の方向からローザマリアが現れてナイフを振るう。 一体どうなっているのか……考えようとしても、何故かうまく頭が働かなかった。 ぼんやりと霞がかかったような頭に浮かぶのは、籠の中にあるパンダと引き離されたくない、という思いばかり。 背後から現れたローザマリアに籠を奪われ、紗月は慌てて取り返した籠を抱え込んだ。 「だいじょうぶですかぁ?」 そこに紗月を探しに来た由宇とアレフが駆け寄ってきた。 「仲間? 面倒ね」 ローザマリアは眉をひそめると、エリシュカたちのいる方向に身を翻す。応援を呼ぶつもりなのかと、由宇は紗月を支えるようにし、急いでその場を離れて行こうとした。 が……。 何かに呼ばれている。 後ろ髪を引かれる思いで、由宇は足を止めた。 去りたくない。 向こうに行きたい。 その思いは同じなのか、紗月もアレフもゆっくりと背後を振り返る。 紗月の手から、偽物の入った籠が落ちて転がった――。 「ご苦労さま」 身を返してやってきたローザマリアを、パンダ像の入った籠を持ったローザマリアが迎えた。否、迎えられたほうはローザマリアとそっくりなグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)だ。 双子のような容貌なのを利用して紗月を混乱させたのだけれど、ここまで上手くいくとは。途中で籠をレプリカにすり替えたのも、全く気づかれなかったようだ。 あまりに簡単に事が進んだことを意外に思いながらも、ローザマリアはパンダ像を確認した。 争奪戦の中をくぐりぬけてきた為だろう。籠は随分と傷んで……一部が壊れてしまっている。 レプリカの籠は持ってきたのだけれど、魔封じの籠の本物は持ってこなかった。一刻も早く葦原明倫館の皆と合流し、壊れていない籠に入れ替えなければならない。 それは分かっているのだけれど。 「こんなに可愛い像だったのね。とても精巧だと思わない?」 「そうだな。実に美しい……」 2人はパンダ像から目が放せなくなっていた。 ぼんやりと……パンダ像以外のものが霞の彼方に消えてゆく。 それでも良い。このパンダ像さえここにいてくれたら。 作戦のことも忘れ、ローザマリアとグロリアーナはパンダ像に見入り続けるのだった――。
▼担当マスター
桜月うさぎ
▼マスターコメント
次回予告。 客寄せパンダを手に入れるも、魅了されてしまった学生たち。 封印から解き放たれた客寄せパンダは、周囲の人々を集めて町を造らせ始める。 次回、「客寄せパンダは誰が胸に その2」 担当 識上 蒼マスター 客寄せパンダの逆襲が始まる。 君はまだ客寄せパンダの本当の姿を知らない……。