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リアクション
客寄せパンダを手に入れろ
それは小さな祠の中にあった。
ここしばらく途絶えていたものが、流れ込んでくるのを感じながら。
ゆらりゆらり。
うねりを伴い、それは注がれる。
遺跡の真ん中にあったのは、神殿らしき跡だった。
周囲の家々と比べ立派な造りの神殿は、その中央に小さな祠を抱いていた。
「きっとあれよね。――発射!」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は小型飛空艇ヴォルケーノに乗り、上空からミサイルポッドを撃ちまくった。
頭上から降り注ぐ攻撃に、今にも祠に到達しそうだった者たちの足は乱れた。アンデッドはひるみこそしなかったけれど、ミサイルに巻きこまれた骸骨が骨を散らして弾け飛ぶ。
危うくミサイルに巻きこまれそうになり、神代 明日香(かみしろ・あすか)は慌てて飛びのいた。
明日香は魔封じの籠を持たずに島にやってきた。
祠に向かう皆を助けるためにと、祠付近に集まっているアンデッドを焼き払っていた処にミサイルの攻撃を受けた明日香は、恨めしげに空に叫ぶ。
「壊れ物注意ですよぉ」
アンデッドはどれだけ吹っ飛ばしてもらっても良いが、付近には生身の人もいるし、狙いがずれて祠を客寄せパンダごと吹っ飛ばされたらたまらない。
けれど美羽は構わず再びミサイルを撃ちこんだ。
「後はヨロシク」
「うん。センサーで何か見つけたら教えるよ」
索敵を頼まれているコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は小型飛空艇オイレで上空に待機。美羽は敵のあらかたを排除し終えると、ヴォルケーノを乗り捨てて祠へと突進した。
「うぁっ……」
美羽を上空から見守っていたコハクは、思わず目を覆いたくなる。
「どいてどいてどいてー! はねちゃうよっ!」
高速ダッシュはまさしくぶっ飛び。障害物にぶつかってはそれを蹴り飛ばして進む美羽に、コハクははらはらし通しだ。
どうなることかと思っているうちに、美羽は祠の入り口に衝突。入り口の一部を壊しながらも、そこそこ無事に祠に入ることに成功した。
祠の真ん中には、ティーカップに入ったパンダ像が置かれている。
高さは美羽の手のひらほどの像だけれど、心を鷲掴みされそうな可愛さは圧倒的だ。
美羽が壊した戸口から差しこむ光に、金の像はまばゆいばかりに輝いて見えた。
間違いない。この像だ。
美羽は客寄せパンダに飛びついた。
「このパンダ像には、めいりんバーガー食べ放題がかかってるのよ!」
美羽は蒼空学園の生徒だけれど、今日ばかりは別。ハイナと交渉し、客寄せパンダをハイナに届けたら、めいりんバーガーを思う存分食べさせてもらう約束をしているのだ。
自校も大切だけれど、めいりんバーガーの魅力はそれを凌駕するのだ。
「あ、なんららぱんにゃー! すごいれすねー、かあいーれすねー」
そこにひょっこり顔を覗かせたのは、林田コタローだった。
「しゃしん、とらせてほしいお」
にこにことカメラを構えようとするコタローの横を、美羽は駆け抜けた。
「ぱんにゃー」
思わずのばしたコタローの手がパンダ像に触れたけれど、それを振りきって美羽はパンダ像を魔封じの籠の中にしっかりと確保すると、祠から飛び出した。
その瞬間。
美羽の上に雷がどっかんと命中する。
それまで祠付近のアンデッドを引き受け、皆を補助していた明日香が祠から最初に出てくる者を狙って、雷電をみまったのだ。
負けるもんかと、美羽がブライトマシンガンで光の弾丸を掃射して反撃した。が、両手で扱う武器を使う為には、パンダ像を入れた籠から手を放す必要がある。
明日香はもう一発念押しに雷を自分以外に降らせると、美羽が手放した籠をつかんだ。
「エリザベートちゃんへのおみやげ、もらっていきますね〜」
可愛いパンダは可愛いエリザベートにこそ似合う。煙幕ファンデーションを振りまくと、明日香は魔法少女の力で空にひらりと退避した。
あとは箒で帰るだけ……と、明日香はエリザベートの喜ぶ顔を思い浮かべながら光る箒にまたがる……けれど。
「横取りなんて、この『突撃魔法少女リリカルあおい』が許さないよ〜♪」
上空で待ち構えていた秋月 葵(あきづき・あおい)が悩殺笑顔満開でヒプノシス。明日香の逃亡を阻止にかかる。
葵もまた美羽と同じく、ハイナとの取引材料として客寄せパンダを葦原明倫館に持ち帰ろうとしていた。
(みんなで協力してパンダを手に入れたらきっと……たっゆんなハイナちゃんもバストアップの秘密を教えてくれるよね)
堂々と人目にさらせるあの羨ましいボリューム。
葵にとっては客を寄せる力よりも、寄せて上げて寄せて上げて、たっゆんになる力の方が、ずっとずっと重要度が高いのだ。
豊かな胸のためにも、パンダ像は奪わせない。
「ふぁ……」
不意に襲いかかった眠気に、明日香の身体がふらりと揺れ……。
すう、と眠ってしまった明日香は箒から落下した。
明日香と共に落ちてゆくパンダ像の入った籠を、葵は念力で捕まえようとした。
けれど。
そこを佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が掻っ攫った。
「これはもらっていくよ」
葦原明倫館はこんなパンダ像の力を借りる必要はない。ならば、自分がもらって研究するほうが有意義というものだ。
客寄せの力が、パンダ像のどこから来ているのかは分からないが、もし……客寄せの力を解析されて、呼び寄せる力だけを抜き取ることが出来たなら……それをどこかに落とすような魔法を使おうとする輩でもでてきたら……。
(面白そうだよね)
強力なアイテムは、研究解析して効果的に使うようにすればより目的にかなうものになる。ただそのまま、便利アイテムとして使うだなんて勿体ない。
けれど、他の者たちが簡単にパンダ像の奪取を許してくれるはずもなく。
「精霊さん、やっちゃえー!」
葵の指輪から放たれた光の精霊が、弥十郎の背から襲いかかり衝撃と共に弾ける。
「めいりんバーガーーっ!」
ヴォルケーノに乗りこんだ美羽も参戦し、ミサイルを撃ちこんでくる。
この中を普通に突破するのは無理そうだと観念し、弥十郎は地上に降りた。
「すみません。ほんの出来心なんです……」
籠から出したパンダ像を、悄然と弥十郎は差し出した。
ティファニーは勇んでそれを手にしたけれど、
「こんなもの、違いマース!」
明らかに全く別物の像を、地面に叩きつけた。
「本物をよこすのデース」
言い募るティファニーの向こうで、風呂敷で包んだ籠を持ったイレブンがうぉぉと叫びながら走り出した。
「瑞穂藩の手先どもに、ぱんだぞうは渡さぬ!」
さてはそちらが本物かと皆がイレブンを追いかける。
けれど捕まえて風呂敷を解いてみればそこにあったのは、
「ふはははは。ぱんだぞうには違いないが、これはパンだゾウ!」
魔封じの籠に入った、象の形のパン。
その間にティファニーは、弥十郎の持っている籠を取り上げていた。
「こんなモノにはごまかされマセーン」
イレブンが人目を引きつけているうちにと飛空艇に急ぐティファニーだったが、こちらも簡単には通してもらえない。
ティファニーとパンダ像を守る秦野 菫(はだの・すみれ)、梅小路 仁美(うめこうじ・ひとみ)、それを追うアンデッドも巻きこんで、志方 綾乃(しかた・あやの)の炎の嵐が吹き荒れる。
「皆さぁん! 私のために超ご苦労様です! もう用済みですから、さっさとパンダ像を寄越しなさい!」
禍々しい気をまとった綾乃は、これでもかというほど目立つそぶりで無差別に炎を拭き荒れさせる。
「籠が……」
炎にあぶられる魔封じの籠にティファニーは慌てた。
「ふふふふふ、観念しましたか? 籠なら私が持ってます。さあ、パンダをこちらに。それはイルミンスールにこそふさわしいものなのです!」
ずい、と綾乃が大仰に手を広げながらティファニーへと近づく。
籠が壊れてしまえば、客寄せパンダの力が解放されてしまう。その結果どうなるか。
そんな焦りがティファニーに隙を生んだ。
派手に暴れる綾乃に皆の目を集めている間に、袁紹 本初(えんしょう・ほんしょ)はこっそりとティファニーの背後に回りこんでいた。
「……どう考えても私の勝ちです。志方ないね」
綾乃がくすりと笑ったその時、本初はティファニーの背後から籠に入った客寄せパンダを掠め取った。
「ふはははっその綾乃は囮じゃて!」
そのまま速度を落とさず、本初は逃げ切りを図る。
「わざわざイルミンのロリババアどもの元に持って帰るのも勿体ない。わらわが有効活用してやろうぞ」
「ちょ、それはイルミンスールのために使うんですよ!」
遠ざかってゆくパートナーに綾乃が怒鳴る。が、そんなの知ったことじゃない。
「綾乃よ、わらわのため、ゴミクズのように働いてくれてご苦労様じゃー!」
「袁紹、上、上っ!」
「ふはははは、綾乃、それはなんと古典的な手じゃ。そんなものに引っかかるわらわではないわ!」
余裕綽々な本初だったが、次の瞬間。
空から落ちてきた金ダライ、ならぬ小型飛空艇が本初の脳天を直撃する。
「がふぅぅっ!」
不意をくらった本初は何が起きたのかも分からぬまま、落下した。
けれどぶつかった方の小型飛空艇を操縦している四谷 大助(しや・だいすけ)、相乗りしているパートナーのグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)もまた、パニック状態で落下中。
「うわぁぁぁぁぁっ! だからやめとけって言っただろ」
「だって、上手く行くと思ったんだもの。止めるならもっと早くにしてよ」
しっかりと大助の腰に手を回してしがみつきながら、グリムゲーテが怒鳴り返す。
「止めた時にはもうスイッチ入れてたじゃねーか!」
他の人に先んじる秘策、とグリムゲーテが怪しげなリモコンのスイッチを入れた途端、小型飛空艇はきりもみ急降下。
加速を狙って適当につけた装置が、完全に仇となったのだ。
本初をはねた後も勢いは止まらず、大助とグリムゲーテは遺跡の上に墜落した。
「パンダの籠が!」
争奪戦の中でアンデッドに対応していたアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、空飛ぶ魔法↑↑ですかさず魔封じの籠をキャッチ。ほっと息を吐く。
「良かった。壊れなくて」
受け止めた籠の中を覗いてみると、そこには世にもキュートなパンダ像。ティーカップの端に手をかけて、うるんとした目でこちらを見ているパンダ像に、アリアは目を奪われる。
「これが客寄せパンダ? ちょっと可愛……」
きゅん、とパンダの可愛さに心奪われたアリアは、突然大声で叫び出す。
「我を愛せよ。我を愛せよ!」
別人格のアリア様になってしまったアリアの頭にあるのは、我を愛せよの一文だけ。
「我を愛せよ……我を……愛する者は救われるッ!」
そう呼ばわりながら、アリアは籠から客寄せパンダを取り出すと。アンデッドへと突きつけた。
「我を愛せよ。我を愛せよ。我を愛せよ」
アリア様の迫力に押されてか、パンダ像に見惚れてか、アンデッドは飲まれたように立ち尽くしている。
その様子はまるで、アンデッドを従える神の如く。
けれど、この状態のアリアは普段のようには動けない。それを狙って、リースはアリアを闇黒で包みこんだ。次いで、念力で客寄せパンダをアリアの手から自分のもとに引き寄せる。
「これは葦原明倫館のものですっ」
このために、リースはアンデッド戦でも自衛につとめ、体力を温存しておいたのだ。パンダの争奪戦が始まってからも、うずうずする気持ちを抑え、他の人たちが争い、疲弊するのを待ち構えていた。そこに好機が訪れたのだ。
「か、可愛い……」
手に入れた客寄せパンダはきらきらと、宝物のようにリースの手の中にある。幸せを抱きしめているような満ち足りた気分だ。客寄せパンダというものは、こんなにも素晴らしいものだったのか……。
「リース様、どうかしたんですか?」
「リース殿、早くそれを魔封じの籠に入れるでござる、ニンニン」
梅小路仁美と秦野菫の声に、リースははっと我にかえった。こんなところでぼんやりしていたら、パンダ像を奪われてしまう。すぐに離脱する計画だったのに、つい見とれてしまった。リースは持参してきていた魔封じの籠に急いでパンダ像を収める。
「拙者も守りますゆえ、パンダ像はティファニー殿の飛空艇へ運ぶでござる、ニンニン」
箒で飛んでいては、いつ撃墜されるか分からないからと、菫はリースを促した。仁美と共にリースを守り、飛空艇への道を切り開く。
ティファニーの飛空艇に逃げ込んでしまえば、パンダ像は葦原明倫館のものになったも同然だ。
「向かってくる敵はなんとかします。一刻も早く客寄せパンダを安全なところに運びましょう」
緋桜遙遠は集まってくるアンデッドに魔法を撃ちこみながら、リースを誘導した。
あと少し。
そうすればパンダ像は他校の生徒の手の届かぬところに運ばれ、そのまま葦原へと持ち帰ることが出来る。
リースは緋空艇に逃げ込むことだけを考えて、ひたすら足を急がせた。
けれど、その視界を煙幕が塞いだ。
パンパンと何かが弾ける音があちらでもこちらでも響き、そればかりでなく機関銃が乱射される。リースの視界が奪われているのと同じに、機関銃を撃つ者からもリースが見づらいのか、弾はリースをかすめるだけで済んだが、煙幕の向こうからは鼻の詰まったような声が聞こえてくる。
「ヒャッハー! お宝をよこしやがれー!」
敵はどこから来るのか。身構えたリースに、待機していたらしきクレオパトラがかすんだ向こうから手を振った。
「このままでは像が奪われてしまう! わらわが運ぶ故、こちらにパスするのじゃ!」
「お願い!」
リースは客寄せパンダの籠を投げた……と、それを受け取ったクレオパトラは携帯に手をやった。
着信音を聞いたヴェルチェは、即座にクレオパトラに結んでおいたザイルを引っ張り、クリスティ・エンマリッジ(くりすてぃ・えんまりっじ)に合図する。
「トナカイさん、出発いたしましょう」
合図を受けて、サンタのトナカイをクリスティが飛ばせる。ソリにはザイルが2本結んであり、それはそれぞれヴェルチェとクレオパトラに結ばれていた。
味方としてティファニーの飛空艇に乗りこみはしたが、元より明倫館に協力しようなんて気はヴェルチェにはさらさらない。混乱を作りだし、その隙にお宝を奪い取るのを目的にやってきたのだ。
サンタのトナカイで島に来て待機していたクリスティが、2人を引っ張り、そのまま空のかなたに逃げ去る。
そんな計画だったのだけれど。
「あら……トナカイさん、しっかりして下さいな」
サンタのトナカイに3人……それもうち2人はソリからぶら下がった状態では、まともに飛ぶのは到底無理だ。
「ちょっとクリス、落ちてるわよ」
トナカイも必死にあがいているが、どんどん落ちていく。
「これはどうしたことじゃ。雲海ががががが……」
ぐんぐん迫る雲海に目をむくクレオパトラに、飛空艇でやってきた咲夜由宇が、あのーと話しかける。
「おねがいですぅ。そのパンダ、ちょっとだけお借りできませんでしょうか……?」
「何言ってんのよ。こっちが命がけなのが見て分からないの?」
「そうですよねぇ……」
「そんなの、撲殺して奪ってしまいましょう」
鬼崎朔がパンダ像が欲しいというのなら手に入れるだけだと、アテフェフはクレオパトラに近づいた。それを椎堂紗月が止める。
「待て待て。俺がやってみるから。……傷つけたくはないんだ。観念して渡してくれ」
今にも雲海に沈みそうな状態で吊るされた上に多勢に無勢。仕方なくクレオパトラはパンダを入れた籠を渡した。
「よし、行くぜ!」
紗月とアヤメは小型飛空艇に2人乗りして、イルミンスールを目指して飛ぶ。雲海の上ではパンダ像を狙う者たちも無茶な攻撃は出来ない。攻撃したはずみで雲海に籠を落とされでもしたら大変だからだ。
「やったですぅ〜。早く使ってみたいですねぇ」
由宇はアレンの操縦で、紗月たちを追跡者たちから守りつつ併走する。アテフェフも空飛ぶ箒でそれについて行こうとしたけれど、どんどん遅れてゆく朔たちに気づいて速度を落とした。
小型飛空艇に3人乗り。アルバトロスだったら問題はないのだけれど、普通2人乗りの飛空艇に無理矢理3人乗りこんでいては、思うようには飛べない。
けれど朔にあわせて飛んでいては、追っ手に完全に回りこまれ、雲海を過ぎた途端に一斉に攻撃を食らうことになる。
「先に行っていて下さい。イルミンスール武術部で落ち合いましょう」
「けど……」
躊躇う紗月を、これも王国と武術部のためだと説得し、朔は先に行かせた。
修理を終えた飛空艇でそれを追いながら、ティファニーは通信機のスイッチを入れた。
「コード・ベイジン。パンダはイルミンスールに向かってマース」
「了解」
通信機から聞こえてきたのは、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)の声。
ティファニーは続けて、客寄せパンダに関する情報と奪取者たちの情報をローザマリアに教え始めた。
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