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激戦! 図画工作武道会!

リアクション公開中!

激戦! 図画工作武道会!

リアクション

「もう一つの試合も今、火蓋が切って落とされました! 果たして勝ち上がるのは、どちらか!?」

 先のルカルカ達の試合と打って変わって、非常にフンワリとした二つのぬいぐるみ同士が戦う試合が展開されている第二リング内。いや、寧ろリングサイドのフンワリ感がリング内へと流れ込んでいると言った方が正しいのであろうか?

「あの黒猫のぬいぐるみは、桃花選手が持っていた端切れの布や綿、ボタンなどを使って、4人皆で作ったものだそうです」
「彼女たちの愛着具合は凄まじいですねー。見てください、あの応援を」


 まるで運動会で我が子を応援する保護者のように荀灌が大きな声で応援している。

「荀にゃん! 頑張れ!!」

 その様子を共に応援しながらも心配した顔を浮かべる郁乃。
「荀灌、わたし達のことは気にしなくていいんだからね? のど壊すから無理しないでね?」

 郁乃の言葉に首を横に振る荀灌。

「いいえ、皆さんの想いに包まれたこの子を負けさせるわけにいきません!!」

 二人のやり取りに傍に立つ桃花が優しく声をかける。

「勝つにしても負けるにしても最後までその勇姿を見守ってあげなくてはいけませんね、郁乃様?」

 マビノギオンも続ける。

「もう愛おしくって結果なんか関係ないわ。負けても申し訳ないことはないし、泣くことも無いんだよ」

 彼女たちは真面目な性格の荀灌への気遣いを決して忘れなかった。

 そんな思いを託された荀にゃんは、付与されたヒロイックアサルトを使い、クレア達の萌えっ娘メイド エイミーちゃんに迫る。

「やってやるです!」

「……ところでさ、可憐でか弱いちょっと愛らしい荀にゃんだけど、爪も牙も刃もこっそりしまっている……んだよね?」

 郁乃がそう荀灌に問いかけたその時、
華麗なステップで荀にゃんの攻撃を避けたエイミーちゃんが、その小さな腕で荀にゃんを捕獲する。

「荀にゃんには、危険なものなんて付けてませんよ?」

「へっ……?」

「だって危ないです」

 郁乃と荀灌の掛け合いの横で、桃花が声を上げる。

「あ、捕まった!?」


 ちょうどリングを挟んで対面のコーナーから戦況を見守っていたパティが、エイミーちゃんを元気よく指さして指示を送る。

「エイミーちゃん! メイドインヘブンを使用し、マッサージですぅ!」

「「「何ィ〜〜!?」」」

 誰もが予想外の指示に驚きの叫び声を上げる。

「しょーがねぇなぁ。マッサージしてやるからじっとしてろよ?」

 外見からは想像のつきにくい渋い声を上げ、エイミーちゃんが荀にゃんを転がすようにマッサージを始める。

 戦況を見守っていたイチローが口をあんぐり開けたまま、アイムを見る。

「これは……どういう……」

「いや、立派な攻撃ですよ。今大会の中で貴重なグラップラータイプの工作ですねー。一見ただのぬいぐるみですが、骨格にハンガーの針金を使っているので上手く技をかけられるんでしょうねー」

 アイムが感心したように頷く。

「え……と、あーっ!! なんとエイミーちゃん、マッサージと称して、これはロメロスペシャル!? 続けてSTF!? さらにはボストンクラブだ!! 見事な関節技を仕掛けている!」

「グキッ」とか「ピキッ」等という異音がリング内に響く。

 その様子は本来会場にいるハズのエイミーちゃんのもう一人の制作者のクレアの家に、テレビ映像として流れていた。

 ベッドで仰向けになったクレアは、うんざりした表情を浮かべている。

「さすがに、私の腰を破壊した人形だな……アイテテテ」

 腰を押さえ悶絶するクレア。

 そもそも、癒し系マッサージ人形として製作されたエイミーちゃんであったが、そのあまりにもヘタクソなマッサージ方法のため、いつしか殺人マッサージ人形と化していた。
そして実験の最初の被験者であり、腰をやられてお留守番しているのがクレア。
……つまり、そういう事である。

「問題は動力がゴム式だってことか、時間切れなら負けるんだろうが……アイテテテ」

 テレビを見ながらクレアがまた悶絶していると、荀にゃんのコーナーから郁乃がタオルを投げるのが映る。


「TKO! 勝者、萌えっ娘メイド エイミーちゃん!!」


「勝ったですぅ〜! 見てますかぁ〜クレアさん!」

 カメラに向かってVサインを出すパティを恨めしそうな目で見た後、クレアが小さく拍手する。

 一方では、
リングから回収した荀にゃんを荀灌と郁乃が胸に抱きしめている。
郁乃が「がんばってたね」と荀にゃんの頭を撫でながら言うと、桃花も「おしかったわねぇ〜」と慰める。
 今にも泣き出しそうな荀灌に、マビノギオンが「納得のいく戦いができたのなら、それでいいんです」と肩を叩く。

 桃花が「荀灌ちゃんの応援でがんばってたわね」って声をかけると、たまらず、荀灌が郁乃の胸に顔を埋める。

 
 実況席のイチローも思わずハンカチで目頭を抑える。

「実に美しい戦いでしたね」

 イチローの言葉に語気を強めてアイムが言う。

「これですよ! 勝っても負けても戦いとは美しくなければいけません!」

「ええ、熱戦はまだまだ続きます! 既に第一リングで準備は整ったようですが……おおぉーーっとぉ!! これは……この組み合わせは……」

「危険ですね……」

「代理戦争……という言葉が当てはまる一戦になりました。リングを見やる生徒達の一部からもどよめきが起きています」
 
向きあう二体の工作。
片側に立つのは本体やその手に持つ竹箒、全てがペットボトルで作られた着色済みの百合園女学院校長の桜井 静香(さくらい・しずか)を似せた人形とロザリンドである。

「校長の好むピンク系のフリフリな服まで上手く再現されていますね」

「ええ、見事です。何故エントリー名が宦官ダムなのか……何か理由がありそうですねー」

「はい。対しますは、明日香選手の彫刻……木彫りの、一応人型に見え無いことも無いような彫刻ですが、アイムさん、これは……」

「恐らく某魔法学園の校長……を真似たつもりでしょうが、相手選手の再現度が高いため、気付く生徒はわずかでしょうねー。しかし出来が悪くても込めた思いは無駄ではないですよ?」

 ゴングの音が響く。

「エリザ……彫刻さん! さーちあんどですとろいで攻撃ですぅ!!」

 明日香の声に彫刻の周囲に炎が巻き起こる。
静香の分身といってもいいぐらいの完成度を誇る宦官ダムを操るロザリンドはこの炎の攻撃にも動じることはない、しかし彼女は別の悩みで考え込んでいた。

「(困りましたね、ああは見えても一応女性……相手の股間を粉砕するライトニングランスを使いにくいです。まぁ多少の熱は大丈夫でしょうけど)」

 イメージしていた勝利パターンが崩れ、少し考えをまとめようと思うロザリンドだが、明日香の彫刻の炎攻撃は本家さながらの威力を持っており、今やリング内は火の海と化していた。

「熱っ……!」
と、思わずその熱気にたじろぐロザリンド。
 これが彼女の心を鬼にする。

「校長、そこですよー!」

 ロザリンドの声に、宦官ダムがペットボトル製の竹箒を勢い良く振り上げる。

「駄目!! かわしてぇ!!」

 明日香の短い悲鳴も届かず、宦官ダムのライトニングランスが、ズドンという音を立てて彫刻に突き刺さる。

「未熟者なのでお手柔らかに〜♪……」

 そう呟いた彫刻がお腹付近に丸い穴を空けて倒れていく。

「KO! 勝者、宦官ダム!!」

 レフリーの宣告が響く中、彫刻の飛び散ったパーツを明日香がションボリ集めている。

観客席の生徒の呟きが明日香の耳に入ってくる。

「やっぱり静香校長だよなぁ」

「うんうん、かわいいよなぁ」

 その声に明日香がムキになって反論する。

「違う! 私のエリザ……彫刻さんの方が、本物はもっともーっと可愛いんですぅ!」

 ムキになった明日香に生徒が小首を傾げて、

「ところでソレ、誰かに似てない……?」

「うぇっ!? ……さ、さぁ他人の空似じゃないですかぁ?」

 ピューと口笛を吹く明日香。
恐らくモデルの本人にコレとその使用目的を知られては、色々と不都合が多すぎるのである。
「いがみ合っても何も良いことないよ。みんな仲良く、ね?」
 静香校長に激似の宦官ダムに励まされる明日香と彫刻であった。



「いやぁ、もしこれを本人達が観ていたら、不味かったですねぇ?」

「特に小さい方の校長は……決勝のみの観戦で本当に良かったですねー」

 イチローとアイムはお互い顔を見合わせて、冷や汗を拭くのであった。

「おや、今一瞬、涼しい風が……」

「アイムさん、もう一試合が既に始まっていますよ?」

「おおっと! 実況席に涼しい風が吹いたと思えば、それもそのはず! 皆様、第二リングを御覧ください。雪だるま王国より参戦の工作が激戦を繰り広げています!」

「ですがリング上には三体も工作がいますねー。これはどういう事でしょうか?」
「ええ、武道会の運営の手違いにより、スノーマン選手の工作が初めに登録されてなかったみたいです。しかし相手の泰輔選手が、かまへん、二体まとめてやったるわ! の一言で急遽バトルロイヤル方式になった模様です」

「成程……(困ったマスターですねー)」

「えっ!?」

「ん? 私は何も言ってませんよ?」

 イチローとアイムのやり取りはさておき、試合は過酷なバトルロイヤルへと突入していく。
ちなみにこの試合は今大会、観戦する人間には一番キツかった試合として伝説となる。
その理由はスノーマンの工作の融けない雪だるま(のようなモノ)の攻撃方法にあった。

「ぎゅむぎゅむぎゅむぎゅむぎゅむぎゅむ……」

 はたから見れば、スノーマン自身とほぼ同型に出来た雪だるまだが、実は廃材の発泡スチロールで造られており、その攻撃は身体を動かす度に発する発泡スチロールが擦れ合う嫌な音で行うものであった。

「ぎゃあああぁぁー! もう止めてくれぇぇ!!」

「耳がっ、耳がぁぁっ!!」

 スキルのパワーブレスで音量アップされたその攻撃に、席を立つ生徒が続出したのである。

 そんな攻撃も、全ては金閣寺と戦うクロセルのスーパースノーマンの援護のためであった。

「「アンチイコンッ!」」
 
そうクロセルと同時に叫んだスーパースノーマンの氷術が泰輔の金閣寺を襲う。

 しかし、見た目以上に素早さで、これを避ける金閣寺。

 耳を塞ぎながら泰輔が笑う。

「君、まだまだ甘いな、これは僕が夏休みかけてピカピカの五円玉と色鮮やかな赤い組み紐ワイヤーで編みあげて組み立てた、「金閣寺の置き物」の建物部分やで?」

 軽やかに建物を支える足の部分を動かす金閣寺だが、この勝負はどうしても分が悪いという事を泰輔は把握していた。

「(アカンわ。相手が雪だるまやと、氷術で相手を凍らせての体当たりっちゅうプランがパーや……相方の発砲スチロールなら何とかなるやろけど、コイツ、僕の攻撃読んでるしな……)」

「泰輔さん? 逃げてばかりだと俺はおろか、もう一体の雪だるまも倒せませんよ? それとも先程のようにまた突撃してきますか?」

 泰輔と同じように耳を塞いだクロセルが不敵な笑みを見せる。静かに横のスノーマンに足蹴りをいれながら……。

「ふん、僕が逃げるやと……?」

 ピクリと眉を動かした泰輔が指示を出す。

「金閣寺! 君が駄目なんは炎だけや! やったれ!!」

 泰輔の言葉に金閣寺が全身の五円玉をジャラリと揺らし、恐ろしいスピードでスーパースノーマンに突進する。

「回避です! 多少のダメージは構いません!」

 呼応するかのようにクロセルも指示を出す。

 雪と五円玉、どちらが重くて固いのかは一目瞭然。
ぶつかった結果はその想像通りのものであった。


――ガンッッ!!

 金閣寺の突進により、その胴体の三分の一が削り取られるスーパースノーマン。
だが、泰輔の表情は冴えない。

「アカン! またや!」

 急ブレーキと共にターンする金閣寺。

「回復しなさい! スーパースノーマン」

「アンチイコンッ!」と叫んだスーパースノーマンが自らに氷術を掛け、欠けた部分の雪を瞬時に再生してしまう。

「残念ですが、余程のクリティカルでない限り、俺の工作が敗れる事はありません。寧ろ、泰輔さんの方も、スキルを使われてはいかがですか? ……もっとも、この工作相手に使えるものならば……?」

「(知ってるんやな……金閣寺のスキルの事を)」

 そう思い、泰輔が僅かに溜息をつき顔を上げる。

「ええで、こうなったら、コレでラストや! どっちにしても僕の金閣寺の組み紐ワイヤーの強度もそろそろマズイしなぁ。男と男の真っ向勝負や!!」

「泰輔さん、俺はその名前を永遠に心に刻みましょう……」

 泰輔の粋な提案に静かに頷くクロセル。
 当然、両者とも耳を塞ぎながらの会話なので、予想以上に大声で喋っているが気にしない。

「ぎゅむぎゅむぎゅむぎゅむぎゅむぎゅむ……」

 BGMとして相変わらず嫌な音が響く中、両者が突進を開始する。

「金閣寺! 氷術!!」

「やはり!? それは俺には効かないんですよっ!!」

 しかしクロセルの予想は半分当たって半分外れた。
 泰輔の氷術の狙いは、もう一体の雪だるまにあったのだ。
普段から温和で優しい泰輔も、この時ばかりは、男のプライドとしての勝利を選んでいたのだ。

「何!? 拙者の方でござったかっ!?」

 回避の指示が遅れたスノーマンの発泡スチロール製の雪だるまが、金閣寺の氷術で半分程凍ってしまう。

「だが、隙だらけだ! 貰った!!」

 金閣寺に迫るスーパースノーマンは、既に至近距離での氷術の態勢に入っている。

「そうや、それを待っとったんや……金閣寺! 今や!!」

 金閣寺がグイと、伸びたツララのような氷術の態勢のままスノーマンの雪だるまを引き寄せる。

「盾にする気でござるか!?」

「ちゃう……僕の、ハンマーになったってや!」

 グイと引き寄せた発砲スチロール製の雪だるまは、スーパー スノーマンの氷術を浴びた事によって、全て凍った塊となっていた。

「叩きつけェ!! 金閣寺!!」

 クロセルも負けていない。

「スノーマン! ゴメン!! このまま氷術で君ごと殺らせて貰います!!」

 
金閣寺の「今度こそ一休、おまえの終わりだ!」と言う叫びと、スーパースノーマンの「アンチイコンッ!」の叫び……どちらが早くてどちらが最後に聞こえたのか……。
そう思える程の一瞬の攻防であった。




――ガンッッ!! チャリリィィーンッ!! バキィィィッ!!



 三つの異なる音が聞こえたのは、ほぼ同時であった。

「「「うおおおおおおぉぉぉー!!」」」

 生徒達の歓声が響く。

 イチローも思わず、実況を忘れて見入ってしまっていた。

「イチローさん?」

 アイムに咳払いをされて、我に返ったイチローが慌ててマイクを掴む。

「……あー、なんと言いましょうか……素晴らしい試合でした……ですが、この勝負……」

「イチローさん、これは敗者のない試合です」

 レフリー役の生徒が慌てて状況を確認しにリングへ向かう。

 リング上では、内部のワイヤーが切れてほぼ半身がバラバラになった金閣寺と、ほぼ真っ二つになった氷漬けの発泡スチロールの雪だるま、そして全身の四分の一程しか残っていないスーパースノーマンが重なるように倒れていた。

 泰輔が散らばった金閣寺の五円玉を集めていると、スッとクロセルが数枚の五円玉を差し出す。

「堪忍な、セコイ手使って……」

「いえ、勝負は勝たなければ意味がありません。雪だるま王国騎士団長として甘い考えをしていたのは俺だったみたいです」
 五円玉を受け取った泰輔の顔に笑みが溢れる。

「いやぁ、でも銀閣寺で出品せんでよかった〜」

「銀閣寺?」

「せや、五十円玉で出来た奴やねん。あれはやられると痛いからなぁ」

「何にしろ、勝負は泰輔さんのか……」

 クロセルが言いかけると、泰輔がレフリーを呼び止める。

「そこの君。勝ったのはクロセルやから、よろしくな」

「なっ……」

 絶句するクロセルに泰輔が頭を掻いて微笑む。

「僕のは大怪我やし、そっちの発泡スチロールのももうアカンやろ? そうなると氷術で再生可能なクロセルのしか次戦われへん」

「いいんですか……?」

「三名ともダウンで次の相手が不戦勝なんてカッコ悪いやん。ほな、頑張ってや」

 そう言い残し、半壊した金閣寺を抱えた泰輔は満足した顔でリングを降りていった。

レフリーの声が響く。
「TKO! 勝者、スーパースノーマン!!」