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激戦! 図画工作武道会!

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激戦! 図画工作武道会!

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「皆様、第一リングを御覧ください。先程は女王と工場長のプライドをかけた戦いでしたが、今度もプライドを賭けた試合が行われております。愛のエチュード、慈愛のアドレナリンが溢れ出す戦いです!」

「お互いプレゼント用のものをエントリーしてきたんですねー。そのまま渡せばいいのにー」

 アイムの言葉に思わず頷いたのは、リングサイドから応援する陽太郎であった。

「なんて?こんな事になったのか……」

 陽太郎はごく普通に宿題として提出して、返って来たらパートナーのイブにあげようと思っていたのだが、イブの「せっかく陽太郎も工作持ってるんた?から参加しないと損よねえ」の一言が今大会への参加を決めてしまった。

 こうなると陽太郎が願う事は、なるべく無難に戦って壊さないようにしないと、の一点になってしまっていた。

「だいたいこの名前はいったい何ですか〜。らぶり〜イブって……俺がつけたみたいじゃないですか?」
そう不満げにイブを見る陽太郎であるが、イブが嬉しそうに「良い名前でしょ陽太郎」と言うと、何だかもはや何を言っても無駄だろうな、と少し嬉しくなってしまうのが悔しいのであった。

 そんな名づけ親のイブは、陽太郎の横で「がんばって〜陽太郎〜♪」と完全に工作への指示を押し付けて高見の見物を決め込んでいた。

 やるせなく正面を見据える陽太郎の前には、紙粘土で本体の女性の人形を作り、工作キットのオルゴールを組み込んだ台座に組み込んだ、座った女性の置物である『らぶり〜イブ』がいる。

 そんならぶり〜イブを見つめる対戦者の垂は、後ろで束ねた綺麗な黒髪を触りながら、戦いとは別の意味で困惑していた。

「(困ったぜ。向こうの攻撃方法は子守唄だけだから、俺の勝利は揺るがないだろうが、あっちもよりによってプレゼント用か……壊しちゃマズイんだろうなぁ)」

 垂の工作の騎凛セイカ人形はその名の通り騎凛セイカを模した人形で、元々は騎凛セイカへの誕生日プレゼントにするための物だった。
 ゆえに愛着度は半端なものではない。

「(それにしても……やっぱりセイカは……かわいい」

 ピョコピョコ動くセイカ人形を見ながら、垂は思わずデレてしまう。

 もちろん人形なので他の工作に比べると硬さ的な防御面では劣るが、その分柔らかさがあるため人間らしい動きや回避行動が出来、先程も敵の突進攻撃を伏せて避けるなどの作戦は十分に当たっていた。

 らぶり〜イブのオルゴールから奏でられる子守唄でいくらか動きが緩慢ではあるが、それでも手にした薙刀を使ってのスキル「則天去私」を用いれば、勝利はたやすい。

 問題は、相手の気持ちと関係を如何に上手く処理するかである。
よって垂は、未だ必殺技の指示を送れずにいた。

 そんな垂の心情を恐らく微塵も理解していなさそうなイブが陽太郎に話かけているのが見える。

「陽太郎! あたしたちの絆の結晶のらぶり〜イブが負けると思う?」

「え? いや、それは……」

 どうもパートナーへの煮え切らない態度の陽太郎を見て、垂の心が決まる。

 らぶり〜イブを指さした垂が叫ぶ。
「いけー、セイカ人形!
 俺達の絆の強さとお前の力を見せてやれ!!」
垂の言葉にセイカ人形が薙刀を構える。

「え?い、斬り刻んでやる☆」
それからはアッと言う間の決着であった。

 らぶり〜イブの子守唄の分のマイナスはあったものの、則天去私を放ったセイカ人形の攻撃に、呆気無く勝負は決まった。

 吹き飛んだらぶり〜イブは、軽々と宙を舞い、リングサイドの陽太郎の手にポトリと落ちる。

「リングアウト! 1、2……」
レフリーが早くリング内に戻せと陽太郎に言うが、陽太郎はらぶり〜イブをじっと見つめている。

 傍のイブが痺れを切らして陽太郎に何かを言おうとするが、陽太郎はそれより早くレフリーに
「俺達の負けです」と伝えていた。

 レフリーが一度、確認するが陽太郎はその問いかけにも頷く。

「TKO!! 勝者、騎凛セイカ人形!!」


「ちょっと! 何で諦めちゃうわけ!?」

「いいんです……これ以上やると、恐らく破壊されてしまいますから……垂さんもそれを考えて軽めに技をかけてくれたんです」

 陽太郎が垂を見ると、垂がヤレヤレと言った顔で笑みを浮かべている。

「いいの? 本当に?」

「はい、イブさん。元々、コレは俺からのプレゼントなんですから」

「陽太郎……ありがとう!」

 らぶり〜イブを受け取るイブの頬はほんのり赤い。

「やれやれだぜ……」

 垂は思わず背を向けて煙草でも吸いたくなるような、そんなむず痒さと勝利の余韻にひたるのであった。


「いやぁ、別の意味で熱い戦いでしたね、アイムさん?」

「ラブでコメっていいのは若い学生の特権ですよねー」

 どこか遠い目をするアイム。もちろんイチローは突っ込まない。この手のタイプは自分語りを始めると止まらなくなる、彼の経験はそんな警報機を鳴らしていたのであった。




 一方、第一リングで既に開始された試合は、咲夜の『るんるんくん』が、対峙する今大会屈指の巨大工作、2m、100kgの蜥蜴型の屋外用掃除機『メタルノヴァ』相手に大苦戦を強いられていた。

 廃棄する予定の木材と空きカン使って作ったるんるんくん、その外見は咲夜のパートナーのルンルンくんにそっくりに作ってあり、武器として手に空きカンを改良したぬいぐるみを持っている。
 また背中にはこっそりペットボトルロケットを装着していた。

 そのモデルになった本物のルンルンは、咲夜の横で必死に「が、がんばってー! ルンルンだけどがんばってー!!」といって手を振ったりして応援をしていた。

 先程からメタルノヴァに弾き飛ばされたりした時、あたかも自分が攻撃を受けたような錯覚に陥っているが、咲夜は彼女がTVゲーム等でも同様の仕草をよく見せていたからあまりそのシンクロについては突っ込まなかった。

 シンクロ率が急に高まったせいか、「も、も っとぉ……」と何かを覚えたような仕草で攻撃されているところを凝視してはいるのだが……。

 
そんなるんるんくん相手に、威風堂々とし、動かざること山の如しな気配を漂わせるのがメタルノヴァである。
 
戦場で拾って来た破壊され、投棄された武器や防具類をメインに廃材置き場から足りない物を補い、基本は壊れた鎧を継ぎ合せた物であり、技術的な問題で固定はネジ止め主体、衝撃が来る所はゴムを噛ませ、足元はタイヤゴムで滑らない様にしていた。

 その胴体内にはギミックとして小型飛行艇用のタービン応用の掃除機と電制系を仕込んでリモコンで操作できる様にしており、 武器となる角・爪・牙に尻尾の先の突起は 折れた剣や槍(無ければ草刈り鎌)を使用し、足の甲には盾を仕様していた。
 戦闘においては、金属製ゆえ動きは保障外で、先程から主に掃除機で相手を吸い寄せてから角と爪の連撃で、背後に対しては尻尾で、中距離からは光条兵器のブレスと掃除機を反転させての吹き飛ばしで攻めるという手法を取っていた。
 防御も両足の盾がメインに防いでいる。


「まさに要塞といった感じのメタルノヴァですが、アイムさん。この巨人にるんるんくんが勝つためにはどうすればよいでしょうか?」

「うーん、持久戦の様相を呈してきましたね。先程から攻撃を受けても、何だかるんるんくんは快感を感じているような気がしますよ?」

 事実、スキルの「荒ぶる力」を使ってパワフルな動きを見せるるんるんくんは、メタルノヴァに攻撃を受けるごとに、リングサイドの本物のルンルンと一緒になって、「も、もっ とぉ〜!」と叫んでいた。

「このままじゃラチがあかないですね」
そう呟く和輝に隣のクレアが言う。

「私、だから武器なんかはフレイルをと言ったのです」

「仕方ないでしょう? これ以上質量を増やすと自壊しかねないためにこの姿になったんです」

 すかさず稔が口を挟む。

「私が実戦に投入する前に爪等のを木製に変えて格闘戦の練習をしたから大丈夫ですよ」

 試合開始前と入場セレモニーで「うーん……物凄く嫌なモノを作ってくれましたけど」と呟いていたのが稔であった。
 彼には重いメタルノヴァの輸送のための台車を引っ張る重要な任務を行ったため、軽く疲労の色が見える。

「メタルノヴァ! 今度こそ決めなさい! 吸引して近接戦闘です!」

 和輝が叫び、スイッチの入ったメタルノヴァが猛烈な吸引を行う。

「おおーっっと! すごい風です! みるみる内にるんるんくんが引き寄せられていきます!!」

「メタルノヴァの背後の生徒にもすごい風が吹いていますね。害はないんでしょうね?」

 咲夜が叫ぶ。

「そんなに吸引していたら、すぐゴミ詰まりになるハズですぅ〜! ペットボトルロケットで回避!」

 るんるんくんが背中に付けたペットボトルロケットを使う。
バシュッという音がし、空中に回避するるんるんくん。

 しかし、メタルノヴァの吸引力はそんな回避を許さなかった。
 一瞬でまた距離を縮められる。
やむなく近接戦闘に持ち込まれたるんるんくんが手にもった武器でメタルノヴァの折れた剣や槍を使用した角・爪・牙に尻尾の先の突起等の無数の武器に応戦する。

「おーっと! これは凄い殴り合いだ!!」

「も、もっ とぉ〜!」

「も、もっ とぉ〜!」

 るんるんくんとシンクロ中の本物のルンルンも叫ぶ。

 スキルを用いてパワーアップしているるんるんくんだが、手数に勝るメタルノヴァの前に次第にタコ殴り状態へと陥る。

 その状態を観ていたレフリーであるが、リングサイドに目を向けた瞬間、直ぐ様両者の間に割って入り、手を左右に大きく振る。

「TKO! 勝者、メタルノヴァ!!」

「ちょっと!? まだるんるんくんは負けてないですぅ!?」

 抗議する咲夜にスッとレフリーがリングサイドを指差す。

 咲夜が見ると、半分呆けたような悦楽に満ちた目のルンルンがいる。

「も、もっぉ〜! も、もっとぉ〜! ……だもん……」

「これ以上続けると、彼女が逝ってしまうよ?」
 
咲夜がガックリと肩を落とす。

「まぁ、いいです。何か倒れていても達成感みたいなものは感じられましたし……」

 そうルンルンの頭を撫でる咲夜は、倒れてもまだ「も、もっ とぉ〜!」と呟くるんるんくんを見つめるのであった。



「試合に負けて勝負に勝ったということでしょうか? アイムさん?」

「敵はメタルノヴァだけでなかったという事でしょうねー」

「……さぁ、第一回戦も残すところあと二試合です!」

「しかも片方は大会の肝入りのシード枠ですから、どんな工作が登場するのか楽しみですねー」

「はい。おおっと!? 既に第一リングで始まっているトライブ選手のネンドオーが早くもアスカ選手のクレイエルに猛攻撃をしかけています!!」